魔女の瞳はにゃんこの目  −2−

びょり 様




「村の外れに、何でも見えて何でも知ってる魔女が居るって聞いた!俺達はその魔女を探しに来たんだ!」
「所がどうした訳か道に迷っちまってな…ちゃんと書いて貰った地図通りに道を行ったんだが。」


目を覚ましたゾンビ、もとい少年2人は、川岸に繁る草むらに胡坐を掻き、どうして此処で倒れていたのか、その理由を話し出しました。
話を聞こうと魔女も、2人と向合う様して、前に転がる平たい石の上に腰掛けました。


「あんた達、麓の村の子供?」

「おう!そうだ!」


魔女の質問に、麦藁帽子を被った少年が、元気良く答えます。
襟足まで伸ばした黒髪は、生れてこの方櫛も通した事無さそな程、バサバサのボサボサ。
好奇心の強そうな真ん丸の瞳は、髪と同じ真っ黒々。
左目の下には、下瞼に並行に付いた傷跡。


「なら、村に流れる川を辿って上って行けば、難無く着けた筈でしょうに…ちょっとその地図見せてくれる?」

「おお、これだ。」


今度はその隣の、緑色したイガ栗頭の少年が答え、ズボンのポケットから、小さく折畳んである地図を出して、魔女に渡しました。
広いおでこを露にし、黒髪の少年と比較すると、少しつりがちな茶色の瞳。
真一文字に引き結ばれた唇からは、強靭な意志が見て取れます。
背負った2本の刀は少年の身の丈近くも有り、果して上手く振回せるものなのかと疑問に思えました。


「……別に間違っちゃいないわね。とても丁寧に判り易く書いてある。…これなら猿が見たって着けるだろうに…おかしいわ。」


地図を広げつぶさに確認した魔女は、首を傾げました。
そもそも村からかなり外れてるとはいえ、ただ川を辿って上って行けば良いのですから、地図さえ必要無く着ける筈なのです。


「確かに地図通り、川をたどって行ったんだけどなー。」
「そうそう。したら何故か海みてェに巨大な湖に出ちまって驚いたぜ。見渡す限り水しか見えねェんだもんな。」
「…『海みたい』じゃなくて、ズバリ『海』だったんじゃないの?ひょっとして下ってったんでしょ、あんた達。」
「そうなんだよなー。何時の間にか下っちまってたらしいんだ。んで、あせって道戻ったんだ!」
「『迷ったら振り出し戻れ』って言うしな。…ったら、今度は何故か地図に無い滝に出ちまってな。」
「……通り過ぎてない?それってもしかして通り過ぎてたんじゃない?」
「俺もそう思ったんだ!だから…どうせ川伝いに行けるトコだってんなら、飛び込んで川の流れに乗って行きゃ早いんじゃねーかって考えてな!」
「馬鹿なんだよこいつ!自分がカナヅチだって事、忘れちまってんだから!止める間も無く滝壺飛び込みやがって…しょうがねェから後追い駆けてって、溺れて
んの助けて…岸に上った時には、すっかり途方に暮れちまってなァ…。」

「………。」

「村から北に行った所だっつうから、寒い方行きゃ良いんじゃねーかっつったのに、こいつ、右ばっかに進んで、ひたすらグルグル回っちまうし。草原を3日3晩さまよって腹減ったのなんの。…その内、意識がもーろーとした中で…美味そうなにおいが風に乗ってやって来てなァ〜。」
「匂いに吸い寄せられる様にして歩いてった所で、力尽きて倒れちまってたらしい…で、今此処にこうして居る訳だ。」

「「おかしいな。本当にどうして道に迷っちまったんだろう??」」

「おかしいのはあんた達の方向感覚だ、馬鹿者共!!」


2人の少年の常軌を逸した行動に、魔女はすっかり呆れてしまいました。


「…で?そんな過酷な冒険してまで、魔女に何を聞きたかった訳?」

「んん?…そういや、おめェ、誰だー?」
「この近所に住んでるヤツか?なら、その魔女の住む家、知らねェか?」


自分に向い質問して来る少年達を前にして、魔女はそこはかとなく威張った風に、腕組んで立上りました。


「知ってるわ!けど、只では教えたげない!」

「…んだよ?まさか…金取る気か?」
「えええー!?金払わないと教えてくんねーのかー!?」
「当ったり前でしょ!!今の時代、情報は『金』よ!!」
「つってもなー…金なんて俺、1ベリーも持って来てねーし…。」
「俺も手持ち金、0だ。」
「呆れた!2人揃って無一文なんて!…話になんないわ。とっとと此処から立ち去って、お家に帰るのね!」
「ちょっっ!!ちょっっ!!ちょっと待てよ!!!金は今度必ず持って来っから教えてくれよ!!!絶対に聞かなきゃなんねー事なんだ!!」
「帰りたくったって、道判んねェんだから帰れる訳無ェじゃねェか!!!」


くるりんと回れ右をしてその場から離れようとする魔女を、2人の少年は慌てて引き止めました。
しかし魔女は全く無視して、草むらに1つだけ残されてたオレンジを拾い篭に入れると、岸から離れてスタスタと森に戻ろうとします。

戻る途中でふと足を止め…ちらりと振返りこう言いました。


「言っとくけど…その魔女に聞くのにだって、お金必要なんだからね!」
「ええええ〜〜!!?その魔女もお前と同じケチなのかァ〜〜〜!!?」
「そういや爺さん話してたな…世界一物知りで賢い魔女だが、世界一がめつくって守銭奴な魔女でもあるって。」
「誰がケチでがめつくって守銭奴なのよっっ!!!!?」
「何でてめェが怒んだよ?」
「なァ〜〜頼むよォ〜〜!!村1番の物知りじいさんでも解けなかった謎なんだ!!もうその魔女だけが頼りなんだって!!家知ってんなら教えてくれよォォ〜〜〜!!」


足を止めた魔女の周りを回りながら、麦藁被った少年はひたすら懇願して来ます。
腕を引張ったり、髪を引張ったり、スカートの裾を引張ったり…あまりにも鬱陶しく纏わり付かれ、遂に魔女は根負けしてしまいました。


「解ったわよ!教えてあげる!!……ただし、金が払えないなら、その分労働力提供して貰うわよ!」

「「労働力??」」


訝しがる2人の少年を連れて、魔女は森の中へと入って行きました。




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