魔女の瞳はにゃんこの目  −15−

びょり 様




「所で、この宝どうするよ?山分けしようにも1枚鏡じゃしようが無ェし。」
「ゾロの刀で3枚に斬っちまやいーじゃんか。」
「苦労の末手に入れたお宝を、3枚に下ろそうとすんじゃないわよ馬鹿!!!」
「じゃあどうすりゃ良ーんだ??」

「そうねェ……ルフィ、あんたのその麦藁帽子、ちょっと貸してくんない?」


取敢えずの一件落着…が、宝の配分方法を巡って議論を交す3人。
提案を求められたナミは、ルフィから帽子を借り、2人に鏡を背負わせて、館の外へと連れ出しました。




既に正午を回ったらしく、太陽は天上高くから、館を燦々と照らしています。
朝とは打って変った暖かい空気。
陽射しの下3人は、草原吹く風を胸いっぱいに吸込み、思い切り伸びをしました。

草むらに寝かせた鏡を前に、帽子を手にしてナミが呪文を唱えます。

瞬く間に金色に輝くナミの瞳。

眩く蒼い光に取巻かれたと思った瞬間――鏡は元のパズルピースとなって砕け、ナミの手に持つ麦藁帽子の中、ザラザラと音を立てて吸込まれてしまいました。


「す…すっげェ〜〜!!!またパズルんなって帽子の中吸込まれちまった…!!!……一体、中どーなってんだァ!??」


ナミから返された帽子を振ったり叩いたりしてみるも、パズルになった鏡は出て来ません。


「魔法で帽子の裏に、異空間へと繋がる扉を開けたの。扉の鍵はあんたの唱える呪文。それ以外では開かない様にしてあるわ。…今から私の言う通りに唱えてみて!」


説明を終えると、ルフィに帽子から鏡を取り出す呪文を教えます。


「どう?…覚えた?」

「お…おう!!

 『水明鏡よ水明鏡!
  汝の主の前に、姿を現せ!!』」


呪文を唱えた途端、帽子の裏から光と共にパズルが零れ落ち、そしてまた1枚の鏡に繋ぎ合わされました。


「うっはァァ〜!!!また1枚の鏡になっちまった!!!」

「今度は帽子の中に戻す呪文を教えるわ。また言う通りに唱えてみて!」


再び、ルフィに言い聞かせる様、呪文を唱えるナミ。
そうしてまた教えられた通りに、ルフィが呪文を唱えます。


「『水明鏡よ水明鏡!
  汝の主の前から、姿を隠せ!!』」


あっという間に鏡は砕けてパズルに戻り、また帽子の中へと吸い込まれて行きました。


「…どう?これなら持ち運びも楽ちんでしょ?」


目を真ん丸にして驚いてるルフィに向い、ナミが得意満面の笑顔で言います。


「すげすげすんげェおんもしれェ〜♪♪パズルになったり鏡になったり…俺の命令した通りなっちまうなんて、すんげェ〜楽しい♪♪」

「…こいつの呪文でしか開かない様にしてあるって……それってお前、宝はルフィに寄越すって事か?オール自分なんて言ってたクセに良いのかよ?伝説の鏡だっつうなら、売りゃあ結構な値が付くんじゃねェの?」


如何にも意外だとばかりに尋ねるゾロ。
その問いにナミは苦笑いを浮べて答えました。


「そりゃねー………けど、売る訳に行かないじゃない。あんたらが最初に持込んだ鏡は、どうやら館の歯車の一部に組込まれて外れそうもないし…無理に外せば今度こそ崩壊崩落何が起るか判らない。…となれば今やあんた達にとっての手懸りはその水明鏡のみ…」

「…つまり俺達の為に宝の所有権から手を引いた、と。…我儘で自分さえ良ければ構わないどうしようもねェ自己中魔女だと思ってたが、本当は良いヤツだったんだなァ、有難う。」
「え!?そうなのか!?タカビーで救いようの無ェドケチ魔女だと思ってたけど、本当は良いヤツだったんだなァ〜、有難う!」
「『有難う』以外全て余計よ!!!っっとに失礼千万な奴等ねェェ!!!」


仲良く言い合う3人の元に、崖の間を流れる川の方から、一際強い風が届きます。
風は枯れた草原を駆け抜け、ナミの被るマントを大きくはためかせました。

雲は吹き飛ばされ、上空広がる澄んだ青い空。

2人に背を向け、ナミは両手を上に、1つ伸びをしました。

その金色の瞳に映るのは、白い石造りの教会。
昼陽射しの下、影まで縮こまり、ポツリと立ち竦んだ姿。
ずっと独りで、千年以上も建っていた館。


「……まったく…ほぼ1日中あんた達に付合わされ、働き詰めにされて…結局何にも手に入らず、骨折り損のくたびれもうけ……散々ったらないわよねェ…。」


独り言の様に呟かれた言葉。

しかし振返り2人に向けたその顔は、言葉とは違い、とても晴れやかなものでした。


「…散々ついでに、ヤケのヤンパチで出血大サービス!村まであんた達を送ってあげるわ!」




行った時とは逆の道を辿り、箒は3人を乗せて飛んで行きました。

森を越え海に出て、波の上を滑空する鴎達を追い、進んで行く箒。
昨夜満月に照らされていた海は、今は太陽に照らされ、何処までも蒼く冴え冴えと輝いています。

昨夜と違って風は向い風…行きより幾分抑えた速度で、ナミは箒を走らせて行きました。


「…腹減ったァ〜〜…考えてみりゃ3日飲まず食わずでさまよった後、ちびっとだけ夕飯食って、また夜中ぶっ通しで動いて、今日も朝から夕まで抜いちまって…計23食分も損しちまってる!帰ったらまとめて食わね〜とな〜。」


ナミの腰掴まり、ルフィが腹の虫を響かせ呻きます。


「…あんたそれ、1日5食で計算してるでしょう!?それに人ん家の農作物&夕飯あんだけ食荒らしといて、なァにが『ちびっと』よ!?」

「俺ァ帰ったらとことん眠りてェよ。…此処数日ろくに睡眠取ってねェ。」


ルフィの腰掴まったゾロが、盛大に欠伸をして言います。
刀を振るった時、あれ程鋭い光を宿していた双眸は、今では眠た気に開閉を繰返していました。


「私は帰ったら1も2も無く先ずお風呂だわ!1日中汗水流して埃や砂に塗れて…正直1分たりとも我慢出来ないもの!!」


先頭で、辛抱堪らずといった風に、ナミが叫びます。


「ならいっそ海飛び込んで洗っちまやいーじゃん。」
「そうだな。確かに手っ取り早い方法だ。」
「海水で体洗う馬鹿が居るかボケェェ!!!」


背後を振り向き、2人のボケに激しくツッコミを入れるナミ。
入れた後でしかし、穏やかな顔してルフィとゾロに言いました。


「……まァでも久し振りに楽しかったわ。こんなに楽しい思いしたの、数百年振りかも…お礼に、貸しはチャラにしたげる!有難う…2人とも。」


にっこりと微笑み、直ぐにまた前に向き直ります。
後ろから見た耳が、ほんのりと赤く染まって見えました。


「………そんっなに俺達と居て楽しかったかー…?」


背後から、何かを探る調子で、ルフィが声を掛けて来ます。


「まァねー……これで依頼が完了して、あんた達と別れるのは、ちょぉぉっと寂しいかも……」


素直に、感慨深げにナミが答えます。

その回答を聞き、ルフィはにんまり笑うと、更にぎゅうと腰にしがみ付いて言いました。


「じゃ、決まりだな!」

「……何がよ??」

「今日からお前も『シャンクスそーさく隊』の仲間だ!!」

「はあああ!!!??」

「ゾロも異存は無ェだろ!?主にナミには案内と移動役任せるって事で!!」

「ああ、良いんじゃねェの?俺とてめェだけじゃ、何かと道中不安だしな。」

「とそんな訳で…これからも宜しく頼むな♪」


ニシシッ♪と歯を剥き出して笑い、肩をポンと叩かれます。


「ちょ…ちょっと待って!!!勝手に仲間に組入れてんじゃないわよ!!!依頼は『魔鏡の謎を解く』事だけだったでしょ!!?」
「だから新しく依頼する!!また宜しく頼むって!!」
「宜しく頼むな!!!!依頼すんなら金払え!!」
「金は無ェからツケにしといてくれ!!」
「ガキがツケ払いしようとすんな!!!大体ウチはツケ利かないの!!キャッシュでしか受けないようしてんだからね!!」
「いーじゃねェか!!俺達に付き合や、また楽しい思い出来るぜ♪」
「楽しい思いなんて出来なくて結構!!只働きはもう御免よ!!!」
「俺達と別れるのはさびしーーって言ったクセに!」
「だからそれは…!!!……や!?も!!ちょっと待っ…!!離れろセクハラ馬鹿坊主〜〜!!!!」


何度突っぱねられようとも、挫ける事無く勧誘し続けるルフィ。
しながら、最早逃さんとばかりに、ぎゅうぎゅうとしがみ付いて来ます。
その手を何とか払い除けようとナミは暴れますが、馬鹿力で繋ぎ止められた両腕は、全く解く事が出来ませんでした。


――スカーン!!!


「いいてェェェ〜〜〜!!!!…何だよゾロ!!?何で俺の頭叩くんだ!!?」


唐突に殴られた頭を撫で付け、ルフィが振向いて抗議すれば、ゾロが右拳固め仏頂面して睨んでいました。


「……調子に乗り過ぎだ!」

「そうよそうよ!!あんた、偶には良い事言うじゃない!!言ってやって言ってやって!!!」
「調子に乗り過ぎィィ!!?何がだよ!?ドコがだよ!?俺のドコが調子に乗り過ぎだってんだよォー!?訳解んねー事言ってんじゃねェ〜〜!!!」
「あんたの全てが調子に乗り過ぎだっつってんの!!!少しは自覚しろ!!!馬鹿!!ガキ!!チビ黒頭ァ〜!!!」
「誰がチビだ!?おめェの方がよぉ〜っぽどチビじゃんか!!!チビババァ!!!ケチババァ!!!誘ってやってんだから素直に仲間入れば良いだろ魔女ババァ!!!ベェ〜〜!!!」
「女の子を婆ァ呼ばわりすんなっつったでしょデリカシーレスのクソガキ!!!だァ〜れが仲間になんてなってやるもんか!!!持参金片手に一昨日来いっつうの!!!ベベベェ〜だ!!!」
「低レベルの争いしてんじゃねェって!!!頼むからちゃんと前見て運転してくれよ!!!また落下したらどうすんだお前らァ〜〜!!!」


彼方まで続く青い空。
彼方まで続く蒼い海。

喧々囂々もめにもめつつも、箒に乗って海上を飛ぶ3人の顔は楽し気で。
鴎達が遠巻きに見ながら、周囲を滑空して行きました。

向う先にはそろそろ海面近くまで傾いた太陽が、もう一頑張りとばかりに波を輝かせています。
何物にも遮られる事無く、全てを露にする眩しい光。

海面映った影を道連れに、箒はその光の中へと突き進んで行きました。




魔女の瞳はにゃんこの目

空の彼方を
海の底を
地の果てを

心の奥をも見通す力




【(一先ずの)お終い】


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<管理人のつぶやき>
ルフィとゾロの勇気と腕力、ナミの魔力と知力、そして3人ともが持つ優しさ。
それらが長年彷徨っていたヘンリーとメアリの魂を救いました。
当初の目的であるシャンクスの捜索は、あと一歩というところで阻まれ・・・・いったいシャンクスはどこにいるのか?どうして失踪したのか?まだまだ謎は残ります。

冒険が終わってみると、3人とも言いたい放題、やりたい放題。すっかり気の置けない仲間の出来上がり(ナミは認めていないが・笑)。
時折、憂いを見せていたナミの晴れやかな表情を見れたのには嬉しくなってしまいました!
これで一本映画になりそうな、楽しい楽しい冒険活劇でしたね^^。

【投稿部屋】でも投稿してくださってる、【瀬戸際の暇人】のびょりさんの投稿作品でした。
びょりさん、大長編をありがとうございました!
【(一先ずの)お終い】と書かれているように、このお話の続きは、来年のナミ誕で!(笑) 待ち遠しいですよー!





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