おれはいつものように仕事を終え、自宅のマンションのエレベーターに乗り込んだ。
「ったく何でおれがあいつらの分までやらなきゃならねェんだ…」
乗り込むと同時に溜め息が漏れる。何しろ今日はいつもの3倍ぐらいの仕事をこなしたからなァ…。






ゾロの苦悩
            

ライム 様




おれはある出版社に勤めるカメラマンだ。
いつもはさほど忙しいというわけでもなく、のんびりと仕事をしていたのだが、今日は違った。今日はおれ以外のカメラマンが風邪で全員欠勤。
しかもそいつらが締め切り間近の仕事ばかり抱えていたせいで、おれが代わりにやらされる羽目になった。
「あいつら出勤してきたらぶっ殺す!!」
そんな文句を口にしながら6階でエレベーターを降り、自分の部屋に向かう。
と、おれの部屋のドアに寄りかかって座り込んでいる奴を発見した。
「…………ナミ?」
そいつは同じ出版社でライターをしているナミだった。
そしておれの部屋の2階上に住んでいる。
外はもう真っ暗。確かナミはカメラマンがいないおかげで仕事があまりなく、今日は早めに帰宅したはずだった。
それなのに何であいつがこんな時間にここにいるんだ?
「おい、ナミ」
おれはナミに近づいて声を掛ける。
「ん………?あ、ゾロ!!」
ナミは目を擦りながら顔を上げた。こいつ寝てやがったな…。
「お前何してんだよ、こんなとこで。部屋間違えてんのか?」
「失礼ね!!あんたを待ってたのよ!!」
ナミは立ち上がって言った。
「あ?何の用だ」
どうせ今度の仕事のことだろう。こいつは家が近いせいか、しょっちゅう家に来て文句をひとしきり行って帰る。今回もそんなところだろうと思ってたおれは、一先ず鍵を開けようと鞄を探る。
「うん、あのさ……」
だがナミから返ってきた返事は予想外のものだった。
「今晩、泊めて?」

………。

「はァ!!?」
おれはたっぷり10秒間を空けて、とんでもなく間抜けな声を上げた。
「だから泊めてってば!!」
何言い出すんだこいつ…。
「何言ってんだ、お前。何でおれがてめェを泊めなきゃならねェんだ」
するとナミは少し俯いて何やらボソボソ言いはじめた。
「…………のよ」
「あ?何だって?」
おれが聞き返すとナミは顔を上げて思いっきり叫んだ。
「だから鍵無くして部屋に入れないって言ってんでしょ!?」
叫んだナミは夜だということに気付き慌てて口を押さえる。
「鍵無くしただァ〜?ガキじゃあるまいし」
「でも実際無くしたの!!煩いわよあんた!!」
こいつは何でも完璧にこなせるように見えて、たまにどこか抜けてるとこがある。おれは呆れて聞く。
「管理人のとこ行けば開けてもらえるだろ」
「生憎旅行中。明日まで帰って来ないそうよ」
「…だからおれのところに来たってのか」
「そう」

“ガチャ…キィ”
“パタン…”

「ちょっとゾロ開けなさいよ!!あんたこんな寒い中女の子1人にしておく気!?」
ナミは部屋に入ったおれに向かってこう叫び、チャイムを連打。
「あァうるせェ!!」
あまりの煩さに堪りかねておれはドアを開けた。するとそこには何やらデカめの袋をおれに差し出して立っているナミが。
「何だよ、これ」
「お酒。今日たまたま知り合いから貰ったの。結構高いらしいわよ」
おれは“酒”という言葉に反応した。
「泊めてくれたらこれ、あんたにあげてもいいわ」
「……………入れ」
「やった!!おじゃましま〜すv」
そう言ってナミはさっさと中へ。クソ、酒に負けた……。
「へェ〜、結構キレイにしてあるんじゃん」
入るなりナミは部屋を見渡して言う。
「あれ?こっちの部屋は?」
そして締め切ってある部屋を見て言った。
「あァ、そっちは現像作業用に作った暗室だ」
「へェ〜」
そして床に座る。
「おれはこれから作業しなきゃならねェから」
あれだけ会社でやったってのに、まだ自分の仕事が残っている。
「ふ〜ん。あ!!」
するとナミは何かを見つけて声を上げた。
「これ!!“ガイモンさん救出大作戦”じゃない!!」
ナミが発見したのは、テレビの前に置きっぱなしだったゲームだった。
「どうしたの!?これ!!」
「それか?知り合いから借りたんだ」
「ねェ、これやっていい?」
「いいけどおれは仕事するからな」
「やった!!」
そう言ってナミはさっそく側に置いてあったゲーム機をセットし始める。
おれはそんなナミを横目で見ながら暗室に入った。









だがそれから10分後。
「あ!!やばい負ける!!」
「行け!!必殺技!!」
「あ〜!!ガイモンさん!!」
隣の部屋から聞こえてくる声で全然集中できねェ!!
「も〜、またゲームオーバー。何でここクリアできないのよ〜」
そこはコツがいるんだ!!
「え!!何この敵!!」
「だぁああ!!そこはそうやるんじゃねェ!!」
おれはもどかしさのあまり、つい暗室を出てナミの隣に座り、そのステージをクリアさせてしまった。
「すごいゾロ!!じゃあこれで勝負よ!!」
「望むところだ!!」




そうして結局ナミと朝までゲーム対決をし、当然の如く終わらせるはずだった仕事は終わらず、翌日編集長に思いっきり説教を喰らった。
クソ!!こうなったのも全てあの時あいつをうちに入れたからだ!!
おれは以後絶対あいつを泊めないと心に誓った。




-おわり-


(2004.02.11)

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<管理人のつぶやき>
ライムさんのニ作目の投稿作品。前作「
対決!!ナミVSカラス」の続編に当たります。
つまり、会社の同僚で同じアパートの住人なゾロとナミ。
そんな二人の素顔がちょっとだけ垣間見ることができましたねv
見かけによらず(?)ゲーマーだった二人。ゾロ、「望むところだ」ってアンタ(大笑い)。
恋愛要素はまだ見られないけど、仲が良くてなんだか嬉しくなってしまう。
ゾロは二度と泊めないって誓ってるけど、ナミが頼めばまた泊めるよね、きっと(笑)。

ライムさん、またもや楽しいお話をどうもありがとうございました!!

 

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