砂の国”アラバスタ”の死闘は終わった






砂詩  −1−
            

ラプトル 様




棘女に勝った。あの子のために、ビビの為に戦った。
無駄な血を流さないためにも。この国の犠牲者を少しでも減らせるように。
あの子は”国”という大きなものを背負っている。
早く決着を着けなければならない。
そして勝ったのだ。私は。
向かわなければビビのもとへ。だがその前に。
馬鹿を拾って行かないと。
どうせあの男の事だ。相当の量の血を流しているに違いない。
しかし、あの男が死んでいるのではないかという思いは不思議となかった。
何故だかわからないが。あいつは死なない。そういう思いがあるのかもしれない。
ああ重症だ。あの男に感化されてしまったのか。死なないと。あの男は死なない、と。
人は死ぬだとか、死に急いでいるだとか、そんな生き方じゃすぐに死ぬだとか、散々あの男に対して言ってきたのに。
今はあの男は死なないと根拠のない自身は何処から湧いてくるのか。

走る。探す。あの男を。
走りながらふとそれほど前の事ではない事を思い出した。


Mr.1ペアに追いかけられていた。
全くあの馬鹿は何処行ったのよ。
戦おうと決心して相手を睨んだがギロリと相手に睨み返された。
もとより敵うはずがない。
んもう何処行ったのよ!!馬鹿剣士ぃぃぃぃ!!!
突然後ろに凶悪な気配を感じた。
え!?
後ろを振り向いた瞬間に何者かに後ろへ引き倒された。
ガクン
引き倒された自分の上で見たものは。
ガキィィィィン!!
男がMr.1の斬撃を受けていた。
ゾロ!!
そう口に出したら。
笑った。ニヤリと。太陽の光を背に受けて。
不覚にも心が揺らいだ。
参ったわ…。
この私があんな事で心が揺れるなんて。
柄じゃないわ。

そんな事を思い出していたら。見つけた。
二人倒れている。一人はMr.1。もう一人は馬鹿。
敵からは血が流れていた。
勝ったのね…。
しかし男も血を流していた。大量の血を。
これを見るとアーロンパークを思い出してしまう。あの時も大量の血を胸から流していた。
だがやはり死んでいるとは思わなかった。生きている。そう自分で決めつけた。
男に寄ると微かに呼吸音がした。
生きていると信じてはいたがいざそれを知ると腰が抜けそうになる。
良かった。生きてるのね…。だったら。拳骨を構えた。
「起きろォォォォォォッ!!!!!」
ドカッッ!!思い切りぶん殴ってやった。
「ぐおっっっ!!」
顔が地面にめり込んだ。
!!!!??
「あ゛ァ!?」
凄んで殴った張本人を見た。まあ、断定できるが。
「あ゛ァじゃないでしょ!!早くしなさい!さっさと立つ!!」
ビビの所へ行くのよ!
今度は平手で頭をぶっさらった。
「てめえは…」
ゾロが頭を手で押さえて睨んだ。
言いたい事はわかったから。さっさと立つ。
「生きてるって事を実感させてあげたんじゃない」
余計な事をすんな暴力女め。
なんとか地に座った。胸がザックリいっている。傷はそう深くはないが結構効く。
鷹の目の時よりかはマシか。
しかし参った。どんだけ寝てたんだ俺ァ。
ま、丁度強烈な目覚ましで起きたのはいいが他に起こし方はねえのか。この女は。仮にも怪我人だぞこっちは。
そんな事を言ったらまた殴られると思ったのでやめた。
「おい、肩かしてくれ」
そう言ってナミに眼をやろうとすると、足に眼が止まった。
「怪我を…したのか」
お前が。
ナミは
「大丈夫よ、このぐらい」
そう言って立って見せた。
屁でもないわよこんな傷。あの子の痛みに比べたら。
「勝ったのか」
お前が。
「見ればわかるでしょ」
私が勝ったのよ。この私が。戦って勝ったの。
やれば出来るのよ私だって。あんたのお荷物は死んでもごめんだわ。
「そうか」
勝ったか。
ナミは随分変わったと思う。特にビビが乗船してから。ビビに何か似たものを感じたのか。
背負う物の大きさはあからさまに違うが想いは同じなのだと思う。
ナミはもう村人に死んで欲しくはないから。だから独りで孤独な戦いを続けた。
ビビはもっと大きな”国”を守るため。独りで敵地へ潜り込んで捜査をしていた。
まあ、最初会った時はこちらにとって敵だったが。素性がばれて狙われた。
そこに今度はこの女だ。こっちの弱みを握りやがって。それでお姫様の護衛かよ。
ろくでもねえ女だ。てめえは金しか興味がねえのか。
だが俺は知っている。この女が金の為じゃなくビビを、この国を救ってやろうと本気で思っている事を。

俺は知っている。この女は真剣だ。真剣にビビを想っている。自分と同じ境遇だからこそ。
思えば、俺達も似たようなことをやっているなと思う。ナミの時は村だったが。
今度は国だ。どんどん規模がでかくなってやがる。じゃあなんだ次は世界か。あり得ない話じゃないと思うから恐ろしい。
この船の船長の事だ。トラブルを背負ってくるだろう。
とにもかくにも今はこの国の一大事だ。まさか女一人が国を救うなどと無謀にも程がある。
しかしビビの想いは本物だから。とんでもねえ女だと思った。

ビビが。
国を救おうとしていた。そしてついに黒幕を突きとめた。
たいしたお姫様だ。
「っし、行くか」
勇ましいお姫様のもとへ。
気付けばナミがゾロのズボンを握っていた。
「何だ」
こら。
「立てない」
ナミがむくれて言う。
何だてめえ。さっきは俺に立て立て言ってたじゃねえか。
それが何だ。立てねえだと。ふざけんな。我侭がすぎるぞこの女。
「立てるだろうが」
甘えんな。
「た・て・な・い」「ぐおっ」
い、で引っ張りやがった。膝を付く形になった俺に更に言ってくる。
「背負って」
はい、と言って両手を差し出してくる。
なんだはい、っつうのは。
「てめえで歩け」
馬鹿女。
「立てないのにどうやって歩けっていうのよ」
馬鹿ねあんた。
「いいから背負う!」
ビビが待ってるの。早く行くのよ。
「くそっっ」
いちいちこいつの言うことに反発していてはきりがないがこいつのいいなりになるのも癪だ。
いずれにしろこいつには勝てないのだ。
全くとんでもねえ女だ。
「乗れ」
おらと言って背を向ける。
ずりずりと背にナミが乗ってくる。
「乗ったな」
立ちあがる。痛みはあるが我慢できないほどでもない。
血はもう止まっている。よし。こいつも乗った事だし。
「行くぞ」
さっさと行くんだろ。
「ええ」
さっさとね。


砂塵が舞う。道は反乱軍と国王軍でいっぱい。
戦い傷つくものや死に行く者。どんどんこの国の犠牲が増えて行く。
誰も望んではいないのだ。こんな事は。唯一望んでいるものがいるとすれば。
”王下七武海”Mr.0ことサー・クロコダイル。


その道の中を二人駆けて行く。正確には一人の男が一人の女を背負っているのだが。
「もうちょっと速く走りなさいよ!!」
間に合わないでしょ。痛くないんでしょそんな傷。そう言いながら背負っている男の頭を叩いた。
「だから、明らかに俺のほうが重症なんじゃねえのかって言いてえんだ!!」
見ろ胸の傷を。ざっくりいってるぜ、ざっくり。そんな事を言っても。
「うっさいわね男の癖にぎゃーぎゃーと。私は足を怪我してんの、立てないの!」
「あ〜やばい…貧血…」
「うそつけ!!!!」
この女は!!!。どうしてこんなに口が回るのか。
くそっ。
私を心配させた罰よ罰。初めて乗った背中は広くて心地良い。
なかなかいいものねこいつの背中は。
いつからこんな事を思い始めたのか。
「足」
「何」
ふとゾロが言った。
「足…チョッパーに診てもらえ」
歩けはしねえ立てはしねえその足を。
「無茶はするな」
ビビの為だとわかっているもののこの女に怪我はして欲しくはなかった。似合わねえことをするな。
足だけでもかすり傷やら切り傷が見える。傷をつくるな馬鹿女が。
ああとうとう俺の頭もイカれてきやがった。船の男共は全員同じ気持ちなのだろうが。
これほどまでに仲間を想っていたとは。
賞金稼ぎ時代が懐かしい。あの時は仲間など必要ないと思っていたこの俺が。
一人で生きると思っていたこの俺が。海賊という外道には成り下がらねえと思っていたこの俺が。
今はあいつらに、仲間というものにこれほどまでに干渉してるとは。
思わず笑いが出る。
「あんたにだけは言われたくはないわ」
絶対に。ナミの声には微かな怒りがあった。
「そうかい」
悪かった。
もう言わねえよ。
「…なかなかどうして」
そう呟いてゾロは速度をあげた。

しばらく走ったらあいつらが見えた。無事か…。
ほっとして歩いたら突然ナミが背中から下りた。
そしてウソップをへんてこな棒で殴りつけた。
ん…おいちょっと待て。
「立ってんじゃねえかてめえ!!!」
全くこの女は。いいように使われたって訳だ俺は。くそっ。
だがそんな愚痴をこぼしてる暇はない。
まだ戦いは終わってはいないのだ。


荒れ狂う怒号と砂塵がこの戦いがまだ終わらない事を象徴していた…




2へ→


(2005.04.01)

Copyright(C)ラプトル,All rights reserved.


 

戻る
BBSへ