「・・・ルフィ、手持ちいくらだ。」

「えーと・・・2,3・・・150ベリーだな。ゾロは?」

「俺は270だ。つーことは、二人合わせて420ベリーか・・・」



はぁぁ、とため息をついたゾロに、ルフィは笑う。



「まぁ心配すんなって、何とかなるさ!」

「あのな・・・そもそもてめぇが食いすぎるからいけねぇんだろうが!!」

「何言ってんだよ、ゾロが飲みすぎなんだろ。あ、見ろ!あれ美味そうだぞ!!」

「人の話を聞けっ!!!」



よだれを垂らして今にも店に飛び込みそうなルフィを慌てて止めると、ゾロはもう一度大きくため息をついたのだった。




Meridian Navigator −1−

                                糸 様



カレンダーの日付は、7月3日。

小さな島に停泊中のサニー号で、クルー達はいつになくそわそわして夜を待って
いた。


今日は麦わら一味の航海士、ナミの誕生日なのだ。



コックは料理と専用カクテルを。

狙撃手は貝殻を加工した髪飾りを、船医は特別に調合した美容液を。

考古学者は分厚い本を数冊、船大工は部屋の飾り棚を。

新入りの音楽家は、彼女を称える歌を。



誕生日を迎えるこの船の航海士のために、用意していた。



だが、出遅れた者が約二名。

ナミの誕生日が近いことを話していた時、おやつを食べるのに夢中で聞いていなかった船長と。

眠っていてこれまた全く聞いていなかった剣士である。



この島に着いてから初めてそのことを知った二人は慌てた。

何しろ、前の島でルフィは食事代に、ゾロは飲み代にそれぞれお金を使ってしまい、ほぼ無一文の状態だったのだ。



そんなわけで二人は共同戦線を張ることにして、連れ立って島へと下りたのだが。いざ何か買うとなると、懐の寂しさはどうにも痛い。



「・・・おいルフィ、今思ったんだがな。」

「おう、何だ?」

「別に金のかかったもんじゃなくてもいいんじゃねぇか?」



手持ちが420ベリーでは、子供のお小遣いにも満たない。

それよりも、何か別の物を考えた方がいいんじゃないのか、とゾロは思ったのである。ナミは金に煩いが、それ以外のものを見下しているわけでは決してないのだから。

だが、てっきり同意するかと思ったルフィは首を振った。



「今日は誕生日だろ、だから俺、あいつに送りたい物があるんだ。」

「んなこと言ったってお前・・・この金じゃ、買える物なんて限られてんぞ。」

「ん、それは分かってる。だから、探すんだ。」

「何をだよ。」



「ナミの夢を、手伝ってくれる物を。」



ルフィは、測量室が嫌いではなかった。

本なんて全く読まないし、字を見てるだけで腹が減ってきてしまうのだけど、あの部屋の空気は居心地が良い。ナミの航海道具や測量道具が、いかにも船乗りという雰囲気を醸し出しているからだ。幼い頃に見たシャンクスの船の中にも、同じような道具があったから。



何に使うのかはさっぱり分からなかったけれど、その道具たちがナミの夢の手助けをしているのは分かった。

だから、次のナミの誕生日には、自分もあんなものをあげたいと思っていたのだ。



「俺たちの夢にはさ、ゾロ。道具なんていらないだろ。」

「・・・俺には刀がいるぞ。」

「それは違うぞ。ゾロの刀は体の一部だ。俺にとっての麦わらで、ナミにとってはログポースだ。分かるだろ?ナミの道具とは全然違ぇよ。」

「ああ・・・そうだな。」



ゾロにも分かっていた。ナミの夢はペンと紙さえあれば叶うものではなく、そこに至るまで航海を続け、膨大なデータを取らなければならないのだ。ルフィと同様、ゾロにも使い道は全く分からないが、あの道具たちは「世界地図を描く」のに絶対に必要なもの。



自分とルフィは、最強の座を目指す人間。

必要なのは己の肉体と精神力であり、道具というものは必要ない。あえて言うなら鍛錬の道具――バーベルなど――がそれに当たるが、そんなものは他の物でも代用できる。



だが、一人ではその至高の地まで辿り着けないことも重々承知している。

認めたくはないが自分の方向感覚は怪しいらしいし、それはこのカナヅチ船長も似たようなもので。



「俺たちにとってのナミ、だろ?」

「そうだ。やっぱり分かってんじゃんか、ゾロ。」



航海士が夢を叶えるために絶対に必要なのは、あの道具たち。

自分たちが夢を叶えるために絶対に必要なのは、その航海士自身。



「・・・そういうことなら、仕方ねぇな。」

「だろ?な、探そうぜ!」



苦笑して歩き出したゾロに追いつき、ルフィはしししと笑った。




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