12月 andante      - PAGE - 1 2 3 4
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くいなは顎と肩で受話器を挟み、パソコンの端末を操作する。キーワードを打ち込んで検索。所定の書籍の情報が上がってきた。

「その本は書庫に入っておりまして、閲覧請求していただかなくてはなりませんね。しかも閲覧のみで、貸し出しはできません。はい、そうです。ではご来館いただいて、窓口で請求の手続きなさってください。」

受話器を置くと、間髪入れずに窓口に立つ人物から別の質問が来た。

「ジュラキュール・ミホークの写真集はありますか。」
「それなら、2階正面の芸術コーナーにございま・・・・・・・ゾロ、ここで何してるの?」

くいなが端末に向けていた目をゆっくりと質問者に移すと、そこには久しく会わない弟の姿があった。


ゾロは取材旅行の帰りに長野にある故郷を訪れたのだった。
くいなが勤める市立図書館を後にして、ゾロは一足先に実家に入ることにした。
車だったものだから、くいなに「送ってやろうか」と誘ったが、「けっこうよ。終業時間は6時なの。それまであなたにじっと待たれるなんて、御免こうむるわ。先に帰ってなさい」とぴしゃりと撥ねつけられた。
これが久しぶりに会う弟への態度か。抱擁とまではいかないが(こっちも恥ずかしいし)、もう少し喜色を見せてもいいのではないか。
相変わらず気が強い。昔からこの2つ上の姉にだけは頭が上がらない。

よく道に迷うゾロだが、故郷や実家へは迷わず帰れるようになった。これはある種の帰巣本能だろうか。
実家である歴史を経た日本家屋は時間を止めたかのように変わっていなかった。くいながしっかり守っているようだ。
家に上がってまずしたことは、仏前の父母の位牌に手を合わせること。ゾロの両親はゾロが就職した年に相次いで病気で他界した。姉弟とも既に仕事に就いていたので生活には困らなかったが、家族としてのまとまりが希薄になってしまった。ゾロは進学で東京へ出て以来、実家には寄り付かなくなっていたが、それに更に拍車がかかった。今回は帰省は実に2年ぶりになる。
自分の部屋も以前と寸分変わらなかった。掃除もちゃんと行き届いていて、くいなの几帳面さがよく現れていると思う反面、いつ帰るかも分からない弟のためにこうまでされるというのも面映い。

その部屋で今回の取材旅行をまとめていたら、玄関先で引き戸が引かれる音がしたので、パソコンを閉じて茶封筒を引っつかみ、茶の間へと向かう。
くいなは夕食にと寿司を買って帰ってきた。そうとは見せないが、くいななりにゾロを歓迎しているということなのだろう。
黙々と食事を終えて茶をすすり、一息ついたところでくいなが切り出した。

「それで、どうして帰ってきたの?」

自分の家に帰る理由が必要なのも妙な気がしたが、全然寄り付かない弟が姿を現したとあっては、姉としてもこう聞かざるをえないのだろう。

「身元保証人になってほしい。」

そう返すと、くいなは特に動じた様子も見せず「借金?」と聞いてきた。
ちげーよ、と茶封筒の中から契約書類を取り出して、ちゃぶ台の上に置いた。
くいなは神妙にそれを手に取り目を通す。

「英語じゃない。なんなの一体?」
「俺は来年から海外へ行く。ミホークについて。」
「―――。」
「『FNW』。野生動物保護基金。今度ミホークが立ち上げるNGOだ。俺はこれに参加する。これはその契約書だ。それには身元保証人がいる。」

さしものくいなもこれには驚いたようで、目を大きく見開いた。
それ本当の話なの?と訝しげに問うくいなに、ゾロは黙って頷いた。

「なに、じゃぁミホークとゾロが、一緒に仕事するってこと?」
「そうだ。」
「ゾロも海外へ行って、ミホークと?」

くいなは同じような質問を何度も繰り返す。その度にゾロは辛抱強く答えた。
そうして、ようやくくいなは納得がいったようだ。次の瞬間には頬を紅潮させていた。

「すごいじゃない!あのミホークと一緒に仕事ができるなんて!信じられない!ウソみたい!!」

はしゃいだくいなを見ることはめったにない。彼女はちょっとやそっとのことでは動じない性質だ。だからこういう反応は本当に珍しい。つまりそれほど興奮しているということだ。
それからゾロは、どうやってミホークと関わるようになったかなの詳しい経緯をくいなに話した。
一通りの説明を受けた後、くいなはため息をつく。

「あなたはズルイわ。昔から何でも私の後ろをついてきて、最後にはいつも飛び越えていくんだもの。」

ゾロは小さい時はお姉ちゃん子で、なんでも姉のマネをしてきた。姉が読む絵本をゾロも読み、姉が始めた剣道をゾロも始めた。姉が文章を書けば、ゾロも文章を書いた。そして、どんなことでも最後にはいつもゾロは姉を追い越してきた。
ジュラキュール・ミホークの写真集を借りてきてゾロに初めて見せたのも、もちろんくいなだった。それ以降、姉弟はペンギンとミホークに嵌ったので、くいなもミホークへの関心は高いし、かなり詳しい。

「本当にうらやましい。私も行きたいくらいよ。」

くいなにしてみれば、何気なく言ったことだったが、ゾロは妙に黙り込む。

「どうしたの?」
「・・・・・今の、本気か。」
「え?」
「行きたいなら、行くか?」

急に真面目な顔つきになった弟にくいなは虚をつかれたものの、今度は少し冷静になって考えてみる。

「・・・・ええ、もちろん、と言いたいところだけれど、やっぱり無理ね。仕事があるし。」
「仕事、辞められないのか。」
「職場に迷惑をかけてしまうからそう簡単に辞められないわ。ただでさえ人手不足だし。それに今の仕事が好きなの。一度辞めたら、次は正職員としては戻ってこれないでしょうね。図書館の司書は希望者が多いから。」
「戻らなけりゃいいんじゃねぇの?一生、NGOで働けば―――」

「ゾロ」と呼んで、くいなはその言葉の続きを制した。

「あのね、私はミホークのことはすごく憧れてるし尊敬もしている。でも、だからといって今の生活を投げうってまで彼の活動に参加することはできないわ。そこまでの情熱はないのよ。だからゾロ、自由に飛べるあなたがうらやましい。そうやって全ての情熱を傾けられるあなたが。」
「・・・・・・・。」


風呂から上がって自分の部屋に引っ込むと、既に布団が敷かれていた。今日は一応お客様扱いというわけだ。
携帯を取り出すと、10時を少し回ったところだった。もうナミは帰っているだろうか。
最近、ナミ非常に忙しそうだ。これまでゾロの帰宅が遅いのはしょっちゅうだったが、この頃はナミの方が遅い時もある。この間、バスの中で鉢合わせした日も終バスだった。
疲れも溜まっているようで、少し顔色が悪い。ナミの健康が心配だった。

ナミに電話を掛けてみたが、出ない。まだ仕事中なのだろうか。諦めてメールを打つ。といっても短いものだ。「今夜は長野。明日の夜帰る」それだけ。
帰省しているとは書かないし、それは出かける時にも告げなかった。
この時期に帰省したのは、できれば年内にNGOの契約書類を完成させ先方に送ってしまいたかったからだが、それをナミに勘付かれたくなかった。
できれば、ナミが答えを出すまでは海外行きを匂わすようなことはすまいと心がけてきた。ナミには自由な選択権を与えておきたかった。
ナミに一緒に来てほしいと言ったのは、ある意味自分のエゴだと思っている。だからこれ以上強要はしたくなかった。

あの言葉を告げてから、ナミは元気が無くなった。塞いだようになり、口数もめっきり減った。
ゾロの前では変わらず振舞っているつもりらしいが、さすがに分かる。空元気が逆に痛々しかった。
夜の方はもっと深刻で―――もう幾度となく身体を重ねて、ナミの感じるところはだいたい押さえたつもりなのに、ナミが燃えない。いや、身体はそれなりにイイ反応を返してくるのだが、気持ちが乗ってない。
あの言葉を言う直前のセックスがなまじ悦かっただけに、その落差が顕著だった。

ナミにも宣言したように、この仕事を引き受けない選択肢はゾロにはない。その一方でナミとも離れたくない。そうなれば、おのずと答えは出た。
恋愛経験が豊富なわけではない。別の女と出会うこともあるかもしれない。一生一人の女だけと思い込むほどロマンチストでもない。
けれど、本能が告げている。この女だと。この女と一生ともに生きていくことになるだろうと。
だから言った、あの言葉を。
今でもそれが間違っているとは思わない。
しかし、ナミが悩んでいる姿を見るのは正直堪えた。しかも悩ませているのは自分自身とあっては。
時折ナミが見せる辛そうな表情を見ていると、これでよかったのだろうかと思わざるをえない。
既にナミは自分の身体の一部のように感じていて、ナミが嬉しそうであれば、ワケが分からずともゾロも嬉しいし、苦しんでいたら、まるで我がことのように苦しい。
この頃は離れていてでさえナミに想いを馳せている。今この瞬間も健やかであるだろうかと。
こんなことはかつてなかった。

ああ、完全にあの女に参っちまってるな。

しかし、そんな自分が嫌ではなかった。



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「ガラパゴスってどこにあんだ?アフリカ?」
「アホ。南米だ南米。エクアドル共和国。」
「そこって何語圏?フランス語?」
「スペイン語だな。もちろん、現地の言葉もあるけど。」
「英語の次はスペイン語かよ。」
「1年中そこで滞在するわけじゃねーよ。調査の始めがそこってだけで。だからとりあえず英語ができりゃ、な。」
「なんだ、スペイン語かー。イタリア語ならちっとは教えてやれるのによぉ。」

と、サンジはコップを傾けつつニヤリと笑う。サンジは大学卒業後、少しの間イタリアに料理の修業に出ていたことがあるのだ。
それに対しゾロは、教わるにしてもお前だけにゃ頼まねーとぼやいた。


帰省の翌朝早々に長野を発って、東京へ戻ってきた。
まず車を返しにサンジの店へと出向いたものの、店はまだ開いておらず、それどころかサンジはまだ寝ていて、結果的にゾロが叩き起こすことになった。
イタリア料理店てのは12月は超々忙しいのだと、醜態を晒したサンジは決まりが悪いのか寝ぼけ眼でいろいろ言い訳をしていた。
学生時代以来だろうか、久しぶりに通されたサンジの部屋は、ゾロのアパートの部屋と違い、ごちゃごちゃと物が堆積している。8畳ぐらいの部屋なのにベッド、低い楕円形のテーブル、その上には灰皿、タバコ、チラシか何かの紙とペンがいっぱい。他には座椅子、クッションがたくさん、テレビ、オーディオ機器、本棚、クローゼット、それから服。服はクローゼットから溢れるようにして床のあちこちに積み上げられている。
そんな中でも目を引くのがパンダだ。ナミの会社のブランド『どすこいパンダ』のマーク。それが付いたグッズがそこかしこに見られる。サンジがこのブランドが好きだとは知っていたが、ここまで揃えているとは。ゾロを迎えたサンジ自身も、しっかりとそのマークが入ったジャージを着込んでいた。

サンジにも海外行きのことを伝えると、「そっか、よかったな」と短い言葉が返ってきた。
大学の頃からつるんでいるサンジは、ゾロがいかにミホークに傾倒しているかをよく知ってる人物の一人だ。特に話した覚えはないのだが、じっとミホークのペンギンの写真集へ向けるゾロの異様に熱い視線に気づいたのかもしれないし、もしかしたら酔った勢いでゾロがサンジに何か口走ったのかもしれない。とにかく、いつの間にかサンジは知っていた。
そして、ゾロがいつの日かミホークを追って海外へ行くために金を貯めていることも知っていたし、何かにつけて協力もしてくれていた。
仕事前だから酒は飲めないというのでミネラルウォーターで乾杯し、しばらくまだ見ぬ土地『ガラパコス諸島』についての話に花を咲かせた後、抜け目なくサンジが訊いてきた。

「で?ナミさんはどーすんだよ?」

ゾロが海外へ行く云々よりも、そっちの方がはるかに気になるようだ。

「一緒に来てくれないかって、言った。」
「マジでか!」
「ああ。」
「頑張ったなオイ。で、返事は!?」
「考えさせてくれって。」
「そっかぁ・・・・、まぁそうだろうな。」
「何が『そう』なんだよ。」
「だって、ナミさんにも仕事あるし。」
「・・・・・。」
「いや、でも分かるよ。ナミさん一人残していけないよな。いろいろ心配じゃん。」
「心配?」
「ほら、彼女かわいいし、一人日本に残しておいたら、すぐに言い寄るヤツが出てくると思うね。」

例えば俺とか、とサンジが茶化して言うのを、ゾロは呆れた目で見る。
しかし、言われてみるとそういう心配もあった。サンジはともかく、エースがどう出るのかと考えると心中穏やかではいられない。

「でもやっぱりちょっともったいねぇよな。ナミさん、今の仕事向いてそうだし、才能もセンスもある。将来、すげーヒット商品とか作り出しそうなのにな。」


―――私もいつかこういうブランドを一つは作ってみたいな


不意に蘇ってきた、初めてまともに会話をした日に聞いたナミの言葉。
ナミの店で、このパンダマークの商品が並ぶ前でのことだった。
あの時の生き生きと輝いていた瞳はとても印象的で、仕事に対する情熱と愛情が溢れていた。
しかしそれは、ナミがもしゾロについていくのなら、おそらくは手放さなくてはならないもの。

ゾロと同じくミホークを敬愛しているあのくいなですら、今の生活を取ると言った。
ましてやナミは、ゾロと出会うまでミホークの存在すら知らなかったのだ。そんなナミに今の生活を捨てさせなくてはならない。もちろん、仕事以外のものも。
ナミが俺と共に在りたいと考えさえすれば選べることだなどと、少し安易に考えて過ぎていた。そんな簡単なことでないのだ。
今更ながらそんな考えが脳裏を過ぎる。

「で、もしナミさんが断ったら、どうすんだ?」

とうとうサンジが核心を突いてきた。

「それはナミの判断だ。甘んじて受ける。」
「へー、潔いじゃねぇか。じゃあ俺は晴れてナミさんにアタックできるってわけだ。」
「なんでそうなるんだ。」
「だって、別れるってことだろ?」
「別に、別れるわけじゃねぇよ。」
「じゃ、待っててくれって言うわけ?」
「それは・・・・・」

ゾロは言葉に詰まる。待っててほしいとは言葉では言えても、いつ帰れるかも分からない我が身なのだ。
生態調査は1年としても、その後もミホークの元から去る気はない。彼とともに世界を駆けて、彼のルポタージュを書いていこうと思っている。故郷に錦を飾るというわけではないが、何か成果を上げずして帰国はできないし、しない覚悟だ。つまり何年も、下手をすると何十年も帰れないかもしれない。
それなのに、どうしてナミに待ってろと言えるだろう。

「ナミさんが断ったら、お前ら終わっちまうってことだぞ。いいのかそれで。」
「しかし―――」
「分かってる、お前はそれでもミホークのところ行っちまうんだろうよ。ずっと追い続けてた夢だもんな。それを掴まない手はないよな。そんで、そんなこたぁきっとナミさんだって承知の上だと思うぜ。だからこそ、軽々しく答えを出せねぇんだよ。」

答えを出せば終わってしまう。彼女はそれを知っている―――とサンジは思う。

「お前、ズリぃ奴だよな。キツイ決断は彼女に押し付けて、『こうなったのはキミのせいだよ、ボクは悪くないからね』ってワケか。」
「!」

そんなつもりはなかった。
なかったが、結果的にそうなってしまっていたことに気づいてゾロは愕然とする。
ナミが近頃見せる憂いを帯びた表情。
あの裏に隠されていたものがこれか。

ナミを苦しめたくて言ったわけではない。

ずっと共にいられたらと、ただそれだけだった。



♭          ♭          ♭




最初は編集部に寄ろうかと思っていたが、そんな気分になれず、サンジの店を出た後は直接アパートに帰ることにした。
バス停から歩いてきて、まずナミのマンションを見上げる。カーテンがきっちり閉じられている。まだ昼下がりだ。今日は平日だし、ナミが帰ってきてるわけがない。
自分の部屋に入り、玄関先にドサッとカバンを落とす。部屋の中を通り過ぎ、窓側へと向かう。片方だけ引かれていたカーテンを無造作に開け、ナミの窓を見ながらポケットから携帯を取り出すと、着信とメールが一件ずつ入っていた。どちらもナミからだ。ちょうどサンジの部屋にいた時間帯のもので、マナーモードにしていたから着信に気づかなかったのだ。
メールには「お疲れ様。今夜はなるべく早く帰ります。うちのお風呂使っていいわよ」とあった。ゾロが最近ナミの風呂を気に入ってることを見抜かれている。

ナミのマンションの部屋の前に立ち、合鍵を取り出した。鍵穴に挿そうとするが、いつものことながら少々戸惑う。合鍵を互いに持ち合ってはいるが、ゾロがこれを使ってナミの部屋に入ることはめったにない。どうも女の部屋に勝手に上がりこむのは性に合わない。
軽い金属音を響かせてドアを開けると、ガツンと抵抗にあって開けられなかった。ドアにチェーンが掛かっていたのだ。

(チェーン?)

ドアチェーンは普通、家主の不在時には掛かっていないものだ。
これが掛かっているということは。

「・・・・だれ?」

弱々しくかすれたようなナミの声が中から聞こえた。
頭が混乱する。なんで、こんな時間にナミが家にいるんだ?仕事はどうしたんだ?

「俺だ。」
「え、ゾロ?」

夜になるんじゃなかったのと言いながら、ドアが一度閉められ、チェーンが外される。そして再度開いた時、そこに立っていたナミはパジャマにカーディガンを羽織った姿だった。
玄関の柱にもたれて身を支えており、顔色も悪い。目は熱をはらんで潤んでいる。

「一体どうしたんだ。」
「体調崩しちゃって、早退させられたの。」
「大丈夫なのか?」
「ちょっと熱あるけど、だいぶ下がったわ。お医者さんに行って注射を打ってもらったから。」

そこまで会話して、いまだに玄関先に佇んでいることに気づき、ここでは寒いとゾロはナミを部屋の中へと追い立てる。
寝てろと言うと、逆らうことなくナミはおとなしくベッドの中に入って横になった。
ゾロは布団をかけ直してやった。顔の下半分を覆ってしまったので、ナミは大きな茶色の瞳だけをゾロに向けている。

「嬉しい。ゾロが早く帰ってきてくれて。ゾロの顔を見たら少し元気になった気がする。」

寝汗で額に髪を張り付かせながらも、ナミは目を細めて淡く微笑む。
それはいつものナミの笑顔に見えた―――憂いや悩みを抱える前の。
しかし、もしかしたらこれも強がっているだけなのかもしれない。
いつもの空元気で、いつものように振る舞おうと作っているだけの笑顔。
そう思うと胸がキリッと軋みをあげた。
そうまでしてナミに笑ってほしくはなかった。

「ナミ。」
「ん?」

「この前言ったこと、無かったことにしてくれないか。」

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