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panchan 様
「ちょっとチャリ取って来る」
外に出てすぐ、そう言ってゾロが店の裏側へと回って行った。
一人で待つ間、たむろしているグラ大生らしき男達からじろじろと興味本位の視線を注がれ少し気恥ずかしい思いをしたが、すぐにあの錆びたシルバーの自転車を押しながらゾロが戻って来るのが見えて、ホッとして近くに駆け寄った。
「乗るか?」
「冗談。あんたの後ろに乗ってすごく怖かったの忘れてないわよ。絶対にパス」
肩を竦めて拒否ると、少し心外そうな顔をされたのでイタズラっぽく微笑み掛ける。
「一緒にゆっくり歩きたいのよ。ダメ?」
「いや……構わねェが」
満更でもない顔になったのを見て、ニコッと笑って横に寄り添い、一緒に歩き始める。
私の肩を抱いて歩道の内側に行かせたゾロが、さりげなく自転車を車道側に回してくれた。
そんな些細な配慮が嬉しくて、ついつい顔が緩んで行ってしまうのを我慢出来ない。
「それにしてもお前、こんな時間に一人でどうした?」
「今日はバイトの飲み会があってね。その帰りに、フラッと寄ってみたの」
「へえ……飲み会ってどこで?」
「タコ八って居酒屋」
「ああタコ八か……ってこっから結構あんじゃねえか。女が夜中に一人でフラッとの距離じゃねェぞ。危ねえだろ」
「いいじゃない。ゾロに会いたかったんだもん」
「…………お前……酔ってんのか?」
「うん、酔ってる」
そう、酔ってる。だからおそらくこんなことも躊躇なく言えてしまうのだ。
「ねえゾロ」
「ん?」
「あれから、住むとこどうしてるの?」
「あァ…………最初はルフィのとこに戻ろうかとも思ったんだがよ」
「うん」
「あいつのことだから、また急にあの女とヨリ戻すとか言い出したら面倒だろ?」
「ああ……有り得るわね」
「だろ?だから結局、色んなとこをフラフラとな」
「色んなとこって?」
「あァ、さっきバイト先にいた奴んとことか」
「あ、あのすごく鼻が長い人?」
「そう、あの鼻が長い奴。アイツんとことか、漫画喫茶とか……あとは、大学の中庭とか」
「中庭?」
「ああ。芝生だし、荷物枕にしたら、結構快適に寝れるんだ」
「……呆れた。どこでも寝れんのね、あんた」
「まあな」
「じゃあその辺の公園にでも住めるんじゃない?」
「それじゃあマジなホームレスになっちまうだろうが」
「まあホームレスって言うより、どっちかって言うと野良犬だもんね」
「誰か野良犬だ」
「あんたよ」
「おい、おれァ人ですらねェのか!」
ゾロが怒った様に言ってケラケラ笑う私の肩を大袈裟に押す。
「けど……まあ、あれだな」
「ん?」
「今思えば…………確かにお前んトコにいた時が一番、人間らしい生活だったのかもしれねェな」
「…………」
ちょっと照れ臭そうに顔を背けた仕草に、胸がキュッと締め付けられた。
この男がお世辞で調子いい事を言うタイプじゃないのは知ってる。
たまに意地を張ってわざと悪態つくことはあっても、本来はすごく正直な男なのだ。
だからきっと、今言ったことは本心なのだろう。
じゃあうちに戻ってくる?と思わず言いそうになって慌てて口を噤んだ。
それは出来ない状況だったのを思い出し、言えない心苦しさが募って、堪らず視線をそらせる。
その時、バッグの中でスマホが小さく震えるのを感じた。
手でバッグの中を探り、取り出したスマホの画面に目をやると。
「……どうした?」
「うん……ビビからだわ」
指で操作してメッセージを確認する。
ゾロも何気無く横から画面を覗き込み、二人でそのメッセージを読んだ。
『ナミさんごめん。詳しくはまた明日話すつもりだけど、私、ルフィさんと話し合って、ヨリを戻すことにしました。今夜はルフィさんのところに泊まるから、明日帰ります』
「…………」
「…………」
二人とも、思わず足を止めて文面に見入る。
「…………やっぱりか」
「やっぱりね……」
「予想通りだな」
「そう言えば、今日二人で会って話すって言ってたのよ。それ聞いた時から、私も薄々こうなるんじゃないかとは思ってたんだけど」
「おれァルフィんとこ戻らなくてやっぱり正解だったな」
「そうね。ほんとあいつらってばすぐに自分達のことしか見えなくなるんだから。その度に振り回される周りのことも、少しは考えて欲しいもんだわ」
「まったくだ」
はた迷惑な馬鹿ップルに迷惑こうむった者同士、意気投合して愚痴を言い合っていたら、ふと気付いた。
じゃあ今夜、ビビはうちには帰って来ないのだと言うことに。
「えっと……じゃあ、ちょっとうちに寄ってく?」
「え?」
「せっかく送ってもらったし……お茶くらい飲んで行ったら?」
「……いいのか?」
「うん、私はいいわよ。あんたがバイト、大丈夫なんだったら」
「あ?ああ…………ま、少し位なら」
「そう?じゃあ……上がって行けば?」
こないだまで一緒に住んでいたのに、改めて家に呼ぶとなると妙に気恥ずかしく感じることに戸惑いつつ、二人で家へと向かった。
駐輪場に自転車を止め、一緒にマンションの階段を上がる。
玄関の鍵を開け中に入ると、ゾロも入って来て私の後ろで靴を脱いだ。
「すぐにお茶用意するから、座ってて」
「おう…………あ、これ」
「あ、ありがと」
プリンの入った袋を受け取り、キッチンでお湯を沸かし二つのマグカップに紅茶を用意する。
その間、ゾロは一人大人しくソファに座って、時々こちらをじっと眺めていた。
以前のあの遠慮の欠片も無かった態度はなりを潜め、やけに改まった様子とその視線に、私の体をぎこちない緊張が襲う。
「はい、お待たせ」
マグカップをソファテーブルに置き、隣りに座った。
「悪ィな」
手にカップを持ち、口を付けたゾロがカップの中に視線を落とす。
伏せられたその目に、すごく色気を感じてしまってドキッとした。
今私は間違いなく、今までで一番ゾロと二人きりであることを意識していた。
ゾロも緊張しているのか、いつになく落ち着き無い感じで、手を膝に擦り付け、肩にもギュッと力が入っている。
「久しぶりだからか……なんか妙な感じがすんな」
「……そうね」
それっ切り、二人黙って紅茶を啜り、ぎこちない沈黙が続く。
「……ナミ」
「……なに?」
「いや……その………………あん時は……邪魔が入って言えなかったんだが……」
言い辛そうに何度も眉を顰めながら、ゾロが少しずつ言葉を切り出した。
マグカップを握りしめ、じっと黙ってその横顔を見つめる。
「おれは…………正直お前のことを、ただの同居人として見てた訳じゃなかった」
そんなの私だって同じだ。
ゾロのことを、ただの同居人としては見ていなかった。
「最初はただ、どっか部屋を借りるための金が貯まるまでここに居れりゃいいと思ってたんだか……いつからか、その……ここに居たいっつうか……お前と居たいっつうか…………そう思うようになって」
目を下に伏せたまま、照れを誤魔化す様に頭を掻いてゾロは続ける。
「おれはお前が作ってくれるメシに本当に感謝してたし、お前のことも便利な女だなんて思ったことは一度もないし、おれはお前がメシ作ってんのを見んのが好きだったし、顔突き合わして一緒に食うのも好きだったし、一緒にビール飲んで酔っぱらってふざけんのも、バイト行く時に玄関まで送り出してくれんのも、帰って来て朝起き出して来んのも…………とにかくおれは、お前の居るこの家が好きで…………ずっと……ここに居られたらいいと思ってた」
「…………」
「つまりおれは……」
「…………」
「いつの間にかお前に…………すげェ惚れちまってたんだと思う」
ゾロの伏せていた目線がすうっと流れて私の方を向いた。
その視線と言葉が、余りにも鋭く私の心を射抜いた。
「お前が好きだ。ナミ」
「…………私…………も」
気付くと体を抱き寄せられ、唇が重なっていた。
応えるようにゾロの背中に腕を回すと、いつも見ていた体はガッチリと厚みがあって、私を抱き締める腕の強さや押し付けられた胸板の温もりに、心の底から愛しさが込み上げてくる。
何度も、確かめるように口付けを繰り返した。
その合間に漏れる吐息が湿り気を帯びて来た時、急にゾロが唇を離して、私の体を強く抱き締めた。
そして肩に顔を埋めたと思うと、切なげな溜息が鎖骨の上に落ちた。
「あァ…………やべェ」
「…………どうしたの?」
「……こんまま抱きてェ……」
ああ、そうか。
ゾロはバイトに戻らなければならなかったのだということを、私はすっかり忘れてしまっていた。
額を突き合わせると、目を細めて何かを必死に耐える余裕のない表情にぶつかり、その顔が強烈に私の本能をそそり、判断力を失わせる。
「鼻の人…………遅いって怒るかな……」
「さあな」
ゾロの手が優しく私の髪や肩を撫でた。
「あいつがどうってことより……他のこと気にしながら、お前としたくねェんだ」
そう言ってゾロが両手で私の肩をしっかりと包む。
「おまえのことは、中途半端には抱けねェから」
そう言うと、もう一度太い両腕が私の体に回った。
「あァ…………けどやっぱ離したくねえ……」
かなり葛藤しているらしいゾロがまた切ない溜息を落とす。
「ゾロ」
広い背中を、優しく上下に撫でた。
「バイトが終わるまで私、待ってるから……」
甘える子供を諭すように優しく髪に口付けると、ゾロがようやく肩から顔を上げた。
「ソッコーで帰ってくる」
そう言ってもう一度私に口付けると、ゾロはソファから立ち上がり、急いでバイトへと戻って行った。
一人になり、たった今起こった事が夢なのか現実なのか、区別が着かないような感覚に陥る。
でも夢ではない証拠に、しっかりテーブルに残ったマグカップは二つ。
間違いない。
ゾロはさっき本当に、私に好きだと告白したのだ。
お酒が入っているせいもあるけど、ふわふわと幸せな気持ちが胸に広がって、自然と笑みが溢れてくる。
ゆっくりとソファから立って、シャワーを浴びた。
まるで溜め込んでいた思いを溢れさせるようにゾロが言った台詞の一つ一つを、何度も頭の中で思い返してみては気持ちが高ぶってしまい、結局少しも眠ることなく、そのまま朝を迎えた。
玄関のインターホンが鳴ってゾロが戻って来たのは、朝の六時十七分。
いつも帰って来ていた時間より十分以上も早かった。
ドアを開けると、よっぽど急いで帰って来たのか、ゾロは肩で荒い息をしていた。
「おかえり」
「……ただいま」
待ってたわ、と言うと、玄関を後ろ手に閉めたゾロは急いで靴を脱ぎ捨て、息も整わぬままに私の腰に腕を回し、軽々抱え上げてそのままリビングに行って、リュックとボストンバッグを床に落とすと、私ごとソファに倒れ込んだ。
「あっ……ちょ待って」
「もう待てねえ」
性急に唇を奪われ。
その合間を縫いながら、なんとか息を言葉にする。
「ん……ここ、じゃなくて…………私の……部屋で…………」
部屋にゾロを招き入れたのは初めてだった。
レースカーテンをすり抜ける朝の柔らかい光がすでに部屋中に満ち始めている。
ゾロは初めて入る私の部屋に興味を示し、おれの居た部屋よりシンプルだな、なんて言いながらベッドに腰掛け、私の腕を引いた。
抱き合うと、何とも言えぬ満たされた気持ちが胸をせり上がって来る。
柔らかくベッドに横たえられ、口付けながらゾロがその大きな手で私の服を一枚ずつ剥がして行く。
私の手は覆い被さるゾロのTシャツを捲り上げ、その引き締まった腹筋に指先を這わせる。
全て脱ぎ去って裸になり、直に肌を合わせて抱き合うと、ただそれだけのことで震えるほどの快感を感じた。
そんな経験は初めてで、その甘い感覚に思わず熱を持った吐息が喉から漏れる。
ゾロはその唇と武骨な指を私の全身に這わせ、そして一番敏感な部分を、優しく念入りに愛撫した。
ゾロの指と唇は不思議なほど的確に私の感じるところを探し当て、確実に私の身体は高まっていき、何度も大きな快感の波に襲われる。
身体中を丁寧に愛撫されてそれに深い愛情を感じるなんて、初めてのことだった。
そしてそれによって自分の中にこんなにも男を招き入れたくて仕方なくなるなんて。
その激しい欲求を恥ずかしく思いつつも、耐え切れずに素直に言葉に出した。
身体の相性なんてものがあるのは何となく知っていたけど、ただ一つになるだけで意識が飛びそうになるほど気持ちいいなんて、どんな相性なのだろうか。
ゾロがゆっくり腰の抽送を始め、堪らず上擦った声を漏らす。
そしてそれに重なる、ゾロの荒い息遣いとベッドの軋む音。
私は突き上げる強烈な快感に呑まれながらも、自分のベッドがこんなにもギシギシと大きな音を立てることに、驚いていた。
激しい動きに汗ばみ始めたゾロの肌はまるで濡れた絹ようにしっとりと私の肌に馴染み、体内に包み込んだ彼の中心と同じく、私の皮膚にぴったりと吸い付いて、いつの間にか境目を見失い、柔らかくひとつに溶け合って行った。
ぼんやりした意識の端で、さざ波のように振動音が響いている。
その音で目が覚め、気怠い体を起こそうとしたら腰に絡まっていた重い腕が私を引き戻した。
ふり向くと、そこにいるのは目を閉じたままで口元をニヤリとさせている愛しい男。
どこかいたずらっぽいその表情が可愛くて、首を捻り自分から口付けを落とした。
「……おはよ」
「……起きたか?」
「うん。……いつから起きてたの?」
「おれもさっきだ」
その時ふっと振動音が止んだ。
気になりつつも、背後から胸や太ももの内側を撫で始めたゾロの手の刺激に甘い吐息を漏らしていると、再び振動音が鳴り出した。
気にして視線をやると、呑気な調子でゾロが言う。
「ああ、あれさっきから何回か鳴ってるぞ」
何回か鳴ってると聞き、さすがに気になってゾロの腕の中から抜け出し、疲れて気怠い体を引きずって、ベッドの端まで行く。
床に散らばった二人分の服の間にバッグを見つけ、体半分ベッドからずり出して手を伸ばし、ようやく中からスマホをさぐり出したところでまた振動が止んだ。
画面を確認すると、着信が四件にメッセージが五件。すべてビビからだった。
「ビビからだわ……ってあんた何してんのよ」
肩越しに振り向くと、上掛けからはみ出た私のお尻の上に緑の頭が乗っかっている。
「いや、出てたら触りたくなんだろ」
そう言って人のお尻を撫でたり口付けたりしている男に呆れた溜息を漏らす。
「なあ……おれに次のバイト代が出たら、どっか借りて一緒に住まねェか?」
「それって…………同棲しようってこと?」
「まあ……今度はそうなるな」
その時、また手の中のスマホが震え出した。
「あ、ごめん。またビビからだわ」
そう断って電話に出ると、電話の向こうからやっと繋がったとばかりに弾んだ声が響いた。
「ああナミさん!昨日は急にごめんね!怒ってた?」
なかなか私が電話に出なかったのは怒ってるからだと思って心配してたのだろう。
謝るビビに、やや後ろめたさを感じながら答える。
「大丈夫よ。全然怒ってないから」
「ほんと?」
「うん」
逆に都合が良かったくらいだわと心の中で呟く。
「ちょっとスマホ置きっ放しにして寝ちゃっててね」
「そっか、じゃあよかった。……え、でも寝てたって……体調悪いのナミさん?大丈夫?」
「うん、大丈夫よ。ちょっと疲れてるだけだから」
やっと安堵したらしいビビが続ける。
「ねえナミさん、昨日ちょっとだけ伝えたけど、私やっぱり、ルフィさんとヨリを戻すことにしたわ」
「うん。そうみたいね。良かったじゃない」
「うん。ルフィさん、こないだのことは悪かったってすごく一生懸命謝ってくれてね。浮気したと思ってたのも私の勘違いだったって、その女の子を呼び出してまで、ちゃんと証明してくれたの」
「そうなんだ……」
へえ、なかなかやるじゃないルフィ。
そこへゾロが私の横に体を寄せて来て、スマホの裏面に耳を当てた。
「それでね、ナミさん」
「……うん」
「ルフィさんがね、やっぱりどうしても私に戻って来て欲しいって言ってて」
「う……うん?」
隣のゾロと顔を見合わす。
「だから私達、やっぱりもう一度ルフィさんちで二人で暮らすことにしたの」
「…………」
またこいつらは勝手に決めて……と、視線だけで横のゾロと会話する。
「だから今から二人でそっちへ私の荷物を取りに行きたいんだけど……実はもう近くまで来てて……ナミさん、いま家かしら?」
「えっ…………い……家だけど……」
もう近くって、そんな急に言われても。
寝起きだし、裸だし、ゾロも居るし。
困っていると、ゾロが指でトントンと私の剥き出しの肩をつつき、代われと言って私の手からスマホを取り上げた。
「……おい。ちょっとてめえらに言いたいことがあるんだが」
「え?……あの…………あなたは?」
「ゾロだ。ついこないだまでてめえの代わりにここに住んでた男だ」
「ああ!……ってどうしてあなたが、ナミさんの電話に?」
「たまたま横に居たんでな。ナミは疲れてるからおれが代わった。そっち、ルフィも居んのか?」
「ルフィさん?……横にいるけど?」
「じゃあちょっと代われ」
電話の向こうでしばらくゴソゴソと話す気配がした後、ルフィが電話に出た。
「おうゾロ!久しぶりだな〜!どうした?」
「どうしたじゃねえよルフィ。お前とお前の女に、はっきり言っときたいことがあってな」
「なんだ?」
「今日から、おれとナミは、二人でここに住むことに決めたから」
「「「え?」」」
突然の宣言に、驚いた電話の向こうの二人と私の声が重なる。
「だからもう、ここにその女の戻る場所はねえから。そのつもりで、お前らこれから、しっかりやれよ」
「おお、そっか〜。よし、わかった!」
あっさり納得したらしいルフィが力強い声で答える。
「おっと、それからな」
「おう、なんだ?」
「今日はお前ら、もうここには来んな」
「え?…………なんで?」
「あのな、おれらにも都合ってモンがあんだよ。今日は一日、夜までずっと取り込み中だ。てめえらの相手なんかしてる暇はねえ。だから明日また出直して来い。わかったな」
それだけ言うと、ルフィの返事を待たずにゾロは一方的に電話を切った。
「…………すごい。スッキリしたわ!」
「だろ?一度ガツンと言ってやりたかったんだ」
二人顔を見合わせて笑う。
「ところで……結局ここに住むんだ?」
「あ、いや…………あの女が帰って来ねェんなら、別にここでもいいか、と……」
決まり悪そうに頭を掻いたゾロに微笑む。
「もちろんよ。ここでいいに決まってるじゃない」
「……そうか?」
だって引っ越しなんかしたらお金が勿体無いもん。
それなら私へのプレゼント代にでも回してもらう方がいい。
「…………なんだよ?」
「ううん……なんでもない」
何を買ってもらおうかと一人先走ってニヤついていた私を、ゾロが怪訝な顔で見る。
「いや……あの馬鹿ップルにも少しは感謝しなきゃな、と思ってね」
「まあ確かに…………おれ達がこうなったのは、あいつらに振り回されたおかげってことか……」
初めてこの男に会った時、第一印象は最悪だった。
こんな男と一緒に住むなんてあり得ない。そう思っていたけど。
ひと月同居してみたら、まさかこうして恋に落ちてるなんて。
好きになった相手となら四六時中一緒に居たい。
ビビが言ってたその感覚が、ようやく私にもわかったような気がした。
fin
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