それぞれ心に夢を抱いて、まっすぐ前を向いていた。

 あの頃、彼らとともに過ごした時間は、かけがえのない宝物だ。



 それぞれの夢が叶った後。

 一体、何があるんだろう。







夢の果てに  - prologue -

            

panchan 様


 グランドライン、シャボンディ諸島。



ナミは船の測量室で机に頬杖をつき、山積みになった海図と地図を眺めていた。

「はあ〜、すごいわ・・・・これでグランドライン全ての航路を制覇かぁ・・」


呟いて、一人満足げに微笑む。

思えば長い道のりだった。もうほとんど夢を叶えたような気分だ。
グランドラインの航海は何度経験してもその困難さに変わりはない。
自然の圧倒的な力はいつでも人間の能力や想像を上回る。
それらを乗り越えてグランドライン全域を回り切ったというのは、
ほんと、とんでもない事なんだわ、と改めて感慨にふけっていた。


グランドラインの航海を終えると、最後はシャボンディに寄るのが
いつの間にかお約束になっている。

打ち上げのように遊びまくるのだ。

遊園地に行ったり、ショッピングしたり、そしてもちろん、
シャッキー's bar にも顔を出す。
いつも1週間ほど滞在してリフレッシュしてから、
イーストブルーへ帰ることもあったし、次の航海へ向かうこともあった。

今回はグランドライン全域制覇ということで、クルーもなおさらお祭り気分だ。


しかしこれで全世界を回りきったわけではなかった。

故郷イーストブルーの裏側に位置する海域、ウエストブルー。

あとに残すはその海域のみ。

目まぐるしく世界情勢が変化してから、急激に治安が悪化したと新聞には書かれている。
しかし仲間達の驚異的な強さに、その手の心配は全く感じなかった。
純粋に気候のことだけ考えるなら、グランドラインに比べてはるかに
楽な航海になるだろうと予想して、ナミの心は早くも緩んでいた。


ああ、本当に夢の叶う時が来るなんて。

一人測量室の椅子に座るナミの頬は緩みっぱなしだ。

「もうすぐよ・・・」

測量室の窓から空を眺めて呟く。

あの子は、もう5歳になる。
元気に大きくなっているだろうか。
夢を優先してしまったことに、母として正直引け目はある。
でも、その埋め合わせはこれからたっぷりと、存分にしていくつもりだ。


結局、夢の完成までに、ゾロに再会することは出来なさそうだった。

あれからゾロを探していろんな島で手がかりとなる情報を集めたが、
どれもゾロ本人には行き着かず。
どこに行こうとしているのかわからないし、行動に決まったパターンもなく、
まさに行き当たりばったりで放浪しているとしか思えない、というのが
クルー全員一致の意見だった。
当然それでは探しようも無くて、その足取りに振り回されるより、
ナミの地図の完成を優先した方がよいという結論に達した。

世界を回りながら、いつかひょっこり出くわすかもという、
都合のいい偶然はついに今まで起こら無かった。

「どっかでちゃんと生きてんの?ゾロ・・・」

あんたより先に、みんなにあの子を紹介することになりそうだわ・・と心の中で呟いた。




測量室を後にして、ナミも遅ればせながら街へ繰り出そうと、
ここでの船番を買って出てくれたデュバル達に挨拶して船を降りた。
トビウオで繁華街まで送ってくれるというので用意を待っている間、
今回は子供へのお土産も何か買おうかな、なんて考えていると、
にわかに船から、デュバル達がバタバタと走り回り、うろたえる声が聞こえてきた。
なんだろう?と思って見上げていると、船縁に姿を現したデュバルがナミに叫んだ。

「てェへんだァ〜〜!海賊王の旦那がァ!!
 いぎなり遊園地で意識が無ぐなって倒れたってェ〜〜、今、若旦那から連絡が〜!!」


ナミは一瞬で凍りついた。



**********


この一味にとって、シャボンディは良くも悪くも、色んなことの起こる場所だ。
ナミはつくづくそう思った。

ルフィを遊園地からシャッキーのところへ運び、
島中に散らばっていた仲間たちもすぐに集められた。

BAR店内に用意されたベッドにルフィは寝かされ、チョッパーが懸命に診察する。
その様子を、仲間たちは周りから無言で見守った。

ルフィは眠っているようにしか見えなかった。

体の中で何が起こっているのかは外からは全くわからない。
ただ以前からルフィの体は爆弾を抱えているようなものだ、とチョッパーから
聞いていたので、只事じゃないのは皆ヒシヒシと感じていた。

診察を終えたらしいチョッパーが、溜息をついてルフィから皆のほうへ向き直った。
そしてうつむいたまま、元気のない声で話し始めた。

「前から、ルフィが体に問題を抱えてるってのは、言ってたよな。」

皆の沈黙が肯定の返事だった。

「過度に体を酷使してきたことと、溜まりきった疲労もしくはストレスで
 細胞の生まれ変わりが上手くいっていないこと。
 それらが原因で、ゴムの体が劣化してきてるんだ。
 つまり、血管や内臓、その他全身のどこも脆くなって、それが心臓のように
 即いのちに関わる場所が破損したら、ルフィは突然・・・死ぬってことだ。」

はっきりとチョッパーがその言葉を発したことで、ぼんやりと感じていた不安が
決定的な衝撃となって皆を襲った。

フランキーがようやく皆を代弁するように声を絞り出した。

「それで・・・今ルフィはどんな具合なんだ?」

「うん。今診た限りでは、心臓の動きも脈も正常で、なんとか命は大丈夫だけど、
 意識が無いということは、脳や神経系で何か問題が起きている可能性が高いよ。
 だから、いつ意識が戻るかわからないし、もしかしたら、このまま・・・・・」

「えっ、縁起でもねえこと言うなよ!」

ウソップがチョッパーの言葉を遮るように言った。

「・・・とにかく・・・・みんな、そういうことなんだ。
 だから・・・おれも、言いたくねえけど・・・・ふぇっ・・・・覚悟はっ・・うう。」

「チョッパー・・・」

途中から涙をボロボロ流し始め言葉にならなくなったチョッパーを、
ナミはギュッと抱き締めた。
チョッパーと抱き合って、そのまま声を上げて泣いた。



**********



それから眠り続けること3日目の朝。

ルフィが目を覚ました。

「あれ?あれ?・・・・・・おれ、何やってんだ〜?・・あれ?
 ・・なんか体、動かねえぞ。」

「うおォォォォォ!生ぎでで・・・よがっだァァァ・・・ルフィ〜〜!!」

「ほんと・・・よかった・・!!もう!・・・心配かけんじゃないわよ!」

ルフィが意識を取り戻して、嬉しくて嬉しくてまたチョッパーと抱き合って泣いた。

ルフィは意識ははっきりしていたが、体が動かないと言う。
とにかく生き延びられたようで、皆3日ぶりにホッと笑顔をのぞかせた。

チョッパーが、ルフィを治すには体の細胞を再生させるため、しばらくの間、
少なくとも半年は伸びたり縮んだりせずに、体を休めることが必要だと言った。
そして今も、命の危機が去ったわけじゃない、と付け加えた。

当面ルフィが治るまで、シャボンディに留まることに皆で話し合って決めた。
中でもナミが一番、そうしたいと主張した。
皆はナミの地図完成が目前だということを知っているので複雑だったが、
ナミがそう主張するならばと、だれも反論しなかった。

ところが。


それに反論したのは、まさかのルフィだった。


翌日、ひとまずルフィの容態に安心したクルー達は思い思いにすごしていた。
BARにチョッパーが現れて、他の仲間に聞こえないようそっとナミに話しかけた。

「ナミ、ちょっといいか?」

「どうかした?」

「ルフィを説得してきてくれないか?
 すぐに皆で出航するって、聞かねえんだ。たぶん・・ナミの夢のためだと思う。」

ルフィはすでに別の部屋に移されていたので、チョッパーに言われてすぐ、
ナミはルフィのいる部屋に向かった。



**********



「ちょっと、出航なんかしないわよ。
 まだまだ当分、あんたが回復するまでここに留まるって、もう決まったのよ。」

ナミは部屋に入るなり、横たわるルフィに言い放った。
ルフィは横になったままチラッとナミを見て、冷静な声で言った。

「・・・あともう少しのお前の夢はどうすんだ?ナミ。
 早く完成させたいって、お前言ってただろ。・・おれは役には立たねえが、
 船に乗ってることくらいは出来るし、出航の命令を下すことはできるんだ。
 ・・・・船長だからな。」

「だめよ、船で波に揺られるだけの振動でも体に影響が大きいって・・」

「チョッパーから何度も聞いた。でも、そんなもん大丈夫だ。
 そんなんで死ぬんなら、おれ、とっくに死んでるぞ。大丈夫だって!
 ほら、もう体もちょっと動かせるようになってきたんだ。
 おれはそんな簡単に死なねえって。おれの体だぞ。自分でわかる。」

「突然倒れてみんなに心配かけたのはどこの誰よっ!!」

声を荒げたナミに、ルフィが黙り込んだ。
溜息をついて、ナミはベッド横の椅子に座り、ルフィの顔をのぞきこむ。

「・・・怒鳴ってごめん。・・・でも、ルフィ、聞いて。
 私、ほんとにあんたが死ぬかもって聞いたとき、心臓が止まりそうだったのよ。
 ・・・ルフィ、あんたを失いたくないの。お願いだから、ちゃんと体治して。
 私の夢は、急がなくてもいつか叶えられるわ。」

正直こんな風に弱って動けなくなっているルフィを見るのも辛かった。
でもそれを押し殺し、笑顔で優しくルフィの頬を撫でた。
意外にザラッとしたその感触に驚いて、肌も劣化しているのだろうかとショックを受けた。
ゆっくり手を離し、どうしてもっと早く気付かなかったんだろうと、自分を責めた。

ナミをじっと見つめるルフィの黒い瞳に吸い込まれそうになる。

「ナミ・・・・おれは今までやりたいことやってきたし、お前らと出会えて
 いろんなとこ旅して、ほんとに楽しかった。
 いつ死んでもいいってくらい、満足してんだ。
 でも、あと二つだけあるんだ。おれが死ぬまでにやりてえこと。
 一つはお前の夢を完成させること。それともう一つは・・・
 ゾロをこの一味に戻すことだ。」

「ルフィ・・・」

ナミは苦しくなった。ストレスも原因になるとチョッパーが言ってた。
自分がルフィをここまで追い込んだ気がした。
早く世界地図を完成させたいと言った事も・・ゾロが一味からいなくなったことも。
どちらも自分のせいだから。

「ごめんね、ルフィ・・・みんな私のせいよ。
 ゾロが出て行ったのも・・・きっと私のせいなの。」

「それは違うぞ。」

はっきりしたルフィの声に、うつむいていたナミはルフィの顔を見直した。
ルフィは天井をまっすぐ見上げて、続けた。

「あの時・・・おまえらの間に何があったかは知らねェが、
 あいつが出て行ったのは、ナミのせいなんかじゃねえ。
 ・・・・あいつはきっと、いつか出て行くつもりだったんだ。
 おれ達が夢を叶えたときから・・・・・。あいつが世界一の大剣豪、
 おれが海賊王と呼ばれるようになった時から・・・・。
 おれたちはもう、一緒にいる必要は無くなってた。
 一緒にいること以上の絆ができたからな・・・。」

そう言って、ルフィは思い出したようにフッと笑った。

「たとえ離れてても、海賊王といえばおれだし、世界一の剣豪といえば
 ゾロであるかぎり、どこにいてもおれ達はつながってんだ。
 だけど・・おれは心でつながってても近くに仲間が一緒にいねえと寂しいし、
 みんなと一緒にいたいから一緒にいる。・・・・でも、ゾロはバカだから、
 ただみんなと一緒にいるためにも、なんか理由がいると思ってんだろ・・。
 ・・だからナミ、ゾロのことはお前のせいじゃねえぞ。
 あいつが勝手に出て行って、勝手に戻れなくて困ってんだ。
 最初はあいつが戻る理由見つけてくるまで待ってるつもりだったけど、
 ただ待ってんのも飽きた。
 見つけて連れ戻してやろうと思ってんのに、なかなか見つかんねェもんだな〜、
 いや〜、まいった。
 その前に、おれの体にガタが来ちまった。
 ・・・でも、まあ、あいつとは、死ぬ前には何とか会えるだろ。
 なんとなくわかんだ。・・・・だから、おれが今やらなきゃならねえのは、
 お前の世界地図を完成させることなんだ、ナミ。」

そう言って再びナミを優しく見つめるルフィに、ナミはただ黙っていた。

なんと言っていいかわからず、ただルフィを見つめ返していた。

ルフィとゾロの絆の深さを改めて実感したこともあったし、
ゾロが出て行ったことにナミが関係ないと言われ、ホッとしたような、
ガッカリなような複雑な気持ちもあった。
でも何よりも。
あの時もし正直に妊娠のことをゾロに伝えていたら、ゾロはそれを理由に
一味に残っていたんだろうか。
そしたらこんなに遠回りせずに、子どもとも一緒にすごせて、今頃仲良く
みんなで船に乗っていられたのだろうか。

そう思うと、なんともやるせない気持ちになった。


結局、口をついて出たのはこんなことだった。

「私のせいじゃないのはわかったわ。ゾロのことはひとまず置いといて、
 私の夢よりも、やっぱりあんたの体の方が大事よ、ルフィ。
 あんたがいなくなったら、あんたの代わりはいないのよ。
 あんたがいるから、あんたと会えたから、私はこうやって夢を追えてるの。
 だから、ダメ。しばらくここで休養よ。」

まるで子どもを諭すように言った。
するとルフィはやっぱり子どもみたいに、唇を尖らして言った。

「ゾロがいるだろ?」

「え?ゾロ?」

ナミは聞き返した。

「ゾロが戻ってくれば、おれがいなくなっても、大丈夫だろ。」

唇を尖らしたまま拗ねたようにルフィが言った。
本気とも冗談とも取れる言い方だった。

「何言ってんのよ、ゾロじゃあんたの代わりにはならないわよ。
 あんたがいないと、だめなのよ。ルフィ。」

真っ直ぐルフィの目を見る。

「だけどよ・・・・お前、ゾロのことばっか考えてんだろ。」

ルフィは納得がいかないと、ナミを横目で見て、下唇を突き出している。
心がズキッとした。

「誤解してんじゃないわよ。私にとって・・あんたがどんなに大事か、
 わかってよ・・・ルフィ・・・。ゾロとは、違うの。
 たとえゾロが戻っても、あんたがいてくれなきゃ・・・だめよ。」

確かにゾロとああなってから、ゾロが心に占める割合は増えたけど、
それでもずっとルフィはナミにとってかけがえのない存在だった。
子どもを手放してまでこの船に戻った理由は、夢の実現のためだけじゃなく、
ルフィについていきたいというのも大きな理由だったからだ。
だけどそばにいるうちに、いつのまにかここに居ないゾロのことばかり
考えるようになって。
まさかそれにルフィが寂しさを感じていたのかもなんて、
今のルフィを見て初めて気付いた。

泣いちゃいけない。わかってほしい。
涙をぐっと我慢して、力の抜けたルフィの手をギュッと握った。

「私には、あんたが大事なの。」

ルフィはその澄んだ黒い瞳でナミをじっと見返して、少し動くようになったらしい手の親指で、ナミの手を握り返した。

「・・・・本当におれがいねェと、困んのか?」

「うん」

「ゾロじゃあ・・・おれの代わりにはなんねェんだな?」


「そうよ」

ルフィはゆっくり天井に向き直り、目を閉じた。
しばらくそのままじっと動かず、目を瞑っている。
ルフィの手をさらに強く握り、ナミは黙って見守った。

「わかった。」

しばらくして、目を閉じたままルフィが口を開いた。

「チョッパーの言うこと聞いて、体、治す。」

「ルフィ・・!」

ナミはホッとして顔をほころばせた。

「そのかわり、ナミ」

ルフィが目を開けてナミを見る。

「おれとチョッパーだけ残して、地図、完成させて来い。」

「えっ?」

まさかの条件に、理解するまで時間が掛かった。

「・・・そんな、・・ルフィを放ってなんて行けないわよ!
 しかも体、こんな状態なのに、誰かに襲われたり、もっと悪くなったりして、
 急に命を落とすようなことになったら・・・・・・イヤよ、行かない。
 ほんとに、私の夢はルフィが元気になってからで、いいから!」

「大丈夫!お前が戻ってくるまで、おれは絶対に死なねえって!
 ちゃんと大人しくしてるからよ、みんな連れて、行ってこい。
 チョッパーもオバハン(シャッキー)もいるし、おれは覇気も使える。
 だから心配すんな。それに・・・これは、船長命令だからな。」

ニッと歯を見せる、いたずらっぽい笑顔で伝家の宝刀を出した。

「それはずるいわよ、ルフィ。そんな船長命令、聞けないわ。」

「おれは本気だ。それがイヤだってんなら・・もうチョッパーの言うことなんて
 聞かずに好き勝手動きまくるぞ。」

そう言って自由の利かない体で、むりやり片肘ついて起き上がってきた。

「ちょっと!やめなさいってば!・・・・・わかった!わかったわよ!
 わかったから・・・・もう、やめて・・・・。」

ナミは焦ってルフィの体を支えて、そのままギュッと抱き締めた。
体がこんなになっても、まだナミのことを思ってくれるなんて・・。
ルフィの体はゴツゴツしていて、やっぱり男なんだと思った。
でも頬を寄せて顔を埋めたルフィの黒髪は、赤ん坊のような太陽の匂いがした。
ぎこちない動きで、ルフィもナミの背中に手を当てた。

夢に向かう気持ちになんてなれなかったけど。

いない間にルフィが逝ってしまったらという不安でいっぱいだったけど。

ルフィの思いやりに、ナミは決心した。


「ほんとに・・・いいのね?」

「おう。頼むからよ・・・行ってくれ。」

「絶対に・・・生きて待っててよ、ルフィ。」

「ああ。もちろんだ。お前の地図見届けてからじゃねェとな。
 ・・・それに、まだまだ食いてェモンもあるしな。シシシシ。」

「バカね・・・!」

抱き合ったまま二人で肩を震わせ笑った。

「ルフィ、私、あんたに会えてほんとによかった。」

「おれもだ、ナミ。あん時お前に会ってなかったら、おれはここまで来れなかった・・。
 ヘタしたら、おれもゾロもあのまま海で死んでたかもな。」

「ハハハ、それはそうね。だってあんた達、とんでもないバカなんだもん!」

「ああ、そうだな。お前がいないとダメだ。・・・おれも、ゾロもな。
 見てみろ、あいつ一人じゃ何年も迷子で、ちっとも帰って来れねェだろ。」

「そうね・・・。あんたら二人には、バカだからほーんと苦労したけど。
 ・・・会えてよかった。」

突然空から落ちてきたルフィとの出会い。
バギーの手下に襲い掛かられた時、さっと現れ助けてくれた、ゾロとの出会い。
懐かしい。
あれから随分、遠くまで来た。

「感謝してるわ。ありがとう。
 ・・・ルフィ、私・・・・夢の世界地図を、完成させてくる。」

「ああ。気をつけて行って来いよ。・・・・待ってるからな。
 お前が完成させて帰ってくる頃には、元通りピンピンしててやるさ。」

「うん。・・・って、ちょっと元気ないくらいのほうが丁度良さそうね。あんたには・・。
 あっ、それと、ルフィ。」

そこでようやくナミはルフィの肩から頭をひいて、顔を見合わせた。

「帰ってきたら地図の他にもう一つサプライズがあるから、楽しみにしてて。」

「サプライズ?なんだ、それ?」

ルフィがキョトンとして尋ねる。

「帰ってくるまで内緒だから、サプライズよ。」

そう言って意味深にウインクすると、またルフィが口を尖らせた。

「何だよそれ〜、気になんじゃねェか!サプライズ今教えろよ!」

「だ〜め!帰ってきたら絶対教えるから、ほら、早く横になって。」

そう言って、ゆっくりルフィの体を支えて、ベッドに横たえた。
ルフィはまだケチだのなんだのブーブー文句を言いつつも、抵抗せず横になった。
ルフィの文句に苦笑しつつ、その頬をもう一度撫でる。
やっぱりザラッとしてたけど、さっきよりマシな気がした。

ナミは優しくルフィに微笑んだ。

「ルフィ、ありがとう。・・みんなに伝えてくるから、ゆっくり寝てるのよ。」

「わかった。あと、行く前にサンジにうまい肉食わしてくれって伝えてくれ。」

「・・了解、キャプテン。・・・・・・・約束よ。絶対死なないで。」

「お前こそちゃんと戻って来いよ。約束な。」

「ええ。・・・じゃあ夕方にはみんな集めるから。」「ああ。」

笑って手を振り、ナミはルフィの部屋を後にした。



**********



バタン!
BARのドアを勢いよく開け、走ってきたのかゼーゼーと
肩で息をしながら、ウソップがうれしそうに叫んだ。

「おーい!ナミっ!いるかーっ!ハァッ、ハァッ・・」

「あら、どうしたの?・・今、みんな出払ってるわ。ナミちゃんも
 ここでは姿を見てないけど。」

シャッキーがカウンター奥でグラスを拭きながら咥えタバコで答えた。

「ああっ、そうかっ・・・・じゃあ、先にルフィだな・・へへっ」


そう言ってウソップはルフィの寝ている部屋へと足取り軽く向かったが、
途中で先に、念のためナミ達の女部屋に寄ってみることにした。
もしナミがいたなら、誰よりも一番に知らせてやりたかった。


 ”ゾロが今、シャボンディにいる ”


工具を船へ取りに行った後、港をぶらぶらしていたら男に声を掛けられた。
そいつは今日シャボンディへ到着したばかりで、なんとその船にゾロが一緒に
乗ってきたと言う。

ついに、待ちに待った偶然が起こったのだ。

「ナミー、いるかー?」

女部屋として使わせてもらっている部屋をノックするが、返事は無かった。

なんとなく、そわそわしていた。
いつものウソップなら、そのまま勝手に入るなんてこと、まずしない。
でも、なぜかそうしなければいけないような気がして、勝手に部屋のドアを開けた。
部屋の中にはナミもロビンもいなかった。
ドアから真正面の壁付けに、机がある。すっきりと何も無い机の上に、
白い紙が一枚置かれているのが目に入った。
そのまま吸い寄せられるように部屋に入り、その紙を手に取って目を見開いた。


 ”地図を完成させたら、必ず戻ります。みんな、ルフィをよろしく。 ナミ”


「あのバカっ!」
部屋を改めて見回すと、ナミの荷物がキレイに無くなっていた。
ウソップはその紙を握り締めてルフィの部屋へと走った。


**********


「あいつ、勝手なことしやがって!
 おれは、おれとチョッパー以外、みんなを連れて行けって言ったのに!!
 おい・・ウソップ、頼みがあるんだ。おれを・・ここから連れ出してくれ。」

「お、おい!ナミを追いかけるってのか?それならおれが行って探してくるから、
 おまえは無理するなって・・・」

「いや、ナミを追いかけるのは・・・・・ゾロに、行ってもらう。
 今シャボンディのどっかにいんだろ?!おれならあいつの気配できっと
 探し出せる。頼む、ウソップ。おれをゾロのとこまで、運んでくれ。」

ルフィの言葉に、ウソップは鼻をこすって漏れ出す笑顔をごまかした。

「へへっ・・・・しょうがねェなあ。運んでやるよ、キャプテン!
 あとでチョッパーに怒られるのは、お前だけにしてくれよ!」

それにルフィは満面の笑みで答えた。

「ああ、任せとけ!だってよ、あのゾロだけでナミは追えねェだろ。
 お前が付いてって道案内してやらなきゃな、ウソップ!」

「はっ・・!そうだった!」


ウソップはルフィを負ぶって勝手口から外に出ると、シャボンにルフィを乗せて、
ボンチャリでこっそり出発した。


待ってろ、ナミ!待ってろ、ゾロ!
せっかく待ちに待った偶然がめぐって来たってのに、またチャンス逃して
バラバラになってんじゃねェぞ!


祈るような気持ちで、ウソップは力強くペダルを漕いだ。




1へ→


(2011.08.05)


 

戻る
BBSへ