SPLASH!


                                たっき 様



ピーカンのこんな夏の日の、サニー号の上での一味の日課は。

たくさんの洗濯物との格闘。
みんなで洗ってみんなで干して。
それでびしょ濡れになった甲板で、
恒例の、SUPER☆SPLASH!
大・水鉄砲大会だ。

「よーし野郎共!」
ルフィの掛け声に、一同チャキッ!と水鉄砲を構える。
「武器を手離したらアウト!海に落とすなどの反則をしたらアウト!『参りました』と言ったらアウト!生存者ゼロになるか、チームのストックのタンクの水が空になるまでの勝負だ!」
ルフィが言って、しししと笑った。

チームルフィは、サンジ、ロビン、フランキー、ブルック。
チームゾロは、ナミ、チョッパー、ウソップ。
「なあ、ロビンのあれ、ズルくないのか?」
チョッパーがロビンを見て言った。
ロビンはハナハナで増やした全ての腕に水鉄砲を持っている。
「ふふふ、でも武器を落としてしまったら負けになるから………不利なのかもしれないわ」
「そーなのか!ロビン大変だな!」
「チョッパー安心しろ!俺様の開発した水鉄砲の威力はハンパネーぜ!」
「うわあーウソップ、本当か!やったー」
チョッパーが嬉しそうに跳び跳ねた。

ルフィの合図で、一斉に飛び散る水しぶき。

「うっほぉー!負けねえぞ〜!」
「コラルフィ!ただガムシャラに打ってては水の無駄遣いだ!考えろ!」
「サンジの言う通りだぜ!ここはまかせろ、スーパージェネラルスプラッシュ〜!」
「フランキーあなたもよ!ここはふた手に別れたらどうかしら」
「それいいですね!負けませんよ〜!」

「こっちのチームは頭脳戦で行こうぜ」
「頭脳戦か〜ゾロはすごいな〜♪」
「で、なにか作戦があるの?また運任せとか無しよ!」
「それは………ウソップにいい考えがあるはずだ」
「なんで俺ぇ!?」

サニー号のマストの上によじ登る者、物陰に隠れて様子をうかがう者、思い思いの場所へと動きながら、容赦なく水鉄砲が発射される。

「ヘイヘイマリモちゃん、剣が無いから戦えないよなぁ〜覚悟しやがれ!」
「ふざけんのはそのマユゲだけにしとけクソコック!」
いつもより激しくいがみ合う二人に、
「あんたたち!水鉄砲関係なくなってるし!」
とナミが呆れて怒鳴った。
「どんなケンカしてもいいけど、武器を手離したら負けよゾロ!」

両チーム、たかが水鉄砲合戦とは言えども完全に本気である。
負けたチームは、終わり次第、甲板をデッキブラシで掃除しなければならないという決まりがあるから。
両者互角な戦いだが、やはり本人が言った通り、ウソップの改造版水鉄砲は群を抜いていた。

「見ろほら、こんな遠くからでもすげえ威力だぜ!」
ズババババババ!
ウソップの水鉄砲はもはや水鉄砲の域を遥かに越え、甲板の端から端までの長い距離さえ勢いが衰えずに攻撃できる。

「うひゃーっ、痛え!」
「まだまだ!」
「どこに隠れても無駄だぜ!」

どんどん白熱してくる水鉄砲合戦。

そんな中、ナミは、
(あっいけない、水着がずれちゃった)
そっと船の隅っこの壁に隠れた。

新しいマルチストライプのお気に入りビキニ。
紐が緩んでしまったみたい。
こっそりここで直さなきゃ………

緩んだ背中の紐を直そうと、水鉄砲を慎重に小脇にかかえる。
ついているタンクに水が満タンなので、両手で持たないと持てない重さなのだ。

ズババババババ!

「きゃっ!」

いきなり、どこからか凄まじい水しぶきが飛んできて、ナミの背中を直撃した。

どうやらその水しぶきは、ナミを狙ったわけではないらしく、ぐるぐるといろんなところに飛び交っている。
狙撃した人物の姿は見えないところをみると、ウソップが遠くから無差別に射ったのかもしれない。


「痛た……水でもけっこう背中痛っ……………あっ!ウソ!」


今の衝撃で、ビキニのブラがするりと外れた。


「や、やだ!」



慌てて胸を隠そうとしたとき、
いつのまに居たのか、目の前に誰かの背中があった。


 

背中は、ゾロだった。
なにげなく振り返ろうとするその広い背中に、ナミは、いきなり抱きついた。

「バカっ!こっち見るな!」

「は?な、ナミ?」

いきなり後ろからしがみつかれて、ゾロは目を白黒させる。

「な、なにやってんだお前」
なにがなんだかわからないまま振り返ろうととしてゴン!と蹴りを入れられた。
「見るなって言ってるでしょ!エッチ!」
「はぁぁ?」

見ると、ナミのビキニのブラが、甲板の向こうに落ちているのが見えた。
「なんだよ、そーゆーことかよ、ったく」
ブツブツと呟いて、ゾロは律儀に前を向いたまま言った。
「とにかく俺から離れろ。その、なにも、手で隠しゃいいだろ」
「ダメよ、武器を離さないと隠せないし、離したら負けちゃうし。それに…」

「あ、あんたから離れたら、あんたが見ちゃうでしょ!」

相変わらず水鉄砲ごと背中にしがみついたままナミはわめいた。

「見ねえよ!見ねえから離れろっての!」
「嫌よ!信用出来ない!」
「俺がアレを拾ってきてやるから」
「やだ、アレに触んないでっ、あたしが取ってくる!」
「じゃあ離れろ!」
「あんた見るから無理」
「てめェ〜、どーしろっつーんだよ!」
「騒がないで!誰か来ちゃうでしょ!」
「だからっていつまでもこーしてらんねェだろうが!」

ナミもパニクっているらしい。
とりあえずゾロの背中にしがみついて、武器(水鉄砲)をゾロの腹の前で両手で持っている。
甲板の隅の、船室へ入る壁の裏のほうで、うまいぐあいに死角になっているらしく、まだ誰にも気づかれてはいないようだ。
ワーワーキャーキャーと楽しそうに騒ぐみんなの声だけが聞こえてくる。

「要はアレを取れりゃいいんだろ」
ゾロがウンザリした様子で、少し先の床に落ちているナミの水着を指差す。
「そうよ、あんたこの体勢のまま、あそこまで移動してよ」
「このままってなんでだよ!お前自分で取ってこい、見ねえっつったら見ねえから」
「あんた見なくても、誰か来たらどーすんのよ!背中で隠しててよ」
「あーもう、めんどくせェな!」

すると遠くから、
「おーいクソマリモ、どこに隠れてんだ〜!サンジ様に恐れを成して逃げたのか〜?」
と声が聞こえた。

「ぬお!クソコックめ、あんなこと言ってやがる!」
ゾロがいきなり駆け出そうとする。
「ちょちょちょ、待ってよ、この状態のあたしを置いてく気?」
ナミが慌てて、ゾロの背中にくっついたままわめいた。
「今行かねェと、あの野郎から逃げたと思われんだろが!んなことになったらロロノア家末代までの恥……」
「たかが水鉄砲でしょうが!」
「そう思うならお前こそ武器を離せ!そうすりゃ両手が使えるんだろ!」
「やぁよ!自分から武器を離して負けるなんてもったいないでしょーが!」
「意味がわかんねェよ!とにかくはな………」

その時、またどこからか声が聞こえた。
チョッパーだ。
「ゾロ〜!ナミ〜!どこ行っちゃったんだよぉ!おで、一人じゃやられちゃうよぉ〜!」

「ぬうん、チョッパーが呼んでる!待ってろ今行………」
「ちょっと!」

怒鳴ってからナミは、ため息をついた。
「今思ったけど、あんたってさぁ…」
「なんだよ」

ゾロの背中にしがみついたまま、呆れたように言った。


「トップレスの女の子が、背中に抱きついてるっていうのに、なんとも感じないわけ?」


「あァ?」

「だから!あんた男でしょ!あたしほどのスーパーなモノが直接背中にくっついてるのに、無反応なの?
それよりサンジくんとの勝負とかチョッパーの援護のことしか頭に無いの?いったいどういう頭のつくりしてんのよ?」

いきなりのナミの攻撃?に、ゾロは一瞬ひるんだが、
「あのなァ俺をクソコックと一緒にすんなよ!いちいち仲間の女に反応するかバカくせェ」
いかにもくだらないと言わんばかりの言い草に、ナミは激昂した。
「バカくせェってなによ!つまりなに?あたしの極上の代物より、サンジくんのアレとかチョッパーのアレとかのほうが好きなのね!うっわ変態!」
「待てやコラ、コックのアレってなんだよ誤解招く言い方やめろ!」
「だってこのあたしの胸を見たがらない男がいるなんて、ホモとしか思えない」
「なんなんだよお前、見るなっつったり見ろっったり!」
「見ろとは言ってません!興味示さないのは変人だって言ってるだけです!」
「あのなァ!」

口でナミに敵う訳がない。

ゾロは無理矢理にぐるっと後ろを向いた。
「きゃっ!」
「そんなに言うなら見てやろうじゃねェか、この変態女!」
「きゃーっ!変態はあんたでしょ!見たらきっとビンビンになっちゃうんだから!そしたらあんたの負けね!」
「女のくせにビンビンとか言うな!」
「女のくせにって何よ!てか誰が見せるか!離してよバカ!」
「離せって言ってたのは俺の方だっつーの!」

怒り満タンにして詰め寄るゾロと、胸を隠して蹴りを入れまくるナミ。
「てめェがどんな格好してようが興味ねェっつってんだよ!」
「そんなこと言って本当はもう反応してんでしょ!海パン脱いで見せなさいよ変態!」
「だから変態はどっち………」




「…………なに、やってんだぁ?おめーら?」




いきなり間近で、ルフィの不思議そうな声がした。

「えっ……」
「うっ……」

ルフィだけではない。
取っ組み合いをするゾロとナミを、一味全員があっけにとられて眺めていた。

「きゃっーーーー!」

気づいてナミは胸を隠したまま背中を向けてしゃがみこんだ。

「マリモてめ〜、ナミさんになんてことを……」
誤解MAXにしてワナワナと震えるサンジ。
「ちょ待て、違うぞ俺は」
さすがのゾロも焦って腕をブンブンと横に振った。
が、もちろんそんなのはサンジの目には入らない。
「地獄で鍛えたこの脚で貴様を殺す!」

ルフィが面白そうに笑った。
「そーだな、野郎共!ゾロをやっつけろ〜!」

「待てえ、話を聞けバカども!うわぁー!」

サンジを筆頭に、全員の水鉄砲がゾロを襲った。




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