明日のダウト −1−
マサムネ 様
「いいか?嘘をうまくつくコツは、他人の嘘を見抜くことにある。」
そう言うとウソップは、ルフィの顔を見てにやりと笑うと、「ルフィ、今のはダウト」と付け加えた。
トランプの山の一番上をめくって表に向ける。書いてある数字は“7”。ルフィが宣言したのは“3”。よってダウト成立となり、ルフィはしぶしぶトランプの山を回収した。
「なんで分かったんだ!?」
「分かったも何も、顔にそう書いてあったんだよ」
「本当か!?すぐに顔を洗ってこないと」
顔をこすりながらルフィが言う。
「オイ!今みたいな時に“ダウト”って言うんじゃないか」
そう言ってウソップがツッこむが、ルフィはいまいちピンときていない。
「うーん、今度こそは絶対騙してやる」
「ははは、頑張りたまえ」
食堂ではナミをのぞく6人が、トランプの“ダウト”をしながら作戦会議を開いていた。正確に言うなら、『ナミの誕生日・緊急対策会議』だ。
ナミの誕生日は明日に控えている。
本来なら慌ただしい会議になるところだが、この日は違っていた。トランプ遊びをしながら話し合うという余裕だ。
しかしこの“ダウト”には、ウソップ曰く2つの意味が込められていた。
1つは、緊張をほぐしリラックスすること。時期が時期なだけに、もっともなことだ。
もう1つは、人を騙すコツを身に付けること。ターゲットはもちろんナミ。今回の誕生日計画は、いかにナミをうまく騙せるかが成功の鍵となるのだ。
ウソップはゲームの合間に計画の全てを説明すると、全員の顔を見回して言った。
「以上が今回の計画だ。作戦名は、ナミ誘拐ドキドキサプライズ作戦!」
「おおー!」
凄いんだか凄くないんだか、とりあえず歓声があがる。
ウソップの立てた計画とは、その名の通りナミを誘拐するというものだった。その際ナミに欲しい物を聞き出し、その日のうちに叶えてあげて驚かすという大胆な内容だ。
もちろんウソップ達は正体を明かすまで、身代金目的の誘拐犯の振りをしていなければならない。ナミには絶対にバレないよう、準備はすでに整えていた。
そもそもウソップがこんな計画を閃いたのは、ある映画を見たからだ。
その映画では、自分の妻が浮気しているかもしれないと聞いた夫が、誘拐犯を演じて妻を誘拐し、疑惑が本当かどうか直接妻に聞き出すというものだった。
ウソップはその大掛かりなやり方が気に入っていた。やり方こそ無茶苦茶だったが、その根底にはしっかりと、夫から妻への深い愛情があることを感じたのだ。
映画のタイトルはよく覚えていないが、“嘘(ライズ)”というフレーズはあったはずだ。自分の村で起きたクラハドールの事件を思い出しながら、しんみり観たのを覚えている。
その映画に比べれば、ウソップの計画の目的はナミを喜ばせることにあるのだから、なんとも健全なものだ。
ちなみにその映画では、調子に乗った夫が妻にストリップを要求するが、さすにそこまでするつもりはない。相手はナミだ。やったら殺される。
「質問はあるかな?」
自信満々にウソップが言う。ロビンが手を挙げたので指名する。
「バレないようにするんだったら、こんなマスクを被るより、航海士さんを目隠しした方が合理的じゃないかしら」
目と鼻と口の部分だけ穴の開いたマスクを上げて見せる。当日はこれを被るようにと、ウソップから支給されたものだ。他にも、レプリカのピストルや変声器などが配られている。
「バカだなー、ロビンは。」
そう言ってルフィが口を挟んできた。ロビンは不思議そうにルフィを見る。
「そのマスクを被らない誘拐犯なんて、誘拐犯じゃないだろう!」
見るからに、ただマスクを被りたいだけなのが分かった。おかしなことにこだわる船長だわ、とロビンはくすくす笑う。
長鼻君がルフィに賛成してしまう前に、核心を突いた方が良さそうね。
「でも、例えば鼻が長い人がそのマスクを被ったらどうなるかしら。きっとバレると思うの。だから航海士さんを目隠しした方がいいわ!」
隣で様子を見ていたゾロは、ロビンもナミに目隠しさせたいだけだろうな、と鼻で笑う。
とは言えあながち間違ってもなさそうだ。まずもって、そんなマスクは被りたくない。
ウソップも関心しながら言った。
「ロビン、そいつは名案だ。嘘を見抜くポイントの90%は、表情や仕草にある。確かにナミを目隠しすれば、バレない確率が一気にあがるぞ!」
それを聞いて、ロビンはほっと一息ついた。
「他に質問は?」
今度はサンジが手を挙げた。
「ナミさんに目隠しするんなら、ピストルはいらないんじゃねェか?物騒だ。」
支給されたピストルを指でくるくる回しながら言う。
「確かにそうだな。じゃあ、そうだな・・・ピストルはやめて、バナナにしよう」
「バナナ!?」
思わず声が裏返りそうになる。回していたピストルは転げ落ちた。
ウソップは気にもとめず、話を進める。
「そうだ。シチュエーション効果と言ってな、誘拐現場で何かを突きつけられたら、心理的に人はピストルだって思い込むものなんだよ。だからバナナで十分だ。滋養強壮にもいい。そうだろ?チョッパー」
急に振られたチョッパーは一瞬戸惑ったが、医者として頼られたと思い、鼻をならして答えた。
「ああ、バナナはスタミナをつけるんだ。持久戦にはもってこいだね。ビタミンAも多く含んでいるから、美肌効果もあるんだ。」
「チョッパーもそう言ってることだし、ピストルの代わりはバナナで決定だな。ただし、突きつけるといっても、胸は突付くなよ。早死にしたくないならな」
いかなる場合においても、ナミにセクハラしてはならないというのが、クルー達の掟だ。全員が了解の返事をする。
「バナナに怯えるナミさんかぁ・・・かわいいかも」
早くもサンジは妄想モードに入ったらしい。
「他に質問や意見は・・・無さそうだな」
ウソップは全員の顔を見回して確認する。
「じゃあ、明日は計画通り進めてもらう。今夜言ったことは忘れるなよ」
「おー!」
返事だけは良い。
「それにしてもウソップ」
チョッパーが急に顔をしかめて尋ねた。
「なんだ?」
「本当にバレずにできるかな」
「安心しろ。おれはナミの事なら何でも分かる」
それを聞いて、ルフィ達も振り向いた。全員眉をひそめている。気にせずウソップは続ける。
「なぜなら、ナミはおれと付き合ってるからな」
はぁー、と5つのため息が出た後、ウソップを指差し、口を揃えて言った。
「ダウト!!」
*****
「うそ〜!?」
女部屋のベッドで寝そべっているナミが声を上げた。
ウソップがお宝くじで1等を当てたという話を、ロビンに聞かされたのだ。にわかには信じがたい話だった。
「ホントよ、これを見て」
ロビンはナミに新聞とお宝くじを渡す。開かれた新聞を見ると、まず黄色い大きな写真が目に入った。
こっちよ、とロビンが言うので下の方を見ると、お宝くじの当選番号が載っている。
もしその話が本当なら、1等3億ベリーが当たったことになる。お宝くじを持つナミの手に緊張が走った。
「78組・・・3,0,9,1,0,4。すごーい!!ホントに当たってるわこれ!!1等よ!!」
その様子を見て、ロビンもにっこり笑う。
「どお?航海士さん。今の気持ちは」
「信じられない!でも最高の気分よ。あはは!!」
ナミは足をバタバタさせて喜んでいる。ロビンには、その仕草がとても愛らしく感じた。
「78組309104。なやみはきゅーとよ(悩みはキュートよ)、別に悩みってわけじゃないけど、何度見返してもピッタリだわ!」
ナミはうっとりしながら、その新聞を眺めていた。
「あんまり興奮しすぎると身体に毒よ。水を飲んで」
そう言うとロビンは用意していたグラスをナミに渡す。
「あ、ありがと」
言われるがまま、ナミはその水を勢いよく飲みほす。
その後も、しばらく新聞を見入っていた。よっぽど3億ベリーに感激したのだろう。
すると、だんだん目がうつろになってきた。
「はしゃいだら、なんだか眠くなってきたみたい。」
「そうね。今夜はゆっくりおやすみなさい。きっといい夢が見れるわ」
間もなくしてナミは眠りについた。
薬が効いたようね。うふふ。
縄を手に持つロビンの手に力がこもった。
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<管理人のつぶやき>
ナミさん、危険よ逃げてー。
縄を持ったロビンねーさん、似合いすぎです!!(笑)
目隠し、ピストルについて、大マジで議論する仲間達。これもナミのため、ナミの誕生日のため。
さて、このミッション、無事コンプリートできるのでしょうか!?
【向日葵は枯れない】のマサムネさんが投稿してくださいました。
連載です。続きもご期待ください〜。
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