だんだら 第三部  −4−
            

雷猫 様



『いい加減な事言わないで!!』



ハッと布団をはいで起きあがる。

1週間前の出来事が頭から離れずに、悪夢としてやってくる。

緑色の短髪の頭は汗びっしょりで、手で顔をあおぐ。


ふと顔を向けると、横で寝ているはずの参次がいない。まだ七つ半だ。







外はもう桜が散り終わり、歩くたびにきしきしと音を立てた。

だいたい街が起きる時間。道を歩く者の姿がしだいに増えていく。





ぼーっとしている時雨の目を覚ましたのは、参次の黄金の髪だ。

「ぉい参・・・・・・・。」

呼ぼうとしたときだった。参次は誰かの肩を持っている。女だ。

見なれた橙の髪、小柄なその姿。


「・・・那美・・?」


参次は那美を支えるように歩き、路地の裏の方へ過ぎて行った。

叫べば良かった。

だけど時雨は叫べなかった。


振り向いてくれるか、自信がなかった。





「時雨、探したぞ。何してたんだ!」

帰ったら、覚悟はしていたが副長の説教である。だけどそのときの時雨は上の空で、副長の「聞いてるのか」にしか反応できなかった。




「また怒られたのかよ。」

からかい半分で言ってきたのは参次だ。いつもなら時雨はここで言い返す。だが・・。


「参次、ちょっと来い。」


参次を表に連れ出した。



「なんだよ。」



「・・・さっきのアレ・・、那美と一緒にいたのはどういうこった。」

「あ?・・見てたのかよ。」

ハハと参次は笑って見せた。


「どうもこうも・・那美さんと恋仲になっただけ。」

「な・・に言って・・・・・・。」

「俺が彼女を幸せにする。」


ぐっと歯をくいしばり、参次の襟元をつかんだ。



「ふざけんな!!俺はまだ那美と・・・・。」

「なんだよ!お前は・・那美さんを不幸にしてばかりいるんじゃねぇのか!!?」


つかんでいる手を参次は強くつかんだ。


「お前には・・・無理だよ・・・・・・。」




時雨はその場に座りこんだ。


「那美・・・・・・。」




笑ってる

その顔が好き

何があっても

笑っててほしい

笑わせてあげたい

それが自分の元気の源だから

それはウソではないけれど


でもせめて

その笑顔が自分に向けられたものだったら

もしそうだったら



どんなに幸せなんだろうと

思う






夜、

星を眺めながらまたひとつ、団子を口に入れた。

前川邸(浪士組屯所)にも帰りにくく、茶屋でいつものように時間を持て余していた。


とんと肩を叩かれて、見ると横に座ったのは或美蛇だった。



「・・アンタ花家の・・・・。」

「寒くないの?」

時雨は無言で首を横に振った。


「・・あんた週末はずっとここにいるらしいし・・・、もしかしてもしかしてと思ってたんだけど・・、またあの子と・・・・・・・・別れたのね・・・。」


ゲホッと勢い良く時雨はムセた。


「・・・んだよ。カンケーねーだろっ。」

「あー情けないっ。」

「うるせ。」


「たまにはあのクルクルマユゲ君の鼻あかしてやんなさいよ。」

(クルクルマユゲ君?)


一回沈黙になる。そして時雨が口を開いた。


「・・・なぁ・・、どうしたら那美と・・・幸せになれる・・?」

「・・・・・・・さぁ・・色々状況にもよるだろうけどやっぱり、玉砕覚悟でも自分の気持ちを正直にってのじゃない?」


「もし告っても告わなくても・・、何も変わらないんなら・・・・・・・告わないほうがいい。」


時雨は下を見て続ける。


「どんなにキレイ事言っても、言ったことややったことの後にはしこりが残る。自分がスッキリしても周りをかき乱すだけだ。・・・・そうゆぅ自分に正直は単なる身勝手だ。」


時雨は或美蛇の方を見て、さらに続ける。


「・・・違う?参次には那美を幸せにできるとさえ思うよ、ホント。・・そもそも同志の恋人に横恋慕なんて初めから間違えてる。」


或美蛇は時雨の目をじっと見た。


「・・・あんたって同じ19才でも参次とはぜんぜん違うのねー・・・。ていうか那美が参次と付き合ってんのホントかね・・。」


「どうゆう意味だよっ。」

時雨は照れているようだ。


「そもそも恋愛なんて、初めっからえこひいきの世界なんだから・・、ずるいとかずるくないとか、卑怯とか卑怯じゃないとかじゃないの!!」


或美蛇は微笑んで言った。


「相手を陥れても、腕を折っても自分のために・・、戦う男がいたとしたら。人としたらどう?って思っても、男としてはいいんじゃない?」


或美蛇は立ち上がり続けた。


「横恋慕、略奪愛。正当化できる動機がひとつだけあるよ。」

「・・・・・・・・・・何?」

「教えない。自分の頭で考えな。」


或美蛇は時雨にデコピンをした。


「痛っ・・!」

「思いつかなければ、あんたにその資格がないってことかな?・・・あの子も・・・もうすぐ失明・・するし・・ね・・・・・・・・・・。」






「・・・・・・え?」





『失明する』






「失明!?って・・・・・なんだよソレ?」


「聞いてなかったのかい・・・・!?」


「あぁ・・・・・・。」



「言ってたと思ってた・・・・。」


或美蛇は口を押さえた。


「あの子ね・・・、あと少しで失明するらしいの。病院に通って・・分かったらしい・・・・。」

「な・・・・んで・・・・・・・?」


「・・ストレスからだと言っていた・・・・。」


「なんで言わなかったんだ!!」


或美蛇は涙を目にうかばせながら時雨の肩を押さえた。


「言えなかったんだよ・・!!」

「どうして・・・・・・・・・・・・・!!」


「言ってたんだよ・・あの子・・・・ね・・・・。」





―1ヶ月前―


「今度・・親に会いに行く時に・・・・病気だと伝えます・・・。」

「・・そうかい・・・・。時雨にはどう・・・?」

「目が見えなくなったら・・・・・、時雨様とも今までみたいにはつきあえなくなる・・・・。」

「・・・・那美・・・。」

「言ったら、時雨様はどんな顔するんだろう?めんどくさいことになったって思うかな。したくもない苦労しなくちゃなんないって。そんなのごめんだって思うよね。きっと言われる・・・・別れようって―・・。」

「そんな・・・・・。」

那美は目に涙をためてた。

「でも・・・あの優しい人は・・・・・かえって別れを切り出せないかもしれない。『かわいそうに』って・・・同情されて・・・・・・!それに甘えて縛りつけたら・・・・・・・時雨様のほうがかわいそうだ―・・・・・・。」

那美は手をぎゅっと握っていた。

「私から・・・言わなくちゃ・・・・・・。」











気がついたら走っていた。
必死で那美の姿を探した。




「那美・・・・!!」




向こう側の道に見えた。

震えている。目の前がぼやけているのだろう。


時雨は人が途切れるのを待って、道を渡った。



「那美っ!!!!」



どこから聞こえているのか分からない時雨の声に、那美は周りを見渡す。

時雨は那美の腕を取った。


「っ時雨様・・・?」

「那美・・・・・・。」



「・・・・・・っ別れてください!!」

「…那美・・?」

「別れましょう!!時雨様・・・・・・・。」



時雨は那美を強く抱きしめた。



「聞いた・・・目の事は・・・・・・・。」

「!!!」


「―でも!!!そんなの別れる理由になんねーだろ!!!!」

「――――――どうせ同情してるんでしょ!?」

「なんでだよ。」

「そんなことカンタンに言えるなんて・・、どんだけ苦労するかわかってないんでしょう!!」

「そうかもしれねーよ。でも嫌なんだよ!!」


那美は涙でいっぱいの顔を上げた。


「那美を失うくらいなら・・・目ぇ見えない那美かかえて、苦労するほうがずっといい!!!!」

「・・・・・・・・・・・・っ」


時雨はもっと強く那美を抱きしめた。






「那美が・・・・・・好きなんだよ・・・・・・・・・・・。」





私――――――




この人が見えなくなるの?

目が見えなくなるって

そういうことなんだ






那美は大声を上げて泣き出した。


「―――やだ・・・・。やだよ・・失明なんてしたくない!」

「那美・・・・・」

「時雨様が見えなくなるなんてやだぁ・・!!!お願いだから――――――――――・・・!!!!」






『君は』



『失明します――――――――――』








どんなに強く願っても

神様はだまってた





それから・・・・私は時雨様といろんなところに行った。

時雨様いわく「見えるうちにいろんなものを見ておこう」ということだ。


参次さんと付き合っていたという噂があったらしいがデマだということを時雨様に分かってもらうのに1日かかった。

美々はまだ時雨様をあきらめてないらしい。


時雨様と手をつないで、海を眺めた。


「・・・・ねぇ時雨様・・。お願いがあるんですが。」

「んー?」

時雨様は眩しそうに手を顔にあてた。

「私の目が見えなくなる・・・最後の瞬間に、一緒にいてくれますか?」


「・・・・・・・わかった。」

「えっ、うそ!結構大変ですよ!?」

時雨様はニィと笑って言った。

「いてやるよ。」





失明する運命だった私の前に

この人は現われてくれた

いろんなこともあった

辛かった苦しかった

愛しかった

それもすべて運命だっていうんなら

私は・・・・



私は

この運命に感謝だってする





手を握る熱が強くなる。






「会えて良かった・・・・・・・・。」






これまでの時間ほど長くて

短い時はなかった



時雨様は約束を

本当に守ってくれた

















花家の前で、那美は笑顔で話していた。


「或美蛇姐さん?那美だけど・・・、明日お墓参りに行くから、みんなに伝えてくれる?・・・・・うん、命日。・・・大丈夫だって、私もうこの辺1人で歩けるようになったし・・、時雨様も来てくれるって・・・。」

那美はそう言い終わると、家に入った。
那美と時雨の家。





今でも

あざやかに思い浮かぶ

心に消えない情景がある



『那美』



どこにいても

時雨様さえいてくれれば

そこが楽園だった


そう

あの海でも










もう二度と

見る事のない楽園




・・・・タン

タン


ガラガラ・・・・・・・・





それでも





「ただいま――――――」





「おかえり・・・時雨様」







私は今もその中にいる











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(2004.05.27)

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<管理人のつぶやき>
だんだら第三部、これにて完結です。
予告通り最後ホロリとさせられましたよ。そしてこれまた予言通りハッピーエンドでした!

第1話を拝読した時はとても明るい雰囲気で、楽しいお話かな♪と思ってましたらなんと!
すごく波乱含みのお話となっていき、一時はどうなることかと・・・(オロオロ)。
だんだらのゾロは両親との過去のトラウマのため、懊悩が深い。そのためどこか臆病なところがあります。原作ゾロには見られない部分ですね(^_^;)。
一方ナミはおしとやかで可憐です。過酷な運命にあるのに実に一途で健気な人!
そんなナミにゾロは救われたのかもしれませんね。
二人はこれからはずーっと一緒に生きていくんでしょう・・・。
ところで、ゾロはナミのために新撰組から離脱したのかな?どうなんでしょ?

雷猫さん、第三部完結おめでとう&お疲れ様!第四部、構想ができたらまたぜひ。

 

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