想い〜言えない言葉  −5−

穂高 様

 

あの日、自分勝手にナミを傷つけてしまった日。



自分のことを男として警戒しているとわかった瞬間、信じてもらえない寂しさより男として意識してもらえたことが嬉しかった。

そして同時に湧き上がる恋慕と加虐心。

一度は理性で押しとどめた。



しかし自分の下に組み敷かれたナミを見て、結局は自分を抑えることが出来なかった。


自分の欲望のままに抱いてしまった。

行為の間、ナミが苦痛を耐えてたことは知っていた。

しかし、自分の中の守りたいという気持ちと傷つけたいという気持ち。

そのときは後者を抑えることが出来ず、苦痛にゆがむナミの表情に喜びすら感じた。





帰り際の、ナミのその青ざめた表情が忘れられない。

自分の中の残虐性に嫌悪を感じた瞬間だった。





その後まるで何もなかったかのように振舞うナミの気持ちが知りたかった。





どうして自分に抱かれたのか。



少しは好意を感じてくれているのか?



それとも、何もなかったことにしたいのか。。。





何度も話しかけようとしたが、さりげなく避けられた。

やはりなかったことにしたいのか。





それが突然、妊娠という結果を伴って舞い戻ってきた。

今度こそは誤魔化されない。







「何しにきたの?」

「逃げるなといったはずだ。」

ノジコが立ち去った後、ゾロがつぶやいた。

「返事はしてないわ。だいたいどうしてこんなところまで来るの。私は私のしたいようにするって伝えただけよ。あんたには関係のないことよ。」

「関係ないわけあるか。俺の子供だ。」

「責任感ってやつ?いい迷惑よ。」

お互い今にも殴りかかりそうな勢いで言い争う。



「だいたい誰もあんたの子供だなんて言ってないわ。妊娠したって言っただけよ。」

(もう構わないで。期待してしまうから。)

心のうちは微塵も出さずにナミはゾロを撥ね付ける。





「でも。」

ゾロの右手がナミの腕を掴んだ



「俺の子供じゃなくてもお前の子供だろ。」

静かな、真剣な緑の瞳が見つめる。





「一緒にこいつを育てたい。育てさせてくれ。」

ゾロのもう片方の大きな手が、そっとナミの腹に触れた。

「お前の子供だから育てたい。」

もう一歩近づき、腹に置いた手をゆっくり背中に回しやさしく抱きしめた。





「お前のことが好きなんだ。ずっと好きだった。」





頭の中の霞がすっと晴れ渡る気がした。



「一緒にいよう。」

ゾロの言葉が体に染み渡る。



聞きたかった言葉。言って欲しかった言葉。

気持ちがつながった。



「結婚しよう」



あふれてくる涙を止めることが出来なかった。

ゾロの肩に顔をうずめ嗚咽を漏らす。



「ばか。。。」

「なんだと。」

「ほんとにバカ。」

「あぁ」



ゾロの大きな手のひらがゆっくりと震えるナミの背中をなで続けた。





「ナミ」

泣き声が落ち着いたころ、ゾロはそっと耳元でささやいた。

「ん?」

ゆっくりとナミは顔を上げた。

「返事は?」

ゾロはナミの背中にまわした両腕の片方を解き、そのままナミの顎に手を添えた。

「はい。」

ゾロの瞳を見つめ小さく返事をした。



ゆっくり目を閉じる二人。

そして、気持ちを確かめ合ってから、はじめて唇を重ねる。



新しい二人の関係が始まった。







「言っとくけど、あんたの子供だからね。」

「当たり前だ。」

気持ちが落ち着いてしまうと気恥ずかしくなり、互いにあさっての方向を向いてしまった。



「スーツ似合わないね。」

「着慣れてないからな。大学の入学式に一度着たきりだ。」

舌打ちをしてゾロは首元を緩めた。

「大体てめぇが言ってたんだろ。プロポーズはスーツ姿でって。」

「えっ。いつ?。」

「学際の時、クラスの奴等としゃべってたろ。」

「そう?」

記憶にまったくない。

「去年、部でたこ焼きしたときだ。」



かすかな記憶を手繰り寄せる。

確かにどういうシチュエーションでプロポーズして欲しいか、しゃべっていたような記憶がある。

あまり興味のなかったナミはスーツ姿がいいとありきたりな返事をしたような。。。



「あんた、そんな前から私のこと好きだったのね。」

顔が緩む。

「バカなこと言うな。たまたま覚えていただけだ。」

壁側を向いてしまったゾロの表情はわからなかった。

「あんた、耳真っ赤よ。」

指先で金色のピアスを軽く弾いて、頬に軽くキスをした。







これからが大変だと思う。



学校のこと。

互いの両親のこと



何よりもこれからの生活。



でも、大丈夫。

一人じゃない。

なんたって三人だもの。



「これから、よろしくね。パパさん」



「おう。任せろ。」





END


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(2006.07.22)

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<管理人のつぶやき>
ただの部活仲間から男女の仲に変わる瞬間というのは、ほんのささいなきっかけで訪れるものなんですね・・・。
その瞬間が見事なまでに描かれていて、どきどきしました><。
2話目では険悪な雰囲気の中でナミの妊娠が告げられ、いったいあの後何があったのかと。
やはり二人ともまだ若い。その分、惑うことも多かったのでしょう。二人のそれぞれの心情の切ないことったら!
最後は大団円でヨカッターー;▽;。ゾロのこの口説き文句(?)は女性ならクラッとしてしまうのでは(笑)。

穂高さんの初投稿作品でした。穂高さん、素晴らしい作品をどうもありがとうございました!

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