出会いと別れ
出会いは果てなく続く夢の前兆
別れは振りかえる事のできない夢の跡
Armlost ♯Encounter
雷猫 様
「そうか・・、お前は都立南野志望か・・。」
1990年 秋
いよいよ受験シーズンがやって来た。
そろそろみんな慌ただしくなってきて、進路相談も頻繁に行われた。
そんな中、
まだどことなくその波に乗っていけない少女、ナミ(けしてシャレでゎありません)がいた。
「お前程の頭なら、名門南野にも行けるだろう。だが、・・・・大丈夫か?」
「・・・何がですか?先生。」
「お前には緊張感というものが足りないぞ。もうそろそろ本気で勉強に取りかかったほうが・・・・」
もうたくさんだ、という顔をして席を立った。
「受験シーズンで、緊張しないといけないなんて決まりあるんですか?」
捨てゼリフを吐いて教室を出た。教室から「おい!待ちなさい・・」と少し聞こえたが、無視して校門に向う。
どうでもよかった。
ナミは昔から頭が良く、必死で勉強しなくてもテストではそれなりに良い点は取れていたし、受験だって頑張る必要はないくらいだった。
名門に通えば学歴はよくなる。別にやりたい事もないし、良い高校、良い大学に通って・・・・、それでいい。そう思っていた。
「ビビ!ごめん、待った?」
進路相談がナミより一足先に終わったビビが、校門でナミを待っていた。
ビビもナミと同様頭が良く、地元では有名な財閥の娘、いわばお嬢様だ。
「ビビは、斗葉高校志望よね?ビビならもっと上行けるのに。」
「私はナミさんみたいに頭よくないし、それにサンジさんがそこに行くって言ってるから・・。」
サンジというのは、ビビの彼氏だ。一度紹介された事があった。女好きでビビも困り果てた様子だったが、とても大事にしてくれるそうで、付き合って1年近くになるというカップルだ。
「ナミさんは、南野ですよね?すごいわ!がんばってね^^」
「ん・・・、でも私本当にやりたい事なんてないんだよね・・。ただ良い高校に通っておこうかなぁ・・なんて考えてただけ。」
「でもすごいですよ!名門ですから・・・。」
「ありがと^^」
「・・・じゃぁ、私ちょっと本屋寄ってくから、ここでね。」
「あっ、はい。また明日!」
ペコッと頭をさげてビビは行ってしまった。
ふぅ、と溜息をついてから近くの本屋へ入った。一応、参考書のところを見てみる。
分かりやすそうな物がないかを眺めていた。こうでもしてないとヒマで、何もすることがないからだ。
ふいに、チラッと横を見ると、緑髪の背の高い男が立っていた。ナミと同じように中学数学の参考書を見ている。
という事は、コイツも中学生なのか?
よく見てみると、左耳にピアスをしている。しかも3個も!
パッと見、いやじっくり見ても、不良としか思えなかった。
でも、じっくりと参考書を眺めている。
(めちゃくちゃ必死ね・・・・。そりゃ、こんな外見だったら内申すごく悪いだろうし。勉強しないとだめなのね、こういうヤツは・・・・・。)
そんな風に思いながらナミはずっと青年を見ていた。何故だか目が離せないでいた。
青年は、そんなナミの熱い(?)視線にも気付かず、読んでいた参考書を閉じるとそれを持ってレジの方に消えていった。
(何者かしら、あいつ・・・。)
本屋を出て、近くにあった公園に立ち寄った。何事にもやる気が出なくて、ボーッとするつもりだった。
すると、座ろうとしたベンチのそばに、携帯電話が落ちている。それを拾って、開けてみた。
待ち受け画面が、写メで取ったような画像のドラムセットだった。ドラマーの誰かが落としていったのだろうか。ナミはその携帯を眺めた。
ストラップは着いておらず、シールなども全く貼っていない。買ったそのままの状態といったところだ。
突然、その携帯が鳴った。あまりにも突然だったので、驚いて電話に出てしまった。
「はっ、はい!!」
「・・・・・・女?」
(しまったー!!勢いで出てしまった・・・。どうしようかしら・・・、何て言えば・・・・・・・。)
「もしかして、アンタが拾ったのか?」
「えっ、持ち主なの?」
「あぁ。」
低い声だった。少し怖かったが、何故か会ってみたい気がした。
「い、今、公園にいるの。そこに落ちてたわよ。」
「あ?・・・あぁ、さっきの公園か・・・。」
「近くにいるんでしょう?取りに来なさいよ。」
「なんかエラそうだな・・、てめぇ。」
「てめぇって・・、それが拾ってくれた人に対する言い方?」
「はいはい・・、分かったよ。動くなよ。」
そう言って携帯は切れた。
(失礼な奴・・・・・)
5分後、ベンチに座って待っていると入り口の方から走ってくる男が見えた。
「・・・え、あれって・・・・・。」
緑の髪だった。近づいてくるにつれて、左耳に着けたピアスも見えてきた。
さっき、本屋にいた男だった。
「・・・ハァ・・、あんたか。」
「あ・・・・・はい、コレ。」
少し動揺してしまったが、持っていた携帯を男に渡した。
男はそれを受けとって、少し見てからナミの方をみて、笑った。
「・・・・サンキュ。」
その笑顔を見て、ナミは少しドキッとしてしまった。顔が赤いかもしれない。そう思って下を向いて、言った。
「あんた、ドラムする人?」
「・・・・・見たのか!?」
「開いてみただけよ!待ち受けドラムだったから・・・。」
「・・・あぁ。一応、それしか取り柄ないんで。」
そう言ってナミの横にストンと座ってきた。
走ってきたからなのか、少し息が切れていた。
「あんたさ。」
いきなり話しかけられたので、少し慌ててしまった。
「はっ、はい。なんでしょう・・・・。」
「さっき本屋にいたよな。あんたも中学?」
「えっ、知ってたの?」
「ずっと俺の事見てただろ、お前。」
今度こそは絶対に顔が真っ赤になっている、そう思った。
よく覚えてないがかなり見ていた気がする・・・。それがバレてたなんて・・・・・・・・。
「どこ受けんの?」
「えっ・・・・南野。」
「南野ぉ!!?名門じゃねぇか・・・・。」
「あ・・・あんたはどこなのよ。」
顔をチラッと見ながら聞いた。たくましい静観な顔つきだった。男らしい・・・すこし人相が悪かったが。
「俺は・・斗葉受けるよ。ドラムしたいから、仲間が行くところで。」
「あんたはなんで南野行きてぇの?」
なんで・・・・
どう答えればいいの?
「なんでかな・・・・。やりたい事なんて、ないんだよね。将来の夢も、自分がどうしたいかなんて全然わかんない・・・。」
「ふー・・ん。」
「ふーん・・・・て、他人事みたいに。」
「他人事じゃねぇか。」
すると男は急に立ちあがって、こちらを振り向いた。
「やりたい事がないのは、自分で探そうとしないからだぜ。」
そして前を向き直り、歩き始めた。
「携帯、どーも。」
これでいいのか?
別にここで呼びとめなくてもいい。そんなことしなくてもいい。
でも・・・
悔しかった。自分でも分からなかったことを言われたことが。
「・・・・・・ちょっと待ちなさいよ!!!!」
足をとめ、男は振りかえった。
「私も斗葉高校行って、アンタの鼻あかしてやるわよ!それが今の目標!!アンタを・・ギャフンと言わせてやるわ・・!」
男は笑っていた。
「私に声掛けた事、後悔させてやるわ!!」
「ハハハ・・・・・・、アンタおもしれぇわ。」
「アンタじゃないわよ!やめなさいよその呼び方・・・。」
男はこちらに向って歩いてきて、ナミの前で立ち止まった。
「じゃあ・・・・・・。」
「アンタの名は?」
よく考えたらしょーもない出会いだったけど、それがあるから今の私があるのよね。
今は別々の道に行ってしまったけど、出会いがあるなら別れがあるのは当然。
どっちにしろプラスマイナスゼロなのよ。原点に戻るって。
END
(2005.02.18)Copyright(C)雷猫,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
雷猫さんの連載小説「Armlost」のゾロとナミの出会いのお話です。
既にやるべきものを持っているゾロに、ナミは惹かれたんでしょうね。
夢のある人は魅力的です。特に何も持たない者にとっては。
冒頭の「出会いは果てなく続く夢の前兆 別れは振りかえる事のできない夢の跡」というフレーズは深いナァと思いました(笑)。
雷猫さん、ご投稿いつもありがとうございます〜☆