砂の国”アラバスタ”は王女ネフェルタリ・ビビと六人の海賊によって救われた。
アラバスタは希望に満ち溢れていた。
復国
砂詩 −2−
ラプトル 様
アラバスタ宮殿では一人の英雄が眠っていた。
さそりの毒に侵されはしたものの血清で中和された。
その英雄をこの国の王女が看病をしていた。
訓練を終えたゾロが大寝室に入ってきた。
「たまには寝とけ」
ゾロがビビに言う。
「大丈夫よ」
ああこいつもか。こいつもナミと同じような事を言う。
端から見れば疲れていることは一目瞭然なのに強がって大丈夫だの、平気だのと言う。
何か背負っている者はこうなのか、女という者はこうなのか。
それともこいつらは別なのか。どうにもこうにも落ちつかない。
ゾロは顔をしかめた。
「ビビ!寝ろよ!お前全然寝てないだろ!」
おお、出た。船医。いたな、そういやこいつが。
トナカイだがこいつの医術は本物だ。それを身をもってわかった。
ちょこちょこあっちへ行ったりこっちへ行ったりと。
忙しい船医だな。
「そうだ。看病はチョッパーに任せて寝ろ」
でも…とビビはためらう。
「ルフィは俺に任せて寝ろよ。寝て起きたらまた看病すればいいじゃないか」
「そうしろ。ビビ」
お前まで倒れたらチョッパーの仕事が増えちまう。
「わかったわ」
ビビは立ちあがった。
ありがとう二人とも。そう言ってビビは眠りについた。
ゾロは辺りを見回した。
あいつは何処だ。
ナミはバルコニーにいた。
風呂上りの身体に夜風が心地良い。
この国は救われた。自分の事のように嬉しくなってしまう。
自分の村が救われたように、この国も救われた。
あいつらはすごいと、素直にそう思う。
人助けが好きじゃない事はないだろうが。どうしてこんなにも救うのだろう。
村も。国も。
今回は元はと言えば自分がビビをこの国に送り届ける。ただそれだけの契約だったのに。
事情を知って、顔を知られて、そこから全てが始まった。
護衛隊長の船が爆破された時のビビの表情は忘れない。
泣かずに、下唇を噛んでいた。血が流れていた。
強い、そう思った。
その時だ。あの子を、ビビを救おうと思ったのは。
似ていたのだ。自分に。だからかもしれない。
気配を感じた。
「眠れねえか」
ゾロが隣に並んだ。
「あんたは」
「似たようなとこだ」
ゾロは手に持っているラムを煽った。
「ルフィは」
「まだだ」
そう。もう少しね。
もう少し。あんたはすごいわよ。ビビの為に戦って。クロコダイルと戦って。
あんたがビビの為に戦ってクロコダイルを倒したと言う事はそれは国を救ったと同じこと。
あんたはそんな事どうでもいいのかもしれないけど、それってとんでもないことよ。
尊敬しちゃうわよ。その仲間意識の強さに。
「強い国だ」
似たような台詞を以前何処かで言ったような気がする。覚えてはいないが。
「そうね」
同感よ。だって国民が復国に向けて頑張ってる。
国民も強いと思うの。
これだけ強い国はそうそうないと思う。
「下りようか」
あらためてこの国の砂を踏みしめてみたくなったのだ。
「そうだな」
何故ナミがこんな事を言ったのかわからなかったがこんなに落ち着いたナミは珍しかったので返事を素直に返した。
門をくぐって長い階段を並んで無言で下りる。
この沈黙が何故か心地いい。
ナミは裸足で砂の上を歩いた。夜の砂はひんやりしていて気持ちがいい。
「あんたも裸足になりなさいよ」
気持ち良いわよ。そうは言っても強制させる気はないらしい。
はしゃぐでもなし喜ぶでもなし。
こんなしっとりしているナミを見るのは初めてかもしれない。
心情がわからない。
「あんた、傷はどうなの」
突然何だ。
「もう塞がる」
一応答えた。そんな深くはなかった。
「……」
ナミは下を向いたまま。
よく見るとその顔は怒っているようにも見える。
「文句があるなら聞いてやるが」
その言い方は鼻に付く。
どうしてそんなに偉そうなのよ。
「何も分かってないのね」
「何がだ」
わからない。こいつが。
「いいの、もう」
はぐらかされて面白くない。一体何を考えてる。
「何を思う」
ナミ。お前は何がしたい。
「……」
無言。ナミは口を閉ざしたまま。
「故郷を思い出したか」
お前の村を。
「ここはお前の故郷じゃない」
酷な事を言った。こいつもわかってるとは思う。わかってるとは思うが。
「罪のない人々が傷つくのが怖かったか」
同じか。あの村と。囚われたのだろうナミは。この国に。
この国の想いに。
「それは無駄な想いだ」
言った。これこそ残酷な事。
「人は生きるの」
生きて生きて。満足に人は生きれない。
だから人は一生懸命、必死になって生きる。
無駄な争いは死に一歩近づくの。
ナミは砂を蹴った。さらさらと風に流される。
「あんたも生きて」
あんたも。死に近いあんたも。もうあんたの生き方を否定しないから。
否定しないから生きて。そんな生き方でも生きて。お願いだから。
ナミはしゃがんで砂を掬った。掌から零れ落ちる砂を見ながらナミは言った。
「死なないで」
さらさらと零れ落ちる砂。
砂が零れる様は綺麗だが虚しくも見えるのだ。人の命もそうなのだろうか。
砂は儚く舞いながら消えて行く。
「わかった」
ナミは真っ直ぐこちらを見ていた。強い眼差しだと思った。
その眼はまるで約束をさせられてるようで。
ナミは右手で砂を掬い握ると立ち上がってゾロの前に立った。
そしてナミは右手をゾロの目の前に持っていくと掌をゆっくり開いた。
砂がさらさらと零れた。
「この砂は俺ってことか」
「砂のようにはなるなと、そう言いてえのか」
「わかってくれたかしら」
私の言いたい事を。こうでもしないとあんたはわかってくれそうになかったから。
「ああ」
よくわかった。
俺が砂か…。そういうもんか。
「何してんだ」
ナミをみると砂を集めていた。
「砂を持って帰るの」
いいじゃない。記念よ、記念。
「そうかよ」
いつものナミに戻っている。まあひとまず安心だ。
「行くか」
帰るぞ。宮殿に。ルフィが目覚める前に。
「そうね」
行きましょ。
ルフィ。早く覚めなさい。おいてっちゃうわよ。
待ってるのもつかれるわ。
ルフィ、早くしろ。お前がいなけりゃ船は進まねえぞ。
船長…待ってるぜ
二人の後姿を砂塵が遮った………
FIN
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(2005.04.01)Copyright(C)ラプトル,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
アラバスタ編です。原作では抜け落ちているゾロナミオンブまでのシーンと、アラバスタの死闘がようやく済んでの二人の会話。いつもながら研ぎ澄まされたやりとりです。
ナミはビビにかつての自分を投影していたと思います。だからこそあれだけビビのために必死になったのでしょう。ゾロもそんなナミのことをさすがによく理解してますね。
戦いの後、何気なくナミの姿を探すゾロ。自然とそうなるのが嬉しい^^。
ナミは繰り返しゾロに伝えます「死なないで」と・・・。
ラプトルさんの6作目の投稿作品でした。どうもありがとうございましたーー!