High school・days2  −2−
            

離羅 様



とにかく、走りに走った。
もう、心臓が壊れてしまうのではないかというほど。
「おい、ナミ待てよ!」
「あんた、剣道やってるんでしょ?!だったら私になんてついてこれるはずよ!」
私は中学生の時、合唱部・・・すなわち、「コーラス部」だった。
多少の肺活量はあっても、剣道部など運動部に比べれば少ないと言ってもおかしくはないだろう。
「意味が分からん!!大体、お前はコーラス部に入ってたんだからよ!下手したら俺より肺活量あるんじゃねぇか?!」
ゼーゼーと荒い息が耳につく。
「珍しいわね?体力馬鹿のあんたが、息切れするなんて」
「う・・るせぇ・・・」
ゾロの声が擦れてきた時、目の前に学校が見えた。
「わぁ・・・」
「て・・・てめ!イキナリ止まるんじゃねぇよ!」
ゾロの声など、ナミには全く聞こえていなかった。
ナミの目の前には、見事なまでの桜並木が新入生を迎えるように校舎まで続いていた。
「桜・・・・か」
ゾロは桜の木に手を伸ばした。
ひらひらと散っている桜もあれば、まだ蕾のものまである。
一枚の花びらが、ゾロの掌に落ちた。
「ゾロ、ずるいわよ」
「ずるかねぇ。だったらやるよ。ほれ」
そう言って薄く小さい花びらを、そっとつまみ上げナミの掌に乗せた。
「あ、ありがと・・・」
「おう」
何気ない理由で貰った花びら。
ゾロが見ていない隙に、小さなノートに挟んでおいた。
大きくなってから、初めてゾロから貰った小さな「プレゼント」だから。
大切にしよう、と心に決めた。

昔から、可愛いやつだった。
オレンジの髪は俺と同じで、とても目立った。
幼少時代から変わらぬ、愛らしい誰にでも好かれる笑顔。
「俺とは、真逆だ」と思った。
黙っていれば、目つきの悪い無愛想な子供。
口を開けば、それに「生意気」と+αされるだろう。
だが、笑顔は褒められたことがある。
「なんの屈託も無い、小さな子供のような笑顔だ」と。
(思えば、あの時幼稚園だったんだから。まだ、子供・・・・マセガキだったよな?)
変なことを思い出しては、脳内でそれを解説。
そんなことを繰り返しているうちにゾロはあることに気が付いた。
(ナミ・・・・・の事に関しての記憶が多い・・・・・ような気がする)
変なところで勘がいいゾロ。
でも、その事実に気付かないのはナミにいつも言われているように「脳みそまで筋肉質」ということなのだろうか。
(考えるのも、面倒臭ぇ・・・・・)
現在、独り暮らしのゾロ。
親に、「ロロノア家の男は、高校に入ったら独り暮らしをして世間の荒波に揉まれる」というのが、先祖代々からのしきたりらしい。
独り暮らしをするには十分に狭い、その部屋はまだ雑然としていた。
昨日・・・・入学式の前の日に越してきたのだからしょうがない。
ゾロが越してきたのは、築10年ほどのボロアパートだ。
二階建て、一つの階に4つの部屋。
俺の部屋は、二階の一番端。
隣人も、つい昨日引っ越してきたばかりだという。
母に、「大家さんにちゃんと挨拶するのよ!それと、お隣さんにも」と言われている。
一階まで古い鉄の階段を下りる。
大家の部屋は、一番広い。
その部屋のインターホンを押して「今日、越してきたロロノアです」と言えば「は〜い」と返事が返ってくる。
「あらあら、わざわざ御免ね〜」
「いえ。世話になります」
(次は・・・・隣人か)
もう一度、二階に上がって部屋に戻って土産を手に取る。
隣の部屋からは、なにやら片付けているような音がした。
(これ、入って平気か?)
一応礼儀というものがあるので、インターホンを押す。
「はい」
「あの、隣に越してきたものです」
「あら、私も今日越してきたばっかりなの。ちょっと待ってね〜・・・今開けますから」
なんとなく、どこかで聞いたことのある声だった。
とにかく、隣人は女のようだ。
それも、自分とほとんど歳の変わらなさそうな。
「は〜い・・・・御免なさいね、遅れちゃって・・・・・って、あんたは!!」
「な、ナミ?!」
ドアを開いた主は、派手なオレンジ色の髪をしていて口さえ開かなければ絶世の美女
であろう、ナミだった。
「なんで、あんたがここにいるのよっ?!」
「それは、こっちの台詞だ!なんでよりによってここなんだよ?!」
「私は家からだと、通う高校まで距離がありすぎるから・・・・!」
「・・・・ちょっと待て。お前、どこの高校だ?」
「え?どこって・・・・・「イースト高校」・・・・」
「なんで、俺と同じ高校なんだよ!!」
「は?!あんで、あんたみたいな「万年寝太郎筋肉マリモ馬鹿」と同じ学校なの?!」
「余計なことが多すぎだ!!」
ぎゃあぎゃあと、声が響く廊下で喧嘩が始まる。
殴り合い、とっ組み合いはないものの、言葉は暴言というレベルを優に超えている。
「お二人さん」
「「邪魔するな!!」」
「近所の人たちから、迷惑だって声がかかってるよ。ただでさえ、ボロくて壁が薄いんだから・・・・・」
二人はすっかり忘れていた。
ここは、学校ではないことを。
「す、すいません・・・・・」
「俺ぁ、帰るぞ」
「二度と来るなっ!「万年寝太郎」!」
ナミは、怒りの色を隠しきれない。
「・・・・でも」
「あ?」
態度を急変させるナミ。
嫌な予感がしたので、とっとと部屋に帰ろうとしたが遅かった。
「荷物片付けるの手伝って〜。重くて運べないの」
「・・・・・さっきまでの、態度はどこにいったよ?!」
そういいながらも、ナミの言うことを聞いてしまう俺はどうなんだろうか。
自分の「思い」。
それに気が付かないゾロは「鈍い」としか言いようが無いのだろう。




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(2009.01.08)


 

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