夜も更けて、チョッパーの誕生日を祝う宴は、静かに幕を下ろしていった。
いつもなら、こういう宴会では酒に殊更強いゾロとナミが最後まで起きている。
しかし、今夜はその二人が宴の終了間際に撃沈。
珍しく、チョッパーとロビンが生き残った。
ボクのために争わないで
ゾロとナミはつい先ほどまで飲み比べの死闘を繰り広げていたが、最後の最後にナミが敗北を認め、その直後に二人して机に突っ伏して眠ってしまった。
おそらく、ゾロは貴重なナミの敗北宣言を、明日には覚えていまい。もったいない話である。
サンジは二人よりも少し前にキッチンのそばの床で体を丸くして夢の中へ。
ルフィとウソップは、ソファの上で抱き合って眠っている。
外は寒いけど、部屋の中は先ほどまでの宴の熱気がムンムンこもっている。
そんな中、チョッパーは散らかったテーブルの上の食器を重ね始めた。
そのチョッパーの手の上にそっと手を沿えて、ロビンが静かに制止する。
「今夜はもういいじゃない。」
「そうかナァ…。」
「そうよ。それに何も今夜の主役のあなたがしなくても。明日みんなで片付けましょう。それよりも、夜風に当たりにいかない?みんなの熱気に当てられてしまったの。」
「そうだね。ちょっと外行こうか。」
ロビンとチョッパーは、連れ立って部屋を出て行った。
二人並んで前列甲板まで歩いていく。そこへたどり着くと、チョッパーはジャンプして欄干の上に飛び乗った。その方がロビンとの背の高さが縮まって、話をしやすいから。
きんと冷え切った空気。吐く息が真っ白になる。
漆黒の上空には数え切れないほどの星が瞬いていた。今にも降ってきそうだ。
「うわぁ、すごい星!」
「本当に・・・・冬島付近では星が綺麗に見えるものだけど、今夜はまた格別ね。きっと星達も貴方の誕生日を祝福してるんだわ。」
いつになく、ロビンが情感を込めて話す。
チョッパーはそんなことを言ってくれるロビンの優しい気持ちが嬉しくて、顔をほころばせてロビンの方を振り向いた。
すると、思ったよりもずっとロビンは近くに立っていてドキリとした。ほとんど背後に立っていたといっていい。
ちょっとドギマギして間近にあるロビンの顔を見上げていると、ロビンはふわりと微笑んだ。
「貴方、寒くはない?」
「う、うん、平気だよ!ほら、オレ、毛皮だから―――」
「そう。私は少し寒いわ・・・・。」
そう言って、ロビンは両腕を上げて、チョッパーの身体に回す。
「温めてくれないかしら?」
そのままぎゅぅっと抱きすくめられ、今度こそチョッパーは目を白黒させた。
ナニが起こっているのか理解できない。
ロビンは寒いと言った。だから温めてほしいと。
オレは毛皮だから平気だと言った。
だからロビンはオレに抱きつけば、温かいと思ったんだな。
そうだな、うん。
しかし・・・・どちらかというと、温められてるのは自分の方な気がする、とチョッパーはすぐに思った。
ロビンがチョッパーを包み込んでくれている。とても温かい。
それに、息が詰まりそうだ。というのも、ロビンの大きく盛り上がった胸の谷間に、チョッパーは顔を埋めている状態だったから。
ロビンは今宵の宴のために胸の大きく開いた濃紺のドレスを着ていたので、ロビンの素肌を直に頬に感じられる。まるで柔らかくて温かなマシュマロで挟まれてるようだ。
それから・・・・すごくいい香りがする。
うっとりするほど、気持ちがいい・・・・。
急にそれらの事実に思いが至って、チョッパーは慌てた。今自分がどんな姿でいるのか想像するだけで、身体がカッと熱くなる。心臓が早鐘のごとく打ち始める。
チョッパーは閉じ込められたロビンの腕の中で身じろぎした。
「あの、ロビン!その!」
「どうしたの?」
いっそ、無邪気と言っていいほどの声音でロビンは聞き返す。
「その、息が苦しくて。」
「アラごめんなさい。」
ロビンは今初めて気がついたかのように、腕の力を緩めてくれた。
ようやく顔を上げると、ロビンは微笑んでチョッパーを見下ろしている。
「だいじょうぶ?」
「うん、もうだいじょーぶ・・・・。ちょっと心臓ドキドキしてるけど!」
テレ笑いを浮かべてチョッパーが言うと、ロビンの秀麗な眉が顰められた。
「まぁ、心臓が?」
スッと白くて細い手がチョッパーの懐に差し込まれる。そのまま胸に手を宛がわれて、優しく撫でさすられた。
「ホント。ドキドキしてるわね。」
「う、うん。」
いわば裸の胸を撫でられてるようで、チョッパーは落ち着かない気持ちになってきた。
ロビンの手は、左の胸を執拗にまさぐり、まるで、その指先で毛皮の中に埋もれている乳首を探しているかのようだった。
そんなことをされて、チョッパーはブルリと全身を震わせた。
今日のロビンは変だ。
そして、次のロビンの行動に、チョッパーはまさしく口から心臓が飛び出そうになった。
ロビンがチョッパーの手を取って、豊満な胸に触れさせたのだ。
「実は私もそうなのよ。ほら。」
そこは、丸くて大きくて温かくて、程よい弾力で満ちていた。
手を引っ込めようとするが、思いのほか強い力で手を捕らえられている。
ロビンはチョッパーの手の上に自らの手を重ね、まるで胸の揉み方を教えるように、彼に胸を揉むよう促す。
全身も、頭の奥も、痺れたかのようになった。
「ドキドキしてるでしょ?」
「うん・・・・・。」
チョッパーは手を通して直接伝わるロビンの胸の感触に、夢見るような心地になった。
ロビンの声が、どこか遠くで響いているみたいだった。
蹄(ひづめ)の手がまどろっこしい。
いっそ、人型に変身しようか。
このふくらみを、五本の指で思いっきり味わったら・・・・
そう思った時、バタンとキッチン兼会議室の扉が開いた。
「ナニしてるのよ、あなた達ィィーーー!!!」
そこから紅蓮の炎を思わせるオーラを湛えたナミが現れた。
そのままズンズンと甲板の床を踏みしめながら、ナミは二人がいる前列甲板までやってきた。
「残念。邪魔が入っちゃったわね。」
ロビンは艶かしい溜息をついて、チョッパーの手を開放した。
「ヒドイじゃない、ロビン!チョッパーを独り占めするなんて!」
「貴女はあのまま寝てればよかったのに。薬の量が足りなかったのかしら?」
「・・・・まさか、薬盛ったの?」
「ええ、貴女と剣士さんに。いつまでも起きていられては迷惑だから。」
「普通そこまでする・・・・?チョッパー、危険よ!ロビンから離れなさい!」
そう叫びながら、いまだにロビンの腕に囲われているチョッパーに向ってナミが手を伸ばす。チョッパーの腕を掴み、力づくで引き寄せようとする。そうはさせじとロビンは身体を捻ってチョッパーをますます抱きすくめる。ナミも負けじと追い縋る。
「ちょっと、離しなさいよ!チョッパーはアンタのものじゃないのよ!」
「でも、貴女のものでもないでしょう?」
「ナニ言ってるの!チョッパーは私のものよ!」
ええっ!
ナミの突然の宣言に、チョッパーは目を瞠る。
「まぁ、初耳だわ。」
もちろん、チョッパーも初耳である。
「じゃ、剣士さんはなんなのよ?」
「アレは単なるキープよ、キープ!」
「それ聞いたら、剣士さん泣くわね・・・。」
「とにかく、チョッパーに変なコト教え込んだら、承知しないから!」
「そんなこと、堂々と二股かけてる貴女に言われたくないわ。」
ロビンとナミの言い合いが続く。
両者ともチョッパーを我が物にせんと、女二人は激しく揉み合った。
「そもそも、チョッパーがハッキリしないのが悪いのよ!」
「そうだわ、ここはトナカイくんに決めてもらいましょう。」
「ねぇ、私?ロビン?どっちなの!?」
「え〜〜っとぉ〜〜〜。」
「ちょっと待ったぁーーーー!」
3人がいる前列甲板に、新たなシルエットが浮かび上がった。
「その選択肢の中に、私が含まれていないのは納得できないわっ!」
月光に照らし出され、その人物が歩み寄るたびに青くて長い髪が揺れる。
それは今は遠いアラバスタに残ったはずの、ビビだった。
「ビビ!? なんでビビがここにいんの?」
そんなチョッパーの素朴な疑問には答えず、チョッパーを迎え入れんとビビは両手を広げて佇んでいた。
「トニー君、まさか私のこと、忘れたりしないわよね?それとも、私は貴方にとっての港々の女の一人に過ぎなかったの?」
最初はキッとまなじりを決していたビビが、今度は目を潤ませて切々と訴えてきた。
「そんな・・・・!チョッパーったら、ビビにまで手を出していたなんて!」
「ええええっ、違ッ!」
身に覚えのないことに、チョッパーは即座に否定するが、その声は女達の耳には全く入っていない様子だった。
「これでメンツは揃ったようね。」
「さぁ、今度こそ選んでもらいましょうか。」
「この中で誰が一番か。」
「当然、私よね?」
「ロビン、厚かましいにもほどがあるわよ!私に決まってるじゃない!」
「トニー君、お願い、私と言って!」
甲板の上に下ろされたチョッパーをロビン、ナミ、ビビが取り囲んで迫る。
鬼気迫る勢いに、チョッパーはたじろいだ。
さっぱりワケが分からない。
ただ分かるのは、3人が3人とも、チョッパーの愛を求めてるということだけ。
「「「さぁ、いったい誰が一番なの!?」」」
えええ〜〜〜〜そんなぁ〜〜〜〜〜〜どうしよっっかなぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!
***
「笑ってるぞ、チョッパーの奴。」
「嬉しそうだなー。」
「癪に障るぐらいに幸せそうな寝顔だな。」
「きっとイイ夢でも見てんだろ。そっとしておいてやれよ。」
自身の誕生日パーティーでありながら、早々に酔いつぶれたチョッパーを男部屋に運び込んできた。
これから男だけでの二次会が始まるところだ。
「お、なんかブツブツ言い始めたぞ。」
「どれどれ?」
男達は耳を澄ます。
「ケンカをやめてぇ〜〜〜ボクのために争わないでぇ〜〜〜。」
意味不明な寝言を漏らすチョッパーの寝顔を、男4人は不思議そうに眺めていた。
FIN
<あとがき或いは言い訳>
夢オチですんまそん!^^;
えー、今年は「モテモテチョッパー」をコンセプトにして書きました。
これ書いてる時、河合奈保子の「ケンカをやめて」をずっと歌っていました。「二人のこころを〜もて〜あ〜そんで〜♪ちょおっぴーり楽しーんでたの〜♪」と歌っていたら、背後でダンナが「ヒドイ奴や」と呟きました。という思い出が残っています。
という感じでチョッパー誕生日おめでとう!来年はもっとススンだことできるといいね(笑)。
CARRY ON様のチョッパー誕企画【RUMBLE BOMB!5】に投稿させていただきました。
今年もお世話になりました〜〜!!