ハンプティダンプティ −2−
いむ 様
最近ひどく苦しい。
原因は判ってる。
家にいるアイツだ。
両脇に山積みになっている書類の谷間で、ゾロは憮然とタバコに火をつけた。
どうもここのところ調子がよろしくないのだ。
毎朝目覚めは良いし、食欲もあるし会社に行くのが苦痛でない。
仕事が終わった後もどこかで飲んでいこうかという気にもならない。
だってアイツが待っているから。
「ロロノア、右の山危ないぞ」
吸いなれた煙を息を止めて、出来うる限り肺に留めてみる。
血中のニコチン濃度が一瞬で上昇して頭が痛くなって気分が
悪くなってくる。
よし、調子があがってきた。
「ロロノア」
「?ハイ、何です・・・」
か?と続けようとした俺の視界に蝶々のように書類が舞った。
「あー、言わんこっちゃない」
やっぱり調子はよろしくない。
慢性的によろしくない。
だって、散らばった書類を見ても苛立ち一つ覚えない。
俺は脳神経をどこかヤられてしまったに違いない。
心身ともに健康、ということの何と恐ろしいことか。
「おい、大丈夫か。これ一応整理してあったんじゃねぇのか?」
心配してくれる上司に俺が、この俺が。
「あ、大丈夫っス。整理断念した山だったんで」
「そうかそうか。そりゃあんし・・・って違うだろ」
こんなウィットに富んだ返事をする訳が無い。
しまった。
イライラするモトが無い。
上司との関係も問題無し、仕事も大きな失敗無し、このまま家に戻ればとても気分が良くなってしまう。
アイツが笑顔で待ってるから。
一緒に夕飯食べるために待ってるから。
それを想像しただけで、足取りの軽くなる俺がいるはずが無い。
あまつさえ、眠っている彼女にキスしたなんて。
本当にどうかしている。
どうかしているとしか思えない。
・・・にしても、ハンプティダンプティが何だってんだ。
俺は壊れ物じゃないのに。
あぁ、全く苦しい。
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(2005.09.21)Copyright(C)いむ,All rights reserved.