お前は、俺にとって『女』じゃねぇ。

お前は、俺にとって『仲間』だ。

それは、お前が望んでいた俺の仲間像。

そして、それを演じていた俺。





でもな?もう限界だろ?






あっちむいてホイッ! side zoro
            

波男 様



イライラする。

今日の昼は、結構気分良く過ごせたってのに・・・。


今日の昼寝は、持ってこいの天気で、いつもウルサイ連中はキッチンの中で何かゲームをしていて、誰も居ない無音の世界だった。

熱くも無く、寒くも無い。
音が無く、静かに波の音だけが聞こえて、いつでも夢の中に入っていけそうだった。

そこに、コソコソと足音が聞こえた。
いつもは元気に駆け寄ってくるこいつが、こんなにコソコソと歩いているのは、寝ているかもしれない俺を気遣っているためだろう。
そんなチョッパーに左目だけ開けて『何か用か?』と聞いてみる。

「あ!・・・もしかして起こしちゃったか?」

そんなんじゃねーよ。起きてた。と言うと『そっか』と元気な返事が聞こえる。

それから、自分の体を起こしてチョッパーを見ると、チョッパーはさっきまでの話を楽しそうに思い出しながら話し始めた。

キッチンでクソコックに「あっち向いてホイ」を教えてもらった事。
その後、ナミと遊んだ時に負けない為の『戦略』を教えてもらった事。
その戦略を実行する為に、ウソップに勝負を挑んだ所、全勝出来た事。

そして、俺ともそのゲームをやりたくて、ここまで来た事。

そこまでを一気に話すと、ちょっと恥ずかしそうに『ゲームしないか?』と聞かれた。

「あ〜〜。やりてぇのか?」
「うん!俺、ゾロともやりたいんだ!!」

で、クソコックのメシコールが聞こえるまで、チョッパーに付き合った。


その勝負は、6戦中4勝2敗。
さすがナミに仕込んでもらっただけはある。

子供相手のこんなゲームでも、天気の良いこんな日には、結構楽しめるものだ。
チョッパーが『ありがとうな』と照れくさそうに言うので、俺も楽しかったと一言伝えてやる。
その一言が、嬉しかったのかあの妙な踊りを披露してくれた。

その後、振り向いたチョッパーは、満面の笑みでこう言った。

「ゾロは強いなぁ!ナミも強かったけどな!二人がこれやったらどっちが勝つのかな?」

チョッパーはその一言を残し、キッチンへと走っていった。



そんな穏やかな日中を過ごし、夕飯を食って、一風呂浴びた。

ここで、この気持ちの良い気分のまま冷たい物を飲みたかったが、冷蔵庫にはその姿は無い。

途端に、この飲み物が無かっただけで、今までの良い気分は激減する。

冷蔵庫に舌打ちをして、ナミの部屋へ向かう。
俺がこれを飲みたいと思うという事は、あいつもそうだ。
だから、十中八九あいつはその飲み物を冷やしているか、飲んでいる。
それを、少しだけ頂こうと言う考えだ。


実際、俺の気分と、ナミの気分はシンクロする部分がある。
寒ければ、アルコールの高いものや、熱燗。
すっきりとした日には、白ワイン。

これは、酒飲みの俺とあいつだけがわかる気分。

湿気が多く、すっきりしないこの夜は、間違い無くあいつの選択は『ビール』だ。

意気揚揚とナミの部屋に向かおうとすれば、ナミはすぐそこに居た。

目を凝らして見ると、手に持っているのは、間違い無く自分の求めていた『ビール』だった。



「ナミ?」

近くに行くと、さっきまでビールに目が行き気づかなかった事がわかる。
明らかに変なこいつの雰囲気。

声をかけると「何?」とスグに返事が返ってきた。

「俺にも酒くれよ・・・」

そう言うが、すぐに断りの返事。

「いやよ。これは高いお酒なの!」

あ?お前の持っているビールは安物だろ?と思ったが、意図している部分も分からなく無い。
暑い夜の冷えたビールは、そこそこ値が張る酒よりも格別に美味い。

それは、俺だって分かってる。

だから今こうして頼んだのだから。
もう一度頼む暇も無く、すぐに、フンっと鼻を鳴らして横を向いた。

その行動が昼間のチョッパーと重なる。
一生懸命に伸ばさなくていいのに、首まで伸ばして横を向いたり、上を向いたりしていた大事な仲間。

そして、先程の言葉が引っかかる。

「ゾロは強いなぁ!ナミも強かったけどな!二人がこれやったらどっちが勝つのかな?」

は!面白れぇ。
ここでの勝負に最適じゃねーか。
賭け事というものにナミは必ず反応する。
どうせ、自分が勝ったら借金増やすとか、なんとか言うんだろうが、俺はこの勝負、負ける気がしない。

賭け事は、当たって砕けるよりも、砕けないものを探す。

この勝負、貰ったも同然。
何てったって、俺には秘策がある。

だから、勝負を持ちかけてやる。

「じゃぁ、ゲームでもしないか?」
「はぁ?あんたから『ゲーム』って単語が出てくると思わなかったわ」

突っかかる物言いに、乗らず話しを進める。

「今日チョッパーにせがまれてやったんだが、なかなか面白れぇんだ」
「なにそれ?」

「あっちむいてホイッってやつだ」

「あぁ〜。私も今日やったわよ。3馬鹿にせがまれて・・・」
「よし!じゃぁ、やろうぜ!」

「ちょっと待ってよ!『やる』とは言ってないわよ」

「じゃぁ、俺が勝ったら酒寄越せ。お前が勝ったら・・・」

 
借金増やすって言うんだろ?

「私が勝ったら借金10倍に増やすわよvv」


ほらな。

「いいぜ。負ける気がしねーからな」

「言ってなさいよ。とりあえず、あんたからでいいわよ?私こういうの強いからねvv」

と、実に簡単に俺の思惑とおりになった。

さてさて、ここからが勝負。

俺からで良いのか?と聞くとナミは、どうぞ?どこからでもかかってらっしゃい?とジェスチャーする。
俺は、持っていたタオルを置いて、気合を入れて指を指す。


さぁ、勝負の始まりだ。

お前は、指の先なんて見ないだろ?
頭のいいお前が、そんな初歩的ミスを犯すはずねーもんな。

でもな・・・それが俺の作戦だ。

さぁ、俺の顔を見ろよ。
さぁ、俺の目をじっくり見やがれ。

自慢じゃないが、俺の目は人には怖がられる。
っつーか、圧迫感を与えるらしい。

蛇に睨まれた蛙って所だ。



俺と視線を交えてずっとそのままで居られるか?

なぁ、ナミ?

この『溜め』に耐えられるか?


しかしこの勝負、俺の策が未熟だったかもしれない。

果たして、この女にそんな事が通用するか・・・

本当に、この女は大したもんだ。
その辺の男よりも、ずっと根性が座ってる。

でも、俺の『溜め』はねちっこいぜ?


ナミは、真剣な瞳で俺を凝視している。

ふと蘇える記憶。
あの時、仲間になる前に出会った時、その意志の強そうな瞳に惹かれた。


何事にも動じない。
全てを見据える瞳。


仲間になってからも、この眼を散々見た。
そして、いつか思ったその瞳を自分に向かせたいと。

でも、この瞳は自分に向けられない。
向けられる事は絶対に無いと確信した事があった。

自分を、俺の存在を見ようとしないこの女。
いや、正確には、俺の男の部分を認めない女だ。

ナミがそうしているのか、ナミの女の部分がそうさせるのか。



だったら、

試したくなる。

その瞳に、俺が写るのか。
その頬に、朱が引かれるのか。
その唇は、いつもと違う声で俺を呼ぶのか。

ナミは、俺を意識するのか。


って、俺は何を考えてんだ?
今は、ビールが欲しくて勝負してるっつーのに・・・

これじゃ、俺が蛙じゃねーか。

ナミの瞳に眼を囚われて
ナミの頬に心が囚われて
ナミの唇に眼も、心も囚われる。

自分の心臓がやけにうるせぇ。

俺の瞳が捕らえてるナミの顔が赤く染まっていく。


あぁ。俺はこれを見たかった。

ナミのすました顔が歪む瞬間。


でも、予想外なのは自分の顔も熱くなっていく。
もっと見たい。
しかし、この時間を引っ張っても、自分にとって良い事は無いと判断して、その空気を壊す事にした。


「・・・ッホイ!!」

その瞬間、ナミと自分の指の方向が一緒になる。

「よっしゃっ!」
それは、照れ隠しの為に発した声。
ちょっとばかし大きな声だったので、自分でも驚いた。

「ちょっと!!今のは無しよ!あんた『ホイ』って言うまで時間かかりすぎ!」

顔を手で抑えながら、捲くし立てるナミの声。
大丈夫だ。顔が赤いのは知ってる。

「ああ?それも作戦だ。・・・お前だってこれくらいするだろ?」

でもな、俺は優しいから赤い顔の事は言わないでいてやるよ。

動揺してんだろ?
赤い顔を必死に隠そうとしてるんだろ?
深呼吸して、さっきの出来事は無かった事にしたいんだろ?


でもな、それは全部無駄なんだぜ?

お前が冷静を装って、いつもの様に仮面を被ったって・・・


「いくわよ!!」
「おし!こい!!」

「あっちむいて〜〜〜〜〜〜」



無駄なんだ。

一回意識したものは、時間が戻らない限り無くならねぇ。

そうだろ?ナミ。
もう、お互い認めようぜ。

俺は顔を背けねぇから。



「〜〜ッホイ!!」



だから、言っただろ?

ソ・ム・ケ・ナ・イって。

正面を向いたままの俺と、そのまま固まっているナミ。

「っぷ・・・くく・・・あ〜はっはははっは・・・」

してやったり。そう思うと、笑いがこみ上げてくる。


「何を笑ってるのよ!!」
「弱ぇえ!弱すぎだ!」
「うっさいわよ!なんで顔を動かさないのよ!」
「ああ。左右上下だけじゃねーんだよ。こうやって『動かさない真ん中』ってのもあんだよ」


そのおかげで見れた、こいつのあの表情。


「そんなの私は知らないわよ!!どーせあんたの使わない脳みそで考えたルールでしょ!!」


背けなかったから見れた、こいつのこの表情。


「お?頭いいじゃねーか」

「そんなの無しよ!もう一回私から!」

「なっ!待て!俺が今勝っただろうが!」

「だから言ってるでしょ?あんたのはズルよ!男がそんなズルイ事していいと思ってるわけ?」

「よし分かった。こい!」

しょうがない。
負けず嫌いな、こいつの為にもう一度演じてやるよ。

猿芝居だけどな。



「あっちむいて〜〜〜〜〜〜」

真剣なナミの顔
俺だって真剣だ。とりあえず、ビールもお前も両方欲しいんだから。



さぁ、魔女?

どうでる?



縮めてくる距離・・・

10cmから・・・ゆっくりと5cm、そして3cm。

背筋が凍るような、微笑を浮かべる魔女。
魔女の右手が俺の頬をなでる。



囚われる。
やばい。と判断する頭。

でも動けないのは、今魔女の行動が気になるから。



ゆっくりとした動作で右手が耳の裏を撫でやがった。



その心地よさに囚われる。

目も、耳も、全ての体の意識伝達が上手くいかない。

全てが頬に集中する。



耳に微かに聞えた『チュッ』て音。
頬に当たる、柔らかな感触。

魔女の呪いは、成功されたようだ。

その証拠に・・・
俺の顔とナミの指先は同じ方向を向いていて・・・。

おまけに、俺の心も持っていきやがった。



『ホイ』と小さく聞える。
賭けの対象だったビールを一気飲みする音が聞える。

そのまま逃げようとするナミの手首を掴む。

「おい」

「何?」

「お前の方が、ズルだろうが・・・強制的に俺の顔、動かしやがって・・・」

そう言うのもやっとだ。
魔女の呪いは、効きすぎる。

口まで麻痺させんじゃねぇよ。

顔が熱い。
体も熱い。

掴んでいる手からも呪いをかけやがる。

てめぇは、本物の魔女だよ。


ただ、未熟な魔女なんだろうな。

だって、自分にもこの呪いをかけちまったんだろ?



お前に囚われた俺。

俺に囚われたお前。


さぁ、認めろ。

俺も、いい加減、認めてやるから。




ナミが、ゾロの気持ちに気づくまでは、まだまだ先のお話




〜FIN〜


(2004.09.26)

Copyright(C)波男,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
波男さんの前作「
あっちむいてホイッ!」のゾロサイドでございます。
やっぱりねvとニンマリしたのは言うまでもありません♪
頬を赤らめるナミを見るゾロの嬉しそうなこと。心が動いたのはナミだけではなかったのです。
「策士、策に溺れる」「ミイラとりがミイラになる」を体現するが如きのゾロでした(笑)。
2回目のホイの時は、わざとそらさなかったんだな〜。ふんふんふーん♪

波男さん、続編、がんばって書いてくださってありがとうございました!!
ナミはゾロの気持ちに気づくのか?この続編も待ってますよん(←ほとんど強請り(^_^;))。

 

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