Not cocktail but... 後編
プヨっち 様
次の日は祝日でどうせ学校も休みだったけど、どこに行く気にもなれず家で過ごした。
ゾロも、ウチには来なかった。やかんを焦がしたり洗濯物を洗濯機に入れたまま忘れたり、いつもの私らしくなかった。
…昨日も、帰りの電車で最寄駅を乗り過ごしたし。昨夜の動揺は、ずっと続いていた。
その翌日、午前中の授業が終わってから私はサークルの部室に向かった。
「ONE PIECE」創設初の大学祭では、ちょっとベタだけどロミオとジュリエットを上演する予定。
とは言っても、私たち出演者の個性を出そうと、脚本担当のロビンがなんとか原作をアレンジしたハチャメチャなストーリーなのだけれど。
そして私は、一応ジュリエット役と宣伝、会計を担っている。
部員が少ないと、何でもやらなくちゃいけないから大変だけどそれも楽しい。
部室にはサークル長で演出担当のルフィ、衣装を担当しているビビ、大小道具担当のウソップの3人がいてそれぞれの作業をしていた。
軽く3人に挨拶を交わし、そこにゾロの姿がないことにホっとしながら宣伝に必要な作業に取り掛かるべくデスクに向かう。
「あ、ナミさん!Mr.ブシドーならさっきまでここにいたんですけど、ゴハン食べに行くって食堂に行きましたよ。もうすぐ戻るかも…」
「べ、別にあんな奴探してなんか…」
逆に今は会いたくないわよ…と心の中で呟いた。
「また喧嘩したのか?バカだなーお前ら。」
「あんたにバカって言われたくないわよ!あっ、ちょっとコレ運営委員に提出してくるわね」
ルフィの言葉にキレかけたけどゾロと顔をあわせたくない一心で、いつでもいいような用事を思い出して部室を出た。
運営委員会室は食堂の前を横切らないと行けないってことに気付くのは食堂が目の前に見えてから。
一昨日の夜からボーっとしている自分に呆れながらも仕方なく横切ることにした。
その私の目に飛び込んだのは、食堂にいるゾロの後ろ姿。…そして、彼と向かい合う、すっごい美人の姿だった。
栗色の髪を肩より少し長めに伸ばし、肩のあたりからゆるくカールさせているのが、小さくて整った顔によく似合っていた。
ゾロよりも少し年上のような感じだけど、柔らかくてちょっと人懐こい笑顔をする…男なら放って置かないであろう美人だった。
でも、どこかで見たことがあるような気もする。
ゾロの顔はここから見えないけれど、わかる。すごく楽しそうに笑ってる。
普段は無愛想で鋭い目が優しくなって、口の端を少しだけ持ち上げて小さく笑ってる。
私は、その顔がとても好きなのだ。
その顔を私がいない時、他の女の人に向けないで欲しい。
いつでも、私に向けてくれなくちゃ嫌なの。
他の誰でもない、私だけに…。
名前も知らない女の人への嫉妬で、自分が焦がれそうな感覚に陥った。
ただの、友達かもしれないのに。いや、ゾロに女友達なんて…剣道部のたしぎちゃんくらいしか思い浮かばない。
私の足は、運営委員会室へと勝手に動いていた。
書類を提出して部屋を出た所で会ったのは…マウリだった。
マウリの研究室で少し話さないかとの提案に頷き、2人並んでしばらく無言で歩いた。
研究室に着き、最初に口を開いたのはマウリだった。
「そんなに、困らせちゃったかな…悪かったよ。」
「いえ、それは…いいんです、大丈夫」
「じゃ、他に何かあった?さっき、泣きそうな顔してたよ」
驚いて顔を上げると、彼は何でもお見通しといった感じで優しく微笑んでいた。
それでも彼には、こんな子どものような嫉妬をしている自分を知られたくなかった。
「なんでもないわ、サークルのことでちょっと困った事が…あった…だ…け。…あ、あれ?」
気がつくと、そんな彼の前で泣いていた。止めようとしても、涙は止まらなかった。
いやだ、こんな子どもっぽいの…。
次の瞬間。ふわりと香水の匂いが鼻腔をくすぐり、マウリの胸に額をつける格好になっていた。
「泣きやむまで、こうしててあげるよ」
その言葉が心の底まで染み渡って、涙でボロボロになった顔を上げた。
そして今度は私から。…一昨日よりも濃厚なキスをした。
最初は驚いたマウリも、それに応えてくれた。
「マウリー、入るぜ〜?」
その聞き覚えのある声に、私はしばらく固まった。
「ナ、ナミさん…?」
「サンジくん…」
妙な間が、3人の間に流れる。
「サンジ、何か用なのか?」
「用なんざどうでもいい!てっめー、マウリ!!何してやがるんだよ!?」
「サンジくん、違うの!これは…あの…」
キレそうになっているサンジくんを何とか抑えて、とりあえず研究室を出ようとした。
「…てめーに伝言だ!今日、7時ごろウチの店に来いってな。誰からだか言わなくてもわかるだろ、クソ野郎」
「…わかった。」
それだけ言い残し、サンジくんは足早に研究室を出ていった。
私もマウリに何も言わないまま、サンジくんの後を追った。
「待って!サンジくん…えっと」
「ねぇ、ナミさん。一番大事な人は誰?大事なのは、何?」
「そ…れは…」
「自分に正直なナミさんでいてよ。そうじゃなきゃ、ナミさんのかわいさ半減しちゃうよ?それでも十分カワイイけどさ」
何も言わないで俯いていた私を、サンジくんはどう思っただろう。
いつもは上滑りなサンジくんの言葉が、今は痛いほど胸の傷に沁みる。
…ありがとう。
確かに、マウリは素敵な人だ。大人で、優しくて面白くて…かっこいい。
でも、一番大事?彼となら、大人の恋ができるのかもしれないけど、それは大事なコト?
今、私は誰を欲しているのか…わかってるはずなのに。わからない振りをしてた?
カタチに惑わされないで、自分の気持ちに正直に。
それが一番大切。
そして…。
でもやっぱり、今日はゾロの顔を見るのは無理だと判断し、「このままもう帰るね」とビビにメールした。
さっきサンジくんの言ってた「7時に店に」という伝言が気になったのと、今日のお礼に行こうと思って一旦家に帰った。
金曜日だからか、「バラティエ」のある飲食街はいつもより賑わっていた。
7時前10分くらいに到着すると、マウリが駅の方から歩いて来るのが見えた。
今日は後味の悪い去り方をしちゃったので、謝りたかった。
「マウリ!今日は、ほんとにごめんなさい。私、やっぱり…」
「ナミ…いや、こっちこそ。しかし、どうしてココに?」
「謝りたかったんだけど、マウリの携帯知らないし…サンジくんが言ってた伝言があったから」
「そうか…悪かったな、わざわざ。」
そう言いながらドアを開けたマウリの動きが、一瞬止まった。
何事かと隙間から中を覗いた私は、目にした光景に頭が混乱した、んだと思う。
後で思うと記憶が、少し飛んでた気がする。
店の中にはゾロと、例の彼女がいた。
髪をアップにし、青のロングドレスをしっかり着こなしている。
そしてその彼女がまさに今、ゾロの耳元に何か囁きながら、彼に口づけようとしている所だった。
その時ゾロがどんな顔をしていたのかさえ、私にはわかってなかったけど、咄嗟にドアの付近から駆け出して叫んでいた。
「ちょっと待ちなさいよ!!アンタ何の真似よっ!?ゾロは私の…!!」
私のその剣幕に押され、彼女はゾロから離れた。
ゾロも目を見開いて私を見ている。いや、2人だけじゃなくてお店にいたお客は全員、私を見ていた。
でも、そんなこと気にしてられなかった。
昼間よりも近くでじっくり彼女の顔を見ると、どうりで見覚えがあったはず。
週に何度かバラティエでピアノの弾き語りをしているソニアさんだった。
声は覚えてたけど、顔までしっかり覚えてなかったらしい。
「ふふっ、ゾロよかったわね。彼女、戻ってきてくれたじゃない」
「てめぇ、悪ふざけにも程が…」
「結果オーライ、でしょ?」
悪びれもなくそう言うと、彼女は優しく笑った。
そして呆気にとられた私の肩を軽く叩き、ごゆっくり、とだけ言った。
「…何やってんだよ、恥ずかしい奴だな」
「うっ、うるさいわね!だってアンタが…」
また喧嘩になりそうで、それ以上言うのはやめた。
さっきの彼女の言葉で、2人が何でもないのはわかったし…細かい事はこの際いいわ。
私だって、とやかく言う資格はないのだから。
しばらく、沈黙が続いた。
「ナミさんまで来るとは思ってなかったなぁ…ま、どっちもうまくいったみたいだし、ヨシとしますか」
サンジくんが苦笑いしながら私たちの所へ来て、そう言った。
「どっちも…?って、あの2人!!」
「そーゆーコト」
マウリはソニアさんとテーブル席に座ってカクテルを飲んでいた。
そーゆーコト、ね。なるほど。
あの2人も上手くいってなくて、ソニアさんがさっきゾロにちょっかい出してたのはマウリに当てつけるため、だった…?
でもそこはオトナの二人。カクテルを飲んでもう仲直りをしているみたいだった。
ソニアさんの手元には『パーフェクトレディ』が。
もう、マウリってば…彼にとってのパーフェクトレディは、ソニアさんだっていう意味かしら?
私たちお互いに、振り回して振り回されて…考えると笑えてきちゃう。
そっとゾロを見やると、私の好きなあの顔をして私を見てくれてた。
それだけで、にんまりしてくる。
「さてと、何飲む?」
「ビール」
「私は…『ジェラシー』にするわ」
サンジくんが少し目を見開いていたけど、ゾロは相変わらず少し笑っていた。
ヤキモチを妬くのって、好きだからこそだし、そんな気持ちがなくなったら私たちはダメなんだと思う。
そんなにオトナにはなれないし、まだならなくてもいいと思うから。
「コォラ、チビナス!!今日はダチにタダ酒飲ませんじゃねーぞ?!きっちり代金払ってもらえ!」
「げ、クソジジイ…」
遠くから聞こえたお馴染みのオーナーの怒鳴り声に、私とゾロはどちらともなく席を立った。
「タダじゃないんなら、やっぱりいいわ〜ごめんね、サンジくん!」
「向かいの居酒屋でも行くか…やっぱりジョッキビールか日本酒だよな」
苦笑して手を振るサンジくんに見送られ、居酒屋に向かった。
バーでのカクテル談議も素敵だけれど、私たちにはまだ似合わない。
そうだ、背伸びしないでゆっくり歩いて行こう。まずはビールで乾杯して、微笑み合う。
「明日はナメコのお味噌汁にするわね」
「あァ…」
一気にビールを飲み干すゾロを見て、限りない愛しさが込み上げた。
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(2003.11.13)Copyright(C)プヨっち,All rights reserved.
<プヨっちさんのあとがき>
皆様、はじめまして。プヨっちと申します。
私の処女作「Not cocktail but...」をお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
発表の場を下さった四条さんにも、改めてお礼申し上げます。
ワンピにハマったのもこの半年くらいという若輩者ですので、キャラの良さを全然活かせてないのではないかと心配なのですが…いかがでしたでしょうか。
テーマは「オリキャラと恋させる」だったはずなのですが、結局してませんね(苦笑)。
ゾロナミ推奨ということですし…。なので、同じ世界の他のキャラでそれを実現させたいと思ってます。
いつのことになるやらですが、よろしくお願いします。
<管理人のつぶやき>
大人の恋に憧れるナミにとって、味噌汁の具のことでケンカになるなんて言語道断!
こんな物足りない彼氏なんてイヤ!(笑)
けれど、こんな罪の味は、ナミにはまだまだ荷が重すぎました。
嫉妬のあまり泣いちゃうのも、怒りに駆られて叫べるのも若さならでは。
なりふり構わず、でも純真。
何も無理に背伸びをしなくても、若い時は若い恋をすればいいんだよね。
ナミが大切なことに気づいてくれてヨカッタです!
しかしゾロ吉くん、味噌汁の具はトウフとワカメが基本とちゃう?(笑)
こんなに可愛いくて健気なナミちゃんを、もっと大切にするように!!(ズビシッ!)
プヨっちさん、素敵なお話をどうもありがとうございました!
ゾロバージョンやサンジくんの恋話もぜひぜひv 待ってます♪