背中に視線を感じる。離れているのに、それは突き刺さる槍。他の男と話せば、尚一層鋭く深く。振り返ろうとすれば、一瞬にして反らされる。

気が付くと視界にいる。遠いはずなのに、それはまるで磁石。他の男と話せば、知らずとも強くなる。振り返ると思えば、なぜか怖くて目を反らす。





They are PIRATES  −1−

                               
味海苔 様


ナミはペンを置き、カップ片手に溜息をついた。ここ最近、全く集中できない。以前ならもう書き終えるはずの航海日誌には、まだたった2行の文。ナミはまた溜息をつき、額を押さえる。
「ナミさん、紅茶冷めちゃったでしょう。入れ直しますよ」
「んー、ありがと」
しばらくして、湯気の立つカップを持ったサンジが来る。
「貴女のための、特別のオレンジティーです。さぁどうぞ」
「ありがとう。いい香りね」
「特別、ですから。僕の愛をたぁっぷりと…」
「はいはい、わかったから。」
ナミは紅茶を一口飲み、ふぅと息をついてまたペンを手にとった。遠くに波の音が聴こえる。
「…あの、何かお悩みでしたら、僕で良ければお聞きしますよ」
いつもより低い声に驚き、日誌を閉じて顔を上げる。いつになく真剣な目をしたサンジが、ナミをじっと見つめていた。
「何で、わかったの…?」
「愛する女性のことですからね。……マリモでしょう」
大きな瞳を更に広げるナミに苦笑し、続ける。
「何となく感じますよ。それに、マリモのナミさんへの視線を見れば、嫌でも気付きます」
例えどんなに悲しくてもね、と彼は暗く笑う。
「このままはお互い辛いでしょう。もしナミさんがマリモを好きなら、僕としては悔しいですが、今度問うてみればどうですか」
「…そうね。頑張ってみる。辛いのに有難う」
「いえ、ナミさんのためならば。マリモに付き合いきれなくなったら、僕のところに来て下さい。海より深い愛でもって、貴女をいつまでもお待ちしております」
「ええ、考えておくわ…考えるだけね」
波の音は静まっていた。ナミは日誌の記入を再開する。

夜食をテーブルに置くと、丁度いいタイミングで見張が来た。
「お、サンキュ」
それだけ言うと、ゾロは包みを開けて唐揚げを頬張る。
「おい、お前ナミさんのこと好きか」
途端にんぐ、と変な音を出して、水を流し込む。涙目で咳をしながら、
「何でそれを俺に聞くんだ、窒息死するところだったろうが」
「窒息死だろうが何だろうが知ったこっちゃねぇ。好きなのか」
ゾロは盛大に溜息をつき、先程までナミのいた所へ座った。しばらく黙って考える。
「…わかんねぇ。」
後に語るところによると、ゾロはその時“プツン”という音を聞いたらしい。
「いいか?お前のナミさんに対する視線は傍から見れば恋してるようにしか見えないし、それをナミさんも嫌とは言ってないし、ナミさんの手前に対する態度も似たようなもんだ。そんな二人を見て泣く泣く身を引いた俺が、わざわざ微妙な距離の二人を近づけようとしてやってんだぞ。それを、何が“わかんねぇ”だぁ?(中略)手前の脳は全部マリモか?ったく、これだから人間並の考えも回らねぇんだよ、この迷子野郎が」
口調は恐ろしく冷静だったが、そのオーラは暗黒を越えて赤黒かった。流石のゾロもビビり、とうとう(?)折れる。
「わーった。俺はナミを好きだというのは仮定として考えてみる。もしそうなら、ナミに言うさ」
「…よろしい。せいぜい頑張りたまえ、ロロノアくん。」
ゾロは見張り台の忘れ物を思い出し、外に出る。室内では、さほど強くはない風が妙にうねっていた。
「…竜巻か?」
全くの間違いである。



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