コーヒーを下さい 〜ゾロ視点〜

            

*みかん* 様

この頃、この街では土砂降りが続いている。
この街の男、ロロノア ゾロは、3本のピアスと刀をぶら下げ、街を散歩していた。
ゾロは遠い街に引っ越すことが決定していて、その最初の手続きも終えたところだった。

「この雨じゃあ おれ以外だれも外 出歩いていねぇよなぁ・・・。ん?」

ゾロは街角で、ぴたりと立ち止まった。
そこは、小さな喫茶店だった。

「・・・・」
(こんなとこにこんな喫茶店あったか?)

そう思いながら、ゾロは店の中をのぞいた。
すると、オレンジ髪の女が一人で店番をしていた。

「?」
(なんで一人なんだ?)

ゾロはそう思ったが、偶然だと思って、店の前をスタスタ通り過ぎた。


次の日、またその喫茶店にやってきたが、やっぱりあの女は一人で仕事をしていた。

(もーかってんのか?アレで・・・。まぁ今ヒマだし、行ってみるか)

そう思い、ゾロは店の扉を開いた。
そして、どっかりと椅子に座った。

奥からあの女が顔を出し、ゾロに気づくと急いでそばまで寄ってきた。

「ご、ご注文は?」
「あ?」

ゾロはいつもの癖で、鋭い目つきで答えてしまった。

(あ やべぇ・・・)

見ると店員は怖がっているような表情を見せた。
そして、ゾロの刀に目をやった。

「あ、あのお客様、店内に凶器のお持ち込みは禁止になっておりますので・・・」

(あぁ・・・たしかにそうだな・・・だが無理だな)

「堅ぇこと言うな。これはおれの宝だ。身からは放すことはできねぇ」
「そ、そんな勝手なことおっしゃられてもですねぇ・・・」
「うるせぇだまれ。とっととコーヒー持ってこいよ店員!」
「は、はい!!」

店員は、さっさと奥へと入っていってしまった。

「あ」
(やべ〜・・・まただ。ったくおれってそんな怖ェか・・・?)

ゾロは頭をぽりぽりかきながらそう思った。
すると、奥からコーヒーを手に持ち、店員がもどってきた。

「・・・はい。コーヒーでございます。ご注文は全てよろしいでしょうか」
「ああ」
「・・・では、レシートはここにおいておきますね」
「あ ちょっと待て」

ゾロは、店の奥へ戻ろうとする店員を呼び止めた。

「・・・はい?」
「ここ。テメェ以外誰もいねぇの?」
「え・・・?」
「てめぇ意外に店員いねぇか聞いてんだよ」
「え、えっと・・・みなさんこの休み・・・旅行に出かけたり花粉のせいで風邪になったりして、結局 今はこの店、私しかいないんです・・・」
「いつまでだ?」
「し・・・知りませんが・・・来週いっぱいまでは、私一人だと思います・・・来週までずっと雨だって言われていますし」
「そうか。ごっつぉーさん。へい。お勘定」

ゾロは、乱暴に金を店員に押しつけた。
店員は慌ててその金を落とさぬよう受け取った。

「あ・・・あ、ありがとうございました。またのご来店お待ちしています・・・」

ゾロは黙って店を出て行った。
そして、自分の財布をのぞき、ハッとした。

(やべぇ!1000円多く払っちまった!・・・・まぁいいか・・・)

ゾロは面倒くさくなり、スタスタと帰っていった。


* * * * * * * * * * * * * * * * 


次の日、ゾロが店にやってくると、店員はレジの整理をしていた。
そして、ゾロに気づくと目を細めた。

「わ、またあなた・・・」
「んだよ。来ちゃ悪ィか?」
「い、いや・・・別に・・・です」
「敬語なんかいいっつーの。さっさと昨日のもってこいよアホ」
「あ、アホ・・・!?」
「あ゛?なんか文句あんのかよ」
「あ、アホだなんて・・・しかも店員に!」
「アホなモンはアホだろアホ!早くもってこいよ。寒ィんだよ!」
「・・・・!!・・・はい」

店員は急いで店の奥に入っていってしまった。

(・・・昨日と今日、来ただけなのによ・・・なんなんだよこの気持ち・・・もうすぐ引っ越すし・・・こいつには会えなくなるんだな)

ゾロは妙な気持ちを覚えた。
別に、普通の女より少し美人なだけの女なのに・・・そう思った。
少しして、店員がコーヒーを持って戻ってきた。

「コーヒーです」

女はむすっとしながら、テーブルに音を立ててコーヒーをおいた。

「・・・そんな愛想悪ィと客来ねぇぞ」
「大きなお世話!それに昨日のお勘定、かなり多かったわよ!おつり・・・」
「釣りなんかいらねぇよ。・・・やっと敬語やめたか」
「あんたなんかに敬語なんか使う方がおかしいわ!それに私は愛想良い方なのよ!!」
「じゃあなんでそんなマユゲつりあがってんだよアホ」
「アホアホうるさい!私はアホじゃない!」
「そんなに怒るとせっかく かわえー顔が台無しだぜ?」
「!!!」

ゾロは自分の思ったことを正直に言うタイプなので、別に自分の言ったことに、何も感じなかった。
しかしこの店員は、かなり驚いた様子で、その場に突っ立っていた。

「・・・ぷは。お前が入れたのか?このコーヒー」
「・・・・ええ」

(・・・なんか 美味ぇな)

ゾロはそう思い、また無神経な言葉を口にしてしまった。

「どーりでうめぇワケだ。ごちそーさん」
「!」

女はその言葉に、顔をボッと赤くした。

(・・・名前聞いてなかったな)

「おい」
「!!!はい!?」
「・・・名前」
「え・・・」
「名前、なんつーんだよ」

女は少し驚いた表情を見せたが、少しして静かに答えた。

「・・・・ナミ」

(・・・『ナミ』・・・)

「あ そ」

ゾロはあっさりと答え、ナミに勘定を渡した。
すると、帰りかけたゾロに、ナミが声をかけた。

「ねぇ・・・!」
「あ?」
「・・・・名前!」
「は?」
「あんたの名前、聞いてないんだけど!」
「・・・知りてぇのか?」
「そ・・・そんなこと・・・」
「ゾロだ」
「え・・・」

ゾロはナミの方を見て続けた。

「ロロノア ゾロ」

静かにゾロはそう言い残し、店を出て行った。

今日も勘定を多く渡した。けれど、ちゃんとゾロは理由を見つけた...


* * * * * * * * * * * * * * *


次の日、ゾロは引っ越しの最後の手続きで、喫茶店に行くのが遅くなった。
もうゾロの中には、喫茶店が目当てではなく、ナミに逢うのが目当てだった。

「・・・っあ゛〜・・・眠ィ・・・」

ゾロはあくびをしながら、店へ入った。

「?」

見るとそこには、呆然と立っているナミがいた。

「ふぁ・・・どうした?突っ立って」

ナミは少しハッとした様子で、静かに呟いた。

「・・・・・・別に」
「どうだ?今日は客、おれ以外に来たか?」
「・・・・・・ううん」
「それでも稼いでんのか?」
「・・・・うん・・・」

ナミの顔に、少しずつ笑顔が戻ってきた。
ゾロがどっかりと椅子に座ると同時に、ナミが呟いた。

「今日・・・来ないのかと思った」
「バーカ 来ないわけねぇよ」

(なにせお前に逢うために来てんだしな)

「来なくていいのに」

(やっぱりおれぁ迷惑か・・・)

「来ちゃ悪ィか?おれは客だぜ?」
「う・・・・」

ゾロはナミの『来なくていいのに』が少し心に刺さったが、いつもどうりの表情で、いつものコーヒーを頼んだ。
少しして、コーヒーが運ばれてきた。ゾロはそれを一気に飲み干した。
舌の上と、喉の奥がヒリヒリする。

「っあ゛ー・・・熱ィ」
「・・・舌やけどするわよ」
「もうした」
「ひぃ!!」
「あー・・・痛ぇヒリヒリする」
「・・・・バカじゃないのアンタ」
「うるせぇ!」

ゾロはそう言いながら席を立った。
そして、また100円多く勘定を渡した。

「あ 今日は100円多い!もういい加減にしてよ!」
「・・・・じゃ」
「ちょ!ちょっと!話聞け!!」
「・・・・さよーなら」
「っ・・・・」

ゾロは払い捨てるように一言 言い残し、店を出た。

(・・・明日か・・・引っ越し・・・今日で最後だったな。あいつとああやって喋んの・・・)

ゾロは店を出た後、大きなため息をつき、帰っていった。


* * * * * * * * * * * * * * *


次の日 ゾロは引っ越しの準備で、喫茶店に行くのが夕方になってしまった。

(っあー・・・すっかり遅くなっちまった・・・ナミ、まだ居っかな・・・)

ゾロは少し心配しながら、店に入った。

「!」
「こんちわー」
「・・・・」

そこにいたのは、いつもの姿のナミだった。

(・・・ふぅ。まだいたか)

ナミはまた突っ立っていた。

「?どうした?突っ立って」

ゾロは心配して、そう言った。

「昨日からおめぇ元気ねぇよな。熱でもあるんじゃねぇのか?」

熱でもあったら、心配でしょうがない。

「無理すんなよ。てめぇが倒れたら他に誰がこの店の番すんだよ」

店の番なんかどうでもでもいい。それよりも、ナミが倒れたら・・・

ゾロはいつのまにか、こんなにもナミに惹かれていた。

「おい ナ・・・」

ゾロはなにも答えないナミの方を見た。

次の瞬間、ゾロはぎょっとした。

ナミが、泣いていたからだ。


「!?オイ ナミ!?」
「・・・きょ・・来・・・った・・・・」
「は?」
「今日・・・来ないかと思った・・・」
「!」
「もう・・・来ないかと思ったぁ・・・っ」
「・・・ナミ・・・」
「何か・・・悪いことにでも遭ったんじゃないかって・・・思った・・・・!」
「・・・・っ」
「バカ・・・もう・・・・来ないかと思ったじゃない・・・!」

ナミは溢れる涙を、必死に袖でぬぐいながら言った。
いつしか袖は、涙でびしょぬれになっていた。
ゾロは、ナミを抱きしめたいという気持ちが、一気にこみ上げてきた。

「・・・ナミ」
「・・・・・」
「・・・ナミ」
「・・・・っ」
「ナミ」

ゾロはナミをきつく抱きしめた。
今までに、こんな気持ちになったのは、ゾロもナミも初めてだった。

「・・・ゾロ・・・?」
「・・・・来ないわけ・・・ねぇだろ」
「え・・・・」
「1日もお前に逢えねぇなんて、耐えられっか!」
「ゾ・・・」
「本当は・・・ずっと前からお前のこと知ってた」
「え・・・・」
「この喫茶店、いつもお前だけしか仕事してる奴、いねぇなーっていつも思ってた。ヒマだったから、行ってみたんだ。そしたらお前がいて、一瞬で惹かれた」
「・・・ゾロ・・・」
「金、いつも余分に渡してただろ・・・あれ、取ってあるか?」
「・・・え・・・ええ・・・」
「そうか・・・よかった」
「え・・・」

ゾロは、そっとナミを自分の体から放した。
そして、真剣な目でナミに言った。

「・・・おれ、引っ越すことになったんだ」
「・・・・え・・・・?」
「だから、もうお前に逢えない」
「・・・・そんな」
「けど、お前に余分に渡してた金で、おれのトコ来い」
「・・・え?」
「おれの家までの電車賃、今日渡せばピッタリだ」

(最初に渡した1000円は、ただの払い間違いだったけどな)

「・・・・ゾロ・・・」
「ヒマになったら来い」

ゾロは少しの微笑みを顔に浮かべ、いつも通りの席に座った。

「・・・コーヒー」
「え・・・」
「コーヒー、くだせぇ」
「!」

ナミは涙を浮かべて言った。

「・・・はい」



次の日、ゾロは遠くの街に引っ越し、もう この喫茶店に来ることはなかった。


しかし何年かしたある日、ゾロはその店に行ってみた。



「・・・・コーヒーくだせぇ」



そこには、一番 輝く笑顔があった。










 −end−


(2006.04.20)

Copyright(C)*みかん*,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
ナミ視点に続いて、こちらはゾロ視点です。ゾロ、ウェイトレスのナミを見初めるの図(笑)。
さて、ナミはどれくらいしてから会いに行ったのかな?

*みかん*さん、これで7作目の投稿作品です!
このお話のナミ視点はこちら→

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