待ち人  −1−

panchan 様

 

「きゃー!シャッキー、お久しぶり!」
「ナミちゃん!元気そうでよかったわ。すこし大人っぽくなったわね。ウフフ。」

シャボンディ諸島 13番GR シャッキー's ぼったくりBAR

空島ウェザリアから海岸沿いのGRに降りて、
お世話になったハレダスさん達にお礼と別れを告げた後、まっすぐここへと辿り着いた。
ここへ着くまでにすっかり日は沈み、2年ぶりに見るシャッキーの店は夜の闇の中。
ほっこり漏れ出す明かりが暖かく迎えてくれているように浮かび上がって。
結構歩いて疲れていたのに、ウキウキと長い階段を上った。
店内に入り興奮しながらシャッキーと交わした挨拶。
それからカウンターに座ると、すぐシャッキーが笑顔で何を飲むか尋ねた。
少し考えて、皆と船にいた頃よく飲んだ酒を頼む。
日が暮れるにつれ肌寒くなっていたので、羽織っていたコートを脱ぎ、
横の椅子に置いた。鞄は足元に置く。
BARのなかは暖かく、無事シャッキーに笑顔で迎えられたこともあり、
心も体も和んで、自然と表情がほころんでしまう。
「シャッキー変わらないわね。ルフィは?」
「モンキーちゃんはまだよ。最初に来たのはロロノアちゃんだったわ。」
ゾロの名前が出たことに驚いた。
「そのあとフランキーちゃんが来て、すぐに船へ向かって。あなたで3人目よ。」
「ゾロが1番だなんて・・。信じられない。
 あいつが迷わず来れるようになるなんて、2年で奇跡でも起きたのかしら・・・」
「フフ。フランキーちゃんもそんなこと言ってたわね。
 ロロノアちゃんは余程手のかかる迷子ちゃんだったのかしら。
 ・・・でも彼、イイ男ね。」
そう言って、シャッキーは指でタバコを持ち、煙を吐きながら笑顔を向けた。
「前にも増してイイ男になってたわよ。以前より感じが落ち着いていたわ。
 精悍な顔つきに筋肉質な体、寡黙な雰囲気は相変わらずよ。
 レイさんの若い頃を思い出すわね。
 モンキーちゃんもイイ男だけど、
 ロロノアちゃんは何というか・・・・セクシーね、とても。」
そう言って、シャッキーは微笑みながら、酒の入ったグラスをコースターに置いた。
そして反応をうかがう様にこちらを見つめながら、タバコの灰を灰皿に落とす。
「あっ、ありがとう。うーん、セクシー?呆れるほどバカな奴よ、あいつ。」
ちょっと小首をかしげてその視線に答えた。
なんだか大人の色気漂うシャッキーがゾロをそんな風に見るのかと思い、
思いがけず動揺した。
 
ゾロがセクシー?
以前共に航海していたころ、クルーを男としては意識しないようにしていた。
日常の男達はバカばかりやっていたし、そういう目で見る気にならないことも原因だったが、
ある意味密室のような船上に男女の感情を持ち込むことで、
絶妙なバランスを保っている人間関係を崩したくなかった。
それは返せばあの関係の居心地が良かったということで、他の皆もそうだったのだろうと思う。
サンジくんのあれは、多少本気も混ざっているかもしれないが、
彼なりのウィットだということが、直接は何も手を出してこないことからわかっていた。
しかし・・・・そう言われてみれば、ゾロには男を感じさせられるというか、
ドキっとすることが何度かあった気がする。具体的には覚えてない。
単にあの中で一番男臭いのはゾロだから、そう思ったんだろう。
もちろん、二人の間には何もなかったし、まして野望まっしぐらのストイックなゾロに、
女に対する興味があったのかも疑わしい。
「彼のこと気にならない?」
「べ、別に。」
「フフ。」
曖昧なシャッキーの微笑みに、何もやましいことはないが少し冷汗が出る。
仲間内での恋模様でも期待して、からかってるのかしら?
なんとはなく、シャッキーの視線から顔を逸らせた。
「お〜い、ナミの姉さん、オラだよお!」
急に呼びかけられた方へ意識をやると、
店の端に置かれたベッドの上には包帯ぐるぐるの見覚えのある男。
そのまわりに2,3人の男達がいた。
「えっと・・あんたは・・」
「えっ、相変わらずハンサム?」
「言ってないわい!!・・あんたデュバルじゃないの!どーしたの?その体?」
「そう、ハンサムと言えばこの俺、デュバルだぜ〜い!
 姉さんや若旦那達が戻るまで、オラたちが船を守ってたんだべよ〜。」
親指を立てながら、ぎこちないウインクを寄越すデュバルに
ありがたいと思いながらもすこしイラっとする。
シャッキーが、この子達がずっと船を死守してたのよ、と話すと、
デュバルが包帯ぐるぐるに至った武勇伝を誇らしげにしばらく話し続けた。
 
少ししてそんなデュバルを無視し、シャッキーが口を開いた。
「あら、ナミちゃん。噂をすれば・・よ。」
「噂って?」
シャッキーがドアの方に目線を送ったかと思うと、
その後程なく、ガチャと開いた入口ドア。
その影から懐かしい緑色の頭がのぞいた。
見間違えるはずのない鮮やかな頭髪。腰には3本の刀。
「釣りに行くつもりが、ここに戻っちまった。悪いがすこし酒もらえねえか?
 ・・ん?・・・・おう、ナミか!」
目が合った。
片目に傷・・・!
「!!ゾロ!!久しぶりね!」
2年ぶりの再会。
何だか久しぶりのゾロにすこしドキドキする。
服の雰囲気が変わったせいかしら?
いいえ、ドキドキするのは久しぶりの仲間との再会だから、と自分に言い聞かせ、
動揺を出さないように毅然とゾロに視線を合わせる。
向こうも突然の再会に驚いているのか、視線を交わしたまま動きが止まっている。
おもむろにドアを後ろ手に閉めると、ゾロはこちらの方へと歩き出した。
ゾロが近づいてくる間、
髪が少し伸びてるとか、眼はどうしたのかしらとか、
なんだかひとつ年上なだけとは思えない貫禄出てんだけどとか、
色んなことを思いながら久しぶりのゾロをまじまじ見た。
一体ゾロはどんな2年を過ごしていたんだろう。
そんな視線に気づいたゾロが、フッと笑った。
まるで、何じろじろ見てんだ?とばかりに。
日頃は常に強面なのに、気を許した仲間に見せる穏やかな表情。
あ、そういうのは全然変わってない。
「2年ぶりだな。おまえあんまり変わらねえな。」
といいながら、カウンターの、ナミからひとつ椅子を空けた左隣の席に掛けた。
ガチャ、と腰の刀を抜いて、カウンター下に立てかけている。
自分では結構、容姿は変わったつもりでいた。
長くなった髪とか、さらに丸みを帯びた体とか。
メイクやピアスには、まあコイツが気付くはずないのはわかってたけど。
我ながら、この2年で前よりもいい女になってる自信があるだけに。
正面を向いているゾロの横顔を見ながら、以前のように、喧嘩腰で言う。
「あんたね、2年ぶりに会った仲間にもう少し気の利いたこと言えないの?
 そういうあんたこそ全然変わらないわよ。」
「フン、口がへらねえのも変わってねえ。」
横目でこちらを見ながら、片方の口角だけ上げて、意地悪そうに笑っている。
「失礼ね」
なんだかこんなやり取りも懐かしく、笑いが込み上げてそれ以上言い返すのはやめてやった。
「どうぞ。これでいいかしら?」
シャッキーがゾロにも同じ酒の入ったグラスを出した。
「酒ならなんでもいい。悪ィな。」とゾロはシャッキーの手からグラスを直接受け取り、
喉仏を鳴らして一気に中身を飲み干す。ゴクリという音がこちらにまで響いてくる。
「フフ、いい飲みっぷりね、ロロノアちゃん。素敵じゃない。」
そういってシャッキーは酒瓶を3本、ナミとゾロの間のカウンター上に置いた。
「あなた達は特別よ。好きなだけ飲んでいいわ。再会のお祝い。」
「お、ありがてえ。」
酒を前にすると子供のような表情になるのも、相変わらずだと思った。
「ほんと、変わらないわね。あんた。」
「ルフィや他の奴らももう来てんのか?」
「まだみたい。私で3番目よ。あんたの次にフランキーが来て、もう船に向かったんでしょ」
「・・へえ。」
「・・って、あんた知らなかったの?」
「ああ。おれはここには少し顔を出しただけだ。着いた日にな」
「じゃあ、今日まで何してたの?あんた」
「あ?まあ、適当に、だ。」
「適当にって、どうせ迷ってたんじゃないの?」
「そんな訳ねえだろ、1番に着いたんだぜ。おまえらが遅えから、適当に過ごしてたんだよ」
返答に余裕を感じる。確かに1番にここへ来れたようだし、
本当にこの2年でこの男のある意味超人的方向感覚に奇跡が起きたのだろうか?
そこへ横から声が掛かった。
「剣士の旦那〜。お帰りで。」デュバルだ。
「おまえらまだいんのか?」
「え?おまえほどのハンサムはいない?」
ギロッとゾロがデュバルを見る。
「あっ、間違えただらべっちゃ〜っ!
 イヤ〜、オラ達、黒足の若旦那が来るまでここで待たせてもらってるんだで〜!
 ちゃんと若旦那が無事かどうか心配してるんだべよ〜!」
ゾロは少しそっちを見ただけに思うが、目つきの凶悪さからか、
デュバルの全身包帯のなか唯一皮膚の出ている顔面からは汗がふき出し、
目がキョロキョロとあらぬ方へ泳いで慌てている。
一応船を守ってくれた恩人なのよね、と少し同情しかけたが、
デュバルは手持ちの鏡を覗き込んだかと思うと、
「ドンマイ!」と、すぐにまた自信満々笑顔に戻っていた。
同情しかけて損したわ。
今度はデュバルの仲間が懲りずにゾロに話しかけた。
「ところで剣士の旦那はもう釣りなさってきたんですかい?」
「いや、釣りできそうなとこを探してたんだがまだ見つからねえんだ。
 探して歩き回ってたら、ここに戻ってきちまってな。」
「イヤ・・・旦那・・、釣りポイントなんて海岸沿いのGR行きゃ、
 いくらでもあるぜい・・」
「あァ?そうなのか?」
まさか・・・・・・・・・この男、やっぱり相変わらずだ。
相変わらずバカで方向音痴で、釣り場を探して数日間彷徨ってたに違いない。
そして、たまたまここをまた通りかかった、と。ほんと呆れるわ。
やっぱり適当に迷ってたんじゃないの!
「あんたさ、何日か前に着いてたんでしょ。」
「ああ、そうだが。」
「夜はどうしてたの?宿は?」
「適当にあのデカイ木の根元で寝てた。」
ああ、予想通りだ。2年の間、思い出すのは楽しかったことばかりになっていたが、
かつての気苦労が一気にフラッシュバックして、盛大なため息が出た。
気にせず、ゾロは酒をあおっている。
「おまえは?いつ着いたんだ?」
「ついさっきよ。あんたが入ってくるほんの少し前に、ここに着いたばかり。」
「へえ、そうか。そりゃ偶然だな。お、この酒うめえ。」
すでに酒瓶2本を空にして3本目に突入している。
人に尋ねておきながら興味の無さそうなこの態度、むかつく。
またシャッキーがさらに3本追加を持ってきてくれた。
すまねえな、といいながらゾロが片手で受け取る。
ついでにつまみの料理も2,3品出てきた。
「ま、久々に飲もうぜ。」
そういって、注いでやるとばかりに酒瓶を差し出すので、
仕方なくゾロのすぐ隣の席に寄った。
しばらく他愛もない話をしながらお互いグラスを空けては、酒を注ぎあった。
デュバルたちも飲み始めたようだった。
だんだん酒も入って、お互い笑顔で会話が弾みだした。
主にほかのクルーの話や昔の思い出話が多かった。
チョッパーはすごく淋しがってただろうとか、
ウソップは生きてるかとか(でもクルーのなかで一番しぶとい男だからと笑いあった)
サンジくんの話はどうでもよさそうだったけど、
ロビンやフランキー、ブルックの話、そしてルフィの話もした。
ルフィの話はお互い多くは語らなかった。
「あいつらのことだ。また元気で集まるだろ。」「そうね」
それからしばらく沈黙が続いた。
ゾロのことが聞きたかったけど、なんとなく聞き辛かった。
この男のことだから、無茶などしていない訳がないだろう。
先ほどから見ていると、左目は開かないほど傷が深いようだ。
なんとなく、以前自分が知らない間にこの男が負っていた、
胸の傷にチラッと目をやった。
はだけた服の隙間には、まだしっかりその跡が刻まれている。
きっと目のことを聞いても語らないだろうな。
この男はいつもそうだ。
私に知ることができるのは傷跡と、今、無事生きて目の前にいるという事実だけ。
ゾロもナミのことを何も聞いてこない。
聞かれないことを寂しく思いながらも、自分から話すのも媚びるようでイヤだった。
そんなことを思いながら、グラスを握るゾロの大きな手を見ていた。

**********

ガチャっとカウンター内側奥のドアが開いて、
店内に姿が見えなくなっていたシャッキーが現れた。
「部屋の用意ができたわ。久しぶりの再会で話も盛り上がってるようだし、
 もう遅いから今夜はここに泊まっていきなさいな。」
いつの間にか奥へ行って、泊まれるよう準備してくれていたらしい。
「あの子達がもう寝ちゃってるから」
シャッキーが指し示す方には、いつの間にか飲みつぶれて思い思いに横たわっているデュバルたちがいた。彼らの様子に気づかないほどゾロと夢中で話していたらしい。
「1Fのバーカウンター付きの部屋で飲みなおすといいわ。
 一応2Fにも一室用意してあるけど、
 一緒でいいならそっちは使わなくても・・「使わせていただきます!」
シャッキーが「あら、そう?」っと意外そうな、からかう様な、
真意の見えない笑顔を返してきた。そこでゾロが口を開いた。
「いや、おれは酒をもらいに寄っただけだ。これを飲み終えたらまた出て行く。」
ゾロでも気を使うことがあるらしい。
それとも、シャッキーの発言から一緒に泊まることを気まずく思っているのだろうか?
ゾロの言葉にシャッキーは優しく返す。
「あなたもどうせ宿無しなんでしょ。明日はまた好きにすればいいわ。
 でも1晩くらい安心できるところで休んだら?
 このあたりで野宿じゃ、いくらあなたでもあまり熟睡できなかったはずよ。
 賞金稼ぎは夜中こそあなたの首を狙ってくるから。
 遠慮しなくていいわよ、ここには手を出してこない。ゆっくりしていってちょうだい。」
「・・・・・・すまねえな。」
「いいのよ。あなた達のこと、応援してるから。フフ。」
そうゾロに言うと、シャッキーは新しいタバコに火をつけた。
今度はナミの方を見て、やさしい笑顔を浮かべる。
そのあなた達というのは、私達一味のことなのか、ナミとゾロのことなのか。
後者とすると一体なにを応援しているんだか。
ついつい意味深な言い回しに深読みして顔が引きつった。
ゾロは特に気にすることもなく「じゃあ酒追加たのむ。」とか言ってるから、
やっぱりなにも感じていないのだろう。相変わらず鈍感なやつ。

「やあ、来ているようだな。シャッキー今帰ったぞ」

そこへレイリーが帰ってきた。
ここしばらくガレオン船のコーティング依頼で留守にしていたらしいが、
その仕事が終わったらしい。
ゾロともまだ顔を会わせていなかったようで、
無事2年ぶりにここで再会できたことをとても喜んでくれた。
「ルフィも君らに会うのを楽しみにしていたよ。
 まだここへは着いていないようだが。」
「あんたと修行していたとはな。」
「ああ。私は半年前、先にここへ戻ったがな。
 ・・・強くなっているぞ。」
「・・楽しみだ。」
「あまり私が話すと本人と再会したときの楽しみがなくなるだろう。
 君もかなりこの2年で磨きをかけたようだ。島に入ったときから気配は感じていた。
 ナミちゃん、君は以前に増して美しい大人の女性になったじゃないか。ワハハ。
 まあ今夜はゆっくりしていくといい。」
「お言葉に甘えてそうさせてもらうわ。ありがとう、レイリーさん。」
「さて、君らの話はまた明日ゆっくり聞かせてもらうとして、私は2Fで休もう。
 やはり仕事明けは疲れるのでな。もうじいさんだよ。
 年は取りたくないものだ、ハハハ。
 シャッキー、風呂に入りたいのだが・・」
「もう用意できてるわよ、レイさん」
「ありがたい。ではな、君達。」
「おやすみなさい」
「・・・・レイリー」
「ん?」
「・・・・・あん時は、助かった。」
「・・・気にするな。命あって何よりだ。」
「ああ」
二人を黙って見ながら、あの日の事を思い出した。
そう、ゾロは殺されかけたところを、ギリギリでレイリーに助けられたんだった。
たった二言。ゾロらしいと思った。

「じゃあ、あなたたちも奥へ案内するわ、どうぞ。」
そして私達はシャッキーの後について、1F奥のバー付部屋へと移動することになった。




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(2011.01.22)



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