恋は一人上手にラブハリケーン −2−
びょり 様
待て俺!早まるな俺!浮かれてる場合じゃないだろ俺!
激しくリズムを刻む鼓動に合せて、1人コサックダンスを踊り出してしまいそうな自分を叱咤する俺。
そう・・今第一に考えるべき事は・・・『晴れて恋人同士となったナミさんと俺が、如何にして愛を深め合うか?』、だ!
この船にレディは2人、対して野郎は俺を含めて5人・・・非常にバランスの悪い数字と言えよう。
そこへもってきて俺とナミさんが付き合うとする、と、残るはレディ1人にあぶれた野郎共が4人。
これは非常に危険且つ由々しき事態、場合によっちゃ残されたロビンちゃん1人を巡って戦争となるやもしれぬ・・ルフィ海賊団旗揚げ以来の最大的危機一髪だ。
そもそも俺とナミさんが付き合う事を、あいつら快く祝福してくれるだろうか?
・・・・・やはり此処は暫く内緒にしておくが吉と見た。
となると、次に考えるべき事は・・・『ナミさんと俺が密会する時と場所』・・・これだ!
先ずは『時』・・俺の基本的1日を追って考えると・・・
午前5時頃起床〜厨房で朝食準備〜午前7時朝食〜終えて厨房で後片付け〜合間に恋の蜜柑警備〜厨房で昼食準備〜午後12時昼食〜終えて厨房で後片付け〜合間に恋の蜜柑警備〜厨房でお茶とデザート準備〜午後3時デザートタイム〜終えて厨房で後片付け〜合間に恋の蜜柑警備〜厨房で夕食準備〜午後7時夕食〜終えて厨房で後片付け、食材の下拵え、調理用具・キッチン台の掃除〜合間に恋の蜜柑警備〜風呂〜午前2時頃就寝・・・
・・・・・ひょっとして何時もほぼ厨房と蜜柑畑に篭り切りなんじゃねぇの俺・・・?
よ、よし!今度はナミさんの基本的1日を追ってみよう!
午前5時頃起床〜気象・航路の確認〜合間に蜜柑の世話〜午前7時朝食〜気象・航路の確認〜合間に蜜柑の世話〜午後12時昼食〜気象・航路の確認〜合間に蜜柑の世話〜午後3時デザートタイム〜甲板で読書とロビンちゃんとの語らい〜午後7時夕食〜気象・航路の確認〜入浴〜部屋に戻って海図作成、航海日誌執筆〜就寝・・・
・・・ううむ・・・どうやら俺とナミさんが交差する場所は食堂の在る『厨房』そして『蜜柑畑』といった所だろうか・・。
しかし『蜜柑畑』付近は猿やトナカイ、鼻やマリモといった生物が常時徘徊している・・・密会するに都合良い場所とはとても思えねぇ。
ならばいっそ『厨房』はどうだ?・・・いや、あそこも猿やトナカイ、鼻の出没多発地帯、おちおちキスもしてらんねぇだろう。
『風呂』・・・場所として悪くねぇがっつか想像するだに興奮の坩堝だが、長時間篭っていれば必ず誰かに怪しまれる・・便所目的の邪魔も入るだろうしな。
『格納庫』&『倉庫』・・・偶に鼻の奴が店開いてるしな〜、いい年して、かくれんぼして遊ぶ奴まで居やがるし・・・やはり安全とは言い難い区域だ。
『甲板』・・・密会にならねぇだろが。
『ナミさん達の部屋』・・・ロビンちゃんが居る。
『男部屋』・・・・・論外。
・・・・・・・・・・。
―ダンッッ!!
・・・クソッ!なんてプライバシー侵害も甚だしい船なんだ!!
苛立ちをテーブルに力一杯叩き付け、煙草を食い千切らんばかりに噛締める。
・・情け無ぇ事に涙まで浮かんで来やがった。
せっかく・・せっかく相思相愛になれたってぇのにっっ・・ろくすっぽ2人っきりにもなれねぇなんて、なんて可哀想な俺とナミさん・・!
他に場所は無ぇのか!?・・未だ何処か在る筈だろっ!?
「・・そうだ・・!メインマスト上の『見張り台』・・・あそこだぁっっ!!」
―ガターン!!
勢い良く立ち上がった俺の後ろで、派手に椅子の倒れる音が響いた、が、今はそんな事構っちゃいられねぇ!
週1位のローテーションで回って来る『夜の見張り番』、時間にして皆が寝静まった深夜〜早朝までいちゃつき放題やり放題、邪魔者が近付いて来たとしても事前に察知が可能、万が一現場を押えられたとしても『今、差し入れしに来てくれたんだ♪』との言い訳も立つ・・・これだぜっ!!
《愛の妄想劇場 第一幕》
― 声を潜めて呟く、愛 ―
BGM:ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 月光』
晧々とした満月に照らされている海上を、船は波穏やかに進んで行く。
見張り台に上って観る月や星は、驚く位近くに見えて、手を伸ばせば楽に掴めそうな気さえする・・でもそれは錯覚で、本当は気の遠くなるよな遥か先に在って、手に入れたいと伸ばした腕は唯虚しく宙を彷徨うそれだけで。
・・・俺にとってナミさんとは、そんな存在だったのだ・・・今までは。
「サンジ君。」
「うわっっ・・ナ、ナミさん。」
振り返ればポットとバスケットを抱えて立つナミさんの姿・・星月夜に見惚れていた俺は、ロープを伝い上って来るナミさんの気配にも気付かなかったらしい。
「なぁに、その驚き様?せっかく深夜の見張り番御苦労様って事で、あったか〜い珈琲とホットサンドの差し入れしに来てあげたのに。」
「ホットサンドって・・・ナミさん・・・俺の為に作ってくれたの?」
「ま、サンジ君のお口にはとてもとても合いませんでしょうが!」
「そそそんな事絶っっ対無い!ナミさんの作ってくれた物なら、たとえ塩と砂糖間違えてようが、酢とみりん間違えてようが、俺は美味しく食べられる自信が有るよ!」
「・・・あんたそれ、何気に失礼な物言いよ。」
あああああ感動だ・・!ナミさんが俺の為だけに作ってくれた料理!・・い、いかん、嬉し過ぎて顔面が崩壊しそうだ・・・。
「夜になって冷えて来たね・・・そうだ!ね、サンジ君の被ってる毛布ん中に入れてよ!」
「・・・・え?おお俺の被ってる毛布の中って・・・そそそそれってつまりいいい一緒にぃぃ!??」
「だってこのまま居たら風邪引いちゃうもの!」
そう言って強引にナミさんは俺の被る毛布の中へ飛び込み包り擦り寄ってくる。
「うふふ♪あったかーい♪男の人って体温が高くて冬は大好きよ♪」
肩に乗せられた頭から漂う蜜柑の香・・腕に当るふにふにと柔らかい感触・・・悪戯な子猫の様に目を細めて笑う表情・・・
やばいやばいやばいぞこの状況っっ手を伸ばしても届かなかったお月様でお星様が、いきなり至近距離にまで近付いて来ちまった!
「今夜は晴れてるから、満月も星も綺麗に見えるね。」
「あ、あ、ああ、そそそだねっっ。」
「あはは・・!何その上擦った声?ひょっとして緊張してるとか?」
「だだだって或る日突然麗しの月の女神が飛び込んで来るなんて、夢でも見ている気分だよっっ。」
「『麗しの月の女神』って・・・私が?・・プッ・・アハハハハ・・・!ほんっとサンジ君って面白ォい♪一緒に居てちっとも厭きないわァ♪」
「あははははは♪そそそんなに俺って面白い??まままいっちゃったな〜♪あははははははあはあはあはは・・♪♪」
「・・・・サンジ君、月の女神はただ麗しいだけじゃないのよ。」
ギリシャ神話の中に『オリオン』っていう狩の名人、けれども女ったらしな若者が出て来てね。
或る日オリオンは、月の女神『アルテミス』御付きの娘にちょっかいを出したの。
その事は女神の逆鱗に触れて・・・オリオンは、女神の差し向けた巨大蠍の毒針に刺されて死んでしまった・・。
死んでオリオンは天上に上げられ・・・ほら、あそこに3つ星が並んで見えるでしょ?あれをこうこうこう繋いで『オリオン座』。
女神の怒りは彼の死後も尚解けなくて、同じく天上に上げた蠍に今でも追い駆けさせている・・・。
「気を付けてね、女ったらしさん・・・おイタが過ぎると麗しの女神も恐ろしい魔女に変ってしまうかもよ。」
「ははは・・・ナミさんに殺されるなら俺は本望だなー。」
「あら、良い度胸。」
「だって俺の命は、初めて逢った時から、とっくにナミさんに捧げてんだから!」
そう言って俺はナミさんを抱き締め、マシュマロの様なその頬を手の平で包み込む・・。
「・・・せっかくホットサンド作って来たのに・・冷めちゃうから。」
「冷めやしないよ・・・俺の愛は。」
「わは♪わはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははわはわはわはわはぁ♪」
「ギャ〜〜!!サンジが狂った〜〜!!」
「いいい医者ァ〜〜!!!」
「わはぁっっ!!ウソップ!チョッパー!何だよお前ら!?何時此処に入って来やがった!?」
「あああいやそのそろそろ3時だし宜しければおやつを戴けませんでしょうかねぇなんて考えてお邪魔しちゃったりなんかしちゃったりして〜♪なななぁ?チョッパー??」
「うううん!!今日は暑いから冷たいおやつがイイナ〜なんて♪ねねえ?ウソップ??」
・・・3時・・・?しまった!俺とした事がデザートタイムをうっかり忘れてしまうとは何たる失態っっ・・・
こうしちゃ居られねぇ!すぐさま本日のお茶とデザート片手に愛しのレディ達の元へ参上仕らなければっっ!!
光の速さでアイスティーを用意し、冷蔵庫から昨晩の内に冷やし固めといたチョコレートババロアを取り出し、盆にアイスティー2つチョコレートババロア2つを載せて、残りは適当に食って飲めと奴らに言い残し食堂を出て行こうとした、と―
「・・・そういやウソップ、今日夜番だったよな?」
「え?あああそそそうですがそれが何か・・??」
「俺が代ってやる。」
「えええ??ななな何故にいきなりぃぃ???」
「遠慮すんなって♪チョッパー、お前も当番来たら俺に言えよ!何ならこれから毎晩夜番引き受けてやるぜ!!」
「どどどうしたのさサンジ?何か有ったの・・??」
「・・・今は詳しい事は言えねぇ・・・が、敢えて言うなら・・・」
「「言うなら??」」
「遂に『俺の春』がやって来た・・・ってトコかな!(きらりーん!)」
「「・・・・・・・・・・・・・。」」
「今行くよ〜♪ナッミすわぁぁぁぁん♪♪」
―バタン・・・!!
「・・・・どうしようウソップ・・・精神病とかならオレ、専門外だよ・・・。」
「・・・馬鹿野郎、てめぇが匙投げたら、誰がアイツを治すってんだよ・・・。」
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(2004.03.07)Copyright(C)びょり,All rights reserved.