「ゾロ、あのさオレ、ちょっと相談したいことがあるんだけど。」

前列甲板で寝っ転がっていたゾロが、ああん?と顔だけ持ち上げる。

ゾロから見て足先の方に、チョッパーが顔を俯かせて立っている。
自信無さげにモジモジしながら。





あとから来たのに追い越され





「オレ、オレ、ロビンと結婚したいんだ!!」

そう叫んだチョッパーは、大きなつぶらな瞳を潤ませていた。
下唇を噛み、ひづめの両手は拳を握るかのように胸の前に持ち上げられ、心なしが震えているようにも見えた。

ゾロはといえば、一瞬、意味が分からなかった。
いったい何の話をしているんだろうと。
ケッコンて、あの結婚か?

「ロビンにプロポーズしようと思うんだけど、どんなコト言えば喜んでもらえるかな?ゾロなら分かるかと思って。」

分かるわけないだろう。
ナニをどう考えれば、その質問をゾロに向けようという判断に至ったのか、理解できない。
それでも、必死な様子のチョッパーを無碍にもできず、ゾロは上体を起こして胡坐をかく。そうするとチョッパーと同じ目線になった。
チョッパーはというと、思いつめた顔をして俯いたまま。

チョッパーがロビンのことを慕っているのは、なんとなく分かっていた。
仲間内ではチョッパーはロビンと一緒にいることが一番多かったし、二人でいる姿は楽しげだった。
もう既に、ゾロの中では二人はワン・ユニットとして数えられていた。
チョッパーに比べてロビンはポーカーフェイスで、ゾロにはその心中を推し量ることは難しい。
ただでさえ女心には疎いので。
それでもチョッパーのそばにいる時に時折見せる穏やかな笑顔は、彼女のチョッパーに対する気持ちが表れている気がする。

しかし、いきなり結婚とは。
どういう思考をすればそこまで到達するのだろう。

ああ、きっとアレだ。
ロビンのことを好き過ぎて、気持ちが嵩じちまったんだな。
自分の中で気持ちがイッパイイッパイに膨らんで、一人で盛り上がっちまったか。
しかし、一足飛びに「好き=結婚」に結論が至ってしまうあたり、子供というか、純心というか。
まだまだ、かわいいもんだ。
こういう助言はまったく自分らしくないとは思うが、チョッパーのために言ってやるべきだろう。

「そう焦るなよ。まずは気持ちを確かめ合ってみたらどうだ?」

ゾロは出来うる限り優しい声で、チョッパーに語りかけた。

「思い切って告ってみろよ。両想いなら付き合ってみて、それでもお互いの気持ちが変わらなかったら、その時は―――」

晴れて結婚でもなんでもすりゃいい、そう言おうと思った。
しかし、


「まだるっこしいッ!!!!」


「・・・・・は?」

チョッパーはいきなり激昂し、身体を震わせてゾロに向かって喚き始めた。

「そんな悠長なことやってられないよ!オレは今すぐにでもロビンと結婚したいんだ!」
「や、だから、何もいきなりしなくても、」

なんとか取り成そうとするゾロの言葉も、もうチョッパーには届かない。

「実はこの間、ロビンとヤっちゃってさ! あ、言っておくけど無理矢理じゃないぞ。ちゃんと合意の上だからな。でも、ウッカリ中で出しちゃったんだよね。」

呆然とするゾロを置き去りに、チョッパーはとうとうと話し続ける。

「ロビンの生理周期から考えると、あの日は危険日だったと思うんだよね。興奮して、ついウッカリしちゃったv ロビンて良すぎるんだよネ。でも、いいかげんな気持ちじゃないぞ。責任だったら取るつもりだ。オレはロビンのこと好きだし、ロビンだってオレのこと愛してくれてる。だから、妊娠がハッキリ分かる前にプロポーズしてしまいたいんだ。」

それが男の誠意ってもんじゃない?と自信たっぷりに言うチョッパーが、ゾロには後光が射して見えた。

「ゾロもナミとヤってるんだろ?だったら、将来のこととか結婚のこととか、考えてるんじゃないかと思って。」

だから相談したんだというチョッパー。
これに対し、ゾロはたいそう慌てる。

「ば、バカ言え!俺とナミは、そんなんじゃねぇ・・・・!!」

そりゃお互い憎からず想っている、とは思う。
あいつは俺のことをよく見てるし、俺もあいつをいつも目で追っている。
でも、気持ちを口に出したり、確かめ合ったりなんて、したことがない。
ましてや肉体関係など。

「え、ゾロとナミって、まだだったの?」

チョッパーは目を丸くして、明らかに驚いた声を出した。

「なんだそうかぁ、まだなんだー。オレはてっきりもう済んでるって思ってたよ。ゴメンねー、それなのに変なこと聞いちゃって。」

これには完全に呆れと憐れみが込められているのが、ゾロにも分かった。
なんだか急に居た堪れない気持ちになる。

チョッパーは、サンジに相談してみるよと言った。
確かに、ゾロよりはサンジの方がはるかにこの手のことでは経験豊富そうだ。
去り際にチョッパーが「最初からそうすればよかった」と肩を竦めて呟いたのが、不幸にもゾロの耳に届いてしまった。
一瞬殺意を抱いたが、どうにかそれを抑える。
まったくもってチョッパーの言う通りだったからだ。
ゾロは己の情けなさ半分、チョッパーへの畏敬の念が半分という複雑な気持ちで、チョッパーの後ろ姿を見送った。
その背中が、いつもより大きく見えた。
そして、チョッパーとすれ違うようにして、ナミがやってきた。

「チョッパー、どうしたの?」

何か深刻な顔してたわよと、ナミは心配そうに何度も後ろを振り返りならが言う。
それに対し、子供がデキたみたいだから、求婚の仕方について相談されたとも言えず。
ゾロは一つ大きくため息をついてから、気を取り直したように立ち上がり、目の前に立つナミをじっと見つめた。


俺達、今までいったい何やってたんだろうな?

後から来たチョッパーとロビンに、あっという間に追い越されてしまって。


「なぁ、ナミ。」
「なぁに?」

きょとんと可愛い顔をして、ナミは小首を傾げてゾロを見ている。

そんなナミに、ゾロはようやく手を伸ばした。




FIN

 

<あとがき或いは言い訳>
今年は「実はとってもススんでいるチョパ」というコンセプトで書いてみました。
チョッパーに女性ともう一歩踏み込んだ関係を持たせてやりたいという野望を持って挑んだら、ちょっと踏み込み過ぎてしまったような(笑)。こんなチョッパーですみません・・・・。
そんな感じで(?)、チョッパー誕生日おめでとう!!キミにとって佳き年が訪れますように。
あーなんか、来年は思いっきりピュアなチョッパーを書きたいナ。

CARRY ON様のチョッパー誕企画【RUMBLE BOMB!6】に投稿させていただきました。ありがとうございました!

 

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