暦上では2月の14日だってぇのに、水仕事が心地良い事この上ねぇ。
室温只今43度、近くに在る夏島の影響をモロに受け、GM号船内はちょっとしたミストサウナ状態に陥っていた。
ただ立っているだけでも体中から噴出しだくだくだくだく流れ落ちる汗・・ああいっそ頭を流しん中ダイレクトに突っ込んでしまいてぇ。
灼熱地獄の中での昼飯用意そして後片付けをし終えた俺が、キッチン台にもたれて骨休みの一服を取っていた時だ。
扉がきいと開き中に入って来たのは・・・我が麗しのナミすわんだった。
「どうしましたナミっすわん♪お茶のご所望ですか?紅茶ですか?煎茶ですか?番茶ですか?ほうじ茶ですか?抹茶ですか?昆布茶?烏龍茶?ジャスミン茶?甜茶?減肥茶?ギャバロン茶?十六種類の十六茶?その他諸々何なりとリクエストのお申し付けを〜♪」
何時もの如く小躍りしながら近付きハイテンションで問い掛ける俺・・・が、どうにもナミさんの様子がおかしい・・。
閉めた扉にもたれ俯き何だかモジモジ、顔ははにかむ様にぽっと頬染めそのまま沈黙・・・な、何だ・・?何か
俺に言いたいのかナミさん・・?

「・・・あのね・・・サンジ君・・ちょっと、言い難いんだけど・・私に、教えてくれるかな・・?」

瞬間、咥えていた煙草がポトリと床に落ちる。

・・・お、俺に教えて欲しいって・・ナミさん、まさかー??






恋は一人上手にラブハリケーン  −1−
            

びょり 様




「最初は自分1人で作るつもりだったのよ、ほら、昨日の夜サンジ君にキッチン借りたでしょ?実はあの時こっそり作ってたりしたんだけど、でもチョコなんて年に1度作るか作らないかの物じゃない、作り方うろ覚えで1人じゃ二進も三進も行かなくなっちゃってー、んで本日諦めてサンジ君にお願いしに来たってワケ。」
俺の隣、キッチン台の前に立ち包丁で板チョコを細かく刻みながら、ナミさんは話し掛けて来る。
「あはははははーそうですよねー、こんなちっと作るだけで即1千ベリー飛んでっちまうような、七面倒臭い製作手順は必要だわな代物なんて、普段そうそう作らないですよねー。」
「でしょでしょ?バレンタインチョコなんて結局はお菓子屋さんの営業戦略陰謀策略から生れたモノであって、この日チョコを渡す事に何の根拠も伝統も無い事なんか自分も重々承知のすけなんだけどやっぱり女の子としては素通り出来ないイベントというかねー、本当はロビンも一緒にって誘ったんだけど『私はもう女の子なトシじゃないから〜』なんて付き合い悪いったら!」
「あはははははーロビンちゃんらしいなー、でもロビンちゃんだって未だ28歳、充分女の子としてイケテルと思うけどネ、そもそもレディは並べてその花の生涯閉じる時まで無垢な少女の心を胸に秘め生きてくものなのですヨ。」
刻んだチョコをボールに入れ湯煎にしながら始終話し掛けて来るナミさんに俺も相槌を返す。
・・成る程、さっきのはにかみ様は、『女の子なのに男にお菓子の作り方を教わるなんて恥かしいワ』な気持ちから来たもんだったんデスネ、ナミさん・・フフフ・・期待が外れてちょっとだけメロリンショボン・・。
ま、まぁしかし・・お陰でこうしてナミさんと2人、キッチンに並んで調理をするなんて、まるで新婚夫婦の様な夢の光景を実現出来た訳だからして。
嗚呼ナミさん、俺の傍でオレンジのエプロンを纏いしその姿、正しく貴女はお嫁に来て欲しい女性bP。
エプロンの下が肌も露なキャミ&ミニスカというのがポイント高い、前から見ればふくよかなバストを強調しつつも清楚なサマードレス風、だがしかし後から見れば大きく覗ける肩や背中や腕や太腿の抜ける様な白さが眩く裸エプロンにも似た興奮を覚えさせる。
調理の邪魔にならぬ様、頭上に留めたオレンジの髪は汗を吸ってしっとり湿り、露出した項そして愛らしい顔は外気の熱にのぼせて湯浴みした後が如くにほんのりピンクで艶っぽい、誠に素晴らしきかな常夏熱帯気候わんだほー!
嘗て、ナミさんと俺がこんなにも長い時間密着出来た事が有っただろうか?いや無い。
まったくもって聖バレンタイン万々歳だ!

チョコを手作りするのは調理に慣れてない人間には至難の業だ。
溶かすにしたってただ直火に掛けりゃ良いってもんじゃねぇっつかそんな事したら油脂分が分離してツヤは無くなるわ上手く形にならないわで謎の物体Xと化しちまう。
チョコを美しく仕上げる為には1にも2にも『テンパリング』、温度調節に気を遣わねば。
このテンパリング、言うは易く行うは難しで、溶かしたチョコの温度を先ず45〜50度Cにし、続いて26〜27度Cまで下げたら、今度は30〜32度Cまで上げて保つという、とにかくアップダウン忙しなく大いに手間の懸かる作業なのだ。
特に今日みたいな高温多湿な室内環境は、チョコを製作するにゃ不適応極まりなく、俺はアルミラップや氷やドライアイスまで動員して何とか外気に影響されぬ様ナミさんのチョコ作りをサポートしたのだった。

テンパリングしたチョコレートに蜜柑を1房づつ潜らせ、冷蔵庫で冷やし固めたナミさん手製の蜜柑チョコは、如何にも『手作り』らしい見栄えではあったが、それ故製作中の一生懸命さが透けて見える様な、微笑ましい完成具合だった。
「はァ〜やぁっと完成〜♪んもう、チョコって要は溶かして固めるだけだってのに、どしてこんなに手間懸けなきゃいけないんだかっ!」

・・・そうか、今日は2/14日聖バレンタインデー・・全世界のレディ達が切なく胸に秘めた心を甘く蕩けるチョコに忍ばせ愛する男に贈る日・・そして手作りチョコといえば・・・紛うかたなき大本命にあげる物と相場が決まっている。
・・・・ってぇ事はだ、このチョコは・・・ナミさんの大本命・・・意中の男に渡される物・・・?
・・だ、誰だ!そんなドリームジャンボ宝くじ大当たり並にクソお幸せな野郎はっっ!?
「・・くん、サンジくーん??」
「うはぁっっ!はははいいっっ!!?」
ふと我に返ると、ナミさんが俺の眼前で手をひらひらさせながら覗き込んでいた。
「どしたの?そんな腕組して難しい顔で考え込んじゃって?」
「いいいいや、ちょっと頭がトリップしてスリップしてストリップしちゃってたみたいで・・・ハハハ・・で、何?」
「はいっ♪1つ、味見して貰えるかなァ?」
ナミさんはそう言うと、完成した蜜柑チョコの中から1粒摘み上げて、俺の手の平にそっと乗せてくれた。
「どう?・・ちょこっと甘過ぎたかな?」
「ん、いや、俺はこれ位甘い方が、中の蜜柑の酸っぱさも生きてて好みだな。」
「良かったァ!・・やっぱりあげる人の好みに合せるのが1番だもんね!」

え・・・?ナミさん・・・今何て言っ・・・

―バターン!!!

「美味そうな菓子の匂いがするぞぉぉぉ!!?」
「チョコの匂いだァ〜!!」
「何だぁ?この白い煙??・・まさか火事じゃねぇだろうなぁ〜!?」
「ルフィ!チョッパー!ウソップ!・・んもう現れたわね三馬鹿ァ!・・あんた達には関係無い事なんだから、大人しく出て行きなさい!!」
「何だよナミィ!!おやつ独り占めなんてズリィぞぉ!?」
「オレもおやつ食いたいぞォ〜!!」
「い、いや、俺はただ火事かと心配して駆け付けてだなぁ・・!」
「あんたと一緒にしないでルフィ!あれはおやつじゃないのよチョッパー!ウソップ、あの白い煙はドライアイスを焚いたからであって火事じゃないの!解ったら3人とも早く出てけ!!」
「ああっっナミさん!!さっきの台詞、どういう意味で・・!?」
「ごめんサンジ君!私、ちょっとこいつら外に引き摺り出すから、チョコの保管とか後片付けお願いね!」

―バタン・・!!

『やっぱりあげる人の好みに合せるのが1番だもんね1番だもんね1番だもんねもんね・・・』

・・俺1人残されて、静寂に包まれたキッチン内に、先程のナミさんの台詞がエコー掛けて甦る。
眩暈に襲われ立って居られなくなりテーブルに手を付くと、ナミさん手製の蜜柑チョコが目に入った。
・・そうだ、早く冷蔵庫に戻さなければ、この南国トロピカルな室温にやられておしゃかになっちまう。
1ヶづつ丁寧に素早く、俺はチョコをトレイに並べてラップを被せ、冷蔵庫の奥深くに仕舞い込んだ。

全ての後片付けを終えて・・考えを纏めようと、椅子に腰掛け煙草を吹かす俺。
ふう、と吐くと、見事に煙がハート型になって宙に浮かんだ。

ナミさんは俺に味見をさせた・・・それはあげる人の好みに合うから・・・あげる人・・・チョコをあげる人・
・・即ちチョコをあげる人とは俺の事・・・?手作りチョコは大本命に渡されると相場が決まっている・・・という事は、まさか・・・?

ナミさんの大本命で意中の男とは、つまりは俺の事・・・!?

幻覚だろうか・・?目の前に春のお花畑が広がっているように見える。
幻聴だろうか・・?バックからヴィヴァルディの『四季―第1番ホ短調、春』が流れて来るように聞える。

春だ・・春が来たのだ・・脳味噌が沸騰する程の陽気であろうとも、バケツ10杯分は汗を流してんじゃねぇかと思えても、俺は今、この身に確かに春を感じている。

温かな日差しの下、花々はパステルカラーに咲き誇り、薄絹を纏った美しい女神達が樹々を縫う様に戯れ舞踊る・・。

そんな・・・そんな『俺の春』がやって来たのだ・・・!!




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(2004.03.07)

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<管理人のつぶやき>
びょりさんの投稿作品第3弾!!
ついにナミの本命の人が明らかに?そして、その相手はサンジくんなのかッ。
さてさてどうなることやら。笑い過ぎに注意!(どういう注意だよ・笑)

 

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