魔女の瞳はにゃんこの目

空の彼方を
海の底を
地の果てを

心の奥をも見通す力





魔女の瞳はにゃんこの目  −1−

びょり 様




或る小さな国に、1人の偉大な魔女が居りました。
世界中の何もかも知り、世界中の誰よりも愛らしい魔女でした。(←自己申告)


小さな国の外れの小さな村の、そのまた外れの小さなオレンジの森の奥。
魔女はそこに千年もの長い間、たった独りで住んでいました。




或る日の昼下がり、魔女が森を見廻りながら、オレンジをもいでいた時の事です。
森の外れから、烏達の喧しく鳴く声が聞えて来ました。

何事かと声のする方へ駆け寄ってみると、森外れに流れる小川の岸辺に、黒く蠢く小山が2つ見えます。
薄気味悪くも目を凝らして見れば、黒く蠢く2つの小山は烏の群れでした。
ギャアギャア騒ぎながら烏達は、鋭く黒い嘴でもって、我先にと何かを突いています。


突かれてるそれは……どうやら、2体の死体の様でありました。


『まあ!行き倒れの死体だわ!!…可哀想に、早く埋めてあげなきゃ!!』


物知りで愛らしいだけでなく、その魔女は大層優しかったので(←自己申告)、死体に集っていた烏達を、落ちていた枝でしっしっと追い払いました。
追い払われた烏達は、上空を暫く口惜し気に飛び回っていましたが、リーダーと思しき1羽が「カァ!」と鳴いたのを合図に、一斉に空高く飛び去って行きました。


静寂の戻った岸辺に、穏やかな空気が流れました。

雲間から零れた光が、残された2体の死体を照らし出します。

草むらにうつ伏せで倒れてる2体は、どちらも自分と同じくらいの背格好…恐らく年齢12歳程。
散々烏に突かれたお陰で服はボロボロ、一層哀れさを醸していました。

1人は赤チョッキに赤ズボン、麦藁帽子を被った、黒髪バサボサの少年。
もう1人は緑チョッキに緑ズボン、短髪イガ栗頭まで緑色の、大きな刀を2本も背負った少年。

ゴロリと転がるそれらを見詰めて魔女は、途方に暮れた様に溜息を吐きました。


『…よりによって2体も行き倒れてるなんて運が悪いわ。せめて1体だけならまだマシだったのに…そもそもコイツら、何でこんなトコまで来てゴロンと行き倒れてる訳?恐らく近所の村の人間だろうけど…傍迷惑な!…どうしよう?村まで引き摺ってって、家探して渡すのも面倒だし…かといって放っぽっておくのも体裁悪いわ……やっぱりオレンジの森に埋めて、肥料にしちゃうのが1番よね。』


思いあぐねた末、心優しい魔女は(←自己申告)、森に埋めて葬ってあげる事に決めました。


『決めたからには早く埋めてしまおう…でないと腐って気持ち悪くなっちゃうし。』


長閑な岸辺に無残に転がった2体の死体。
その横でさらさらと流れる小川は、陽光受けてキラキラと輝いています。
初夏の様に心地良い風が吹き、森からオレンジの甘酸っぱい香りを運んで来ました。


その瞬間――なんと、2体の死体がピクリと動きました。


「ひっっ…!!?」


驚き戦く魔女の前で、2体の死体はむくりと起上がり、胡乱な眼差しを魔女に向けました。


「…美味そうなにおいがする…!」

「……食いもんの匂いだ…!」


ギラリと目を血走らせ、じりじりと傍へ寄って来る2体の死体、いや2体のゾンビ。
あまりの恐ろしさに魔女は、篭に入れたオレンジを抱締め、その場で腰を抜かしてしまいました。


「…メシ…く、食いもん…美味そうな食いもんだ…!!」

「……ああ…凄ェ美味そうだ…!!」


じりじり…
じりじりじり…
じりじりじりじり…


「…ひっ…あ…や…!!来ないで…!!来ちゃ嫌ァ…!!」


餓鬼の形相でにじり寄って来る、恐怖のゾンビ達。
逃げたくとも足まで竦んで動けなくなった魔女は、涙目で来ないでくれとひたすら哀願するばかり。
しかしゾンビ達は無情にも全く耳を貸さず、魔女を追詰め傍まで来ると――唸りを上げて一気に飛び掛りました。


「メ〜〜シ〜〜!!!食わせろォ〜〜〜!!!!」
「大人しく食わせやがれェェ〜〜〜!!!!」
「い〜〜やァ〜〜〜!!!!誰か助けてェェ〜〜〜!!!!食べられちゃう〜〜〜!!!!」


腕で頭を抱えて小さく縮こまるいたいけな魔女。
万事休すと目を瞑り………しかし何の痛痒も感じない。
不審に思い、薄っすら瞼を開くと――


――目の前には2体のゾンビが、魔女の持ってた篭のオレンジを、奪い合いながら食らう姿が在ったのでした。


「ふんめェェ!!!ふんめェェほほのオヘンヒ!!!ふんげェェフーヒー!!!!」
「てめェルフィ!!!1人で全部抱え込んでんじゃねェよ!!!こっちにも寄越せ!!!!」
「ほめェこそ残り1個を持ってくんじゃねェよゾロ!!!!ちゃんとフェアに半分こしろよな!!!!」
「何がフェアだ!!!!いきなり5個も纏めて食いやがって!!!!もうてめェの取分は無ェよ!!!この最後の1個は俺のもんだ!!!!」
「ううぅ!!?ズッリィィぞゾロ!!!!最後の1個は公平にジャンケンで決めるルールだろォが!!!!」
「ズリィのはどっちだよ!!!?俺まだ3つしか食ってねェんだぞ!!!!おめェその間何個食った!!!?」
「ジャンケンジャンケン!!!!公平にジャンケーン!!!!」
「ちっっ!!!たくっっ…!!!よぉぉし!!!だったら今度こそ駄々捏ねんじゃねェぞ!!!?――ジャーンケーン…!!!!」
「ジャーンケーン…!!!!」


――ゴゴンッッ……!!!!!!


ジャンケン体勢で睨み合う2体のゾンビの頭上に、魔女のクリティカルヒットが炸裂しました。

攻撃を受けたゾンビ2体は忽ち白目を剥き、崩れる様にしてまたうつ伏せに倒れたのでした。


「……何なのよ、あんたら…?」




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<管理人のつぶやき>
魔女、行き倒れの死体を発見。動じずに片付けようとしちゃうところからしてタダ者ではない。
ゾンビはどうしてこんなところで行き倒れていたのか?その目的は?
「来ちゃ嫌ァ・・・!」を別の意味に取りそうになったのはここだけの話に(笑)。

【投稿部屋】でも投稿してくださってるびょりさんの投稿作品です。
楽しい楽しい連載です。どうぞお楽しみにーーー!





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