※注:このお話は「水難」の続編です。




オレンジ色の髪。
濡れた琥珀色の大きな瞳。
桜色の唇。
白桃のような白い肌。
誘うような細い首筋とそれに続く鎖骨のくぼみ。
華奢な肩があって、更にその下に視線を移すとそこには―――。






沈思黙考





夕食時間が終わり、三々五々に男達は寝るために男部屋へと戻って来た。
すると、先客がいた。
座して語らず、沈思黙考するルフィがいた。

「てめぇ、姿が見えねぇと思ったら、こんなところにいたのか。」

サンジが、胡座をかいて目を閉じているルフィに声を掛けるが、ルフィは微動だにしなかった。
眉間に皺が寄っている。

「?」

そんなルフィの様子にサンジ、ゾロ、ウソップ、チョッパーは顔を見合わす。
こんな真剣な表情のルフィはなかなか見られるものではない。

「おい、ルフィ?」

ゾロが再度問い掛けても返事はない。むしろルフィは苦悶とも言える表情になっていく。
ただならぬ様子にウソップが思わずルフィの肩に手を掛けて揺さぶった。

「おい、ルフィ、どうしたんだよ!しっかりしろよ!」

すると、

「うるせぇ!!」

「へブッ。」

ゴチンという音とともに、ルフィがウソップの顎を殴り上げた。
カッと目を見開いたルフィがその場にいる男達を一喝する。

「せっかく人が考え事してんのにジャマすんな!」


考え事?ルフィが?


ルフィ以外の全員が同じ疑問を頭に思い浮かべた。

「一体何をそう真剣に考えてたんだよ?」

一瞬の間の後、ゾロが問う。


「ナミの裸。」


ガタガタ

その場にいる者たちが一斉に脱力する。


「お、おま、一体何考えて…」

「だからナミの裸だって。分かったら、邪魔すんな。」

なんでそんなものを、とルフィ以外の全員思ったが、すぐに思い当たった。
昨日、ルフィは氷の張った湖で溺れ、ナミに救出されたこと。
そしてその際、ナミの人肌で温めてもらったとこと。

「貴様!これがジャマせずにいられるか!てめぇはなんて恐れ多くも素敵なものを考えてんだ!」

「おいおい、一言間違えてるぞ。」

ウソップがサンジにツッコミを入れている間にルフィは再び思想の世界に入っていった。
しかし、

「ダメだ!もう思い浮かばねぇ!さっきはせっかくいいところまで行ったのに!」

ルフィはガックリと肩を落とす。

「何もかもウソップのせいだ。」

「なんでだよ!!!」

がぼーんという顔になるウソップ。

「おい、い、いいところってどこだよ。」

サンジがどもりながら訊く。


「ナミの胸。」


その言葉を、サンジは目を見開き、ウソップは顔に縦線を入れ、チョッパーは頬を赤らめ、ゾロは片眉を跳ね上げて聞いた。

「こんなことなら、もっときちんと見ておくんだった。一瞬しか見なかったから、ちゃんと思い出せねぇ!」

さも悔しげにルフィは頭を抱える。

(クソうらやましいヤツ)

サンジは思う。一瞬でも見れればいいじゃないかと。

「まあ、まあ、そう結論を焦るんじゃない。待ってろ。今、参考資料を見せてやる。」

そう言って、サンジが自分の私物の荷物をガサゴソと漁った後、一冊の本を持ってきた。
一堂、一瞬でその本がどういう本か理解した。
自分達と同世代の女の子の写真が表紙を飾っている。しかも裸で。
中のページにも、もちろん、吹けば飛ぶような薄い布だけを纏った女性のあられもない肢体の数々。

「おい、それ初めて見るぞ。」

ゾロが言った。

「そりゃそうだ。これはとっておきの最新号だ。」

「おまえ、ずるいぞ。独り占めなんて。」

とルフィ。

「何言ってやがる。これは俺の金で買ってるんだぞ。俺の好意でお前らに恵んでやってきたんだ。それだけでもありがたく思え―――と、それはともかく、いいか、ルフィ、よく見ろよ。この中でナミさんと同じような形の女はいるか?」

その質問の意味がわからず、ルフィは怪訝そうな顔をした。

「わかんねぇか?この中の女性達の胸で、一番ナミさんのと近いのはどれかって、訊いてるんだ。」

とても普段女性に紳士的な男のセリフとは思えない。しかし、さすがのサンジもまだ見ぬナミの胸への非常に強い誘惑に突き動かされて、このような質問をするに至っているようだ。
ルフィもようやく、合点がいって、真剣に本と対峙しはじめた。
全員がルフィの背後からそれを覗き込む。
パラリ、パラリとページをめくっていく。
とにかく、目撃者はルフィしかいないのだ。
ルフィはまるで容疑者のモンタージュ写真を作るかのような生真面目さで、丹念にグラビアを見つめる。

「これ、似てる。」

そう言って、指差した女性の胸元を男達全員が凝視した。
その女性はスレンダーな肢体に大きな胸。髪を短く切りそろえているところなど、ナミと雰囲気がどことなく似ていた。

「どれどれ、バスト86か。ビンゴだな。お前、記憶力が案外いいんだな。そうか、ナミさんの胸って、こんな感じかぁ。」

サンジが本に記載されているその女性のプロフィールをチェックしながら、目尻をだらしなく下げて、その女性のページを見つめた。

「だいたいこうなんだけど、ちょっと違うような気もするんだよなぁ。」

尚も腑に落ちない様子のルフィだった。

「いや、そりゃ、ナミさんそのものじゃないんだから、そう思うのは当然だろうよ。」

「うん、そうなんだけどさ、何か肝心なことを忘れているような気がする。」

ルフィが再び考え事をするように腕を組んで俯いてしまった。
そんな時、それまで黙して語らなかったチョッパーが突然言った。


「ナミのコレは、もっとピンク色だ。」


そう言いながら、グラビア女性の胸の先端を指差した。
その言葉にルフィは目を輝かせた。
逆にサンジは愕然となる。

(なんで、このクソトナカイはそんなこと知ってやがんだ!)

「そう!それだ!俺の求めていた答えは!チョッパー、お前よく分かったな!」

ルフィが最大の難問が解けたような清々しい表情でチョッパーを見、その肩をばんばんと叩いた。

「だって、俺、診察のとき、見たもん。」

と得意そうにチョッパーは答えた。

「なるほど、そうか!・・・・そうだ、ウソップ、絵描いてくれよ。この本を見本にして。」

「ま、まさか俺に、この身体にナミの顔をつけた絵を描けと言ってるんじゃないだろうな!」

まさしくモンタージュ写真のよう。
ウソップが俺の芸術的才能はそんなことするためにあるんじゃねぇ!と怒る。
そんなウソップに対して、ルフィはあからさまに溜息をついて、うなだれた。

「・・・・さっき、ウソップがジャマしなければ、俺の頭の中で完成してたんだ・・・・。それがさ、ウソップが俺を揺さぶったりしたからさ、全部オジャンになっちまってさ。あーあ、せっかくいいとことまでイメージできてたのになぁ。あれさえなけりゃ、俺だってこんなことウソップに頼む必要なんて全然無かったのになぁ。」

(なんちゅうイヤミったらしい言い方すんだ!)

「わーったよ!描くよ。描きゃいいんだろ!」

もうこうなったらヤケクソだ。



「こうか?」

「違う。そこ、もっと丸く。それにそんな色じゃない。もっと薄いピンク色。」

「まさか。人間の乳首がこんなにピンク色なわけないだろ。」

「なんでそう言えるんだよ。」

「男も女も同じような色だろ、ふつうは。こん中で誰かこんな薄いピンク色してるヤツいるか?」

「・・・・おまえ、あんま気色悪いこと言うなよ。それより、この辺は肌色で、胸に近づくほど真っ白だった。」

「あ、確か、この辺にホクロがあったよ。」



年少組が座り込み、円陣を組んでああだこうだ言いながら、裸婦画を描くのに夢中になっている。





全然仲間に入れない。
なぜなら自分は実物を見たことが無いのだから。

サンジは(俺ここで何やってんだろ)と思い、さびしくなった。

ふと、隣りに目をやる。
この場では唯一の自分と同類仲間であるゾロの方を。



しかし、ゾロはいつの間にかハンモックの上に移動しており、すでに夢の住人となっていた。





それに気づき、ますますサンジはさびしくなった。







FIN


 

<あとがき或いは言い訳>
ルフィがすれてしまってる。
幻滅した人がいるのではないかと心配だ(滝汗)。
またサンズィでオチをつけてしまった。しかも中途半端な終わり方。すみません(泣)。

このお話は、「水難」を書いた後、割とすぐに思いついたのなのですが、途中まで書いて止まっていました。ルフィものなので、この機会に蔵出しし、書き上げました。それにしても、また一つ読み返すのに辛いブツができてしまった…。

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