辿り…  −2−
            

ラプトル 様




「どうしてあの状況で飛び込むのかしらね、どっかの馬鹿は」
馬鹿よ、大馬鹿。何を考えてるのあんたは。
「どうしてあの状況で助けたんだろうな、どっかの馬鹿は」
飛び込んだ。打算の余地などない。必要も無い。そんなものは。
ただ己の本能がそうしただけであって、その後がどうなろうと考えるのも面倒だ。確かに分かっていたのは、自分が生きるか、死ぬか。
要は賭け。あいつに賭けた。”見殺し”か”助け”か。
選択肢は二つ。
前者なら。
俺はそれまでの男、だと言いたいがまだ時期じゃない。
俺は死ぬわけにはいかない。死ぬことなど許されない。
自分と、そしてあいつとの約束があるのだ。
こんな所でくたばる訳にはいかない。


だから。
さっさと助けに来い。お前はそんな事が出来る女じゃないことぐらい俺は知っている。
あの時察した。半魚野郎が言った言葉で。
”金のためなら親の死さえも忘れることの出来る冷血な魔女のような女さ”
ナミの表情が。耐えていた。堪えていた。ナミの仮面が剥がれ落ちかけた。
そうか。そう言う事か。
魔女になりきれない魔女。
馬鹿な女だ。

信じていたから飛び込んだ。そんな事は綺麗事。
むしろ試した。ナミを。文字通り命を賭けて。
女が飛び込んで来た時。俺は笑った。そうだ。お前はそういう女だ。
だがやはり信じていたのかもしれない。心のどこかで。
笑っちまう。別段信用してなかったと言っちまったこの俺が。
今は信じていたと思っちまう。
どうかしてる。

「お互い様よ」
必死だった。突然この男が水中へと飛び込んだ。

何を考えているの。
駄目。死ぬなんて許さない。
馬鹿な真似はやめて。
これ以上こいつらの犠牲になるのはやめて。
私に関わらないで。

飛び込んで男に近づいて行けば。
笑っていた。男が。憎たらしい笑みで。
まるで自分が助けに来る事を知っていたように。

「そういうことだ」
その言葉が出されたと同時にゾロを見た。
改めて見れば上半身は包帯で真っ白。
今更気付いた胸の辺りに滲んだ血。
斬られたと聞いた。世界一の男に。
更に魚人との戦い。
常人なら死んでいる。

「あんたはどうして戦うの」
聞いた。この男には愚問だと思う。
しかし聞かずにはいられなかった。
「俺には戦いしかない」
俺は戦いつづける。世界一になるまで。
「あんたには死が近すぎるから怖いの」
そう。あんたはいつも死と背中合わせ。
あんたの戦いはいつも死がすぐ隣にいる。
「俺は死ぬつもりは無い」
いや。死ねない。くたばる訳にはいかない。
「死んだら終わり。そうでしょう?」
全てが。終わる。
「俺は何処までも行く」
何処までも。強さを求め最強へ。
見せてやる。見ていろ。お前が。
世界一へ導くお前が。
だから。
「俺は死なない」
生き抜くのだ。これからを。そう誓った。
命尽きるその時まで。
生き抜く。


「あんたは私を斬るの」
それこそ愚問。言ってしまった。
言うつもりはなかった。しかし男は冷静に言った。
「俺の行く道を邪魔するのなら斬る」
誰であろうと。例えルフィでも。例えお前でも。
邪魔する者は誰であれ斬る。
「わかってる」
そんな事はわかってる。あんたを見ていればわかるの、そんな事ぐらい。
「それがあんた」
それが魔獣と呼ばれたあんた。
魔獣が魔女を狩る。まるで物語り。
あんたはそれでいいの。それで。
迷い惑うあんたは見たくないもの。



「斬るのね」
あんたは。全てを。
「ああ」
全てを斬り拓く。
世界をも斬るように。
「私も生きるわ」
ベルメールさんとの思い出と共に。
強く。笑顔を絶やさずに。
「お前が生きるなら俺はお前を守る」
お前を邪魔する者共は俺が斬る。
「邪魔するものは斬るさ」
そう。あんたは確かに海賊よ。


私は。
「あんた達と共にあの船に乗っても良いのかしら」
あの船に。楽しかった船に。
「お前はルフィに何だと言われた」
仲間と、そう言われたはずだ。
「そうね」
ルフィに言われた。涙が溢れた。嬉しくて嬉しくて。
あの船に乗りたい。
ルフィとウソップとあのコックさんと。
そしてあんたと。また笑い合いたい。
「あいつに、ルフィに感謝しろ」
あいつがいたからこそお前は救われた。
あいつがいなかったらこの村は。
「うん」
涙が溢れてきた。止めど無く。
ありがとう…ルフィ。
みんな。

全ては終わった。
「行くぞ」
あの騒がしい宴へ。あいつらのもとへ。
「ええ」
仲間のもとへ。



もう私は独りじゃない。あんた達がいる。仲間がいる。


俺達はお前を守っていく

私はあんた達を導いていく


生か死か


それこそがこの世界の全て




FIN


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(2005.03.21)

Copyright(C)ラプトル,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
ゾロナミストなら心震わせずにいられないアーロン編。アーロンパーク崩壊直後、あらためてお互いの立ち位置を確認している二人。甘い言葉は一つもなく、冷静な言葉の応酬ですが、二人の信頼関係は十分に見てとれる。こんな会話を交わせる二人の関係が心地よいです。

ラプトルさんの4作目の投稿作品でした。ここまで4作連続投稿。ありがとうございました!

 

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