このお話はアニメワンピースの流れを汲んでます。
アニメ版では、ブルーステーションの駅員二人が、ナミとパウリーの関係を激しく誤解してくれました。
平たく言うと、パウリーはナミを好きなのだと(笑)(アニメ第253話)。
果ては、プールサイドの宴会を二人の結婚披露宴だと考えたほどに(アニメ第316話)。

結局、彼らの誤解はどうなったのか、アニメではやってくれませんでした。

ならば、自分なりにオチをつけてみようと思い、書いてみたのがこの作品です(汗)。

ではどうぞ!






     
 



オレンジの髪の娘の必死の叫びも虚しく、ブルーステーションから海列車が発車した。

打ちひしがれ、泣き崩れる少女。
そんな彼女をただじっと見守る男。

ああきっと、男は彼女を愛しているに違いない。

その男が、あのガレーラカンパニーのパウリーさんとあっては。
この光景の目撃者たる我々が、一肌ぬぐべきじゃないだろうか?





さよならウォーターセブン 前編

                                  四条



「え?」
「ですから、パウリーさんがあなたに話があるそうなんです。」

駅員は、顔の汗を白いハンカチでしきりに拭きながらナミに告げた。
新しい船の完成を待ちながら出航の準備に追われるナミに、ブルーステーションの2人の駅員が会いに来たのだ。
この日は朝から天気がよくて陽気に包まれていた。外でちょっと立ち話をしているだけでも汗ばむほどに。
この2人の駅員とは、ロビンが海列車で去った時に駅で会ったので面識がある。更には、彼らにルフィ達に食わせるための肉と酒の調達に行かせたりもした。

「今日の午後3時、港前の公園に一人で来てほしいって、そう伝えるよう頼まれました。」
「なんでわざわざそんなところで?ここで話せばいいのに。」

ナミは素朴な疑問を口にした。
パウリーはガレーラの職長、ナミ達も今はガレーラで寄宿させてもらっている。
話ならば、ガレーラ内で済むことだ。
すると「実はね」ともったいぶって、駅員がナミに近づいて耳打ちする。

「これはナイショの話だけど、実はパウリーさん、あんたのことが好きなのさ。」
「はぁ!?」

一体何を言い出すのかと、ナミは耳を離すと、マジマジと駅員達を見返した。

「よく考えてごらんよ、パウリーさん、あんたのために色々と尽力してくれたでしょ?」
「普通はしないよ、あそこまでは。」
「でもそれは、アイスバーグさんのことがあって、」
「それはそうだけどね、それだけじゃぁないんだなぁ・・・・。」

駅員は思わせぶりに言葉を途切れさす。
そして、もう一人が神妙な顔つきでナミを見た。

「たぶん、最後の思い出に、あんたと二人きりで話がしたいんだよ。」
「そんなこと言われても・・・・。」
「私達もあんたも、あの時、駅で、パウリーさんに助けてもらったよね。」
「波に攫われそうになったのを、パウリーさんがあんたと私達を抱えて走ってくれて・・・・。」
「・・・・・。」

そのことはよく覚えている。
ブルーステーションで、非情にもロビンを乗せた海列車は発車してしまい、その後を追うの追わないのでパウリーと言い争いになった時、突然大波が襲ってきて、寸でのところを助けられたのだ。
もし彼に助けてもらわなかったら、あの時どうなっていたか分からない。
おそらく波にさらわれて、濁流に呑み込まれ、海の彼方まで押し流されていただろう。
彼に助けられなかったら、今頃生きてはいなかったに違いない。

あの時の恩返しだと思って会ってあげなよと、駅員は二人がかりで言い募った。
彼らが立ち去った後も、ナミは軽い混乱状態にあった。


―――実はパウリーさん、あんたのことが好きなのさ


駅員が言った言葉が頭の中でリフレインする。

(あのおにーさんが私を?とてもそんな風には見えなかったけど・・・・。)

あの男のナミへの態度ときたら、いつも怒鳴ってばかり。しかも二言目には「ハレンチ女」呼ばわりで、足を出し過ぎだと喚き立てられ、ちょっと目の前で着替えをしただけで怒鳴られ、いつも煙たがられた。
でも、ロビンが乗る海列車を止めに行く時は力を貸してくれたし、アクア・ラグナからはナミやルフィ達をロープで繋ぎ止めて助けてくれた。ブルーステーションでのこも含めて、ナミにとって彼は恩人に当たる。
しかし、そこまでしてくれたからといって、あの男が自分をそんな風に想っているなどとは、想像だにできなかった。エニエス・ロビーに行ってからは行動も別々だったし、それ以降から今までもそんなに接点はなかった。会話らしい会話といえば、何度かした口論で、お互い唾を飛ばし合うような勢いで、およそロマンチックな雰囲気からかけ離れていた。
いったいどこをどう気に入られたのか。

「はー、モテる女は辛いわねぇ。」

などと口にはしながらも、そのセリフほどにはナミの表情は冴えてはいなかった。




「あら、着替えたの?」
「あーうん、汗かいちゃって。」

ナミは歯切れ悪く答え、ソファに腰掛けてくつろぐロビンともロクに目を合わせることができず、部屋を横切った。
なんだか仲間達に隠し事をしてるような、後ろめたい気持ち。落ち着かない。
別にガレーラの職長と会って話をするだけなのだから、そんなに意識することないのに。
とはいうものの、ナミはそれまで着ていた超ミニのワンピから、Tシャツとジーンズに着替えた。胸にガレーラのマークが入っている点は同じだが。

(あのおにーさん、足が剥き出しだと怒るから・・・)

というのが着替えたホントの理由。
なんとも思ってない男と会うために、何を気を遣ってるんだと我ながら自分の行動は奇妙だと思うものの、駅員の「最後の思い出に」という言葉が、ナミの胸に物悲しく響いていた。
最後ぐらいは「ハレンチ女」呼ばわりされたくない。
意を決したように顔を上げ、部屋を出て行く。
ロビンはそんなナミを不思議そうに眺めていた。




***




「なんだと?」

パウリーがあからさまに顔をしかめ、怪訝そうに聞き返す。

「ですから、あの海賊のお嬢さんが、あなたに話があるそうなんです。」

顔の汗を白いハンカチでしきりに拭きながら、駅員二人がパウリーに言った。
パウリーは所用で麦わら一味の新しい船の建造作業から一時抜け出し、ガレーラに戻る途中で駅員達と会ったのだ。
最初、駅員達はブルーステーションで大波から彼らを救ったことへのお礼を言いに来たのだと言った。
それに対して、礼などいらない、当たり前のことをしただけだと応えた。その後ついでに駅の復興状況について聞いてみた。駅を襲った大波は大型の駅案内板を見事に破壊していった。アレのすげ替えには出費も嵩むだろう。もしガレーラに頼むのなら、工賃はタダでやってやってもいいと思っていたからだ。

一通り話が済んで、急に声を潜めて駅員が言うことには、海賊娘が自分に話があるので、港前の公園まで来てほしいとのこと。

「なんだ?新しい船のことか?それなら俺よりもフランキーに聞いた方が、」
「いやいやいやいや、そういうの抜きで!」

駅員は慌てたように手を顔の前で左右に振る。
パウリーはますます怪訝そうな顔をする。
船以外のことで、一体なんの話があるというのか。

「分かるでしょー、もうすぐ出航なんですよ、ウォーターセブンから旅立つんですよ。もうサヨナラなんです。そういう時、女の子がどうしたいものなのか!」

いや、さっぱり分からん。

「最後にパウリーさんと二人きりで過ごしたいと、そういうワケですよ!」
「はぁ?」

そう言われても首をひねるばかりだ。

「・・・・・・なんでだ?」
「皆まで言わせる気ですかぁぁぁ!」
「それぐらい察してくださいよ!!」

逆ギレされて、それ以上問いただすこともできなかった。
港前公園ですよー、もう行った方がいいですよーと言い残して、駅員達はそそくさと去っていった。
後に残されたパウリーは、まったく話についていけず、呆気に取られてその場に立ち尽くす。
そこへルルが通りすがった。彼もまたパウリー同様にガレーラへ戻る途中であった。
路上の真ん中で佇む同僚を不審に思い、問いかける。

「どうした?パウリー。」

そう問いかけても、パウリーはルルには目もくれず、ただ途方にくれている様子だった。
ルルの質問にも頭で考えたのではなく、ほとんど反射的に答えているような状態に見えた。

「女が旅立つ前に・・・・・」
「うむ?」

パウリーの歯切れはひどく悪い。ルルは根気良く耳を傾ける。

「男に会いたいっていうのは・・・・どういうことだ?」
「・・・・。」

ようやくパウリーはルルと視線を合わせる。
しかし、今度は虚を衝かれたのはルルの方だった。
何を言っているのだ?この男は。
しかし目の前の男は、至極まじめな顔つきをしている。
ふざけているワケではなさそうだ。

「それはアレではないか。その女は、男のことが好きで、最後に別れの挨拶をするとか、或いは、」

―――こ、告白をするとか。

我知れずルルの顔が赤くなる。似合わないことを言うもんじゃない。
ルルの言葉がパウリーの耳から脳に伝わり、意味を理解するまでしばらくかかった。
やがてその顔に動揺の色が浮かぶ。

「なんだ、そういう風に、女に呼び出されでもしたのか。」
「港前公園に、午後3時・・・・。」

既にルルの問いかけも全く耳に届いていない様子で、独り言を呟いて、パウリーはフラフラと歩いていった。
その行く手は、確かに港前公園の方向だった。




(あのハレンチ女が俺のことを?・・・・ありえねぇだろ。)

パウリーは心の中で呟く。
あの女、いくつだ?17か?18ぐらい?まだまだガキじゃねぇか。
ニコ・ロビンを除けば、麦わらも含めてガキばかりの海賊団。
仲間達全員が冒険好きで、まだまだ色恋なんてお呼びじゃないという風情だった。
とにかく無茶で、向こう見ずで、怖いもの知らずだ。
エニエス・ロビーへと連れ去られたロビンを追うと、真っ先に決断したのは他でもないあの女だった。もちろん、船長以下も同意見。
まったく無鉄砲というか傍若無人というか、子供じみた判断で、どうしようもなかった。

とはいうものの、女のことはよく分からない。
子供のように見えても女は女。頭の中で何を考えているのかさっぱりだ。およそ自分の理解の範疇外にある。
おまけにあの女ときたら、男の神聖な職場にあんな足を剥き出しにしたハレンチな格好でウロつきやがって。しかも、海列車の中では、男達の目の前で着替え始める始末。羞恥心というものがないのか。一体どういう頭の構造になってるんだ。

しかし、あの女を含めて、麦わら一味にはとても世話になった。
自分とアイスバーグさんを火事の中から救い出してくれた。
アイスバーグさんを暗殺しようとした犯人を、ルッチ達を、ぶっ飛ばしてくれた。
そういう借りがある。
それに、アクア・ラグナが迫る中、男でもビビるような裏町に決然と乗り込んで行き、麦わらの男の救出しようとしたことは驚嘆に値する。
ならばその多少の敬意を表して、最後に話を聞くぐらいの時間を小娘のために割いてやってもいいのではないか。

そうだ、話をする。
ただ、それだけだ。





後編へ→



 
     



戻る