昼休み、アイツが光合成する定位置に、わざわざ出向いてやったってのに、あんな態度とっていい訳?アリエナイでしょ!
アイツから、告ったんじゃない!アタシの事、ス、スキだから、ああ言ったんじゃないの?

「俺の女になれっ!」って。





簡単な言葉  −4−
     ───Nの思惑

CAO 様

 

「何かしゃべんなさいよ!」
「…別に、話す事ねぇし。」
「アンタねぇ〜、可愛い彼女が隣にいるってのに…」
「誰が可愛いって?」
「アタシよ!ア・タ・シ!他に誰がいるっていうの!」ボカッ!
「…痛ってぇ〜。すぐヒト殴る女の、どこが可愛いいんだ?」
「バカじゃない?解んないの、総てよ!ホント、バカ!…頭痛くなってきそう。」
「痛ぇーのはこっちだ!ったく。俺はねみぃから、もう、寝る…」……もう、寝ちゃった。こんなのアリ?信じらんないっ!

「…足りない。はぁ。」
解らないけど、何か足りない。アイツと付き合い初めて、もうすぐ2ケ月。そりゃ喧嘩もするし手も掛かるけど、毎日飽きないし、ま、楽しいっていうか幸せだわ。
迷子になってるアイツを見つけてやると、嬉しそうに「よぉ!ナミ」なんて声掛けてくる表情トカ、喧嘩した時に口答えできなくなって困った顔なんか見てると、怒ってる筈なのに胸がキュンとなったり…じゃなくて、アイツをメロメロにしてやる!って、思ってるのに、巧くいかないのよー!別にベタベタしたい訳じゃない。加減ってあるしね。ただ、アタシに夢中って感じもしないし、それどころか至って普通みたいにしてるの!此れって、どうなの?キスも勢いでやった、あれ一回きりだし…。

「あー、何待ってんだろ?」
入学以来放課後の図書室で、本読むのがアタシの日課だった。下校時にたまたま部活帰りのアイツと逢って、一緒に帰る様になったのは、付き合い始めて一週間くらいしてから。それ以来、読書の為じゃなく、アイツの為に図書室にいるみたい…
(……帰ろうっ。)

今日もまた喧嘩しちゃったし…だって、アイツったらアタシが目の前にいるのに、手も出さないどころか、ほったらかしで昼寝するんだからっ!怒って当然でしょ!アタシは、アンタの彼女になってアゲたんだから、少しは機嫌取ったっていいでしょ?…構ってくれたって、罰は当らないんじゃない!それとも、そんな必要ない程度の存在なの…アタシ?
アタシばっか期待して、アイツは帰りは待ってて当然と思ってありがとうの一言だってない。何だか切なくなってきた。たまには、先に帰っちゃお。少しはアタシの事、気にすればいいんだわ!…気にしないカモ?アイツなら有り得る。きっとサッサと帰っちゃうわ、アイツ。…アタシばっかり振り回されてる。悔しい。あっ、涙出そう。

「ナミの兄貴ー!何やってんスか、こんなとこで?」
クラスメイトのヨサクとジョニーだ!今、アンタ達と離す気分じゃないのよ。アイツと同じ剣道部の!しかもアタシを兄貴って呼ぶし!一発づつ殴ってやった!
「「痛ってー!」」
「アンタ達何か用?それに部活はどうしたの?」
「部活はコーチの都合で早上がりになったんス!それより、早く行って下さいよ。」
「そう、そう。さっきからゾロの兄貴が機嫌悪くって…」
「今もナミの兄…姉貴探してこいって殴られてたトコですよ。」
「…ゾロが?」
「俺らずっと付き合わされたあげく、何でお二人からどつかれるんスか?」
「何処にいんのよ?ゾロは。」
「一時間も前から正門で待ってますぜっ。」
「それを早く言いなさいよっ!」
ボカッ×2

アイツが待ってるって?...アタシを。しかも、一時間も前からって!…嘘っ!何で、どうして…
一人でも自主練するでしょ?
待ち合わせなんてした?
喧嘩したから?
次々に疑問が湧いてくる。でも、そんなの考えながらも、アタシの足は勝手に動いて、気が付いた時には力一杯駈けていた。あんなに凹んでたハズなのに、あんなに怒ってたハズなのに、あんなに切なくなってたハズなのに…たった一言「待ってる」って聞いただけで、こんなに嬉しくって堪らない!

何時でもちゃんとセットしてる髪が、走る勢いで風に乱されても全然平気。梅雨の晴れ間で一層高い湿度が、制服を汗で貼りつかせるけど、アタシの足は止まらない。さっき迄あんなに重かった心が、こんなに軽くなってる!
あの格技場の角を曲がると、正門迄真っすぐのスロープに入る。もうすぐ逢える、アイツに…
会ったら、何て言ってやろう?
ちゃんと待ってられたの?えらいわねぇ〜。
迷子になって、途方にくれてたの?
でかい図体でこんなトコにいたら、人様に迷惑よ!
…駄目!憎まれ口しか、思い付かないっ!
ただ、逢いたいだけなのに。思い付かないうちに、曲がり角まで来ちゃった…

「ゾーロー!」
何で、叫んでるの?アタシ……




←3へ  5へ→


(2005.12.17)

Copyright(C)CAO,All rights reserved.


戻る
BBSへ