「おいっ!マジか?…いいんだな?ほんとにいいんだな?!」
「バカッ!声が大きいわよ…!」
ナミはそう言ってみかん畑の影からキョロキョロと辺りを見回す。
互いの気持ちを確かめ合ってから、1ヶ月。
もう断る理由は出し尽くしてしまっていた。
「今日はロビンが見張りだから…皆が寝てから部屋に来て」
「了解」
ニヤリと嬉しそうに笑うゾロをナミは苦笑しながら見つめた。
The Love Trial 前編
プヨっち 様
夕食後の女部屋にはナミの下着が何枚か広げて置いてあった。
どれも上下セットで、左から順に白、水色、紺色、紫色、黄緑色、黒…キュートだったりセクシーだったりとデザインも様々だが、全てナミの美しい身体を引き立てられるものである。
「どうしたの、航海士さん?」
「…ロビン!お風呂早かったわね…」
「そうかしら?いつもどおりだと思うけど」
タオルで濡れた髪を拭きながら、ロビンは階段を下りてきた。
「あ、もう30分以上経ってたのね。私も入らなきゃ」
「それで…今日はどの下着をつけるの?いつも寝るときにブラジャーしない主義の航海士さんは」
「い、いいでしょ!私だってたまにはするわよ、寝るときにブラくらい…!」
うろたえて顔を赤く染めるナミに向かって、ロビンは含みのある微笑みを投げかけた。
「私は、コレがいいと思うわよ?初々しくキュートな感じがして」
「えっ?そうかな…ん、じゃあコレにするわ。お風呂、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
ロビンの指差した黄緑色の下着を手にとって、ナミは女部屋を後にした。
風呂から上がり、何か冷たいものでも、とキッチンを訪れたナミをサンジが迎え入れる。
「ナミさん、お風呂上りにアイスティーでもどうかな?」
「ありがとう!もらうわ」
「今夜は少し、蒸すね…」
「ええ、一雨きそうだから」
出来上がったアイスティーのグラスをコースターの上に乗せながら、サンジはナミの向かいの席に腰を下ろした。
と、その時サンジはナミのいつもと違う様子にすぐ気づいた。そして、それが何を意味するのかも。
ナ、ナミさんが、普段夜にはつけないブラをしている…ってことは、ついに…ついにアイツにーーー!!!
麗しの航海士嬢が自分と犬猿の仲の剣士と恋仲になったこと自体も認めたくなかったサンジだが、1ヶ月間、2人がまだプラトニックな関係らしいことをしっかり把握していた。ラブコックの名は飾りではなく、恋人たちを見れば一線を越えているかどうかくらいの見分けをつけることはできた。
しかし今日の見張りがロビンで、ナミがブラを着けていることを考えると、いよいよ2人がコトに及ぼうとしていることは容易に想像できる。
「どうしたの、サンジくん。顔、変に歪んでるわよ…」
「あ、イヤ…その…」
ついに今夜ヤるの?と聞くわけにもいかず、サンジは視線を逸らした。
「それじゃ、ごちそうさま。おやすみ」
「お、おやすみ…」
結局止めることなどできず、サンジはナミの後姿を見送った。
ま、ナミさんがアイツを好きだってんなら仕方ねぇか…。
ラブコックは静かに、恋人たちに幸せな夜をと祈った。
ナミは部屋に戻り、バーカウンターに腰掛けてカウンターにうつ伏せた。
男に抱かれるのは初めてではない。しかし、それは同意の上のものではなく…無理やりと言うことも何度かあったし、ヘマをして自分の身を守るために仕方なくということもあった。早く終われと念じながら、いつも必死に耐えた。身体の痛みは初めのうちだけだったが、ゾロと恋仲になった今になって違う場所についていた傷が痛む。
この1ヶ月の間に、キスは何度もした。抱きしめあって、互いの体温を確かめ合った。しかし、その後‘そういう’雰囲気になってしまうと、カサブタが一気に剥げた時のようにその傷が痛みだす。
「まだ早いと思う」「体調が悪い」「生理になってしまった」「ベッドじゃないとイヤ」。これらの理由では、もう拒めない。
「じゃ、見張りに行ってくるわね」
「ロ、ロビン…!もう、行っちゃうの?」
「ええ…時間だもの」
「もうちょっと…いてくれない?」
「…?」
ロビンを引き止めてどうなるわけではない。今夜、ゾロに抱かれるのだ。
それでも、どうにかしたかった。
「ロビン、私…」
ナミは胸に溜めていた思いを、ロビンに話した。
「そうだったの…やっぱり今夜も、やめておく?話せば剣士さんもあなたが落ち着くまで待ってくれるかも…」
「イ、イヤ!ゾロには、やっぱり知られたくないの。それに…今夜を逃したら、もうずっとダメな気がして」
「気休めにしかならないかもしれないけど…私も、そういうことが何度かあったわ。でも、愛している人に抱かれたことだってある。同じセックスでも、本当に全然違うの。だから、剣士さんを信じて…ね?」
「う、うん…」
ロビンを見送り、ナミは少し気持ちが落ち着いていることに気づく。
もう決めたんだもの…今夜、抱かれてみよう。
ドン、ドンと2回強くノックされ、ナミは口を引き締めて扉をあけた。
「…どうぞ」
「おぅ」
ゾロの様子もやはり落ち着かず、そわそわとしていた。
ナミと目を合わそうとせず、部屋を見回している。
「何か、飲む?」
「あ…いや、いい」
そう言ってゾロはナミの腕を軽く掴んだ。ビクリとナミは反応する。
「本当に、いいんだよな…?」
「うん…」
ゆっくりと2人の身体が近づき、視線がぶつかる。
ナミはゾロの首に腕を回し、ゾロはナミの細い腰をかき抱く。
ちゅっ、と音を立てて軽く口づけた後、2人が同時に互いの口内に舌を侵入させようとして舌がぶつかる。いつもであればこんなことは起きない。今夜の2人が緊張している証拠だった。
ナミが自分の口への侵入を許し、激しく動き回るゾロの舌に自分の舌を絡め合わせた。
「…ふっ、んっ…」
くぐもった声と2人の息遣いが静かな部屋に響く。
息つく間もなくゾロは舌を奥深くまでねじ込み、力の抜けそうなナミの体を支えた。
ようやく唇を離したときには、ナミの顔は酸欠で真っ赤になっていた。立っているのもやっとだと言うくらいの頼りない膝をゾロは軽く持ち上げ、ナミは首にしがみついた。そのまま、ベッドまで運ぶ。
ギシリという音を立ててナミはベッドに仰向けに横たえられた。
「…ぬ、脱げよ」
「え、あ…うん」
こういう時は男が脱がせるものではないのかと思いつつも、ナミはゆっくりとキャミソールを脱ぎ、綿の短パンをベッドの端に脱ぎ捨てた。
ゾロはゴクリと唾を飲み、レース使いの黄緑色の下着姿になったナミに手を伸ばした。
フロントホックはすぐに外れ、豊かで張りのある胸がわずかに揺れてゾロの目の前に晒された。桃色のその中心があまりに美しく、何かの実のように美味そうで、ゾロはしばらくそれを見つめてしまう。
「そ、そんなにじっと見ないでよ…!」
「あ、悪ィ…」
ゾロはナミに覆い被さり、もう一度深く口づけた。
シャツ越しに柔らかい乳房と2つの赤い実の感触が伝わり、さらに強くナミを抱きしめる。
ナミの唇から首筋、肩、胸元にと自分の唇を移動させ、舌と歯を使ってゾロはぎこちなくナミを味わい始めた。
太く無骨な指で胸の先端をキュッと摘み、もう片方を口に含んで舐めあげたとき、「あっ…」とナミの声が漏れた。
その顔は今まで見た中で段違いに艶かしく、目の前の女をもっと喘がせたいとゾロは思った。それほど多くの女を抱いたことがあるわけではなかったが、絶対にナミを満足させてみせると息巻く。
ゾロの左手がゆるゆるとナミの下腹部へ降りてくる。
その動きにさえ、ナミは敏感に反応してしまう。鳥肌の立つような柔らかい刺激が体中を駆け巡る。
「ゾ、ゾロも早く脱いでよ…私ばっかり、恥ずかしいじゃない」
秘部を覆う黄緑色の布にゾロの手が掛かったとき、そう言ってナミはゾロのシャツの裾に手を掛け、一気に上へ押し上げて脱がせた。右肩から斜めに走る傷は、今でも痛々しいが今夜はゾロの色気を増長させているようにも見える。
上半身裸になったゾロは、またナミの胸元に顔を埋めて左手でするりと最後の一枚である小さな下着を脱がせた。ふくよかな胸とくびれた腰、細いが柔らかい太腿…そして待ち焦がれていた秘部を隠す、薄い陰毛が目の前に広がる。軽く胸に口づけながら、手を伸ばす。そこは、少し濡れていたがまだ十分ではない。手で小さな突起を探り、擦るように弄ぶ。
「んんっ…」
ナミは小さく何度も襲う快感と共に、少し体の力が抜けるのがわかった。
やっぱり他の男と全然違う…ゾロになら、抱かれてもいい。
そう思った時。
「きゃっ、あっ…」
ゾロの太い中指が、だいぶ潤ってきたナミの中へと入る。
そこは少し抵抗しながらも、ゆっくり指を受け入れた。
ねっとりと愛液が指に絡みつき、掻き混ぜたり出し入れをする度にチュップ、チュップと淫らな音を立てる。
その音に触発され、ゾロはナミの太腿を押し広げてそこに顔を埋めた。
「えっ!ちょっ、やぁ…んっ、そんなトコ…」
急にザラザラした熱いものが動き回るをそこに感じてその快感に膣はひくついていたが、ナミはゾロの頭を掴んで離そうとした。今まで自分を抱いてきた男たちは、手で触りこそしたが、そこを舐めたり吸い付いたりしたことはなかった。ある程度濡れたら、すぐに自分の物を取り出しピストン運動に没頭したのだった。
「何言ってんだ、気持ちいいんだろ…?」
鼻の頭まで愛液と唾液で濡らし、ゾロはニヤリと笑った。
「そ、そうだけど…」
「もしかして、もう…欲しいのか?」
そう言われ、ナミは一気に頬を染めた。
ゾロは今度は2本指を入れて、ナミの反応を伺った。
「あ、ゃん…あぁっ…はぁ…ん!」
背中を反り返らせ、ナミの息遣いが荒くなる。
「そろそろ、いいか…?」
「うん…いい…よ」
上々の反応を見せるナミを見て指を抜き、口の周りをペロリと舐めた後、ゾロはズボンを脱いで全裸になった。
…絶対、満足させてやる。
一糸纏わぬナミの身体が自分の指や舌に翻弄されて快感を貪る姿と艶やかな喘ぎ声に刺激されて、ゾロの男根は反り返るほどにそそり立っている…はずだった。
「あ゛、あれ…?」
「…どうしたの?」
間の抜けたゾロの声に、ナミが上半身を起こす。
「い、いや何でもない!ちょっと待ってろよ?」
「うん…?」
ナミは再びベッドに横たわり、ゾロの侵入を待った。
指や舌とは比べ物にならないほど大きなモノが、自分の身体に入ってきて繋がることへの期待感でナミの心臓は大きく速く脈打っていた。
しかし、ゾロはまだ何かゴソゴソとやっている。
コンドームをつけるのに手間取っているのかと思えば、そうではないらしい。
「ゾロ…?」
熱っぽく自分を求めるナミの声に、早くナミの中へ、とゾロは焦った。
しかし、焦ったところでどうにもならなかった。
これほどナミを欲し、そのあられもない姿に興奮しているというのに。
ゾロは、勃起していなかった。
「もうちょっと…ここをこうやって…っかしいな」
「だ、大丈夫なの?」
「だぁ〜、お前はじっとしてろって!」
焦りから、口調も荒くなりナミは訝しげにゾロを見つめた。
そして、問題の部分に視線を移す。
「……!!」
「み、見るなっ!」
そう言っても、もう遅かった。
ナミは少し青い顔をしてゾロに聞く。
「わ、私のせい…?私じゃ、勃たないの?」
「んなわけあるかー!!や、もうちょっとなんだが」
ゾロは手で扱いてなんとか機能させようとしたが、それは全く自己主張しないままだった。
「とりあえず今日は、やめとく…?」
「何言ってんだ、やるに決まってるだろ!」
「でも…」
ナミが再び視線を股間に落とすと、ゾロはそれに耐え切れなくなりとうとう観念した。
「…悪ィ」
「いいよ、また今度…ね?」
まだ中途半端に火照っていた体が急速に冷めていき、ナミは下着をつける。
ゾロはやり場のない思いを抱えたまま、服を着て女部屋を去った。
「くっそ、なんでこんな肝心なときに…」
ゾロが初めて女を抱いたのは16の時だった。
修行の旅に出てから賞金首を倒しながら、1人酒場に入ることが多かった。ゾロの強さを知り、その時に金を持っていると判断すると商売女は我こそは、と傍に寄ってくる。
最初はやはり興味本位で、なんとなく好みに近い女を抱いた。「すごく大きいのね」だとか「太くて美味しそう」だとかどの女も自分のモノを見て驚いた。それは一種の強さに通じるものだという気がして、それなりに誇らしく思っていた。
最後に女を抱いたのは、もう1年くらい前になる。
この船に乗り、陸と縁が薄くなってから貴重な陸での時間をそれに費やそうとは思えなかったし、何よりそんな金がない。借金があるくらいだ。その金銭管理をしている、その女に惚れてしまったのはいつだっただろう。
1ヶ月間、手を出さずにナミの言うとおりに待った。見え透いた嘘もあったが、無理やりするのは趣味じゃない。そんな時、仕方なく自分で自分を慰めた。
しかし、ゾロはかなり溜まっていた。気持ちを確かめ合ったと言うのに、すぐ近くで好きな女が眠っていると言うのに…抱けない。そのもどかしさが今夜一気に解放されたはずだったが、1月分のモヤモヤした気持ちがゾロの精神的な何かに影響していたのかもしれなかった。
ゾロはイビキの響く男部屋へ帰り、自分のハンモックで眠った。
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(2004.07.16)