けっこう大きな島に辿り着き、ルフィ海賊団は久々に町の空気を味わった。
そしてひょんなことでルフィが引いた福引きが大当たり。なんと全員分のホテルの宿代がプレゼントされた。

しかし、そのホテルは安宿だった。フロントは愛想が悪く、部屋は狭い。
おまけに床はギーギー軋むし、壁は薄い。

それでもなかなか陸の上で宿に泊まれるものではない。船員が増えて資金もかさむから。
部屋は狭くても一人部屋。

ここは有り難く思うことにしよう。

 

災難

 

ホテルのレストランで食事を終え、そのままそこで飲み会に突入。
安宿ではあるが、酒場と兼業していたので、酒には事欠かなかった。
やってることは船上とそう変わらない気がするが、なかなか機会のない陸上での酒宴とあって、幾分みんないつもより酒がまわるピッチが早かった。

チョッパー、ビビ、ウソップ、ルフィ、サンジと次々に脱落、各々の部屋へと帰っていった。
今やその場に残っているのは海賊団の中で1、2を争う酒豪のゾロとナミだけ。

日頃から口論が絶えない二人ではあるが、それはもう一種のコミュニケーションだ。
2人とも感情を引きずらないから、その時爆発したら、それでおしまい。
まったくもって、余計な気遣いなど不要な関係。

この日、お互いお酒が入ったこともあって、いつになく2人の間に会話の花が咲いた。



「そんで、港に着くと、こんなぐらいの石が積み上げられた塔が2本立ってたんだ。」

「そうそう、人面像が彫られてて、トーテムポールみたいなのよね。」

「トー・・・?なんだそりゃ?」

「あんた、トーテムポールも知らないの?ま、いいわ。それからどうしたの?」

「ああ、人のいる方へ行きゃ、街に出られるかなと思って、人について行ったんだ。そしたらなんか祭り中みたいで、すごく賑やかでよ。露店がいっぱい出てて。」

「それは、ガエワ祭ね。あの国ではガエワっていう疫病払いと豊潤の神様がいると信じられていて、1年に1度、その神に感謝してお祭りをするの。私も祭り期間中に行ったことがある。すごく大きな山車が出てたでしょ。」

「ああ、出てた。すげぇキラビヤカだった。」

今は2人してお酒を煽りながら、かつてイーストブルーを一人で旅(一方は単なる迷子だが)していた頃の話で盛り上がっていた。
ゾロが放浪していた所をナミは全て知っていた。
そりゃ、ナミは8年も旅をしたのだから年季が違う。知っていて当然といえるだろう。
しかも、ナミはゾロと違って行った場所の地名や特徴、位置を決して忘れなかったから。

「その祭りは10月にあるから、あんたが自分の国を出てから3ヶ月ってところか。そんで?その他はどんな所へ行ったの?」

「ああ?ええっとー。」

ゾロは無い頭を働かせて思い出そうとするが、酒のせいもあってイマイチよく働いてくれない。
それでも何とかゾロは順不同で行った先々の覚えていることをナミに語る。
ナミはフムフムと頷き、何か思案を巡らせている。

「それから?次は?何か思い出せない?」

なんだか記憶喪失の人間に問い掛けるような口ぶり。いささか違和感を抱いたゾロが逆に問い掛ける。

「なんなんだ?さっきから。こんな話ばっかさせて、何になるって言うんだよ?」

「バッカねぇ。あんたの話を手掛かりに、あんたの生まれた国をこのナミさんが突き止めてあげようって思ってんのよ。いいからさっさと話しなさいよ。」

バカは余計だと思いつつも、ナミがまさかこれらのヨタ話で自分のためにこんな画策をしていたとは思い至らなかった。

自分の故郷。ゾロはその名前も覚えていないというダメぶり。これでは帰れるはずもない。
ゾロの記憶は断片的で、出来事と季節が一致していなかったり、同じ島での出来事を異なる島での出来事だと思い込んでたり、同じ島に2度上陸していたり(本人は違う島に上陸したと認識している)、といった具合でなかなか有力な証言とはいえなかったが、それらをナミは整理し、ゾロの航海の模様を頭の中に描き出す。
支離滅裂な航海をゾロはしていたことが段々とナミには分かってきた。
そしてどんなに話を聞いても出発当初の部分だけはキレイさっぱりゾロの記憶から脱落していて、肝心の故郷の手掛かりが非常に少なかった。

「あー、こんがらがってきた!地図!地図が見たい!そうだ、私今日、イーストブルーの地図を持参してきたわよね。あれ、どこへやったっけ?」

今日は宿で泊まれるから、揺れない机の上で大判の地図を完成させようと持ってきたのだ。但し、運んだのはゾロだったが。

「ありゃ、俺の部屋だ。」

「なんで私の地図があんたの部屋にあんのよ!」

「キレんな!!てめぇが俺に運ばせたのを忘れてただけだろ!」

「それはどうでもいいから、すぐ持ってきてよ!」

どうでもよくねぇ!と心中でゾロは絶叫する。それにしても、地図をここに持って来るのは、

「めんどくせぇ。」

「あんた、自分の立場分かってんの?私があんたの故郷を捜してあげようとしてんのよ?その好意を無げにするってわけ?」

別に頼んじゃいねぇがな、とゾロの心の呟き。

「そんなに見たけりゃ、俺の部屋まで来りゃいいだろ。とにかく俺はもうあれをここまで持ってくるのは御免だ。」

それを聞いて、ナミはパッと顔を輝かせた。

「あんた、それ、ナイスアイデア!ゾロのくせに今日は冴えてるじゃない。」

別に大したアイデアでもないのだが、ナミは幾分酔っているようで、ささいなことに感嘆の声を漏らした。



ナミと連れ立って、自分の部屋へ向かう道中、ゾロはいささか奇妙な気分を味わった。
ナミが自分の部屋にくる。しかもこんな夜遅くに。他のクルーはいず、2人きり。
サンジなんぞに知られたら、申し開きができないような気がする。

ゾロはそんなことを考えていた。いくらゾロでも夜中にホテルの一室で男女2人きりという状況が何を意味するのか分からないわけではなかったから。
いつもの冷静な彼女ならこういう軽率なことは決してしないはず。
ゾロは、ナミがその挑発的な容姿や衣装とは裏腹に、この方面には結構堅いということを今までの付き合いからよく知っていた。

一方、ナミは難解な数学の問題がもうすぐ解けるというような軽い興奮状態にあった。ゾロのそんな気持ちにも気付かずに軽い足取りでゾロの横を歩く。



ゾロの部屋に入ると、ナミはすぐにお目当ての大判の地図を開いた。
ボロいが、一応その役目を果たしているテーブルの上に地図を置き、ナミは椅子に着席した。
そして、おもむろに宿備え付けのペンを引っ掴み、何やら細かい字で地図にメモ書きを始めた。

「おい、そんな落書きしていいのかよ。」

大切な地図なんだろ。

「いいの、これは下書きみたいなものだから。」

ゾロがナミの手元を覗き込んでみると、今までゾロから聞いたことを地図に落とし込んでいるところなのだと分かった。
ナミはゾロの話を逐一漏らさず記憶していたようで、ほとんど淀みなくペンを滑らせていく。その様子にゾロは舌を巻いた。
全ての事項を書き落とし、ナミは一つ溜息をついた。イーストブルーの地図には今までゾロが訪れたとされる個所に印が打たれ、だいたいいつ頃訪れたのか、その時のエピソード等も書き込まれていた。あとはゾロの行動パターンから類推して、ゾロの出発点を導き出すだけ。
しかし、それが一番困難なことだということはナミには明らかだった。地図の印を追っていっても、ゾロの航海にパターンが見られないからだ。

「うーん。」

ナミは困惑の声を上げた。そしてゾロの顔を睨む。

こいつ、何も考えずに漂流してたんじゃ・・・。本当に「鷹の目」を捜す気なんてあったのかしら。

「何だよ。」

ナミに見つめられて、怪訝そうな声を出す。
フーっとまたナミの溜息。
ゾロの話によると、ゾロの故郷には四季があり、しかも梅雨があった。季節のメリハリははっきりしていたという。
そうなると、温暖湿潤性気候であるから、北緯東経でいうとこのあたりのはず。それからゾロの瞳と肌と頭髪の色から考えると・・・。でもこの範囲内でも当てはまる島は数多くある。

「ゾロ、いくつか質問してもいい?」

あとはこいつの心理を読み取って、旅立ちの初期にどういう行動をとったかで候補を絞り込んでいくしかない!
そうナミが心の中で意を決した時、「その声」は聞えてきた。



始めは2人とも気にも止めなかった。しかし、次にはかなり大きく耳に入ってきた。

(ああん!)
2人して身体をビクッと震わせた。

ナミは何なの?という表情を顔にたたえている。
しかしゾロにはすぐに分かった。
これは女のアノ声だと。



この宿は安宿だ。床は軋むし壁は薄いし・・・。



ゾロは苦笑いを漏らした。
どうやら隣の部屋で見知らぬ男女が夜の行為をおっぱじめたらしい。
この薄い壁では女の喘ぎ声が筒抜けになってしまう。
やがて、ナミもそれと気付いたようだ。ナミの頬が紅潮する。目を伏せ、唇をきゅっとひき結んだ。

ゾロは今はそれほど行ってはいないが、かつては娼館にも通ったことがあり、ひどい所だとこの部屋のように隣の様子が手に取るように分かるような部屋もあったので、こういう声には一種の慣れのようなものができていた。
しかし、ナミは違う。こんな間近で女のこんな声を聞いたことなどなく。
ナミは動揺を隠し切れなかった。

その様子がとても珍しくゾロの目には映った。
普段なら男どもが隣りで猥談を始めても眉一つ動かさないナミ。
いつも魔女のように勝気な瞳を見せ、威勢のいい言葉を発しているナミ。
そのナミが今はまるで乙女のように瞳を潤ませ、しおらしく頬を染めている。

いや、まるでってことはねぇのかも・・・。
かつて男同志の下世話な話の中で、ナミは処女か否かで論争になったことをゾロは思い出した。
結局サンジを除いて全員がナミは非処女だという意見になった。
しかしこのナミの様子を見ると、案外サンジに軍配が上がるのでは、などと愚にもつかぬことを考える。

「おい、どうしたんだ。」

「え?」

ナミは視線を上げるが、かすかに震えている。

「俺に質問するんだろ?」

「・・・・。」

「何動揺してんだよ?」

「べっつに動揺なんか!」

しまくってんじゃねぇか。
強がりを言うナミが可笑しかった。

「なんだ?そんなにこの声が珍しいのか?」

ゾロは強がるナミが面白くて、つい、からかうことを止められない。

「てめぇもこんな声、出すんだろ?」




音を立てて、ナミは椅子から立ち上がった。

「帰る。」

ナミはゾロには一瞥もくれず、ドアの方へ向かう。
しまった、言い過ぎた、と思い、ゾロはすぐさまナミを追い、その腕を掴んだ。

「待てよ。」

ゾロの声は意図したわけではないのに、とても低く響き、それだけでナミの身体に震えが走った。
その震えはナミの腕を通してゾロにも伝わった。途端に自分がナミをこんなに怯えさせたことに対する罪悪感が沸き起こる。

「何。」

振り返ったナミの瞳を見て、ナミの震えは怯えと怒りからくるものだということが分かった。

「悪かった。」

その言葉を聞いてナミは再び目を伏せた。



ゾロは自分でもどうかしている、と思った。普段ならこんなことでナミをからかったりしないのに。
隣室からは相変わらず悩ましげな女の声が聞えてくる。
どうやらこの声が自分の平常心を奪っているようだ。
ナミをからかっていたはずなのに、この声で追い詰められているのはむしろ自分の方だったとは。
ゾロの目線のわずか下でナミの伏せられた長い睫毛が震えているのが見える。
彼の手はまだナミの腕を捕らえていた。
思っていたよりもずっと細くて華奢な腕。しかしその感触は滑らかだ。
身体が勝手に動いていく。
こうすればこの女はどんな反応を示すだろう?と心の片隅に思いながら。



平常心を失っているのはナミも同じだった。
いつもならきわどい発言も軽くいなせるのに、どうして今日は。
動揺したところをゾロにまともに見られて恥ずかしい。
とてもゾロの顔を再び見ることができない。

そうナミが思った時、不意に顎を持ち上げられた。
目の前にはゾロの顔。射抜かれるように見つめられて、そのまま近づいてくる。
このままではぶつかる、そう思い、寸でのところでナミは顔を逸らせた。



そのため、ゾロは空振りし、隣と仕切られた壁に顔をぶつけそうになった。
ゾロは幾分面白くない気分になり、今度はナミの両肩を掴んで壁に押し付けた。
自分で自分のことが制御できなくなっていた。
ナミに対して何をやっているのか、何をしようとしているのか。
ただ、何かに急かされて追い立てられているような。
身体が熱い。
隣室の女の喘ぎ声はますます激しくなっていく。
目を閉じるとそれはまるでナミが発している声のような気がしてきて。



そんなには強くないが有無を言わせぬ力で壁に縫いとめられ、ナミは混乱していた。
なぜゾロがこんなことをするのか理解できない。これは先ほどまでのからかいの続きなのか?
そして再びゾロが顔を寄せてくる。ゾロの意図はもうナミにも明らかだった。

「ゾロ、私困るよ。」

そう言って俯いても、再び顎をゾロの手で持ち上げられてしまう。
ナミはきつく目を閉じた。
心臓が早鐘のように打っている。
本当に困った。こんな状態なのに強く拒絶できない。ゾロだと拒絶できない。
怖い。何だか自分が自分で無くなってしまいそうで。
壊れてしまう。今までの関係とか。仲間とのバランスとか。
一瞬、ルフィの顔が脳裏をよぎった。



右手でナミの肩を捕らえて壁際に押し付けたまま、左手をナミの顎、そして唇に沿わせる。
微かな震えがナミの肩から伝わってくる。それでも、身を堅くしてはいるが、抵抗はない。
もう鼻が触れ合うかの近さでナミの端正な顔がある。透き通るように白い頬の上に伏せられた睫毛の影が落ちている。
唇が触れるか触れないかのところで、

「ナミ」

ゾロはその名を呼んだ。
その呼び声にナミは伏せていた瞼を持ち上げた。琥珀色の瞳が揺れる。
しばしゾロの瞳を見つめて、そしてその瞼は再びゆっくりと閉じられていく。
それを合図にゾロはナミの唇に自分のそれをぶつけるように押し当てる。

ナミから小さな吐息が漏れる。
ナミの唇は甘く、しっとりとしていて、吸い付くような感触だった。
瞬間、ゾロの全身が総毛立ち、更なる欲が身体の内側から生み出されるのがわかった。
ゾロは唇を塞いだまま、壁に押さえつけていたナミの肩から手を離し、その背に両腕を回し、力強く抱きしめた。
そして更にナミを求めてその唇を割ろうとした時。



(キャーーーッ!!)

隣室からの絶叫に、弾かれたように2人は身体を離した。
これはアノ声とは明らかに違う。異変を伝える声。
ナミは隣を仕切る板壁の隙間からかすかに煙が漏れ出てくるのを見た。
そして漂う何かきな臭いにおい。

「ゾロ、あれ見て!」

ナミが窓を指差す。ゾロが目を見やると、深夜だというのに窓の外は赤々と明るくなっていた。
光源は隣室の窓のようだ。

「火事よ!」

「ああ、そのようだな。ずらかるぞ。こんなボロ宿じゃ、あっという間に火が回る。」

「原因は何なのかしら?」

「さあな。行為に夢中になって、ランプでも蹴り倒したんじゃないのか。」

その時、隣室の壁が思い切り打ち付けられる音が響いた。
中から、助けてくれ!出られないんだ!と、救助を求める声。

「ドアから出りゃいいのに。」

「気が動転してるんだわ。―――ゾロ。」

「へいへい。俺が助けりゃいいんだろ。お前は他の奴らの避難誘導を頼むぜ。」

まかせて、とナミはウィンクしてゾロに答えた。



もういつもの2人に戻っていた。さっきまでのことが嘘のように。




***




「あー、びっくりした。俺、火事から脱出するのなんて初めてだったよ。」

ルフィがまだ燃え続けるホテルを見上げて感嘆の声を上げた。

「てめぇは大概のことは初めてだろうがよ。」

サンジが揶揄するように言う。

「お前、その格好で突っ込んでもなぁ。」

ウソップはバスタオル一枚を腰に巻いただけの状態のサンジに対し、憐れみを込めて言う。

「し、仕方ねぇだろ!シャワー浴びてるところだったんだから!」

「こんな時間にシャワーをねぇ。」

「そういえばサンジくんの部屋から女の人も逃げていったわよね。」

「いやぁ、ナミさん、それは目の錯覚ですよ、きっと!」

サンジは冷や汗を流しながら弁解する。

「とにかく、とんだ災難だったけど、みんな無事で良かったわ。カルーの羽がちょっぴり焦げちゃったけど。」

「クエーッ。」

「でもこれくらいで済んで良かった。ありがとう、ナミさん。私、熟睡しちゃって、ナミさんが呼びに来てくれなかったら、あのままだったかも。」

それを想像し、ビビは心持ち顔を強張らせていた。

「俺もナミに叩き起こされた。ナミはよくすぐ気がついたな。」

チョッパーが感心したように言う。

「隣りが火元だったからね。そりゃすぐ気付くわよ。」

「え?火元って、ゾロの隣室じゃなかったっけ。ナミの部屋はゾロの部屋とはだいぶ離れてただろ。火事の時、ナミはゾロの部屋にいたってことか?何で?」

チョッパーが不思議そうに無垢な質問を続ける。

しまったと思ったがもう遅い。墓穴を掘ったことにナミは気付いた。
冷や汗を流すのは今度はナミの番だった。
深夜のホテルの一室に男女が2人。そう聞くといかにもイカガワシイ。
冷静になって考えると、自分のとった行動が信じられない。なぜ何の疑問も躊躇もなく、夜に男の部屋なんかへ行ってしまったのか?
いやしかし、あれには訳があったのだ。地図を見るためにゾロの部屋に行っただけ。そう言えばいい。

「そりゃどういうことです?おい、ゾロ、どうなんだよ?てめぇの部屋にナミさんがいたのか?」

しかし、ナミが口を挟む間もなく、質問はサンジによってゾロに振られた。

「・・・・いた。」

ゾロの素気ない短い返答。
途端にクルー全員(約1名を除く)の目が好奇心で輝き、口々に喋り始めた。

「そんな時間にナミさんとミスター・ブシドーは2人きりで何してたんですか?」
「ゾロとナミはそういう関係だったのかー!」
「いやぁ、いつかお前らそういう仲になると思ってたんだ、俺は。」
「2人で何かいいもん食ってたんだろー!!」
「うわ〜ん、ナミさぁん。」
「クエーッ!」

火事のせいでみんながナチュラルハイな状態。なんだか収拾がつかなくなってきた。
ちょっと、それは違うのよ!誤解よ!と叫んでも、誰も聞く耳は持っていない。
それどころか、ますます追求は激しくなる。
彼らの結論はもう決まっているので、彼らが思い込んでいる事を“自白”するまで引き下がってくれそうも無い。

ナミは少したじろいで、ゾロをキッと睨みつけ、何とかしなさいよ!と目で訴える。
ゾロは平然とした顔をして言った。

「仕方ねぇだろ。正直にあったことを話し続けるしかねぇ。」

正直にあったこと―――その言葉を聞いて、ナミはなぜかゾロとのキスの感触をリアルに思い出し、カッと頬が朱に染まる。

「何顔赤くしてんだよ。何かいいことでも思い出したか?」

そんなナミを見て、ゾロは不敵な笑みを浮かべながら、意地悪く言う。

「うるさい!変なこと言ったら承知しないから!」




あれは一体なんだったの?とは正面切って聞けそうもない。
意味があったと言われても困るし、なんの意味も無かったと言われるのも何だか不愉快だ。
冗談じゃない。クルーの中で色恋沙汰は御免だ。
しかしこれからゾロに対してどんな態度を取ればいいのやら。
今までの関係が結構気に入っていたのに。
もうゾロの前では油断できないとナミは思った。




あれは一体なんだったんだろうか?
体中に溜まっていたかのような熱はもう嘘のように消えている。
なぜナミにあんなことをしたのかさっぱり分からない。
しかし、これだけは言える。しばらくナミから警戒されるだろう、と。
ナミはまた背中の毛を逆立てた猫のようになってしまうにちがいない。

せっかくなついてきたところだったのに。

これこそが一番の災難だとゾロは思った。



FIN


 

<あとがき或いは言い訳>
ようやくゾロナミ(目標)サイトとしての面目躍如。
「遭難」、「水難」ときて、「えーいこうなったら、次は火事話でゾロナミ話書こう!」と思い立ったまではいいが、そこからが長かった・・・。

COLOR LIFE』のベルさんが、このお話のイラストを描いてくださいました。宝物庫にありますが、ここからも飛べます。GO!→

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