Sei sempre nei miei pensieri e nel mio cuore
            

りうりん 様




Febbraio



嫌な季節だと思うようになったのはいつからか。



誕生日が11月ということもあってか、冬はそれほど嫌いではない。早朝の朝練はきついけれど、ピシリとした身の引き締まるような空気の中での鍛練は、心身ともに洗練されていくような気がするのだ。



ところで食生活において基本的に好き嫌いのないゾロだが、チョコレートだけは鬼門だった。別にアレルギーがあるわけでもないのだが、甘すぎるのだ。ここまで甘くすることないのにと思わせるほど、チョコレートと言うものはどうしてあんなに甘いのだろう。和菓子の甘さは比較的平気なのに、あの独特の甘さを嫌だと思ってしまった時から、嫌悪感の方が先立つようになってしまったが、以前ナミに押し付けられたチョコは別だった。どうして食べさせられたのかは忘れたが、カカオ本来の苦みが生かされた超ビターなチョコだった。ビターでもかなりカカオ成分の高いものらしく、口にはいるものはすべてOK!のルフィが「うげえ」と情けなさそうに舌をだしていた。世の中のチョコがそのくらいのものならいいのだが、ひとつひとつ確認することは出来ないし、食べてみないとわからないものだ。そうなると、チョコに関してはすべてお断り状態になることは仕方がないことだろう。





***





年が明けてから世間が一変するこの時期は、どこを見てもその話題ばかりで正直逃げ出したくなる。とりあえずXデーを過ぎればいいのだと自らに言い聞かせているなんて、その日を待ちわびている世間の大多数の人間から見れば刺されても文句を言えないことは承知しているのだが、本人のあずかり知らぬところで標的にされているらしいことも嫌なのだ。



以前、見ず知らずの女子からのプレゼントに困惑し、彼なりに丁重に辞退したにもかかわらず泣き出され、そのうえ彼女の友人たちにも悪しざまに言われて、いかに極悪人的扱いを受けたことはXデーに付随した苦々しい経験だ。だからもう、一切受け取らない。幸いチョコは好きではないし、諸事万事気遣いのできない自分には剣道のことで手一杯で、サンジたちが浮かれるようなことに時間も意識もいっぱいいっぱいだし、運がいいことに、この学校では構内での収受の禁止が言い渡されている。普段は鬱陶しく思っている校則だが、これに関しては感謝しつくせない。攻撃が全くゼロになるわけではないのだが、それでも学生にとって校則という印籠にはまだまだ効力があるのだ。それをありがたく思っていることを知ったサンジが「レディの敵に天誅だ!」と蹴りを入れてきたことがあるが、見たことも存在すらも知らなかった女に視界をうろ付かれることは、正直言って本当にかなり迷惑なのだ。最近はうまくかわす術を身に着け、出来るだけ一人で行動しないで部活に勤しんだ後はそそくさと帰宅するなどなど、世間一般的男子学生にしてみれば本当に言語道断で、親の仇にも等しい行いだが、毎年絶望的な気分でXデーを迎えているゾロとしては、ことのほかこの日について説教面を下げるサンジの嫌いなこんにゃく祭りでもあればいいのにと思う。それがXデーに関しての論議は地球をいくらまわっても平行線なサンジへの攻撃として有効なのかは全く不明なのだが、まあそんなわけでXデーである。



どいつもこいつも殺気立った異様な空気が渦巻いているから、妙に居心地が悪い。バカじゃないかとは言わないが、いい加減にしてくれとため息をつきたくなる。どうせくれるなら酒がいいのにと思っているが、そんなことは言うわけにはいかないと心得ている。



普段よりも3割増しに不機嫌なゾロの傍でサンジは機嫌よく携帯のスケジュール機能をフル活用して、放課後の女子との時間調整に余念がない。ウソップは「3000人の女子生徒から受け取ることは大変だから断るようにしている」と長い鼻をひくつかせ、ルフィは「今日はエースがおやつを持って帰ってくる日だな」と、兄の収穫をあてにしているようだった。三人三様に浮かれているのをゾロは温い目で見ていた。





「俺ほどではないだろうけど、ゾロもかなり貰えそうなクチだよな」

「なー。ゾロ―。食えなかったら、俺にくれよな。絶対だぞー」

「おい、おまえ。万が一のこともあるんだ。そんな不機嫌な面を下げてねえで、レディに失礼な態度を取ったらおれ様がオロしてやるからな!」





押し付けられたことはあっても、貰いたいと思ったことはないし、受け取らない様に、細心の注意を払って危機感を感じているこのXデーをニコやかに過ごせるほど、人格形成は出来上がっていない。早く放課後にならないかと念じていることが、どうしてわからないのか。ゾロの機嫌と世間のテンションの高さの間には深くて暗い溝があり、決して相容れることが出来ない。しかも悪魔の計らいか、天使のいたずらか。いやいや、たしかこの日は聖ヴァレンタインとか言う会ったこともないじーさんの命日のはずだから、その呪いかもしれない。どこでそのじーさんの恨みを買ったのか身に覚えのないことだが、自分のクソじじい運が悪いと言うことは身に沁みて実感している。聖ヴァレンタインの思惑か、陰謀か。今年は日直にあたってしまい、一目散に教室を飛び出すことがかなわない。不機嫌になってしまうことは、彼の心情からすれば当然というところか。



日誌を置きに行った職員室もいつもならそそくさと退散するのだが顧問のスモーカーと部長のコーザにつかまったことをいいことに、春休みの練習スケジュールや練習内容など別に今決めなければいけないことではないことに、うだうだとして時間をつぶしていたが、恨めしいことに早々に「一区切り付いたら部活に行くから」と、追い払われてしまった。



「春休みになったら付属の大学へも行くか」と提案するコーザにうなずく。ここの学校の剣道部としてのレベルは低くない。剣道をするために進学してくる生徒も多い。低くないがコーザやゾロには物足りないと言うのも事実だ。学年が一つ上のコーザが部長になってから、部活でおかしな神経を使うことがなくなり、そう言った面では楽になった。もうすぐ卒業式を迎えるローが部長だったときの殺伐感は筆舌しがたいものがあり、何かと目の敵にされていたゾロはやりにくくて仕方がなかった。しかし、そんなことを思っているのはゾロだけらしく、コーザたちに言わせれば「ゾロに目をかけての打ち込み稽古だったんだし、悪ぶっている割には押しが弱いところがあり面倒見もいい」らしい。どうやら世間にはトラファルガー・ローという人物は二人いるようである。陰険な面をしている割に脳みその出来はいいらしく、医学部に進学すると聞いたとき「解剖がしたいだけだろ」と思った。



「迷子になって遅刻するなよ」と言うコーザに眉を顰めて別れると、ため息を付きながら慎重に廊下の端々に視線を走らせる。放課になり時間もたっているということもあり、生徒の数はかなり少なくなっている。そこにおかしな気配はないだろうか。まるで戦場を駆け抜けるような周囲への神経を張り巡らせて覚悟を決めると、何食わぬ顔をして教室へ向かった。サンジのようにマメな性格ではないし、ルフィやウソップたちのように気安い性格でもない。ぐる眉と違って女子が好意を持ってくれるとは、一欠けらも思っていない。むしろ面白みがないと自覚しているから、嫌がらせや心理的攻撃なのかと真剣に考えたこともあるくらいだ。しかし第3者の視点から見れば、万事に置いて一般的感覚からずれてはいないゾロだが、恋愛及びXデーに関することについては、ちゃんちゃらおかしい位考えが至っていないのだ。本人は無頓着だが、容姿は悪くないのだ。むしろいい方であり、部活の範疇を越えている剣道の腕前も全国レベルであり、すでに大学からどころか、某官公庁からもオファーが来ているとかなんとか。無愛想で無口だが、必要なときは惜しみなく手助けをしてくれるし、不機嫌そうな面構えに友好的要素は皆無だが、基本的に性格は真面目だ。世間での評価も僅差で「面白いブサメン」よりも「寡黙なイケメン」の方に軍配は上がっているのだ。好みの差はあっても、世間的にはモテ要素の基本ポイントを押さえていることを幸か不幸か、一目散に教室を目指している本人は知らなかった。



クラス名が表示されたフレームが視界に入った。ここで一旦教室に入れば、第一関門はクリアだろう。ちなみに、第二関門は教室―武道場間、第三関門は武道場―自宅である。剣道部だが、陸上部のスプリンターに引けを取らないくらい俊足なので、第三関門については問題はないだろう。油断なく周囲を確認してドアを開けると、長身を室内へ滑り込ませた。





「きゃ!」

「やだやだ!」





パタパタと世話しない物音と数人の女子の小さな悲鳴に、ゾロはビクリと背筋を伸ばした。まさかと言う思いと、あちゃーという脱力感。





「なーんだ。ゾロじゃない。先生かと思って、ビックリしちゃった」





見ればナミたち女子が机の上に菓子や飲み物を所狭しと広げていた。





「友チョコしていたんです。Mr.ブシドー」





だから内緒にしておいてくれと言って小さな顔の前で手を合わせるビビに、大きく安堵の息をついたゾロに否やはない。了解の意思表示をすると、部活に行くべくさっさと鞄をかけた。





「あ!ゾロ、ちょっと待って」





呼び止めるナミの声に振り向くと同時に、何かが口に押し込まれる。





「口止め料。これであんたも共犯だからね♪」





何か企むような笑顔は魔女のようだと言ったら殴られるだろうか。口の中に広がるのはゾロ好みのビターなトリュフの食感と…。





「ナミちゃんが作った特製トリュフよ。美味しいでしょ?」





ナミによく似たオレンジ髪を揺らしてコアラが笑った。それにコクコクと首だけで返事をすると、長居は無用とそのまま教室を後にした。急ぎ武道場へ向かうゾロの口の中でビターなチョコとかなり強めの洋酒の味が広がる。手作りだとか言っていたが、ゾロ好みでかなり旨い。未成年のため、おおっぴらに出来ないが、プライベートではあるまじき酒豪のゾロを満足させるだけの洋酒を友チョコに使ったナミのことを思った。





「つか、アル中だろ」





チョコは甘いから嫌いだと言っていたゾロの好みを知るために、長期リサーチと全身全霊をかけて作られたたった一粒のトリュフによって、あらぬ誤解(でもないだろうが)を受けているとはつゆ知らず、押し込んだ時に指先についたココアに心臓をバクバクさせながらナミがペロリと舐めたことは、別の話。



そして、鞄を持ち直して廊下の角を曲がったそこに





「チョコをあげるから、結婚して―――――っ!!!」





と、待ち構えていたローラからの突撃を半分廊下を滑るように急転換すると構内を逃げ回る羽目になり、部活に大遅刻したゾロにコーザは苦笑いをし、スモーカーにこってり絞られた、と言うのも別の話。





 …… attacca


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(2015.03.22)



 

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