今でもあの日のことはよく覚えている。

あの人の歌声を、最初で―――最後に聞いた日だから。






残される者への賛歌





船長さんが左腕を失った直後は、私の店も水を打ったような静けさだった。
船長さんの仲間の人達は店には来るけれど、皆、全く覇気がない。
それだけ船長さんのケガの症状が思わしくないのか。

とりわけルフィの様子は、見ていてこちらが居たたまれないくらいだった。
船長さんのお見舞いが済むと、一直線で店に来て、長い時間をここで過ごす。
元気の塊のような子で、恐ろしいほどに食いしん坊なのに、今はミルクを勧めてもあまり口にしない。
閉店間際にいつもエースが迎えに来て、それでようやく帰っていく。


日が過ぎて、段々と仲間の人達の表情に明るさが戻って来た。
船長さんが順調に回復しているのだろう。

と同時に元気なルフィが戻って来た。
食欲が見る見る増していく。
もうエースの迎えがなくとも、自分で帰っていく。


そんな風だったから、船長さんがケガの後、初めて店にやって来たときは、もうお祭りのような騒ぎだった。
船長さんは私の顔を見るなり、

「マキノさん、あんたの顔を見られないのが一番辛かったよ。」

なんて軽口を叩く。それを聞いて、ああ船長さんは本当に回復したんだと実感する。
左腕を見るのにはやはり相当な勇気が必要だった。
けれど、あの腕が、今ここにいるルフィを救ってくれたのだ。
あの腕をきちんと見ないのは、生きているルフィを否定することのような気がする。
尊敬と感謝の念を持って、左腕を見ることにしよう。

船長さんが酒と注文したけれど、私はケガのことを思って、ジュースを差し出した。
一口飲んだ船長さんは目を剥いて私を見たが、文句も言わず、うまい、と一言。

その後は飲めや歌えやの大宴会。



「明日、出航することにしたよ。」

唐突な話に、私はひどく驚き、思わず目を船長さんに向けた。

「船旅に出ても差しつかえが無いって、やっと医者が言ってくれたからね。」

「そうですか。」

「長くこの村を拠点に航海してたが、そろそろ別のところへ出ようと思う。もうここへ寄るのは今回が最後だろう。」

その言葉に私は息が詰まった。

「マキノさんにはホントに世話になったな。」

「いえ、そんな。でも、寂しくなります。皆さん、ホントに賑やかで、私もとても楽しくさせていただいてましたから。」

「やっぱり?これだけうるさい連中が急にいなくなると、堪えるんだよね。俺も病室に監禁されてたから、それを実感してるとこ。俺はこの仲間とともにあるべき人間なんだな。」

そう感慨深かげに言って、船長さんは大騒ぎしている仲間達にそれは愛しそうな眼差しを向けた。

船長さんにとってはこの仲間達がいるところが彼の居るべき場所なのだ。


その仲間達から零れ落ちた私やルフィには、そんな目を向けてはくれないだろう。



「お頭!あんたも歌えよ!」

仲間の一人からそんな声がかかる。
おう!と船長さんが応じた。

船長さんが、カウンター席から立ち上がり、仲間のいる中央へと進んでいく。
他の仲間達は歌うのを止め、船長さんが歌い始めるのをジッと待つ。
やがて、船長さんが歌い始めた。


私が船長さんの歌声を聞くのはこれが初めてだった。
随分長く店に来てもらっていて、宴会騒ぎは今日だけじゃなかったのに、
船長さんが歌っているところを今日まで見たことがなかった。


朗々とした、男らしい声。
伸びやかに歌い上げていく。
歌は、私がこれまで聞いたことのない歌だった。

海賊になった男が、故郷に残してきた妹に思いを馳せる歌。


なりたくて海賊になったけれど、お前のことはいつも気にかけている。
美しいものを見れば、お前にも見せてやりたいと思い、
不思議な話を聞けば、お前にも聞かせてやりたいと思う。
お前は今、どうしているのか。
お前は今、幸せでいるのか。


そんな歌だった。
妹を自分に置き換えて聞いてみる。
船長さんの歌声が心に染み込み、自然と涙が零れた。

「マキノー。」

いつの間にかそばに来ていたルフィ。その声は涙声だった。
私はしゃがみこみ、ルフィの背後から彼を抱きしめた。


涙も出るわよね。なぜならこの歌は、


残されていく私達への賛歌なのだから―――



船長さんの独唱部分が終わると、次々仲間達が歌に加わっていき、今や大合唱になっていた。



「マキノー。」

再度、ルフィが私を呼ぶ。

「どうしたの?」

私が問い掛けると、

「俺が海賊になったら、絶対音楽家を仲間に入れるんだ。」

「うん。」

「だって、海賊は歌うんだもんな。」



そう、その通りよ、ルフィ。


大丈夫。

きっとあなたのもとにも、

ともに歌える素晴らしい仲間が集うわ。







FIN


 

<あとがき或いは言い訳>
私が参加してます『
声フェチ同盟』さんでは、最近声フェチ作品を募集されるようになりました。私のフェチ声はシャンクス(とゾロ)。これまでお頭の話なんて考えたこともない私だったのですが、がんばって書いてみました。声SSと言うにはあまりにおこがましいのですが(汗)。出来はともかく、私にお頭SSを書く機会を与えてくださった『声フェチ同盟』さんに深く感謝の意を奉げます。

さて、シャンクスの声優さんのI田氏といえば、ガン●ムの赤い彗星のシャア!めちゃくちゃ好きで、ララァには真剣に殺意を抱いたくらいです(ララァファンの方、すみません)。実はこのI田氏、アニメコナンにも出演。赤井とかいう謎の男役です。「赤い彗星」だから「赤井」なの?とか思ってニマニマしている私…(ホント危ないよ)。

一応ルフィ絡みなので、ルヒ誕ページにひとまず置きました。

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