「ゾロ〜・・・」

返事は無い。

「ゾロってば」

返事は無い。






High school・days2  −1−
            

離羅 様



「・・・起きろ」

拳骨で頭を殴ってやれば、

「お・・・?朝か?」

十八番のこの台詞。

「ここ、駅のプラットホーム。よく立ちながら寝れるモンね」

「あ〜・・・・」

頭をガシガシと掻いてから、大きく欠伸をする。

「・・・そんだけ寝て、まだ寝足り無いの?」

「・・・全然。寝た気にもなりゃしねぇ。こんな騒がしい場所で」

確かに、朝のホームは雑然としている。

「ほら、電車が来た。乗って!」

「へいへい」

半ばナミに押されるようにして乗り込んだ。

車内は、すぐにぎゅうぎゅう詰めになりゾロとナミは人の波に揉まれた。

「・・・なんでこんなに人が多いんだ」

「しょうがないでしょ。朝、この時間は通勤ラッシュなの」

もう、1、2本早い電車に乗ればまだここまで混んではいないだろう。

しかし、ゾロがそんなに早い時間に起きれるとも思ってはいない。

「・・・・何処までだ?」

「中央よ。中央までなんて言ったら本当に座れないわよ」

ここから、4駅先だ。

「そういえば、ナミ。お前は何部に入るんだよ?」

自分の入る部活ばかりをけなされていたので、無償に腹が立ったのか、私の入る部活を聞いてきた。

「私?帰宅部v」

「・・・・は?」

今回の学校は入りたい部活動が無かった。

それだけの話だ。

「何でゾロはそこまで剣道部にこだわるの?」

「高校だけは、譲れない理由がある」

「理由?」

「俺たちがこれから通う高校・・・まぁ、「イースト高等学校」には俺の「姉貴」がいるんだ」

「「姉貴」って・・・・くいなさん?」

くいなは、ゾロと2つ離れた姉だ。

元々、ゾロが剣道を始める理由となったきっかけもその「くいな」だった。

ゾロは、試合で一度も負けたことはなかった。

負けたことがなかった。

・・・・ある人物以外は。

ゾロを唯一、打ち負かしたのがくいなだった。

くいなは剣道女子で、全国大会まで行った実力者だ。

くいなに負けて以来、ゾロは剣道の猛練習を始めた。

それを一番身近に見ていたのはナミだった。

「へー・・・・くいなさんがいるとなっちゃ、ゾロは負けてらんないもんね」

「くすくす」と笑ってやる。

「てめ・・・・何笑って・・・・」

『中央駅ー、中央駅ー。ご乗車、ありがとうございます。お忘れ物のないように、お気をつけ下さい』

なんとタイミングのいい、車内放送だろうか。

「ほら、ゾロ。さっさと出て。後ろの人が出れなくなっちゃう」

「おう」

ゾロはその体格のよさと長身を活かし、人ごみを掻き分けさかさかと出て行った。

(私も早く出なきゃ―――)

人ごみを掻き分ける――――が、サラリーマンにしてはナミの身長は低すぎた。

ゾロのように、身長が高ければ別だが、私のように背が低くてはどうにも仕様がない。

「すいません!どいてください!」

叫んでみても、その声が届くことはなさそうだった。

『2番線、ドアが閉まります。お気をつけ下さい』

(ヤバっ・・・)

「ナミ!!」

その、人ごみの中から一本の救いの手が差し伸べられた。

慌ててその腕を掴むと、ドアの方向に「ぐいっ」と凄まじい力で引かれ人ごみを抜けた。

ナミが車内を出た直後、ドアは閉まりサラリーマン達、人込みは車内に閉じ込められた。

「危ねぇな・・・・・大丈夫か?ナミ?」

「うん・・・平気。ありがと」

「おう」

あの時、ゾロに掴まれた感覚。

ハプニングとはいえ、互いに手を握り合った感触。

それが、いつまでも手に熱を帯びさせたままだった。

ゾロの手は、温かくて。

「人並み体温が高い」とゾロ自身が言っていたことに納得する。

握り合った感触。

それが、忘れられなくて。

少しの間、立ち呆けていた。

「・・・・オイ」

「・・・・・何?」

「なあに「ぼけーっ」っとした面してやがる?いつまで突っ立ってりゃ気が済むんだ?遅刻すんぞ」

確かに、このままだと遅刻寸前の時間に登校してしまうことになる。

仮にも今日は「入学式」なのだから。

しかもナミは「新入生代表の言葉」を言うという「大役」を任されている身だ。

ゾロはまだしも、私まで遅刻するのは御免だ。

「さて・・・と。学校行きますかぁ」

「オイ、散々人を待たせといてそれかよ」

呆れたように言葉を返される。

私は、心臓の高鳴りが抑えられなくて。

(きっと、走ってるせいよ!)

と無理矢理自分を納得させた。




2へ→


(2009.01.06)


 

戻る
BBSへ