このお話は、『好き。』の続編です。



帰らなくてはいけないと
待つ人がいることを知りながらも
動くことが出来なかったのは
わたしの心と体が全身全霊で
それを望んでいたからだ




想う。

                                uuko 様


「お前の誕生日・・・ちゃんと祝ってやれんの初めてだな」
掠れた低音が遠のいていた意識の中で囁いた。

2年の別離。
そしてその前は・・・。


***


海賊団とも呼べないような海賊2人と手を組んでひと月と少し。
船がバラティエの傍に停泊して二日。
海上レストランを破壊した代償に、ルフィが命じられたのは、一年のただ働きだ。
それを聞いた時点で、さっさと行動に出るべきだった。
すでに、いつもより長期間、村を留守にしている。

見積が正しければ、今回のお宝を足し合わせた貯金額は9300万ベリー。
あと、もう一度航海に出れば、8年もの間夢に見た自由に、きっと手が届く。
なのに、今日出よう、明日発とう、と思いながら。
体が動かなかった。


居心地のいい船。
くだらないことを言いあって笑い転げられる、気のいいやつら。
17歳の誕生日に海賊王になると言って故郷を出、そのまま遭難したという天然ゴム船長。
世界最強などというご立派な野望がありながらも、成り行きで海賊をやっている迷子剣士。
勇敢なる海の戦士になるという、やさしい臆病者。
海賊など嫌いだと、仲間と呼ばれることを必死に否定し続けても、バカだアホだと罵りつけていても、こいつらに情が移ってしまっていることは自覚している。

だが、あと一息で貯まる一億ベリーで、村を買うのだ。
あいつらが追ってくる気もなくなるくらい、最悪の裏切りを働いて。
情は切り捨てられる。
・・・恋も。


選りにもよって、どうして今、とは思うが。
何故、とは思わない。
出会ったのが運の尽き。
憎んでも憎み足りない海賊共を、次々に血祭りに上げてゆくという、海賊狩り。
血に飢えた魔獣との凶悪な噂すらも、ひそかな憧憬の対象だった。

会った時には自らが海賊になっていて、海賊狩りでも海賊でも、どっちでもいいという節操のなさにあきれた。
命の値段とばかりに血を吐く思いで掻き集める、宝への、金への私の執着を鼻で笑う男。
数少ないわたしの切り札の一つである女の武器に、眉一つ動かすことのない男。
剣の道以外の全てを切り捨て、真っ直ぐに遥か遠くしか見ていない男。
・・・わたしとはあまりにも相反するその存在に、憎しみすら掻き立てられた。

日常の、いわゆる「どうでもいいこと」には、甚だしく無頓着で、
明日の食事の心配をするどころか、隣の酒屋にもたどり着けない男。
食う寝る以外には、鍛錬にしか興味のない刀バカ。
弱者を無意識にかばい、不器用に優しい男。
・・・人を愛おしく思うのは、強さや完璧さを見せつけられた時ではなく、
欠点や不完全さにほだされた時だと知った。

野生の獣のように戦うその姿。
大人の女達が、美しい男を見て欲情にかられるということの、
意味を理解した。

野を駆ける、人には慣れぬ生き物。
高みを翔ける、その魂を引きずり落とし、
冷めたその顔を快楽に歪ませ、
凄烈な身体に、私を刻み付けてやりたい。

わたしは今日、十八になる。



バラティエのウェイターが、呼んでいる。
いや、ウェイターでなく副料理長。
そうだ、今晩、パーティーを開こう。
せっかく素敵なレストランにいるのだから、誕生日を祝わない手はない。
ちょっと奮発して、皆の分も出してやってもいい。
理由を知らせる気はないが、言い訳はなんとでもなる。

シャワーを浴びて、ちょっとおめかししよう。
あいかわらず甲板にころがり、大口を開けて寝ている男を横目に、
そんなことをおもった。



ひとしきり騒いだあとすっかり酔いつぶれた面々を、ゾロが男部屋に運び込んでいる。
いつも仏頂面のこの男も、たっぷり酒が入った今夜は、いつになくご機嫌だ。

まだ、飲み足りない?
ちょっといいのがあるわ。
誘うと、二つ返事。
酒の誘いは断らない。

秘蔵のシングルモルトを二本かかえて甲板にでると、どこにそんなん隠してたんだ、といいながらも、やたら嬉しそうだ。
めったに見せない、年相応の子供みたいな笑顔に、つい見惚れそうになる。

こいつと二人で飲み交わすのが宴の後の慣例となったのは、メリー号を手に入れてから。
海賊相手の泥棒だと公言する私への、ひそかな警戒を解くことのなかったこの男も、シロップ村での共闘で気が緩んだのかもしれない。
船に積まれた気前のいい酒の在庫のおかげもあり、私がこいつに付き合えるだけの酒量を誇り、酒飲みの気安さを共有できたこともある。
ぼつぼつと、今までの旅のことや、子供のころの、当たり障りのない話をしたり。
馬鹿な失敗談を軽口にして、笑わせあったり。
たまには少し真剣に、夢や人生について語ってみたり。
女としては見られていないにせよ。
酒を酌み交わす歳の近い友人なんて、いままで持ったことが無く。
そんな時間が、貴重で。
それだけで、十分満足。
・・・のはずだったのだけど。

度数50を超える酒は、一人一本空けるようなものじゃない。
先からの宴会で、すでにかなりの量を飲んでいる。
ごろりと甲板に寝そべった。

おい、酔ったのか。
ゾロの口調は、まだ平静だ。
こいつを酔いつぶすのは、やはり無理なのか。
う〜ん、とつぶやきながら、目を閉じる。

「・・・こんなとこで寝んなよ」
「あんた、いっつも転がってるじゃない」
「おれはいいんだよ」
「じゃ、わたしもいいわよ」
「アホか」
女だろ。一応。

男の腕が私のわきを抱え、そのまま持ち上げる。
と思ったら、がくっと、ゾロがひざをついた。

・・・イカン、おれもちょい飲み過ぎた。
いい酒だったからなぁ・・・。
よっと
おやじくさく声をかけながら立ち上がり、わたしを引っ張り上げると、半分引きずるようにして倉庫へむかう。

・・・ひっど〜い、可愛い女の子を引きずるなんて。
文句を言うと、どこに可愛い女の子なんてもんがいんだよ、と返ってくる。
じゃ、美女。
だれが?

女部屋への蓋扉を開け、さっさと行けと促すが、わたしは突っ伏したまま動かない。
ここに捨てとくぞといいながらも、ため息をついて、結局は抱え上げてくれる。

すでに作ってあったソファベッドへ、寝かされようとした瞬間。
ヤツの身体ごと、くるりと引き込んで、そのまま全身で押し倒した。
「っつ!おい!」
広い胸の上に全体重をかける。
温かい締まった身体。
浮き上がった固い筋肉が、腹の下に気持ち良い。
どくん
心臓の音がうるさい。

ゾロは硬直したように動かない。
いや、動けない、のか。
男の首元に伏した顔を傾け、耳の下の首筋を、ぺろり、と舐めてやった。

びくっと、ゾロの全身が震え、
わたしの太ももの下にあたる、それが、
反応するのを、感じる。
下腹部に、全身の血が、集まる。
ずるり
自分の中が蕩ける音がする。

「や・・・めろ、ナミ」
掠れた声がそういうが、わたしの身体にまわした腕は、動かない。
ピアスを耳朶ごと舌で弄ぶ。
喉元から、深い鎖骨の窪みまで、ゆっくりと舌を這わせる。
アルコールの混じった、汗の香。
かすかな塩気と、錆びた鉄のような味。

部屋は真の暗闇。
目の前にあるはずの、ゾロの表情も見えない。
男の首の下に絡まった腕を抜き、
着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。
ゾロの手が、そのままわたしの裸の背に落ちる。
熱い掌。

首筋に唇を這わせたまま、両手でゾロのシャツの下をまさぐる。
弾力のある鎧のような胸筋。綺麗に割れた腹筋の筋を辿る。
そろりと手を降ろしベルトを緩め、中に指を伸ばす。
脈打つ塊。

普段、わたしの肢体になど、全く関心を示さない男が、
酔いのせいであるにせよ、
わたしの女に反応していることが素直にうれしくて。
それを優しく撫でてやった。
「くっ・・・」
背におかれた手に、力が籠る。

スカートを下着ごと引き抜く。
威きり立ったものを取り出し、
火照りすでに水のあふれる私のあいだに、擦り付けた。
二つの身体の、微妙な温度差が、面映ゆい。

「やめろっての!酔っ払いが・・・後悔すんぞ」

うるさいから。
舌で見えない顔をたどり、口を塞いでやる。
唇の間に舌を挿しこみ、くいしばる歯をこじ開ける。
これでもまだ、自制心を保っているだなんて。
ほんとうに腹の立つ男。

後悔なんてしないし。だいいち、私・・・
「酔ってなんかいないわ」

男のごつい手が、一瞬ぎりぎりと痛いほど、わたしの背に食い込んだかとおもうと。
身体ごとひっくり返され下へ引き込まれる。
「っ・・・」

理性から解き放たれた、けだものの口づけを。
・・・歓喜と共に受け入れた。


***


「・・・祝ってもらったけど。3年前。それなりに」
今となってはいい思い出よね〜、あれも。
「ざけんな、ありゃ一生の不覚だ」
酔わされて女に襲われるなんざ・・・
俺ァ、あの後二度と酒には呑まれねェって誓ったんだ。
その上、次の日あっさり消えやがって。ヤリ逃げ女が。
行きがけの駄賃ってやつ?あはは。
まったくロクでもねェ。
そんなあたしが好きなくせに。

「責任とれよ」
「や〜よ、一生迷子バカのお守りなんて」

・・・逞しい腕が二度と逃すまいとするかのように私を抱きしめた。

迷子じゃねェ。
バカは認めんのね。



終わり




<管理人のつぶやき>
好き。』の続きのお話です。思い出されるのは、二人が初めて結ばれた日のこと。まだアーロンに囚われていたナミ。狂おしくも切ない一夜でした。でもそれも過去のこと。今は幸せですね!!

uuko様の3作目の投稿作品でした。uukoさん、ステキなお話をありがとうございました^^。



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