tear's droptaka様
目を覚ますと見慣れぬ天井が目に入った。
そうかここは村の診療所だ。
ミホークに挑んだ時の傷口が開き、これじゃあ全治2年だとヤブがほざいていたっけ。
さすがの俺も今回の怪我は少しばかりこたえた。
もう一眠りしようと決めたところで、ベットの端でナミがうつ伏せて寝ているのに気が付いた。
─何でこんなところで寝てやがんだ─
さっきまではこの部屋にサンジやウソップがいて
聞きたくもねえナミの身の上話とやらを延々としゃべっていたはずだ。
だいたい、辛い過去のひとつやふたつ誰にだってあるんだから
そんな話聞いたところでなんにもならねえ。
ルフィがこいつを助けるって決めたから俺はそれに従っただけだ。
─それにしてもこんなところで寝やがって邪魔じゃねえか─
動くに動けず俺は弱り果ててしまった。
声をかけることが憚られるくらいナミは幸せそうな顔をして眠っていたからだ。
外は曇っているんだろうか。
薄暗い部屋の中でははっきりとは見えないが安心しきった表情でいることだけはわかった。
そういえばこいつの顔をこんなに近くで見たことはなかったかもしれない。
それにこんな表情のこいつもだ。
いつもは俺たちを馬鹿にしきったような顔して笑っているか
魔女よろしく何か企んでるような顔しか見たことねえ。
─こんな顔することもあるんだな─
意外に思っていたら、ふと部屋の中が明るくなったような気がした。
雲が切れて日が射したのだろう。
そして部屋に入ってきた日差しがナミの寝顔の上に当たった。
─やばい、起きちまうだろ─
そして俺は手をのばしてその顔に射す日をさえぎった。
こいつの眠りを妨げずにすんだことにほっとする。
─いったい俺は何をやってんだ─
物音ひとつ聞こえない静かな時。
魅入られたようにその寝顔を見つめていると
硬く閉ざされた瞼にふいに透明なものがにじみだしてきた。
見る間にそれは綺麗な銀色の雫となってナミの頬をすべり落ちた。
─泣いているのか?─
しかしその顔はいっそ微笑んでいるかのようだった。
俺は神だの仏だのは信じちゃいねえ。だがその一瞬は何か尊いものの力を感じた。
それによってナミの辛い思い出が浄化され流れ出したかように見えたのだ。
そう思ってしまうほどその銀のひと雫は美しかった。
俺の手は自然と涙の痕をなぞるようにナミの頬に当てられた。
しかしそこには濡れたあとさえ見当たらなかった。
─俺の見間違いだったんだろうか─
その瞬間、ナミがゆっくりと目を開いた。
そして頬に俺の手を張り付かせたまま静かに顔をあげた。
俺は慌てて手を引込めようとしたが何故か少しも動けない。
焦点の合っていないその目でじっと見つめられているような気がしたからだ。
するとナミは俺の手の上に自分の掌をあてると聞き取れないくらい小さな声で言った。
「夢を見てたの。とても幸せな夢だった・・・」
喉にひっかかって声がうまく出てこない。
─おまえが幸せな夢を見ていたことくらい言われなくたってわかっている。
戦い抜いたおまえへの誰かさんからのプレゼントだろ─
次の瞬間、その手に力が込められたかと思うとすごい勢いで引き剥がされた。
「ちょ、ちょっと、ゾロ。あんた何やってるのよ」
「なにって・・・」
「まさか私が寝てると思っていやらしいことしようとしてたんじゃないでしょうね」
「なんだと、俺がそんなことするわけねえだろ」
「どうだか。今度私にさわったら承知しないからね」
そしてナミは荒々しく立ち上がると部屋を飛び出していった。
残された俺の方こそまさに夢を見ているような気分だった。
─俺が何をしたっていうんだよ。あの寝顔や涙はやっぱり俺の夢だったのか─
まるっきりいつもの調子に戻ったナミに腹をたてながらも、その方がアイツらしくていいかと思った。
次に目を覚ました時には外はすっかり暗くなっていた。
腹がへったので食い物を探そうと起き上がったところへ大皿をかかえたナミが部屋に入ってきた。
「ちょうどよかったわ。ドクターがそろそろ目を覚ます頃だから食事を持っていけって」
部屋の明かりをつけ、料理ののった皿を持ち上げて見せた。
「そうか、悪いな」
手を伸ばして皿を受け取ろうとしたはずみに痛みがはしり、身を縮めた。
「・・ってぇ・・」
「ちょっとゾロ、大丈夫?」
「へっ、これくらいなんでもねえよ」
強がって体を起こした俺は、慌てて覗き込むナミと目が合ってしまった。
ど・・・く・ん
伸ばしかけた手が宙で止まる。
─なんだ。今のは俺の心臓の音か?─
そんな俺をいぶかしそうに見つめるナミ。強張った顔に血がのぼるのを感じた。
「・・・よ、用がすんだらさっさと行きやがれ」
「それどういう口のきき方よ。さっきのことは水に流してこうやって食事を運んできてやったのに」
「うるせえ、早く行け」
「怪我人だからってわがままもたいがいにしなさいよねっ」
テーブルの上にダンッと乱暴に皿を置くと、ナミは部屋を飛び出して行った。
─これじゃ、さっきと同じじゃねえか─
思いきり大きなため息をついて、残された皿をみつめた。
─あの目がいけねえんだ。あの時の涙を思い出しちまった─
白い頬を流れ落ちる銀色の雫。
そして何度振り払っても消えぬナミの顔。ヘーゼルの瞳。
自分でコントロールできない感情がある。
困惑の果てにたどり着いた答えに俺は頭を抱え込んでしまった。
end
<管理人のつぶやき>
ナミの目からこぼれるひと雫の涙。それは現実か、はたまたゾロの心が見せた幻か。でもこの時にゾロの心はナミに捕らえられたのでしょう。
まだカウンタリクをされていなかった頃の『seafood』様で、444を踏んだことをご報告したところ、リクエスト権をいただけたのですv
私のリクエストは「ナミのことが気になり始めたゾロ」。それを見事に書き上げられたSSです。ホントに素晴らしい。超私好みですよ〜。takaさん本当にありがとうございました!!