不器用と臆病な恋の物語 −3−
おかの 様
「どうしたの?」
唇をかみ締めてただいまも言わず家に飛び込んできたナミに向かって、ノジコは心配そうに声をかけた。
大方理由はわかるけど、と心の中でつぶやきながら。
「ゾロがね、」
その名前に反応してピクリと震える肩をなでながら続ける。
「暴力事件だってさ。まぁ、これまでもいじめ現場に出くわして加害者をボコボコに・・・とかはあったけど、今回のは完全に、一方的にゾロが暴れまくったそうよ。
あんたと、何か関係ない?」
下を向いたままポロポロと涙をこぼすナミは小さく、ないわ、とつぶやいた。
でも、と続ける。
「今日、大嫌いって、いっちゃった。
そんなことないのに。
久しぶりにしゃべれたのに、ゾロ、ひどいことばっかり、言うから。」
ひっくひっくとしゃくりあげながらナミは言った。
ノジゴは額に手を当てて、
「あんたねぇ・・・」
とあきれたように言った。
ノジコはずっと前から気付いていた。ゾロがナミを見るときの目が、優しい愛情に満ちていたこと。
そしてそれがだんだんとせつなさを含んだ恋心になっていったことに。
(いっそ哀れだね。不器用すぎるんだ。)
これまで何度そう言ってもナミは「嘘。」と言って聞かなかった。
そんなナミの背中をなでていた、その時。
隣の家から大きな音がした。ガラスが割れたのだろうか。
女一人にふられたぐらいで、家を壊すんじゃねぇよ!!
シャンクスの声がここまで聞こえる。
ノジコは決心した。
「ナミ。」
ぱっと挙げた顔の痛々しい表情に一瞬ためらったが、
「回覧板、持って行ってくれる?」
有無を言わせぬ笑顔を浮かべて、ノジコはナミを家から閉め出した。
**********
「ノジコ!入れてよ!」
10月ともなれば制服一枚では少し肌寒い。
しかし鍵をかけて締め出されてはどうしようもない。
「いいわよ、玄関前にでもおいてくるから。」
そう言ってゾロの家の玄関前の階段に右足をかけたその時。
ガシャーン
また大きな音がした。
さすがにまずいのではないか。
見に行ったほうがいいか。
でも、会いたくない。
会ってひどい言葉を浴びせられるのが怖い。
小さい頃から、ずっと、好きだった。
剣道一筋なところも、めんどくさそうにして、でもいざとなったら助けてくれるところも。
あの、小学校の運動会の日、
幼いながらに受けた傷は大きく、
それから話しかけることすら出来なくなってしまった。
中学でも、高校でも、男らしくてクールだと評判だった。あの切れ長の目がいいとか、声がいいとか。
告白するとか付き合ったとかいう話も、聞きたくなくても耳に入ってきた。
そんな生活、これからもずっと続くの・・・?
「いや」
きゅっと唇をかみ締めて、
ナミは玄関のドアを開いた。
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「お邪魔します・・・」
その声はすぐに耳に入ってきた。
親父を殴ろうとしていた腕がぴたりと止まり、隙ありとばかりに殴られる。
「あ、悪い」
悪びれない声が耳に入る。
どうする
何でナミがくるんだ
どうする
こんな姿、見せたくない
かちりと立ったまま固まってしまったゾロを苦笑いを浮かべてながめ、
シャンクスは玄関に向かってどうぞ、と声をかけた。
途端にゾロがあせったように唇の血をぬぐう。
ぴょこりと、ナミが顔を出した。
「ちょ・・・!シャンクス!ゾロも・・・!何してるのよ!!」
慌てて駆け寄ってくるナミをくるりとゾロの方に向かせる。
と、そこには顔を真っ赤に染めたゾロがいた。
「ゾロ・・・?」
不安そうにナミがつぶやくと、ゾロがゆっくりと口を開いた。
「名前、・・・久しぶりだ。」
「ナミ。」
ナミは幸せそうに微笑み、そして、
きゅっと、ゾロに抱きついた。
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(2008.11.13)