Sei sempre nei miei pensieri e nel mio cuore
りうりん 様
Gennaio
その白い手を目で追うようになったのは、いつからだろう。
シャーペンを持ち、思案気に頬に手を当て、教科書や辞書を捲り、友達と菓子をつまんでは転げ笑って出てきた涙を拭く。繊細なガラス細工のような白い手なのに、容赦なく鉄拳をくらわす摩訶不思議な存在でもあって。その手に触れてみたいと思うことはおかしなことではない…はずだ。いきなり触れば不埒者の烙印を押されることは間違いないだろうが、小さくて深い模様が刻まれた白い蝶に気が付いたとき、胸の最奥でなんとも言えないチクリとした刺激を感じた。
***
朝練のおかげで遅刻することなく登校しているが、軽い疲労感が徐々に登校してくるクラスメイト達の体温よって上昇する室温にブレンドされ、HRまでの所在ない時間を睡魔がゾロを手招きしていた。ポケットに手を突っ込み、長身をだらしなく椅子にもたれさせた彼の傍では、朝っぱらからテンションの高いクラスメイトたちの声が飛び交っていた。聞くともなしに聞こえてくる話題は、どうやら今年の目標らしい。年が明け、新学期も始まって早数日たっている今頃に何の話題だと、睡魔に腕を掴まれたまま思った。年末年始も部活三昧だった彼には年が変わったことなどカレンダーを見ても実感はなく、早朝の気温だけが季節を実感させていた。
「おれはやっぱりスクープだな。ピューリッツァー賞もビックリなネタを書いてやる!」
目を閉じたままでも、新聞部のウソップが胸を叩く勢いで話しているのがわかる。そんな簡単に取れないから権威のある賞なのだ。それに真実を捻じ曲げているわけでないが針小棒大、大言壮語に出来上がったその記事に新聞記者よりも小説家の方が向いているのではないかと思うし、ゾロに海賊狩りだ魔獣だのなんだのと化け物じみた名称が付くようになってしまったのも、その記事のせいが一因じゃないかと常々思っていた。ちなみに剣道と海賊がつながらなく理由を聞いたところ、「海賊も狩ってきそうな気迫」ということらしい。
「海賊王だな!海賊王におれはなる!」
登校中に朝食分は消化してしまったらしく、途中のコンビニで調達してきたのか、パンを食べながらルフィが叫ぶ。そんなもの、今年中どころか100カ年計画であっても無理だろう。勝手になってろとは言わないが、その荒唐無稽な野望はすでに何度も聞いている。新学期の自己紹介でも言っているくらいなのだから、相当なりたいのだろう。学期末にあった進路相談でも言ったとか言わないとか、担任のシャンクスが「おまえならなれる」と、焚き付けたとかなんとか噂はあるが、たぶん間違いなく本当のことだろう。高校生になっても海賊王とかいう能天気な脳みその構造を羨ましく感じることもあるのだが、ゾロとしては、まあ頑張れやとばかりに大きく欠伸をした。
「ゾロはもちろん大会連覇だろ?」
次回も記事にさせろと半分寝ているゾロに二人が騒いでいる。もちろんと言われても勝負は勝負だが、大きな大会でも練習試合でもゾロは手を抜くようなことはしない。それは相手にとっても失礼なことだと考えているし、勝つことを念頭に置いていてもそれ以上のものが剣道にあるのだから、『そこ』へたどり着くための鍛練に結果が付いてきているのだ。当たり前とは言わないが、今までの実績も積み重ねてきたものの結果でしかない。そんなスタンスに「クールだねえ」と、ため息をつかれる。性格的に不器用であることは嫌と言うほど自覚しているし、させられているのだし、他に興味を分散させる余裕と気力がないだけだ。それでもあの白い蝶がやけに目につくというのは、年相応というものなのだろうか。その事実に、なんだか「へえ」と他人事のような感想しか出てこないのだが
「おっはよ―――――♥んナ~ミすぁ―――――ん♥冬の寒さもあなたの美しさの前では雪解けで―――――す♥」
「来月節分だしね。寒くても暦の上ではもうすぐ春よ」
「雪の女王さまの貴女も素敵だ―――――♥」
呼吸をするようにスラスラと出てくるサンジの美辞麗句には感心してしまうくらいだ。ウソップのほら話やルフィの妄言もすごいが、このグル眉の思考回路はゾロには全く意味不明だった。同世代の宇宙人との方が気が合うかもしれない。当然、ウソップに振られたサンジの答えは、ビシイイイッッと親指を立てて決めポーズをとると
「もちろん愛しの太陽の化身ともいうべき、んナミすぁん♥と恋のブリザードだ!」
「それどういう意味だ?サンジ」
パンくずをまき散らしたまま怪訝な顔のルフィに
「遭難しているのか?」
と、首を傾げるウソップ。「こんのくそバカ野郎らがッ!」と長い黒足が二人の頭頂部に見事に決まる。沈没するふたりを踏みつけたまま
「命の源のような太陽の色の髪をもち、慈母の大地のようなヘイゼルの瞳に、美しく、しなやかでありつつも、あの!ナイス!バディ!この世の美の結晶だ!ビーナスも真っ青なナミさんをおれは必ず落とす!そして、恋はハリケ~ン♥だぁ―――――っ!」
たまに真剣に脳髄の具合でも悪いのかと思うのだが、ブリザードやハリケーンやら災害のオンパレードを並べられて嬉しいものなのだろうか。しかし、ストライクゾーンがマクロであり、気遣いもミクロ単位なサンジなら、ナミの気持ちを掴むことが出来るかもしれない。いや、出来るだろう。
「…」
その想像に眉間のしわが深くなる。何か挟めそうだと「にししし♪」と、面白がって紙をあててくるルフィを勢いよく甲で払いのける。ムカつく想像だが、自分とは関係のないことだ。そう結論付けて席をたつ。
「んー?ゾロくん、ゾロくん。もうすぐHRが始まるぞ」
ウソップの制止を無視し、適当に理由を並べて保健室ででも寝てこよう。そんなことをつらつらと思いながら廊下へ靴先をむけると
「ゾーロ!ゾロー!手!手、出して」
犬を呼ぶように急かすナミに呼び止められた。
「両手!ほらほら!」
訳が分からないまま何か受け取るかのように、大きな両の掌をナミに差し出す。
「はい!おすそ分け!」
ヒンヤリとした華奢な手が、節くれだったゾロの大きな手をつかんだ。細い指を掌に這わせながら
「ハンドクリーム、出しすぎちゃったの。もったいないから、おすそ分け、ね?」
「ずいぶんとジューシーなミカン臭だな」
「ミカン臭っていうな!ミカンの香りよ、か・お・り!お肌にビタミンCは大事なんだからね、感謝しなさいよ!」
「んナミすぁん♥マリモは勝手に光合成しますよー!おれにもプリーズ!!」
「ほらほら、サンジくん。先生が来るよ」
サンジのような伊達男ならともかく、ゾロにそんなアドバイスは意味がないと思われるのだが、これで今年の目標とやらがなんだかわからんうちにクリアしたことになるのだろうかと、ボンヤリと手を眺めているゾロを横目でチラリと見上げたナミが顔を赤くしていたということは、別の話。
…… attacca
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(2015.03.22)