不器用と臆病な恋の物語 −1−
おかの 様
その日は運動会だった。学校中の生徒が集まるということで、はしゃぐ生徒も多い。
うるせえな、そう思い眉間に皺を寄せながらもゾロはある人物を探していた。
家が隣同士の幼馴染みであり、同級生でもあるナミ、そしてその姉であるノジコ。
ナミたちを呼んで一緒に昼食を食べようと、父親であるシャンクスが言い出したのだ。
ゾロはキョロキョロと辺りを見渡して、ひどく目立つ青とオレンジの髪を発見した。
「ナミ!ノジコ!」
呼び掛けると、やぁゾロ、とノジコがにこりと笑う。
そしてその隣で、ぱぁっとナミが笑顔を咲かせる。
それを見てゾロは少し頬をピンク色に染め、ナミから目を離した。
ナミは、可愛い。幼い頃からその可愛さは近所でも有名だったが、小学校4年生にもなるとその顔は少し大人びたようにもなり、同じ学年でもかなり人気があった。
しかも、ゾロに懐いている。廊下で会った時など必ず名前を呼んで駆け寄って来るものだから、照れくさくて仕方がないのだ。
「親父が昼飯一緒にどうだってよ・・・」
目を逸らしたまま、ゾロはぼそりと言った。
それを見てナミは少し悲しそうな顔をしたが、隣のノジコは元気に叫んだ。
「ラッキー!実はちょっと狙ってたんだ!」
やったー!と両手を挙げる。
ナミとノジコは幼い頃に父と母をなくし、今は叔父であるゲンゾウと暮らしている。ゲンゾウは今日は仕事で、午後からしか来られないということだった。
こうやってこの二人とはずっと仲良く過ごしてきた。
しかし、最近は今までと同じく接することが出来ない。特にナミとは。
照れくさい、そう、それが一番の理由だが。
それを助長させている原因が、別のところにあった。こんな風に話していると、いつもその原因が現われるのだ。
「おうゾロ!あっそぼうぜ〜!!」
「おっまえまたそんな奴等とつるんでんのか?」
「俺らと昼飯食おうぜ〜!」
現われたのはルフィとウソップ。
こちらは小学校に入ってからの仲だが、何故か、気に入られた。
こうしてナミやノジコと話している時には、いつも現われて、要はゾロを奪おうとする。
どうしようか、と悩むゾロの横で、止めておけばいいのにいつも反論するのがナミだった。
「ゾロはあたしたちとご飯食べるのよ!あんたたちはあっち行ってて!!」
あらあらまた始まった、とノジコは苦笑いを浮かべながら見ている。
「いや女のお前と食ったって楽しくねえだろうが!」
「そんなことないわよ!あんたたちだって・・・!」
永遠に続きそうな喧嘩を続けるのが嫌になって、仕方なく口を出した。
「うちの親父がこいつら連れてこいってうるせえんだ。だから、ごめんな。」
えー!!何だよゾロのあほー!!そう叫ぶ二人を置いて歩き出すと、ナミは嬉しそうに駆け寄ってきた。
ノジコは少し呆れたような笑顔を浮かべながら後から付いてくる。
ナミは好きだ。そういう物をはっきり言うところだって。
だが、今はそれがうっとおしくて仕方なかった。
昼食後、昼休みはまだ30分ほどあったので、ナミが遊ぼうと言い出した。ノジコは友人のところへ行ってしまったようで、つまり二人きり。それは気まずい。
「いや、俺は・・・」
「ゾロ〜!!ドッヂしようぜ〜!」
そこにまた、彼等がやってきた。今度はまた別の友人も何人か連れてきたようで、結構な大所帯となっている。
「おいおいおい〜またナミかよ。」
「おいゾロ、お前も何とか言ってやれよ。」
いつもどおり騒ぎ出すルフィたち。だんだんと眉間に皺が寄って行く。
だが、今回は更に悪かった。
ルフィたちが連れてきた者の中に、以前からナミのことを好いていると噂のやつがいたのだ。
まずいな、あんまりこいつには一緒にいるとこ見せると・・・
そう危惧していると、案の定、彼はこう言った。
「お前、ナミのこと、好きなんじゃねえの?」
顔が歪んでいるので、嫉妬であることは明らかだ。
でも、ゾロの心には恥ずかしさが一気に広がった。
横のナミも顔を真っ赤にしている。
嫌だ、嫌なんだ。これは俺が最も嫌な空気だ。
「へ〜そうなのか?お前らいい感じなのか??」
ヒューヒューという声が混じる。
ねえゾロ、と困ったナミが手を伸ばし、ちょんとゾロの腕に触れたとき。
ゾロの限界を超えた。
「誰がこんな奴好きになるかよ!!」
近くにいた人たちが全員振り返るような大きな、そして冷たい声を出したその瞬間、触れていたナミの指がひゅっと引っ込んだ。
はっとなって隣を見る。
そこにはぽかんとした顔をしたナミがいた。
その顔が、すぐに無表情になり、そして、泣き出すかと思ったら、
「そっか・・・」
と寂しそうな顔で
笑った。
次の日からナミはゾロには話しかけなくなった。
それが、今からちょうど8年前の話。
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(2008.11.13)