好き。
uuko 様
「んじゃァ、明日中にどっかの島に上陸っつ〜のは、やっぱ無理か」
ウソップとチョッパーと私の3人は、甲板のウソップ簡易工場で、故郷宛ての手紙を書いている。次の島から投函するつもりなのだ。さすがに新世界からクー便は高い。
「仕方がないわよ、ログポース任せだから」
手元にある新世界の地図はほとんど役に立たないし、ログポースでは目指す方角はわかっても距離まではつかめない。
「せっかくナミの誕生日なのになぁ」
島に寄れれば新鮮な食材も手に入るし、趣向を変えたパーティーが出来るのは確か。でも。
「いいのよ〜、チョッパー。あんたがお祝いしてくれるだけで」
ふかふかのからだをぎゅっと抱きしめる。
「こ、このやろ〜!そんなこと言われたって嬉しくねェぞ!」
「うれしそうだな」
2年の別離を経て、みんなと一緒にいられること。それだけで、最高に幸せだ。
「ナミ読んでくれ!」
「はいはい。大好きなドクトリーヌへ・・・・・・トリノ王国で見つけた不思議な薬草を同封します。TTC。いいんじゃない。これなら居場所も差出人もわからないし」
私達はお尋ね者。誰の手に落ちるかも知れない手紙で、不用意なことは書けない。
「残念だよな〜。すっげ〜冒険の話、いっぱいあんのに」
「まあまあ。無事に元気にしてます、大好きよって、伝えられればいいの」
そういいながら、ウソップの手紙を取り上げる。
「なになに。愛しのカヤへ・・・」
「やめろバカやろ〜!」
奪い返された。
「いいじゃないケチ、ちょっとぐらい。余計な嘘話書いてないか見てあげるだけよ」
「うっせ〜!人のラブレター読んでんじゃねェ」
ラブレター、か。
「・・・いいなァ」
「なにが」
「好きな人からのラブレター。私もらったことないもの。こんなに可愛くてセクシーなのに」
「自分で言うな。まァ、せっかくの青春時代に泥棒してたんじゃ、しゃ〜ね〜よな」
10歳から8年もの間、必死に一億ベリーを貯めることだけを考えていた私に、ふわふわした恋愛してる暇なんかなかった。
「・・・あいつがくれるわけないし」
「・・・ムリだな」
サンジ君からはもらったけど。
ウォーターセブンで、伝言と共に。
「・・・好きって言われたこともないわ」
「え〜っ、マジ?それは・・・まァ、ゾロはそういう事言うタイプでない、っつ〜か、確かに想像つかんが・・・」
「ゾロはナミのこと好きだぞ?」
不思議そうな顔のチョッパーを、もう一度ぎゅっと抱きしめる。
「わかってる。だからいいの。言葉なんか期待してないから」
ウソップが、人を憐れむような目で見やがるから、一発拳骨をお見舞いしておいた。
***
「では、本日の主役ナミ姫ですっ!」
ナミがブルックの演奏にあわせて登場する。
陽に揺れる長いオレンジの髪が、おれ達の知らないナミの2年間を思い起こさせる。
以前に増して女らしく、艶っぽくなった姿がまぶしい。
こんな女を手にしながら、好き、の一言も言ってやれない男がいるなんざ、信じられねェ。
「んナミすわぁ〜ん!!太陽も真っ青になるほどのその美しさ!好きだ〜っ!!」
ひたすら無駄に愛を叫ぶ男もいるというのに。
ここはやはりおれ様が一つ・・・。
宴会も半ばに差し掛かり、みな程よく酒が回ってきた頃合い。
「うおっほん。では今から、新世界初のナミの誕生日を記念し、おれ達がどれだけナミを好きかってことを言葉で伝えよう大会だ。ルフィ?」
「おう!船長命令だぞっ!」
「「は〜っい!」」
酒を噴出している約一名を除き、みんなやる気満々だ。よしよし。
「ではキャプテン・ウソップ様から」
おれ達の大事な航海士、仲間、同志、親友。
「ナミ。おめェはケチだし手ェ早いし恐ェけど」
ナミの拳骨が落ちる前に早口で叫ぶ。
「さいっ高にきれいでいい女だ。大好きだぞ!!」
ナミが一瞬で真っ赤になる。マジな褒め言葉に実は弱い奴。
サンジのとか、そこらの男共からキャットコールは平然と流せるくせに。
「あ、ありがとう、ウソップ。私も・・・嘘つきで優しいあんたが大好きよ」
照れ隠しはいいが、抱きしめてキスすんのはやめてくれ。どっかから殺気が飛んでくる。
「次はおれな。おれのこと、最初に仲間に誘ってくれたナミ。怒ったときはちょっと怖いけど、優しいナミが大好きだぞ!」
「あんたの純粋さとなんにでも真剣なところが、私も大好きよ、チョッパー」
ちょっと落ち着いたナミは、トナカイを抱きしめて、青い鼻の先にキスする。
「では、わたくしも。ナミさん。艶やかなあなたのその姿。
風と海を操り新世界を渡るその才能、勇気。全てに惚れこみます。
ああ、私があと50年若ければヨホホ・・・とりあえずパン」
ドカバキ。
「見せません!・・・でもブルック。
あんたを見てると、人生何があっても生き抜くことに意味があるんだって、勇気をもらえるわ。
ありがとう。大好き」
骨にも抱擁と額にキスが贈られる。
「よう、小娘。ってまァ、乳臭さもちっとは消えてきたがな。
あと10年もしてスーパーいい女になったら惚れてやんぜ。うぐ」
どっかから生えてきた手につねられたらしい。
「まァ、おめぇは妹みてェなもんだ。アニキとしてスーパーな愛をやるぜ、ナミ」
「ふふ。ありがと。妹からの愛をアニキに」
鼻に3秒のキス。サイボーグの髪がお花畑バージョンに変態した。
「じゃ、私からも姉としての愛を伝えるわ」
周囲からワサワサ生えた手にがっしりと捕まったナミ。
ロビンは身体で愛を伝えることにしたらしい。
いや、今回の趣旨は言葉で好きを伝えようっつぅ、おいまて・・・そ、それはディープ・・・。
「見るなチョッパーっ!お子様は見ちゃだめだ」
「ロ、ロビンちゅわ〜ん、ナミすぁ〜ん!!そんなうらやまおいしい・・・ぐはっ!」
「サ、サンジがまた鼻血!・・・ってか吐血っ?」
止めに入るかとみられた男約2名は、しっかり別枠の大量の手でホールドされている。
「・・・ふぅ。わかってくれた、ナミ?私の愛」
「ロビン姉さん・・・私も愛してるわ・・・」
「ちょっと待てそこ。話が違う方向へっ!」
「しししし。仲いいなァ、ロビンとナミ」
いやルフィお前。ちょっと違ェだろ。
「じゃ、次おれな。ナミ」
たまにしか見せないルフィの真剣な顔。こいつマジ告白でもする気か?
話がさらにややこしくなるぜ。こんなハズでは・・・。
「は、はい?」
「おれは海賊王になる」
「・・・うん」
「海賊王の航海士はお前だけだ。
お前が、おれ達を導くログポースで、
お前がいなけりゃ、おれ達は迷ったままだ。
だからナミ、ずっとおれの傍にいてくれ。
大好きだぞ」
・・・なんつ〜か、プロポーズみたいだよな。
おれとおれ達、がごっちゃになってるところが微妙なんだが。
「・・・ルフィ」
ナミはルフィを見つめながら、夢見るように優しく微笑む。
「私はあんたの航海士よ。
あんたが行きたい場所へ、どこへでも連れてってあげる。
いつまでも、大好きよ」
・・・声にならない二人の永遠の誓いさえもが、聞こえたような気がした。
「ちょっとまてっ、くそゴムっ!おれのナミさんと、何いい雰囲気かましとんじゃっ!!」
ルフィを蹴りでぶっ飛ばしながら叫ぶサンジの怒号。
ほとんど神聖なばかりの空間が、一瞬にして日常に戻る。
「ナミさん!おれのあなたへの愛は、海より深く天より高く!
その美しさ、聡明さ、勇敢さ、すべて電撃のようにがおれの心を射抜くのです!
おれはあなたの恋の奴隷。あなたはおれの永遠の女神・・・」
跪いてナミの手の甲に口づけるサンジ。
「ありがと。優しくて強くて、バカやりながらもいざという時は頼りになるサンジ君。
大好きよ。いつまでも私の奴隷・・・まちがえた、騎士でいてね」
女神から奴隷、いや騎士には頬へのキス。
「・・・ナミさんが、おれのこと大好きって・・・大好き・・・」
奴隷が一匹、鼻血と涙を流しながら昇天した。
「・・・アホか」
複雑な顔をしていた約一名も、気を取り直したらしい。
さて、次が実は本番なのだが。
「じゃ、あとは・・・」
一斉に視線が集まる先は、先ほどから仏頂面で酒を喰らっていた剣士。
ナミとは2年以前からほぼ公認の仲でありながらも、好きの一言も言ったことが無いという朴念仁。
こいつにサンジは兎も角、ルフィ以上の愛の言葉を捧げろってのはムリだろう。
ロビン式に身体で伝えるならともかく。
ナミも同じことを思ったらしい。
「あ、ゾ、ゾロ。あんたはいいわよ。もうみんなからいっぱい愛をもらったから。お腹いっぱい。えへへ。みんなありがとう。すっごく幸せ」
嬉しそうに頬を染めるナミ。
最後のオチがどうなろうと、好き、を伝えるこの余興をやって良かったなと思う。
しかし、強制終了させようというナミの努力を無視し、ゾロは眉間に皺をよせたまますくっと立ち上がる。
「待てよ。船長命令だろ」
船長命令には基本逆らわない、律儀な男。
ただでさえ凶悪な顔が、おれを射殺しそうな目で睨む。
・・・余計なことしやがって、後で覚えてろよ。
そう、こいつは言葉は足らないが、言葉なしで意思を通じさせるのは得意なのだ。
「いいか、ナミ。一度しか言わんから、耳の穴かっぽじってよっく聞けよ」
あたふたするナミに視線を合わせたゾロは、ふと口元を緩めにやりする。
・・・アホどもを鉄拳で殴り飛ばして、大笑いしながら従わせる凶暴女のくせに。
臆病で恐がりで、いやなことは人にやらせる卑怯者で。
理不尽でわがままで、言ってることメチャクチャだし。
嘘も裏切りもなんでもこいっつ〜、ロクでもねェ女。
金に汚ェ、お宝に目が無い業突張りで。
口悪ィうえに、その一言一言の裏を勘ぐらずにいられねェ魔女っぷり。
「おいおい、おめぇそれ思いっ切り悪口・・・」
「このクソマリモ〜っ!ナミさんになんてことをっ!!」
「んなとこが・・・まァ、好きだ。
・・・ずっと、そのままでいりゃいい」
つぶやくようにいって、そのまま手に持った酒をぐいと飲み干す。
冗談に紛らわせるかのように口元は歪めているが、細めた片目に浮かぶ愛しげな光は隠しきれていない。こいつ大マジだ。
・・・美しさや、天才的な航海士としての才能とか、どうでもよくって。
その最上の部分ではなく、最悪の部分を。
そのまま好きだと言うアホに。
やっぱり本日のナミ愛一等賞を贈呈するしか、ないだろう?
「ちょ、ちょっとそれって・・・」
ナミは、照れるべきなのか怒るべきなのかわからず混乱中だ。
「なんだよ。可愛くて賢くていい女だから好きだとでも言って欲しいんかよ」
「ややや、そんなこと言ってないってば。いやでも・・・ごにょごにょ」
「それより、お返しは?」
「は?」
「てめェ、一人一人に、そいつの何が好きかちゃんと言って返したろ。おれは?」
にやにやと人の悪い笑み。
「あ・・・うぅ・・・」
普段ナミには絶対口では敵わないゾロが、今は完全に優勢だ。
しかし、そこで負けを認めるような女ではなく。
「・・・わたしは、あんたの」
高みを見過ぎて、足元見えてなくて、常識のない大バカなとことか。
無防備に大口開けて昼寝してる、マヌケ面とか。
方向音痴極まって、真っ直ぐに進めもしないような、救いようのない迷子なとことか。
真面目になんか考えてるような振りしながら、実は運任せのオオボケ野郎なとことか。
不器用で言葉足らずで、天然なアホさとか。
「・・・が、好きかも」
「お前なァ・・・もちっと言いようが・・・」
「なによ、強くてかっこよくていい男だから好きだとでも言って欲しいの?」
やりかえされて、うっと顔を赤らめるゾロ。
どっちもどっち。
素直でない二人の罵詈雑言の応酬が、やたら・・・
「・・・甘いわね」
「べた惚れですかねェ、ヨホホホホ・・・」
「なァ、ゾロとナミはまた喧嘩してんのか?」
「チョッパー。おめぇもそろそろ言葉の裏読むこと学べよ」
「やっぱ、仲いいよな〜。お前ら!ししし」
「うっせェクソゴムっ。誰と誰がどう仲いいんだよ!!
ナミすぁ〜ん、そんなバカマリモは放っておいて、も一回おれに愛のキスを〜!」
サンジへの2度目のキスも、ゾロへの仲間のキスも、その場で与えられることはなかったが。
次の朝のサニー号上では、二日酔いでゾンビ状態のクルーを尻目に。
いつも以上にすっきりさわやか顔の剣士と航海士が、いつものように犬も食わない口喧嘩をしている姿がみられたのであった。
終わり
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