また、ナミと喧嘩しちまった。
と言ってもアイツがまた一方的に怒って、そのまま出て行ってしまっただけだが。
ウチに泊まったナミが、いつものように朝飯を作っていて…味噌汁の具はワカメと豆腐だった。
俺の実家では、味噌汁の具はナメコやエノキなどのキノコ類が入ってるもんだと決まっている。
ガキの頃からずっと、それが当たり前だったんだ。
ワカメと豆腐が嫌いだというわけではないが、味噌汁に入るのとは別だ。
それでも、アイツがせっかく作ったのだからと飲もうとして、「何よ、何か不満?」とか言い出すので「ナメコ…」とだけ言うと、アイツはキレちまった。
食おうとしてるんだから、いいじゃねーか!
Straight love with you
プヨっち 様
昨夜はしおらしく甘えてきたと思ったら、今朝は怒って出て行く。
まったく、感情の起伏が激しい女だ…。
まぁ、そのうちまたひょっこり現れるに決まってる。
サークルもあることだしな。
勝手に怒ってんだから、こっちから謝る必要はねェだろ。
ナミが怒って出て行った後、俺も学校に行って講義を受け、サークルの部室に顔を出した。
今日はこの後、剣道部の練習があって長くはいられないが、顔くらい出しておかにゃマズイだろう。
部室には、ルフィとビビ、ロビンがいた。
「うっす」
「お〜ゾロ!なぁなぁ、どうだこの衣装?ビビが昨日徹夜して作ったんだ!」
「へェ…こりゃ〜噂に聞く王子様タイツってやつだな。で、これは誰が着るんだ?」
「何言ってるんですか、Mr.ブシドー!アナタの衣装ですってば」
平然と言うビビの言葉に、絶句した。
お、王子様タイツを…俺がか?この俺が着るってのか?!伝説の王子様タイツを…。
「…気に入りませんか?頑張ったんですけど…」
「あ、いや…その、もう少しダブっとした感じにならねぇのか?タイツじゃなくてよ…」
ビビが徹夜したというのは本当らしく、目が少し充血しているようだった。
そんなに一生懸命作ったのなら、あんまり無下にできるものではない。
「でも確かに、あなたが着るかどうかはともかくロミオとジュリエットの世界は、タイツじゃなくてもいいと思うのよね…。どうせ、物語の設定自体メチャクチャだから、どっちでもいいけれど」
「そうなんですか…!頑張ったのになぁ」
ロビンのフォローがありがたい。
ビビには悪いが、やっぱりタイツは勘弁して欲しい。
そして俺たちはもう一度細かい設定や衣装について話し合うことになった。
そのうち、ウソップとチョッパーも加わったが、俺は練習に行くために剣道場へ向かった。
それなりの実力者が集まっているウチの剣道部の練習は、けっこうハードだ。
汗だくになった顔を拭こうとタオルを取り出しているところへ、後輩のたしぎが来た。
「ロロノアさん、お疲れ様です!さっきハチ先輩に決めた面一本、すっごく良かったです!私も早く強くならなくちゃ…そしたら、私とも試合してくださいね」
「そういうことは、強くなってから言え」
「あっ、そうですよね。ごめんなさい、私…でも聞いてください!この間ですね…」
疲れた体に、たしぎの一方的トークは堪える…。
「おい」
「なんですか?」
「味噌汁の具は…ナメコが一番だよな?」
「…は?私はあさり汁が一番かと…」
ちっ、どいつもこいつも。やっぱり、ウチだけの常識だったのか…?
お疲れさん、とだけ言って首をかしげるたしぎを置いて帰宅した。
次の日は祝日だったが、学祭の公演の打ち合わせを俺とサンジの2人でサンジの家でやることになっていた。
俺たちは、演技以外では表立った段取りや、打ち合わせ会議などに出席したりしている。
サークル長のルフィは、小難しいハナシの出来るヤツじゃねぇからな…。
夜からバラティエのバイトだというサンジに、それならタダ酒飲ませろと言って勝手について行くことにした。
バーのほうはまだ開店前だったので誰もおらず、着替えて出てくるサンジを待ってカウンターに座っていた、その時。カララン…と音がしてドアが開いた。
「珍しいわね、ゾロが一人で来るなんて。」
「…ソニア。」
「いつもの彼女は一緒じゃないの?」
「まぁな…」
俺に声をかけてきたこの女、ソニアは…俺の、いわゆる元カノってやつだ。
とは言ってももう2年前の話だが。
大学に入学して3ヶ月くらい経った頃、その時からいつの間にかつるんでいたサンジが合コンをやろうと言い出した。
何でも、当時のバイト先で3つ年上の女と知り合って…とか何とか、
詳しいことは知らないが頭数合わせに連れて行かれた。
ソニアは、そこにいた。
サンジと共同主催者である友達に、俺と同じく頭数合わせのために連れてこられたと言っていたが、その容姿は目の前にいるどの女よりも男たちの目を引いた。
しかしどれもこれも上手くかわして、つまらなさそうにビールジョッキを空けていた。
そのペースはかなりのものだったが、その時にはもう攻略不可能なターゲットを諦めていた奴らはそれに気付いてなかった。
ほんの気まぐれだったのか、それとも自分にも他の女にも寄っていこうとせずに自分と同じくジョッキを空けている俺に興味を持ったのか。
ソニアは「居酒屋で一緒に飲み直そう」と俺を誘った。
俺も、それに乗った。
しかし5ヶ月くらいで俺たちは別れ、ずっと会わなかった。
半年ほど前にソニアがバラティエで弾き語りのバイトを始めるまでは。
今はウチの大学の院の、2回生らしいとサンジが言っていた。
「そう…じゃあ店が混むまで、私と飲まない?久しぶりに。」
「好きにしろ」
「じゃ、そうさせてもらうわ」
別れてから、こんな風にちゃんと会話をするのは初めてだった。
低めだがよく通る声に、少しの懐かしさを感じる。
「ソニアちゃん、おはよ〜」
「おはよ、サンジ。今日は久しぶりにゾロと飲むことにしたのよ」
「え…コイツと?」
「うん、懐かしい組み合わせでしょ?」
ふふっ、と柔らかく笑う顔は以前よりも断然大人っぽい気がした。
衣装や化粧のせい、かもしれないが…。
「あ、昨日マウリ来てたけど…」
「何か言ってた?」
「いや。ソニアちゃんが休みなのはわかってたみたいなんだけどさ」
「…そう」
俺は「マウリ」とやらが誰だか知らないし、わけのわからない会話だったが。
それから店が混むまでの一時間、俺とソニアはカウンターに座って話をした。
「彼女とは、上手くいってる?」
「さぁな。昨日喧嘩して、そのままだ」
「喧嘩、しちゃうんだ…」
「そりゃ、するだろ。そんなのしょっちゅう…」
そこまで言って、思い出した。
俺とソニアは、喧嘩をしたという記憶がほとんどなかったのだ。
「私たち、喧嘩しなかったよね」
「そうだったっけか…」
「うん、そうよ。できなかった、のかな?」
「…できなかった?」
ソニアは少し俯いて、目の前のカクテルを一口飲んだ。
その横顔が映画かドラマのワンシーンのように美しかったので、ドキリとした。
「だってあの頃は…ゾロは一生懸命大人ぶってて年下に見られまいとして。私のすることに文句一つつけなかったでしょ。反対に私は、どこか年上風を吹かせて。あの時、大してオトナじゃな
かったのにね。お互いが、自然な姿でいられなかったわけだもんね。…あ、そうだ!最後に二人で会って別れ話した時、覚えてる?」
静かに俺は頷いた。忘れるわけがない。
あの時、お互いの気持ちは微妙な位置にあって、どちらともなくその話が出た。
12月の、寒い日だった。
「あの時だけ、お互い本音ぶつけ合ったよね…あの時はああだった、こうだった…って。最初からそうできてたら、もしかして別れてなかったかもしれないね」
少し遠い所を見つめるような目で、ソニアはそう言った。
「イマサラ、だろ」
我ながら乾いた笑いと共に出た言葉が的を射ていた。
「うん…イマサラ、だね。お互い、今は違う相手がいるんだし。でも今のゾロ、いいと思うよ。あのカワイイ彼女のおかげかな…」
「…たまに、魔女みたいだぜ?」
「ふふっ、そういう子のほうが、ゾロにはいいのよ」
何も知らないくせに、好き勝手言いやがる。
まぁ、俺に合ってる…ってのは間違ってない気もするが。
「で?今回の喧嘩の原因は何なの?」
「いや、味噌汁が・・・」
コトの次第を話すと、整った顔を歪ませて腹を抱えて笑いやがった。
「アハハ・・・だ、だってさ…私と最後に言い合った時も、味噌汁はナメコだろーって言ってたんだもの。あんな時に何を言ってるのかと思ったら、ゾロにとっては大事なことだったわけね。プッ…あー、ダメ。笑いが止まらないわ」
昔も今も、ナメコのことで俺は自分のカノジョと喧嘩してるのか…。
くそっ、全然成長してねェな。
「お、お前は、どうなんだよ?今の相手は」
とにかくこの話題を終わらせたかった。
「完璧なヒト…かもしれない。面白くて、優しくて、大事にしてくれて、甘い言葉もかけてくれる…」
「惚気かよ…そうゆうのは勘弁しろ」
呆れてそう言ったが、その時のソニアの表情には翳りがあった。
「彼への不満が何も出てこないのが、不満かも。私が彼を想うほど彼は私を想ってないのかもしれないと思うこともある。私に対しては、不満がたくさんあるんじゃないかって。包み込まれすぎてる気がするのよ…」
何も言えず、ただ黙って聞いていた。このソニアにここまで言わせる男って奴は、一体どこのどいつなのか…。
「私がそんなことばかり考えてたからだと思うけど、この前ちょっとギクシャクしちゃって…。それから、会ってないの。思い切り、喧嘩しちゃえるほうがいいんだと思うわ」
店が混んできて、客から曲のリクエストもあったので俺が何か言う前に、ソニアは仕事へ戻った。
さすがはプロで、さっきまで飲んで愚痴っていた女と同一人物だと思えないほどの変わり身だった。
そうしてひと仕事終えたソニアが、また俺の隣に座ってまた飲みはじめた。
「さっきの話、気にしないでね。あんな風に愚痴ってたけどね。また彼の顔を見て、甘い言葉の一つでもかけられたら…つまらない考えは吹っ飛ぶんだと思う。私、一人でバカみたいね。上手い駆け引きの一つもできなきゃ、オトナはやってけないのかも」
グラスを傾けながら、無理に少し明るい声でソニアは言った。
次の日、広い大学内だと言うのに会う時には会うもので。
ソニアも午後から講義があるとのことで、昼飯を学食で食べていた。
「昨日はありがと。またこんな風に話せたのも良かったわ」
「おう」
「ってことで、お昼は何でも好きなものオゴってあげる…学食だけど。何がいい?」
「お、いいのか?…Bランチ」
「了解!今日も店に来たら?オゴるわ」
「じゃ、行くかな…」
「待ってるわね」
食堂は昼飯のピークを過ぎていたため席は空いていて中庭の景色が遠くからでも見渡せる。
午後の講義の時間まで話をしているところに、サンジが現れた。
「ソニアちゃん!?なんで今日もマリモと…?まさか、コイツんちに泊まったとか?」
「まさか。別に何もないわよ。そうだ、伝言頼める?」
「それならいいけど…伝言って?」
「マウリに、今日7時に店に来てって。それだけ」
「ん、了解」
その時ソニアは、何かを決意したような…そんな顔をしていた。
「カワイイ彼女と、仲直りしてね」
「…言われなくても、する」
じゃあまた店で、と言って俺たちは別れた。
昔付き合ってた女とこうしてまた話ができるようになるとは思わなかったが、これからはお互いに恋愛感情ナシで本音で話せる相手に、なれそうだと思った。
講義を受けて部室に行ったが、ナミはいなかった。
俺が昼飯に行ってる間、一度顔を見せはしたらしいが…。どこで何をやっているんだか。
連絡を取ろうと携帯を取り出したが、メールするにも何を書けばいいのか思いつかずに閉じた。
「ナミさんなら、今日はもう帰るってメール来てましたよ?あ、Mr.ブシドーの衣装、直してきたから着てみてください!」
ビビは今日も目を真っ赤にして張り切っている。
直したと言っているはずなのに、前よりも下半身の強調されたデザインに変わった衣装を、今日も着ることは出来なかったが…。
夜は昨日と同じくらいの時間に店に行き、しばらく飲んでいた。
「まったく、お前らどうしちゃってんだよ」
「あ?」
「…ナミさんとは、どうなってんだ?」
サンジは呆れたような声で、真顔で聞いてくる。
「どうもなってねぇ。いつもの喧嘩中、ってとこだ」
「向こうはそうでもないかもしれないぜ?」
「…どう言う意味だ?」
「自分で考えろよ」
そう言って、また接客に戻った。
…たかだかナメコのことで、何がどうなるって言うんだ?
またいつもみたいに、ケロっとしてまた俺の前に現れるはずだ。
「そろそろ、7時ね…」
俺の横に座りながら、ソニアが呟く。
「彼氏が来んのか?」
「うん、来てくれると思う。ゾロ、ちょっとだけ協力してね」
「協力?何を…」
その時、カララン…とドアが開いた。
「ちょっと黙って、じっとしててね」
俺の耳元にそう囁き、手を頬に当てて顔を近づけた。
「ちょっと待ちなさいよ!!アンタ何の真似よっ!?ゾロは私の…!!」
ナミの叫ぶ声がして、ソニアは俺から離れた。
なんで、ここにナミが…。しかも、こんな場面で。
そして、店中が呆気にとられているところに。
「ふふっ、ゾロよかったわね。彼女、戻ってきてくれたじゃない」
「てめぇ、悪ふざけにも程が…」
「結果オーライ、でしょ?」
ナミの肩を軽く叩き、ソニアはごゆっくり、とだけ言った。
「…何やってんだよ、恥ずかしい奴だな」
「うっ、うるさいわね!だってアンタが…」
しばらく、沈黙が続いた。
「ナミさんまで来るとは思ってなかったなぁ…ま、どっちもうまくいったみたいだし、ヨシとしますか」
そう言ってサンジが俺たちの所へ来た。
「どっちも…?って、あの2人!!」
「そーゆーコト」
笑ってサンジが指差す先には、ソニアとマウリとやらが座っていた。
ソニアは言ってた通り、顔を見ただけですっかり晴れがましい顔しやがって。
オトナの駆け引きとやら、うまくやれよ…?
俺はしっかり振り回されたが、アイツの言う通り結果オーライ、だ。
さっき恥ずかしげもなく大声を出した、ナミのストレートな行動を思い出して笑いが込み上げた。
俺たちに駆け引きはまだ早い。
今はまだ、時には喧嘩しながらまっすぐ気持ちぶつけてるのが性に合ってるような気がする。
そのうち、オトナの駆け引きとやらも覚えるようになるはずだ。そう、そのうち。
今日もタダ酒だと喜んでいたが、オーナーの怒鳴り声でダメになったので向かい
の居酒屋に入った。
「ね、ゾロ」
「なんだ?」
「明日はナメコのお味噌汁にするわね」
「あァ…」
もうこれで、ナメコのことで喧嘩することはないだろうと安堵した。
「ね、ゾロ」
「なんだよ?」
「なんでソニアさんと一緒にいたのよ?知り合いだったの?」
「まぁな…どうでもいいだろ」
「よくないわよっ!!気になるじゃない!」
少し頬をふくらませて俺を睨む。
わざわざ、こいつに元カノだなんだと言えば気にしてしまうだろうと、なんとか誤魔化そうとした。
ここは柄でもねェが、俺も駆け引きってヤツをやってみるべきなのか。
「おい」
「何よ?」
「愛してる」
ナミは、口をパクパクさせて顔を真っ赤にしている。
うまく誤魔化されたことも忘れて。
とりあえず、成功といったところか?
「い、いきなり言うんじゃないわよ!!これまで言ったことないくせにっ…」
「あぁ?そうだったか?」
「そうよ!!」
真っ赤な顔のまま、しばらく俯いていたナミが、きっ、とこっちを見た。
「…もう一回…」
「は?」
「もう一回言ってよ」
「二度と、言わないかもしれねぇぜ?」
そう言って笑うと、ナミも笑っていた。
FIN
(2004.01.16)Copyright(C)プヨっち,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
プヨっちさんの1回目の投稿作品「Not cocktail but...」のゾロサイドのお話です。
ゾロにはゾロなりの事情があったのね。そんなにナメコの味噌汁が好きだったとは(笑)。
ソニアさんは実は元カノでした。でも、お互い無理に背伸びしたりして上手くいかなかった。
その点、ナミとは素の自分をぶつけ合える。そんな娘がゾロにはピッタリなんだね。
ストレートな愛情表現をするナミのことを、ゾロは嬉しく思ったに違いないです。
そして、ゾロが試しにやってみた大人の駆け引きに見事に嵌ったナミちゃん。そんな素直なアナタが好きよv
それにしても、ゾロは危機感無いなぁ。ケンカしてる間にナミは・・・だったのに。もっとしっかりナミを捕まえておかないと、他の男にもっていかれても知らんゾー。
そして、「王子様タイツ」を連呼するゾロには大爆笑でした!アア、腹イタイ(笑)。
プヨっちさん、素敵なお話をどうもありがとうございました〜!次はサンジくん話かな?(笑)