夢の中の夢
            

雨月 凍夜 様






ここはグランドライン―――
何が起こっても決して不思議ではない場所。
それは夢の中でも例外ではない。



俺はいつもどうり甲板で昼寝をしていた。
ただ違っていた事は、どうやら俺は
夢を見ているらしい・・・ということだった。
ただ、その夢はちょっとばかしおかしいものだった。
( 夢におかしいもなにもあったもんじゃねぇが )


俺は一人どこかの浜辺に立っていた。
見た事のない景色。
それとも、無意識のうちに覚えていたのだろうか?
眼前にはただただ広がる広大な海原。
後ろはどこかへと続く道・・・。
嫌いな景色ではない。どちらかといえば落ち着く景色。
何故・・・?
そんな事を考えていると不意に後ろで声がした。

『 俺は海賊王になるんだ! 』

年のころ5,6歳ばかりの少年。
黒髪に麦藁帽子をかぶっている。
・・・これは、ルフィなのか?

また声が聞こえた。

『 私は世界地図を書くの! 』

今度は少女だった。8歳ぐらいだ。
オレンジの髪に琥珀色の瞳。
その姿は、間違いなく幼少のナミを思わせた・・・。

そしてまた声が。

『 俺は勇敢なる海の戦士に! 』

歳はそのルフィと同じぐらい。
ルフィと同じ黒髪。そしてバンダナ。
それは、ウソップとしか思えなかった・・・。

また次の声が。

『 俺はオールブルーを見つける! 』

年のころ8,9歳ばかりのその少年。
金髪に、髪で隠れている左眼。そして渦を巻いている眉。
その特徴ある容姿。見間違うはずがない・・・サンジだ。

また声が聞こえた。

『 俺は世界一の医者に! 』

人間ではないその姿。
しかしトナカイで人間のそいつ。
そんなやつで知っているのは・・チョッパーしかいねぇ。


そこには、俺の知っているルフィ達の姿はなく。
全員が幼少の頃の姿だった。
・・・何故こんな夢を?
そんな事を考えていると、そのルフィが声をかけてきた。

『 ゾロ。お前の夢は・・? 』

「 あ? 」

俺の夢は大剣豪になる事。
そんな当たり前の事。
だが、それだけか・・・?
己の野望の事なのに、己の思考なのに・・・。
はっきりとしない。
何かが足りない。
・・・何だ?

何かが足りない。何か『 大切な事 』を忘れている。
俺は応えられないでいた。
すると、後ろから威勢のいい声が聞こえた。

『 俺は大剣豪になる! 』

・・・俺?
緑の短髪。昔着ていた剣道着。
間違いない。幼少の頃の俺の姿。

「 お前・・・ 」

『 俺は大剣豪になる。
  そんな事も忘れたのか? 』

「 忘れてねぇ!でも・・・何かが足りねぇんだ・・・。 」

『 バカか、お前? 』

「 なっ・・! 」

『 自分の大事なモノも分からねぇのか? 』


次の瞬間―――
そこに幼少の頃の俺の姿はなく
そこには ''俺'' がいた。
後ろには今のルフィ達の姿。

―――おれの大事な仲間達

―――そして何よりも愛しい女

あぁ・・そうゆうことか・・・

『 お前は一人じゃねぇだろ?
  仲間がいる。そして愛する者がいる。
  守るんだろ?
  死なねぇんだろ?
  なら、もっと周りを見ろよ。 』

そう言うと ''俺'' はルフィ達と共に
「 どこかへ続いている道 」へ歩いていった。



目を覚ますと、そこには一面の青空が広がっていた。
起きて周りを見渡してみると、広大な海原。
変わりのない船上。・・・愛しい者のミカン畑。

お気に入りの場所に座っている船長の姿。


甲板で何か作っている狙撃手の姿。

多分キッチンで料理しているコック。

薬草を辞典で調べている船医の姿。

・・キッチンから出てきた航海士の姿。

その姿を見るなり、俺は駆け出していて。
次の瞬間には――その愛しい体を抱きしめていた。

遠くでコックと船医の叫ぶ声が聞こえる。

船長が何か言っている。

狙撃手は言葉が出ないらしい。

胸の中で必死にもがく航海士。

それら全てが新鮮で。
それら全てが愛しくて。
がらにもなく
『 こんな幸せがいつまでも続くといい 』
などと思っちまった。

俺は生きていく。

俺は死なねぇ。

そして野望をかなえる。

それに

俺が死んだら

誰がこいつを守るってんだ?

( 俺以外にいねぇだろう? )





END




 

<管理人のつぶやき>
グランドラインでは夢も不思議。夢の中で語られる自分達の『夢』。
そして幼い頃には思い描かなかった新しい夢が見つかるだろう。
夢から覚めて、大切なものに気づいたゾロが、航海士の姿を見るなり、駆け出していくところがすごく良いですね。それは間違いなく、彼にとって何よりも大切なもの。ラストの自信たっぷりなところがまた頼もしいです!

雨月凍夜さんが送ってくださった小説です。掲載の許可をいただきまして、アップさせていただきましたv「タイトルを考えてください」とのご依頼だったので、私が付けましたが・・・(汗)。まんまでスミマセン(;_;)。
雨月さん、どうもありがとうございました!!

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