<叔父>・・・父、母の兄弟、またおばの夫。父母の兄には「伯父」、弟には「叔父」とかく。



あたしが初めて叔父さんに会ったのは確かあたしが小学校にあがったおいわいのときだった。
あの日あたしは入学祝いのお洋服をかってもらいにデパートにいって迷子になったんだっけ。
あの頃あたしはまだ6才で叔父さんは17才だった。
小さかったからあまりはっきりと憶えていない。

ただはっきり憶えてるのは、あの日迷子のあたしの手を突然さらった大きくて優しくてごつごつした手の感触。






「11」-eleven  前編
            

モロッコ☆ 様



・・・・・都内から少々離れたとあるボロアパート。



「ちょっと!起きなさいよっ!」

「ぐぅ。」

「起きろ―――――――――――――――!!!!」

「・・・・・・ぐ、ぐががっ。」

「・・・・・(怒)。」

毎日毎朝飽きもせずに繰り返されるこのやりとり・・・。しかし少女はいつになく怒っていた。
毎度のことではあるが、いくら布団をはいでもはいでも起きる様子もみせない目の前のトランクス一枚の男。

少女はだまってキッチンと言うにはあまりに素朴で質素な台所へ向かう。
まもなく戻って来た少女の手には・・・・・・・お、おたま?!?!
その瞬間、何も知らずにガーガー寝こけている男にむかって少女はお玉を振り上げた!!!!




>>>>2年前

「ナーミー!!?」

「ナミ――――――――!!!!!聞いてるのっ?今日何時だっけー?」

「はーいはいはいっ!今日も5時半にいつものカフェの前。」

「わーかったわかった。じゃいってらっしゃーい!!」

「ベルメールさん今日こそ遅刻はなしよ?」

「はいはい、行った行った!」

「行ってきますっ!」

そうゆうと少女は元気良く玄関を飛び出す。そう、「ナミ」それがこの少女だ。
先ほどまでの会話でもわかるように(わかるだろうか;)この二人は仲のいい友人みたいなものだ。・・・二人・・・すなわち母と少女である。
母のベルメールは18でナミを生んだ。しかしながらその娘に父親はいなかった。いや正確にはいるのだが、ベルメールは未婚だった。
ナミもそのことは知っている。自分が不倫関係の間に生まれてきたこと、そして本当の父親はある大手ホテルの経営者であること。
しかし、ナミはその話を聞いてからもそれまでと変わることなく常に明るくふるまい父親に会いたいなどと口にしたことはなかったし、ナミ自信別段会いたいとも思わなかった、逆に会いたくなかった。
それで十分幸せだった・・・。

ある日ベルメールはひったくりの現場にたまたま遭遇し、犯人を追いかけ、逆に刺されて帰らぬ人となった。
その日学校で5時間目の授業を受けていたナミを校長が呼び出し、その話をきかされるとナミは廊下にしゃがみこんで笑い出した。

「ベルメールさんらしいわ。」





それからしばらくはナミは学校を休むことになった。

ベルメールの葬儀に参列した人は数えるほどで、新聞の小さな記事以外だれもこの勇敢な死を悲しんではくれなかった。
親戚も、父親の件からかこの死にどこか冷たく、ナミはそれをどこかで理解していた。ナミは葬儀の最中も終わってからも決して涙をみせなかった。

葬儀がすむと今度はナミをどこで引き取るかとゆう問題が引き合いに出された。
どうやら父親は金銭面の援助だけで済ませる気らしかった。親戚の大人たちはナミのいる前であれやこれやと言い訳をつらねるばかりで、一行に話は進まない。
ナミはもうどうでもよかった。ここにいても肩身が狭いだけだから、いっそ寮の学校にでも転校させてくれればいいのにと思った。

そんな中、ナミの引き取りを申し出たのはまだ23のベルメールの弟だった。

「俺ん家で預かる。それで文句ねーだろ?」

ごちゃごちゃ言うだけの大人たちを沈めたのはその言葉だった。

「行くぞ。ナミ。」

そう行ってナミの手を握った手は大きくて暖かくてごつごつしていて、それからすこしナミには痛かった。



ナミは男の家の前まで来てから少し・・・かなり後悔した。・・・あまりにもボロアパートすぎて・・・。
ナミがアパートを見上げて何ともいえない顔をしているのに気づいて男は少し苦笑して「悪ぃな。」と言った。
ナミはあわてて「とんでもないです。」と作り笑顔で答える。

玄関に入ると男はまた謝った。

「ホンとわりぃ。」
「いえ、だから、」
「いや、そうゆうことじゃなくて・・・ホンと悪ぃ。」
「?」

「大人は汚ねぇな・・・。本当、ごちゃごちゃいいやがってよ。んなこと言ってる場合じゃねーだろって・・・。俺も・・最初話いい加減にしか聞いてなかったから。俺も、嫌な大人になったもんだ・・・。」

そういうと男は自嘲気味に笑みをもらす。
ナミは気持ちの入らない言葉で「そんなの気にすることじゃないわ。」とだけ答えた。

「じゃあ・・・。」

「??」

「じゃあ、お前なんで泣かねぇんだよ。」

「っ!!!」

そう言った男の顔は嫌に真剣で、いつのまにかナミの頬には涙か一筋も二筋も流れていた。

「なんだ、泣けるじゃねぇか。」



その日ナミはベルメールが死んでから初めて声をあげて泣いた。



次の日、ナミは気づくとソファーの上にいた。ぼーっとする頭で、自分が何かソファーと異質の少しごつごつしたものに頭をあづけていることに気づく。ゆっくり顔をあげれば少し顔を赤らめた男と目があう。

「お、おぅ!」

男はトイレに行きたいのも我慢してナミを起こさないようにと動かないでいた自分になんだかこそばゆい感覚を覚えそっぽを向く。
あからさまに照れながらそゆゆう男につられてナミも顔を赤くする。

「あ、おはよう・・・ございます・・・。」

・・・・・・・しばらく沈黙が流れた・・・・・・。

―――――――――ギュルゴゴ、ギュルルルルッ――――――――


「「・・・・・・・・・。」」

今のはナミではない・・・とすると・・・・・・。
ナミが男の顔を見ると、男はますます顔を赤くする。
ナミはそれをみて思わず吹き出す。

「あっ!アハハハハハハハ!!!!!」

「な、んなっ。」

ナミは久しぶりに涙が出るほどに笑った。男はそのあまりの勢いに不満そうに口をとがらせている。

「お前っ!そこまで笑うかっ!自然現象だっつの。」

「だ、だって・・・タイミングがっ!アーッハッハッハ。ハハ・・・ハハハ。・・・ハァ。」

ひとしきり笑うと静けさが戻ってくる。

「なぁ、お前・・・メシとかつくれんの?」

「・・・。高いわょ?」

「あぁ?」

そう言いながらも男の顔は穏やかだった。



これがこの二人の生活の始まりだった。




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(2004.10.26)

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