それぞれの胸の… 〜その後〜

            

プヨっち 様


「ログが貯まるのには丸1日位らしいから、出航は明日のお昼前になるわね…って、コラ。ちゃんと聞いてんの?船長!」

「モフッゴクッ!!おう、聞いてる…あ、この肉も〜らい!」


夕食の時間、ルフィは肉を頬張りながらナミに応えた。


「それなら、結婚式見に行ってみねぇか?明日の10時に教会でやるらしいぜ。今日花嫁の親父さんと会って、仲間誘って来いって言われてな」

「ウソップ、結婚式って楽しいのか?」

「ああ、もちろんだぜ!オッサンが言ってたけどこの島の結婚式は、立食パーティみたいなもんで、料理食い放題らしい。いいかチョッパー、結婚式ってのはだな…」


ウソップの提案にチョッパーがすぐさま反応し、いつものように長くなりそうな話を聞いている。


「にっしっし!食い放題なら俺は絶対行くぞー!」

「…食費の節約になりそうだな」


多少捻じ曲がった解釈だが、ルフィとサンジもすぐに同意した。

そしてナミも、ゾロも行くと言う。
もちろんゾロは、花嫁強奪を企てる山賊のことを口にはしなかったが。


「あ、そうなるとロビンちゃんがまた船番になっちまうな…やっぱり俺は行かねェから、ロビンちゃん行ってきなよ」

「あら、私は別にいいのよ。読みたい本が溜まってるの。コックさんは遠慮せずに行ってきて。この島の料理の研究にもなるでしょう?」


気遣うサンジを制し、ロビンがまた船番を買って出た。





風呂から上がり、部屋で髪を乾かすナミにロビンが声をかけた。


「航海士さん、今日の収穫は?」

「ん、すっごく久しぶりだったからたくさん買っちゃったわ。Tシャツにスカートでしょ、それと、このサンダル!けっこう高かったけど、思い切って買ったのよね〜。あ、ロビンは買い物しなくてよかったの?」

「あら、素敵ね。…実は私も今日、早く帰ってきた船医さんと入れ替わりで少しだけ街へ行ったのよ。靴と服と、下着をちょっとね」

「きゃーこのブラ、セクシー♪」


ナミは大胆なデザインの下着を見て声を上げた。
そんな様子に、ロビンはフフっと笑った。


「よかった…今日はずいぶん、気晴らしできたみたいね」

「まあね。やっぱり、一人で街を歩くのはちょっと…つらかったんだけど。買い物してるうちに、少し気が紛れたわ」

「そう…。いつも私には、話を聞くくらいしかできないけれど…」

「ありがと。ごめんね、いろいろ気を遣わせて」

「謝る必要はないわ」


ロビンはそう言って、ナミに微笑みかけた。






「上陸してるのに、見張りなんていらねぇよなぁ…よし、俺はこのまま寝る!」


見張り台で大きな独り言を言うルフィを下から見上げ、ゾロはため息をついた。


「おいルフィ!この街には海軍がいるんだから、ちゃんと見張りは必要なんだ!しっかり目ェ開けとけ!」

「うわ!って、な〜んだゾロか。…俺、昼間の探検で疲れちまってさぁ…眠ィんだよ」

「んなこと、知るか!ってその前に、お前がそれくらいで疲れるタマかよ」


ゾロはそのまま見張り台を上り、ルフィの前に立つ。
男2人が入るには、少し窮屈な場所なのでゾロは立ったままルフィを見下ろした。


「そんなに眠いんなら、俺が代わってやる。お前は部屋に帰って寝とけ」

「いいのかっ?!サンキュー♪」

「どうせ、眠れそうにないしな…あ、ちょっと待てルフィ!」


そのまま勢いよく伸びて見張り台を降りようとするルフィをゾロは慌てて引きとめる。


「ん?なんだ、ゾロ」


途端に真剣な顔つきになったゾロに、自然とルフィも真顔になった。
少し間を置いた後、ゾロは顔を上げ、絞り出すような声で言う。


「もし今、手に入れたいモンがあるとして…でもそれを手に取ろうとすると、その周りのバランスが保てなくなって、色んなモンが崩れちまう可能性があるとしたら」

「……?」

「それでもやっぱり、欲しいなら…手に入れようとするか?」


ゾロの語尾は、異様に上擦っていたが、ルフィは気にせず応える。


「ああ、本当に欲しいモンなら手に入れるさ。それに、崩れない可能性もあるだろ?何が起こっても、崩れないモンもあるしな!」

「…たとえば、何だ?」

「バカだなーゾロは。決まってんだろー?俺たちが仲間だってこととかだ!それは絶対、崩れないだろ!なっ?」


コイツは何もかも知ってて言ってんのか、と思いたくなるくらい鋭く放つルフィの言葉に、何気にバカだとか言われながらもじわじわと笑いが込み上げる。


「そうだな。それは、絶対だ」

「だろー?変なこと考えてばっかだと、ますます頭がマリモになるぞ!」

「なるかよッ!!クソコックみてぇなこと言うな!」


ルフィは、笑っておやすみーと言いながら見張り台を降りていった。






「お前…熱でもあるのか?またキノコの毒に当たったか?」

「ウソップ、いつのまにキノコ好きになったんだ!?」

「なんでそーなるんだよ!」


お土産にと、大量のキノコを持って帰ったウソップにサンジとチョッパーは驚きの色を隠せない。


「乾燥させたヤツだからな、必要な分だけ使っていけばかなり長持ちするらしいぜ」


ウソップは土産をもらった経緯を二人に話した。

その話が終わると、チョッパーはずっと持っていた疑問を投げかけた。


「なぁ、俺ずっと不思議に思ってたんだけど。なんで人間は『つがい』になるだけじゃなくて、結婚式をやるんだ?」

「トナカイの世界はどうだか知らんが、ほとんどの人間が生涯の伴侶を一人に絞って、一生苦楽を共にしますって誓う儀式が結婚だ。周りの人にそれを知らせるっていう意味もあるな。まぁ、しない奴もいるけど」

「うーん…つがいになったら、結婚じゃないのか?」

「そりゃー、何かの理由で別れちまうこともあるし…」

「じゃ、結婚したら別れることはないのか?」

「いや、そういうわけでもないけどな…」


矢継ぎ早に飛び出すトナカイの素朴な疑問に、ウソップとサンジは困惑しながらも答えていく。


「ふーん…じゃあ、サンジは結婚できないよな!一人に絞るなんてできないんだろ?」

「コラ、非常食!できないって断言すんな!!俺だってなー、いつか麗しきレディと…」

「ウソップは、なんでナミと結婚しなかったんだ?」


サンジの語りを軽く無視しつつ。
他意の無さそうなチョッパーの素直な言葉に、ウソップは返答に詰まる。


「バーカ、ナミさんはこんな長っ鼻と結婚なんてしないで正解だ。苦労するのが目に見えてるさ…って、何とか言えよウソップ。」


サンジは煙草の煙をフーっと吐き出した。



「なぁ…俺、間違ってたと思うか?」


おもむろにそう呟くウソップに、二人は怪訝な顔を見合わせた。


「お前が間違ってるってんだったら、そりゃ間違ってるんだろ…蚊帳の外の人間に聞くことじゃねぇ」

「そうだぞ、俺たち何も事情を聞いてないんだからな!」


サンジとチョッパーは、普段は人一倍お喋りのくせにこの件に関しては何も語ろうとしない長鼻の親友にそう言った。


「これからどうなったとしても、お前らには気ィ遣わしちまうな」


心底申し訳無さそうに言うウソップに、二人はこれ以上何も言えなかった。







翌日は朝から太陽の光が眩しいくらいに降り注ぎ、いつもの秋島の心地よい涼しさとは少し違っていた。
とはいえ、絶好の結婚式日和だと言える。



「よーし、腹一杯食うぞ!!にっしっし」

「お前なぁ…ほどほどにしとけよ」

「ルフィがいたら、パーティ成り立たないかもね」


食う気満々の船長に、クルーから呆れの声が飛ぶ。


「で、教会はどっちだ?」

「大通りの先の、丘の上よ。ステンドグラスがとっても綺麗なの!」



すでに教会の周りには、多くの人が新郎新婦を祝うために集まっていた。


教会の中には既に新郎が立っていて、緊張した面持ちで外を窺っていた。
そしてナミに気付くとそっと手を挙げて笑いかけ、ナミもそれに応えた。

ブライさん、結婚おめでとう。ナミは小さく呟いた。



教会の中を覗くことの出来る位置をしっかり陣取ると、その真向かいには昨日ゾロに花嫁強奪計画を語った若い山賊がいる。

ゾロは、心の中で山賊の友人の計画成功を願った。



「おお、ウソップ!来てくれたのか」

「オッサン!昨日はありがとな!みんな、花嫁のオヤジさんだ」


背後から声をかけられ、みんな振り向く。
サンジが乾燥キノコのお礼を言ったりしながら、正装があまり似合っていない花嫁の父と談笑する。

そして昨日のマッシュの言葉がウソップの頭に甦る。




しばらく経ち、花嫁の父がバージンロードを歩くため娘のもとへ去った直後。



「なぁ…ありゃ、海軍じゃねぇか?」


教会の向こう側の道に「MARINE」と書かれた軍服を目ざとく見つけたサンジがいつも以上に低い声で言い放つ。


「ゲッ!マジかよ…!15人くらい、いそうだぜ」


ゴーグルの照準を合わせてウソップが眉を顰めた。


「しかも、あいつら手にルフィの手配書持ってるぞ!」

「ここは…仕方ないけど島を出ましょう。ログもさっき貯まったみたいだわ」

「ええっ!!まだ俺、何にも食ってねェぞ!」

「んなこと言ってる場合かよ!」


未練たらたらなルフィの襟首をゾロが引っ張り、みんなで船へと走る。

その背後に起こった大きなどよめきと共に、教会に山賊たちが乱入していたとか。





「結婚式、見たかったな…」

「また、チャンスはあるさ」


街の大通りを走りながら、残念そうに言うチョッパーをサンジが慰めた。




花嫁は、そのまま結婚したのか。
それとも、自分を奪いに来た山賊のもとへ行ったのか。



島を離れ、その結婚式がどういう結末を迎えたのか知るよしもなかったが。



この島での出会いは、それぞれの胸の急所を針で刺すような痛みを伴って、確実に3人の何かを変えていた。




<プヨっちさんのあとがき>
今回は短期集中連載をさせていただきました!
未だ悶々とさせただけで、大きな進展はないままですが…。
これからのこともまだ考え中ですので、書かせていただきたいと思ってます。
ゾロナミスキー&ウソップラヴァーという私の葛藤が盛りだくさんなので
そろそろ読んで下さっている皆さまが息切れしちゃってないかと心配ですが(汗)
これからもどうぞよろしくお付き合いください!


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(2004.05.20)

Copyright(C)プヨっち,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
いよいよ決着なるかの「その後編」でした(^.^)。
あああー!そういう終わり方なんかー、うまいなぁ。

ナミ、ゾロ、ウソップが出会った人達がやはり関わりのある人達で、それぞれ別々の出会いでありながらちゃんと絡み合ってるというお話でした。そして、彼女彼らはウナゾの3人に少なからず影響を与えていきましたね。
結局、リーナさんはどちらの男性を選んだんでしょうね?事実はベールに包まれたままですが、今はその方がいい。だってそれが分かったら、ナミ達のこれからも分かってしまうみたいで。まだまだそんなに簡単に答えは出せそうにありませんから。
3人の気持ちが動いていく。これからどうなっていくのでしょう。ますます目が離せません!

プヨっちさん、素敵なお話をありがとうございました&連作完結お疲れ様でした!
え?続きももう考えてるの?
「いよいよゾロとナミが…ウソップとも××××…!!な〜んて♪」
って、そんな〜!気になるですけどーー!(笑)

 

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