不器用と臆病な恋の物語  −2−
            

おかの 様




田舎だけあってわざわざ他県の中学や高校に行く者もいないため、ほとんどが田舎の公立に進学した。
中学は運がよくというか、ナミと一度も同じクラスにはならなかった。
しかし、高校に入って、3年目。もうないだろうと思っていたその時に、とうとう同じクラスになってしまった。

嫌ではない。
嫌なわけはない。

ナミは高校になってますます綺麗になった。もちろん人気もある。告白した、付き合ったという噂も良く聞く。
そして何より、小さいころから変わらない、あの、目。
少し気の強そうな、そして自分の強い意志を表しているあの目が好きだった。そしてもちろん今も好きだ。
しかし、ナミが自分を正面から見てくれることはなくなった。

朝家から出るナミとノジコにばったり出くわしてノジコは明るくあいさつしてくれるのにナミはじっと下を向いている。
廊下で友だちと楽しく会話しながら歩いてくるナミとすれ違うときにその声がぴたりと止む。そして決して目を合わせようとはしない。

そんなとき、胸がぐっと締め付けられるのだ。

もういいかげん引きずり過ぎだろうと考えることはある。でも心を閉ざしているナミに自分からは話しかけられない。
するとナミは当然自分が嫌われているのだろうと思って近づいて来ない。さらに心を閉ざす。
悪循環だった。


窓辺の席で秋の風を受けながら、ゾロはハァとため息をついた。
10月。この高校では文化祭・体育祭とをあわせて学園祭として開催する。
その準備にみんなが奔走している最中だった。
「お前なぁ!!ため息なんかついてねぇで働け働け!!」
小学校からの腐れ縁であるあのウソップがゾロの机の前に立って騒いだ。
「うっせえ・・・」
さらにため息が出る。
さらに横からルフィが口を出す。
「働かねぇとお前の弁当全部くっちまうぞ!!」
何でだよ、そう言おうとしたら、別の声が楽しげに言った。
「何でそうなるのよ、ルフィ。あんた食べ物のことばっかり。」
ナミだ。
また胸がぐっと詰まる。
そう、同じクラスになってから困るのが、ナミが言葉を発するたびに、こうやって心臓が反応することだった。

ぱっと顔を上げてみる。
と、
一瞬だけ、目が合った。

しかしすぐに気まずそうにそらされた。

眉間に皺が寄る。

さらに、
「うっせー!ナミお前の弁当よこせ!!」
そう言って、目の前でルフィが後ろからナミに抱きついた。

途端に、抑えきれない衝動がわきおこり、
気付けばルフィをナミからひきはがしていた。

「何すんだよ〜〜ゾロの嫉妬しぃ!!」

ルフィのその言葉に、かぁっと顔が熱くなるのが分かる。
そして、言ってしまった。

「何で嫉妬なんかするんだよ。
 目の前でうっとしいんだよ。」

自分が予想したものよりも冷たい声色で響き、ナミが目に見えて硬直するのが分かった。
その姿にまたイラっとする。

「なんなんだよお前も、びくびくしやがって。」

顔をこちらに向かせようと腕をぐいっと引く。

8年ぶりに、ちゃんと目があった。


それはとても悲しそうな色をしていた。


こちらも悲しくなって、ぼそりとつぶやいた言葉がまた最悪だった。

「暗ぇ顔」


かぁっとナミの顔が赤く染まり、怒ったのだと分かる。

そして耳に入ってきた言葉は、脳に届くのにえらく時間がかかった。
耳が拒否していたのかもしれない。

「嫌い。」
「あんたなんか、大嫌い。」





その後のことは覚えていない。
おそらく、もともと感情が出にくい顔なので、そのまま何事もなかったかのように「そうかよ」とか何とか言って手を離したのだろう。
そして席に座って眠った振りをした。
ような気がする。
心の中はまさに嵐に翻弄される小船のよう。
絶望とはこういうことを言うのだろう。

帰り道に会った他校のやつに「何だその髪の色」とからかわれて(もちろん地毛だ)ボコボコにし、ちょうど通りかかった担任も殴り、
そして剣道部の顧問であるミホークにボコボコにされて家に帰されたことは、うっすら覚えている。




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(2008.11.13)


 

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