「いやあ、しかし・・・・・・2年ってのはえらいもんだな、ウソップ。」
咥えタバコの火先を器用に上に向けて、この船のコックが得意げにおれを見下ろした。
「お前、この2年で成熟したあのナミさんの体、どう思う?」
− 甘いのがお好き? −
panchan 様
海底一万メートルにある楽園、魚人島。
その海底の楽園を通り抜けた先、そこはグランドライン後半の「新世界」と呼ばれる、猛者達の海だ。
その何が待ち構えるか分からない「新世界」へと、一万メートルの海底から上昇中の我らがサウザンド・サニー号。
今までも大概想像もつかないような経験をしてきた。
そしてこれからはもう、そうそうのことでは驚かない自信がある。
いくら新世界が未知の海でも、この2年ですっかり逞しい海の戦士へと成長した今のおれ様には、どんな困難もお茶の子さいさいってとこだ。
それになにも成長して逞しくなったのはおれだけじゃない。
仲間それぞれが、この2年で眩しいほどの成長を遂げてきたのを、先の魚人島でしっかり目にしてきた。
まあおれ様ほどじゃないが、頼れるこいつらと一緒ならどこへ行こうと心強いってもんだ。
つい先程のことだが。
いよいよ「新世界」へ景気付けと盛り上がっていた矢先、おれ達は白い竜のような巨大渦巻に船ごと飲み込まれてしまった。
だがまあ、運がいいっつーか、これもおれ達の実力のうちっつーか。
その巨大渦巻が偶然ぶつかったのは、巨大なアイランドクジラの群れで。
そいつらが渦巻から弾き出してくれたおかげで、渦に巻かれた時点で運命付けられた“後日信じられない程遠い海で船だけ発見される”悲劇から、おれ達は見事抜け出すことができた。
まるで島そのもののような大きさのそいつらは昔グランドライン入り口で出会った懐かしいクジラとそっくりで、あの時のクジラがおれ達の目の前に再び現れたのかと一瞬本気で錯覚しかけた。
あの懐かしいクジラ、ラブーンを仲間と呼び、そのクジラとの再会を夢見るこの船の音楽家のはしゃぎようと言ったらなかった。
大声でラブーン!と何度も名前を呼びかけ、涙まで流していた。
まあたった一人孤独に50年生き延びてまで再会したい相手なんだ。その気持ちはきっとおれ達の想像も及ばないんだろう。
移動する巨大なクジラの群れはそれ自体が“海流”を作っていた。
その流れに逆らうことは危険との我らが航海士の判断に従って、おれ達はそのままクジラの群れと海を進んだ。
音楽家がラブーンとの思い出の曲をバイオリンで演奏し歌い始めると、気のせいかもしれないが、アイランドクジラ達はそれを聞いて喜んでいるような気がした。
だがそれは気のせいなんかじゃなかったのだろう。
そのうち1頭の一際大きなクジラがサニー号を下からすくい上げるようにして、自分の額の上に乗せてくれたのだ。
その大きなクジラの額に乗って運ばれながら、おれ達は今、新世界の深海を楽しく快適に航行している。
「海上へ着くまでまだ少しかかりそうだな。レディ達にお茶でも振る舞うか。」
まだ暗い海を見上げてサンジが芝生甲板からキッチンへと足を向けた。
「おれ達の分はねェのかよ?」
「飲みたかったら付いてきて運ぶの手伝え。」
そう言われて、仕方なくサンジに連れ立ってキッチンへと向かう。
サンジがカチャカチャと手際よくコーヒーと紅茶を用意するのを、カウンターに座り手持無沙汰に眺めた。
湯を沸かしている間に手早く茶葉をポットに用意して、次にコーヒー豆をミルでガリガリ挽き始める。
キッチンからダイニングにまでコーヒーの香ばしい濃厚な香りが広がり、リラックス気分がより一層高まる。
挽き終わったコーヒーをフィルターにセットすると、次にサンジはカップをカウンターに並べだした。
なんだかんだ言いながら、並べたカップは全部で9個。
湯が沸騰すると、まず先にコーヒーをドリップしていく。
片手でヤカンから細く湯を注ぎ入れていき、落とし終わると一人分だけがカップに注がれて、それがさりげなくおれの前に置かれる。
「ほらよ。・・・・・・お前はコーヒーでよかったよな?」
「おお、悪ィな〜、サンジ。いっただっきま〜す。」
続けてすぐに砂糖の入った容器と温められたミルクが出てきた。
そう、おれはコーヒーにミルクも砂糖も入れる派なのだ。
こいつは2年経っても相変わらず仲間の好みをしっかり覚えてやがんだなあ、と感心しながらミルクと砂糖を入れたコーヒーを口に含んだ。
「うめェ〜〜〜!」
「フッ。当然だ。」
余裕の笑みを浮かべ、サンジは新しい煙草を咥えて火を点ける。
「こうやってサニーのダイニングでサンジのコーヒー飲むと、何だか懐かしい気分になるな。」
「おう、そうだな。再会してからはまだサニーのキッチンを使う余裕も無かったからな。」
「それは余裕が無かったと言うより、再会してからしばらくの間お前が鼻血吹きまくって死にかけてたせいだろ。」
「ああ、そういやそうだったな。我ながらそんな事もう忘れてたぜ・・・・・・。」
「よく忘れられるな、こっちは心配して大変だったってのに・・・・・・そういやお前、何であんなに女に弱くなってたんだよ?」
「それは・・・・・・いや、そのことは思い出させるな、ウソップ。」
サンジの顔が急に見る見る青ざめていく。
「なあ、この2年一体何があったんだ、お前?」
「あ?・・・・・・いや、だからおれの事はいいんだ。話したくもねェし思い出したくもねェ・・・・・・」
真っ青になったサンジに余程のことがあったんだろうと推測するが、一体人間どんな目に遭ったらああなるのか、正直おれには全く想像もつかなかった。
「まあでも今はよ、もうナミやロビンを見ても鼻血吹かなくなったんだから、よかったな?」
励まそうとして何気なくそう言うと。
青い顔でうつむいていたサンジが急にぱっと顔を上げ、みるみるその顔に生気が戻り、目が輝き始めた。
「確かにお前の言うとおりだ。あのナミさんの素晴らしい体を見ても鼻血吹かなくて済むようになったんだからな。おれも強くなったもんだ。」
「あのーサンジ君、それが普通なんですけど。」
「いやあ、しかし・・・・・・2年ってのはえらいもんだな、ウソップ。」
サンジは口角を上げ器用に煙草の火先を上に向けて、カウンターに座るおれを得意げに見下ろした。
「お前、この2年で成熟したあのナミさんの体、どう思う?」
「はあ?ナミの体?」
「ああ、そうさ。すごく色気のある大人の女性の体に成長したと思わないか?」
一体何を言うかと思えば・・・・・・。
「まあ・・・・・・そういやずいぶんと実ったよな。」
男なら誰でも、あの惜しげなく晒された大きな胸やメリハリのある腰つきには自然と目が行くだろう。
おれもナミが視界に入ると、無意識にチラチラと目線が胸元や尻に行ってしまうのは否定できない。
「以前のナミさんもみずみずしい若さに溢れていて素晴らしかったがな・・・・・・」
サンジが煙草の灰を灰皿に落とし、おれの目を見た。
「今のナミさんは・・・・・・みずみずしさを残したまま熟れ始めた、言うなればそう、最高に旬の果実だ。」
真剣な目で言うサンジに呆れた視線を返しながらも、さすが料理人、結構うまいこと言い得てるなとなかなかに感心した。
「う〜ん、まあ確かに前よりも雰囲気は色っぽくなったよな。髪も伸びたし。」
「ロングヘアーのナミさんも素敵だよなァ〜」
「あいつ上はほとんど裸同然だからよ。そりゃ男なら当然あの胸に目が行っちまうだろ。」
「全くもってお前の言うとおりだ。男ならあの魅力的な胸に目を奪われるのは無理もない。」
「胸だけじゃなくて腰や尻の辺りも見ちまうよな〜。あのジーンズ、股上が浅いから時々尻の割れ目まで見えてんだよ。あいつ、あんなんでちゃんとパンツはいてんのかな?」
「くはァ〜〜!ノーパンかもしれねェと思うと、それはそれで堪らねえな!なぁんて刺激的なんだ、ナミすわぁん!」
ナミをネタに、野郎二人の下世話な会話が盛り上がってくる。
「おれはな、ウソップ・・・・・・あのナミさんの一糸まとわぬ女神のような裸を見たんだぜ。」
ニヤっと口の端で笑ったサンジはまるで勝ち誇ったような顔でおれを見た。
「はあ?お前、まさか・・・・・・」
「ああ、ナミさんの入浴シーン、ばっちり見た。」
サンジが満足げにおれに向かって親指を立てる。
「つまり、さっきナミが風呂入ってるとこのぞいて、それが見つかって雷落とされたってことだったんだな、あの焦げた頭は。」
「ま、そういうことだ。羨ましいだろ?」
雷食らっときながら全く懲りてねェ。やっぱりアホだな、こいつは。
そしてその辺り、2年経っても何の成長も無かったらしい。
「白くて張りのある大きなバストと、なだらかな腰の曲線が何とも言えず色っぽくて、そして桃のような丸いお尻がプルンとしていて・・・・・・。
ああ、ほんと甘くてウマそうな体だったなぁ〜〜!食べてみてぇ〜〜!ああ〜〜!んナミすゎん最高〜〜!」
目をハートにさせてクネクネと踊るサンジを見ていると、おれはシャボンディでナミと再会したあのバーでのことを思い出した。
「フッフッフッフ・・・・・・まだまだ甘いな、サンジ!その程度でおれが羨ましがると思うなよ!」
「何ぃ?!」
「確かに甘〜い匂いがしてたな、ナミの体は。そして・・・・・・あの胸は最高に柔らかいんだぜ!」
ナミの裸を見たぐらいでおれ様に勝ち誇った気になるなど、笑止千万だ、サンジ。
「なっ!・・・・・・ウソップ!なんでそんなこと知ってやがんだ、テメェ?!」
「フッフッフッフ。おれはなあ・・・・・・あの豊満な乳の谷間に、顔を埋めたことがあるんだよ!」
「なっ!なっ!・・・・・・なんだとーーーーっ!」
目を見開いた驚愕の表情で予想より五割増しショックを受けているサンジに、おれはちょっと得意な気分になった。
「・・・・・・くぅっ!そ、そんな・・・・・・なんでテメェが!」
「シャボンディでたまたま皆より先にナミに再会してな、喜んだあいつがおれの頭をぎゅっと胸んとこに抱きしめたのさ!どうだ!羨ましいだろ!」
「くっ・・・・・・!くそっ、ウソップのくせに!・・・・・・うっ、羨ましすぎる!!」
「フッフッフ・・・・・・って、おい!ウソップのくせにとは何だよ!」
そんなおれのツッコミも耳に届かないのか、サンジはキッチンのシンク越しに顔をカウンターに突っ伏して、握りしめた拳で悔しそうにカウンターをバンバンと叩きだした。
結構強く叩くもんだからコーヒーが大きく波立ってソーサーにこぼれ、おれは慌ててコーヒーをソーサーごと持ち上げて避難させた。
「落ち着け落ち着け。」
言ってズズっとコーヒーを啜る。
「ほれほれ、ナミのために紅茶も入れなきゃなんねェんだろサンジ?湯が冷めるぞ。」
そう声を掛けるとようやくサンジは我に返って渋々顔を上げ、黙って紅茶の茶葉をセットしたポットにヤカンから湯を入れる。
それから気持ちを切り替えるように、また新しい煙草を咥えて火を点けた。
「畜生・・・なんでそんなおいしい思いしてやがんだよお前は!・・・・・・おい・・・・・・ちょっとおれに話しやがれ。一体、どんな感じだったんだ?その・・・・・・ナミさんのおっぱいに挟まれた感覚ってのは?」
言ってることはアホさ極まりないのだが、ぐるぐると巻いたその妙な眉毛を持ち上げて、あくまで真剣な眼差しでサンジがおれに聞いてきた。
「そりゃあ、お前・・・・・・息苦しかったけど最高だったぜ。
マシュマロみたいに柔らかいし、温かいし、いい匂いするし。」
「やっぱりそうだろうな・・・・・・」
サンジはまるでその状況を頭の中で思い描いているかのように遠い目をしながら、煙草を指で挟むと口から白く細長い煙を吐いた。
「・・・・・・立ったか?」
「・・・・・・は?」
「立ったか、って聞いてんだ。」
「・・・・・・」
立ったかって・・・・・・あの時は突然のことだったし、そんなこと考える余裕のある状況でも無かったし。
でも確かに、後で思い出したりした時には。
「・・・・・・立ったな。」
「やっぱりそうだろうな・・・・・・」
またしてもサンジが遠い目をしながらつぶやいた時、ダイニングのドアが開いてそちらに注意を奪われた。
「お・・・・・・コーヒーか。おれにもくれ。」
「チッ、なんだマリモか。」
入ってきたゾロに舌打ちしながらも、サンジが新たなカップにコーヒーを注ぐ。
「おれはテメェらみたいな野郎共じゃなくて、レディにお茶を振る舞いたいんだが・・・・・・」
と言いつつサンジがゾロの分のコーヒーをカウンターに置くと、ゾロが隣に来て立ったままそのカップを手に取り、ブラックのコーヒーを口に運んだ。
「やっぱサンジの淹れるコーヒーはうまいよな、ゾロ。」
「・・・・・・なんか・・・・・・薄く感じるな。」
「おいテメェ!飲ませてもらっといて文句言ってんじゃねェ!喧嘩でも売ってんのかコラァ?!」
「いや別に文句じゃねェ。ちょっと前までコーヒーといやあエス何とかって言うやたらと濃いやつが出てきてたもんだから、そう思っただけだ。」
「エス何とかって、エスプレッソか?またそんな洒落たもん出てくる環境って、無骨なテメェからは想像もつかねェな。」
「ほっとけ。」
「あっ!・・・・・・テメェ、まさかあのキューティーちゃんか?あのスリラーバークにいたキューティーちゃんがテメェなんぞのためにエスプレッソを淹れてくれてたのか?!」
「・・・・・・まあ、あいつが淹れることが多かったかな。あいつはココアばっかり飲んでたけどな。」
「くううっ・・・!おれが2年間地獄で苦しんでる間、テメェはあのキューティーちゃんといちゃいちゃモーニングエスプレッソなんかを飲んでやがったってのかっ・・・・・・!」
「おい勝手な想像すんな!そんなこと言ってねェだろ!」
血が出る勢いで歯ぎしりしているサンジを横目で見ながら、呆れた顔で再びコーヒーを飲もうとしているゾロに疑問に思い聞いてみた。
「おい、スリラーバークのキューティーちゃんって、誰の話だ?」
ゾロがカップに口を付けたままチラと目線だけこちらへ向ける。
「あのゴーストを操ってたホロホロ女だ。あの時お前が戦っただろ。」
「ああ、あのネガティブの!・・・・・・えっお前、あの女とずっと一緒だったのか?!」
「なんだか知らねェが、飛ばされた先にあの女がいたんだよ。」
「へえ・・・・・・んで、モーニングエスプレッソを一緒に飲む関係に?」
「いや、その誤解を生む言い方やめろ!そんなんじゃねェっつってんだろ。大体、おれは別にあの女と二人でいた訳じゃねェ。他にも一緒にいたやつがいるんだよ!」
「ふーん、なんだ、そうなのか。・・・・・・でもなんか面白いこと聞いちまったな〜。」
ゾロとあのゴーストネガティブ女の組み合わせというのは全く予想外で、想像するとなんだか笑える。
「面白くねェよ!」
サンジがおれに向かって声を荒げた。
「おれがあんな目に遭ってたってのに、こいつは可愛いレディと一緒に生活してやがったんだぞ!くそ〜〜、面白くねェに決まってんだろ!」
だからお前は一体どんな目に遭ってたんだよ!とツッコみたくなるが、話したくないというくだりの繰り返しになるのがわかってるので、ただただ憐みの目でサンジを見やる。
「ああ〜もしかして、ナミさんもこいつみたいに飛ばされた先で男と一緒に生活してたりしてたのかなぁ?まさか、その男のおかげであんな大人な肉体へと成長したとか、そういうことなのかなあ・・・・・・」
「一体何をブツブツ言ってやがんだ、テメェは?」
「アァ?テメェみたいなもんに話しても何にも盛り上がらねェだろうけどよ・・・・・・あの素晴らしいナミさんの体の話をしてたんだ。」
「ナミの体がどーした?」
「どーしたもこーしたも、男ならあの成長したナミさんの体は魅力的で堪らねェだろ。」
「そうか?」
あくまで何とも思ってなさそうなゾロの返答に、それはそれで男として甚だ違和感を感じる。
「まったくテメェってやつは・・・・・・2年たっても、テメェは相変わらず刀振り回すことと寝ること以外に興味の対象ってもんはねェのか?」
呆れるサンジに、ゾロがちょっと考えてからこう言った。
「酒。」
「アホだ!お前は!」
「何だとっ!テメェだって頭ん中ほとんど女の事しか考えてねェだろうが!このアホエロコック!」
「人間に興味があるだけテメェよりマシだ!この脳ミソ筋肉バカが!」
「おおい!落ち着け!落ち着け!」
互いに掴みかかろうとするアホな猛獣どもを何とか間で抑えて、まあまあと宥める。
「なあゾロ、お前は2年経って久しぶりにナミを見て、何とも思わないのか?」
「何ともって、何を?」
「あいつ、2年で結構髪も伸びて体つきも何つーかより女になって、なんか色っぽくなったと思わねェか?」
ゾロが眉間の皺を深くして考えるように腕組みをする。
そこそんなに考えるとこか?というツッコミは、もう面倒くさいのでこの際無しとする。
「まあ・・・・・・髪は伸びたし、確かに胸は前よりもさらにデカくなったな。」
「何だよマリモ、テメェもちゃっかり見てんじゃねェか、このムッツリが!」
「誰がムッツリだ、コラ!別に見たまんまの話だろ!テメェと違って常にそういうエロい目では見てねェんだよ!一緒にすんな!」
「おいおい、だからお前ら二人とも落ち着けって!」
毎回宥めに入るこの展開にやれやれと思いながら、おれ達はこの2年ナミはどうしていたんだろうかという話を始めた。
空島にいたらしいってことは話したが、おれが知っているのもそこまで。
そこからは、身近に男はいたのだろうかとか、ナミなら周りの男が放っておかないだろうとか。
さらに進んで、ナミには男性経験があると思うか無いと思うかというような下世話な話にもなっていった。
ゾロはあまり興味無さそうながらも、一応そこにいておれ達の輪には入っていた。
そしてサンジがナミの裸を見たという話から、おれが再会した時にナミに抱きつかれて胸に顔を押し込められたという話までを、もう一度ゾロの前で披露した。
ちょっとは羨ましがるかと思ってゾロの顔を見たが、やっぱり呆れたような冷めた表情を浮かべているだけだった。
「ああ、ナミさんの体はほんとに甘くてウマそうだったなあ〜〜。味わってみたら、甘くてウマいんだろうなあ〜〜。」
サンジがデレッと鼻の下を伸ばしカップに紅茶を注いでいると、それまで聞く一方だった男が一言言い放った。
「・・・・・・下らねェ。」
まったくこの男は。
「はぁ?テメェ、ナミさんが下らねェつったのかっ?!」
「そうは言ってねェよ!」
やれやれ。ゾロが口を開いたと思ったら、またすぐに揉め始めやがる。
しかしサンジの肩を持つわけじゃないが、さすがにおれもこのゾロの冷めた態度には首を捻りたくなる。
「またまたぁ。なあゾロ、お前はホントこういうのに全く興味が無ェのか?男ならこういう話に興味あって普通じゃねェか?」
すると、溜息をついてからゾロがこう言った。
「だから・・・・・・おれはこんなとこで野郎ばかりであーだこーだと勝手に想像してるのが下らねェっつってんだ。
そんなもんここで話してるより、ナミに直接確かめる方が早ェだろ。そう思わねェのか?お前らは。」
「「・・・・・・」」
今度はおれ達が呆れてこいつを見る番だった。
「お前な、そんなことできねェから、ここで野郎だけでうだうだ話してんじゃねェか。」
「そうだぞ。それにこうやって男だけで好き勝手に無責任なことを色々話す、それがまた楽しいんだろうが。」
「そういうもんか?」
「そういうもんだよ。」
「へえ・・・・・・」
「ったく、一人余裕そうにすかしてんじゃねェぞ。テメェこそ、ナミさんに直接確かめられるもんならやってみろってんだ。」
煽るように言ったサンジのセリフに、ゾロはあっさりと答えた。
「・・・・・・味ならもう確かめたぞ。」
「「・・・・・・・・・・・・は??」」
・・・・・・今、なんつった?
ポカンと口を開けたまま、おれはただ目を丸くしてゾロの顔を見つめ、同じくポカンと開けたままのサンジの口からはポロっと煙草がシンクに落ちた。
おれとサンジが完全にフリーズしてる間に、ゾロはカップの底に残ったコーヒーを何食わぬ顔で飲みほしていく。
「まあ、2年の間に男がいたかどうかはまでは知らねェけどよ・・・・・・」
ゾロがおれ達を見てニヤっと口角を上げる。
「あいつの味は確かに甘いな。」
「「・・・・・・!!」」
「コーヒーごっそうさん。」
そう言って踵を返しドアへと向かうゾロを、呆気にとられたおれ達は何も言えずただ茫然と見送る。
おれの目には、その背中に「圧勝」の文字が浮き上がって見えた気がした。
カッコつけたまま勝ち逃げかよ、こいつ。
ゾロがドアに手を掛けようとしたところで、ようやくフリーズが解けて呼び止める。
「ゾロッ!」
このまま勝ち逃げ許すまじ。
足を止め振り向いたゾロに聞いてやった。
「・・・・・・どこまでだ?」
「・・・・・・は?」
何の事か分からないといったゾロに、もう一度。
「ナミとはどこまでいったんだ、って聞いてんだ。」
「・・・・・・」
黙り込んだゾロの表情が、しまったと言わんばかりの何とも微妙な色合いに変化していく。
「キスか?」
「・・・・・・」
「まさか最後までか?」
「・・・・・・」
サンジも一緒になって尋問し続けると。
「・・・・・・んなこと、答えられるか。」
ようやくゾロが苦し紛れにそう答えたところで。
まさかのタイミングでドアが開き、まさに噂の人物がダイニングへと一歩踏み込んできた。
「「「ナミ(さん)ッ!!!」」」
「・・・・・・あんた達の話、聞かせてもらったわよ。人をネタに随分と楽しそうだったじゃない?」
冷や汗かいて固まってるおれ達三人をぐるっと見回したナミは、目を細めてその形の良い口の端をきゅっと上げ、まさに魔女としか言いようのない笑みを浮かべた。
「サンジくん・・・・・・あんたは私の裸を覗いたから10万ベリー。ウソップ、あんたは私の胸に顔埋めさせてあげたから20万ベリーね。そして・・・・・・・・・・・・ゾロ。」
意味ありげなナミの視線に至近距離で睨まれ、あのゾロがたじろいて一歩後ろに後ずさる。
「酔っ払った勢いだったとは言え、あんたは・・・・・・・・・・・・そうね、50万ベリーにしとくわ。
というわけで、あんた達、その金額で借金としてツケとくから、ちゃんと私に払ってね。」
よろしくと最後にウインクして身を翻すと、バタンと勢いよく扉を閉めてナミはどこかに去って行った。
「「「・・・・・・」」」
黙り込んだおれ達のBGMに、遠くからブルックの妙に陽気なバイオリンと歌声が響く。
おれ、胸に顔埋めたのはナミの方が抱きついてきたからだったよな・・・・・・。
結局。
「圧勝」なのは、ナミだったらしい。
2年で大きく成長したはずのここにいる野郎共は、2年でその魅力を増した魔女の前に全員完敗のようだ。
それにしても。
ゾロに課せられた50万ベリーの内容が一体何だったのか。
おれはそれが一番知りたい。
おわり
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