オレンジの森の姫君  −4−
            

びょり 様



「おい・・!あんた・・!おい・・!!」
「・・・・うっ・・・・んあ・・・?」
「・・・よかった・・・ちゃんと生きてるな・・・!?」
「・・・・生きてるって・・?あんた・・・俺を案内してくれた・・・!」


ゾロが目を覚ました場所は、朝靄立ち込める林の中でした。
倒れている自分の顔を、昨日道案内してくれた男が覗き込んでいます。
体を起こし見回せば、出発した時そのままの皮の服に緑のマントを羽織った姿―3本の刀もちゃんと脇に差していました。

オレンジの森も、城も、ナミの姿も、何処にも見当たりませんでした。


「・・・城は・・・?・・・ナミは何処に行った・・・!?」
「・・・ナミ・・・?何だいそりゃ・・?・・・人の名前なのかい?」
「オレンジの髪に、赤い眼をした女だ・・・!俺と一緒に居た筈だ!!」

「・・・・・魔物に・・・・逢ったのかい・・・?」
「ナミは魔物じゃねぇ!!人間だ・・!!」


起き上がり掴み掛るゾロに、男は優しく言いました。


「・・・朝早く見廻りに来て、此処に1人で倒れてるあんたを見付けた・・・他に誰も居なかったよ・・・。」

「・・・・・・。」

「魔物に逢って、無事戻って来れた奴の顔を、俺は初めて見たよ。・・・拾い物の命だ、大事にするこった。」



そのお城はオレンジの森に囲まれ建っていました。
とても古い、小さなお城でした。

その少女はずっと1人でお城に住んでいました。
天気の好い日は歌を口ずさみながら森を散歩したり、
草原でオレンジを食べながら日向ぼっこをしたりして過していました。

或る日、1人の青年がオレンジの森を抜けて、少女を尋ねて来ました。

青年の名前を『ゾロ』と言いました。


「・・・ったく!早朝入って抜ける頃にはもう夕刻たぁ・・・やっぱこの森には方向感覚狂わしちまう某かの魔法が・・・そうか、これも妖精の女王の呪いとやらだな!」


一流のトレジャーハンターは、以下略。


「何しに来たのよ?」

「・・・ナミ!」


夕焼け空の下、草原に大きく伸びたお城の影の中、ナミは立っていました。


「契約は1人1回1度きり・・・もうあんたは財宝を手にする事が出来ない・・・そう言った筈よ。」

「宝は要らねぇって言った筈だ。」

「・・・私を抱けるのも1晩だけよ・・・もしまた抱けば死んでしまうわ。」


ゾロはナミの傍に立ち、腕を掴んでこう言いました。


「ナミ、お前を連れに来た。」

「・・・・私を・・・連れに・・・?」

「此処から出るんだ・・・外に出て、俺と一緒に暮らそう・・!」

「・・・・・・無理よ。」

「女王が追って来るなら、俺が斬り殺してやる。」

「妖精達に実体は無いわ、斬っても煙の様に逃げてしまうだけよ。」

「何がどうでも俺はお前を守ってみせる。だから安心して一緒に来るんだ!」
「簡単に言わないでよ!!」

「・・・・ナミ・・・?」


ゾロの手を振り払ったナミは・・・・泣いていました。
肩を震わせ、ゾロを睨み付けながら、瞳一杯に涙を溜めていました。


「此処から出て一緒に暮すですって・・・?
 そんな事出来る訳無いじゃない・・!!
 万が一にも女王の手から逃れても、
 あんたに女王が殺せたとしても、
 私に掛けられた呪いは消えやしない!!

 私は『死ねない』のよ!?
 人間じゃないのよ!?

 あんたと一緒に暮らしたとして・・
 人間のあんたは何時か必ず死んでしまう。
 周りに居る人達も死んでしまう。
 街も国も何もかも亡んでしまう。
 皆、皆、亡くなってしまう。
 私1人が残される。

 300年間、大勢の人達が死ぬのを見て来たわ。
 もう、これ以上は見たくない。
 見る位なら・・・死んでしまう方がずぅっと楽だわ・・!!」


「・・・『死んでしまう方がずっと楽』とは、どういう意味だ・・?」

「・・・・今晩、月が1番高くに昇る頃、女王の手で私は地獄の王への貢物として贈られる。」

「・・・・地獄の王への貢物って・・・」

「・・・生贄よ・・・正直、ずっとそうなる事を待ち望んでいた・・・厭きる程生きて・・・私はもう、疲れたわ・・・。」

「・・・許さねぇぞ、俺は。」

「・・・有難う、ゾロ・・・魔物となった私の話を聞いてくれたのは、あんたが最初で1度きり・・・本当に、嬉しかった・・・。」

「・・・そんな事、俺は絶対許さねぇ・・!!」


ゾロはナミを胸に引き寄せ、強く抱き締めました。


「ナミ、お前は本当にそれでいいのかよ!?
 300年間ただ生かされて・・!
 独りきりで閉じ込められて・・!
 魔物として恐れられて・・!
 誰にも話を聞いて貰えず終いで・・!
 傷付いて傷付いて、泣いて泣いて泣いて・・!
 そんなんで人生終わってお前は本当に納得すんのかよ!?

 俺と外へ出るんだ!
 外へ出て、俺と一緒に宝を探すんだ!
 美味い物も腹一杯食わせてやる!
 世界中何処へだって連れてってやる!
 面白ぇ奴らにも沢山会わせてやるさ!
 酒だってたらふく呑むぞ!
 笑ったり泣いたりムカついたり驚いたり、毎日いっぱいいっぱい感じるんだ!!」


「・・・駄目だよ、ゾロ・・・私には出来っこない・・・。」
「出来る!いや、させてやる!!」
「やめてよ!!お願いだから諦めて帰って!!早くしないと女王が来ちゃうじゃない!!」
「諦めねぇ!!これ以上ぐずんなら無理矢理抱えて行くからな!!」
「何で諦めないのよ!?私1人の事に意地んなってんじゃないわよ!!」
「お前を死なせたくねぇからに決まってんだろ・・!!!」


「・・・・お前と、一緒に生きてぇからに決まってんだろ・・・。」

「・・・・ゾロ・・・。」


風が吹いて、森からオレンジの香を運んで来ました。


「・・・なぁ、ナミ、呪いを解く手段は無ぇのか・・?どんなに難しい手段でも知ってんなら教えて欲しい・・・きっと、俺が助けてやるから・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・約束する。」


「・・・・1つだけ有るわ・・・危険な手段だけど・・・。」

「・・・どんなんだ・・・?」

「・・・失敗すれば、あんたも私も殺されてしまう・・・それでも、試してみる・・・?」

「ああ・・・上等だ!」

「・・・ゾロ・・・私がこれから話す事を、よく聞いてね・・?」


ナミは、ゾロの目をしっかりと見据えて話し出しました。




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(2004.05.03)

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