手紙 〜ゾロside〜
            

テモ 様

あいつと一緒にいられなくなってすぐに手紙を書いたのは、俺のことを忘れてほしくなかったからだ。

新しい学校は楽しかったけどやっぱ寂しかった。それを埋めるのが手紙だった。

その手紙は続いている。

初恋と一緒に。







親の勧めで剣道を始めたことを書くと、頑張ってね、なんて返事が返ってきた。我ながら単純だと思いながらも(いやそんときは、なみちゃんが応援してくれた!なんて嬉しさいっぱいで...)頑張ってみたら試合に出ることになった。それを言ったら絶対勝ってね!なんて返事が来たから・・・あぁもう・・・。

まぁ勝ったと書けば喜んでくれるし、続けていれば負けたくねぇし、そんなわけでどんどんのめりこんでいった。





大会で優勝し続けていた俺は小学生のうちに中等部の剣道部に出入りするようになった。

朝練をして授業を受け、放課後は中等部で練習をする。小学生にはちときつかった。

遊ぶ時間もなくて、休み時間を寝ているような俺の友達はルフィぐらいで、もちろんそれは仕方ないことだと分かっていても、やっぱ少しは寂しかったし、忙しくて返事がどんどん遅くなっていった。でもあいつに謝ると

“いちいち謝ってる暇があるなら練習しなさいよ!文句言ったって剣道やめれないくせに”なんて。

まぁなんだかんだ言って剣道は好きだし、やめたいと思うことはあっても本気ではなくて...そんな風に一度考え始めると寂しいなんて気持ちは忘れてしまう。

でももっと優しい言葉をかけねぇか?

まぁでもそれがお前だよな。





ある日、昔の手紙を読み返すとだんだん字や文章がしっかりしてきていることに気づいた。

言ってる意味は同じなのに言い回しが違ったり。俺の剣道が上達するのと一緒か、とか思っていたが、じゃああいつは今どうなってんだとも思う。

剣道のおかげか体は男子の中でもでかい。(昔あいつに言ったらあっちの方がでかいことがわかったが)

そのせいか君づけが合わなくて周りからは名前で呼ばれるようになった。

お前はなんて呼ばれるようになった?

もしかたらなみちゃんとは呼びにくい奴になってるかもな。


じゃあ誰だ?俺と手紙をしてるやつは。なみちゃんには違いねぇんだけど、そう思えばなみちゃんじゃない気もする。

あぁ意味わかんなくなってきたじゃねぇか。





あいつの近くにいるやつらはきっとあいつを間近で見ている。

おれの知らないあいつ。

もしかしたらなみちゃんでないあいつ。



俺がゾロと呼ばれるように名前で――ナミと呼ばれているのかもしれない。





....ナミ..........ナミか。なんかいいな。







ぞーちゃんへと書くあいつ。なみちゃんへ、と返す俺。いつもと変わらない手紙。

でも心の中では見たこともないナミという女を思って書いていた。







俺の中ではなみちゃんという子はいつしかいなくなっていった。









「中学生になったらゾロはきっともてるんだろうな!」卒業式の最中にルフィが言った。

「男子校だぞ、ここは」

「わかんねぇけど...エースが言ってたぞ!」

エースはルフィの兄で同じ学校のはずだ。ということは体験談になるのだろうか...

まぁでも俺を見て目をそらす奴が多いしな。

というか俺はナミしか考えられねぇし。

......いや待てよ、ナミは覚えてる限りはかわいかった。今はどうなってんだ?

もてんのか?やべぇ。不安だ。







春休み。

(どうすっかな〜...)

「ゾロ?」いきなり名前を呼ばれた。振り返ると金髪のグル眉...

「...サンジ?」ナミがよく手紙に書いて来るから覚えている。

「やっぱり!懐かしいな!なんでこんなとこに??」

「合宿。剣道のな。お前は?」

「俺のじじいんちがここら辺なんだわ。」

「へぇ。じゃこれからは毎年会うかもしんねぇな、合宿は毎年ここだからよ。」

「大変そうだな!いやでもびっくりしたぜ。小一のときだから...ってお前引っ越すときに言ったよな?“俺なみちゃんのこと―――”」

「言った。」あぁ言ったさ、覚えてる。いない間にこいつにとられちゃたまんねぇからよ。

「で、お前はまだナミさんのこと好きなのか?」ここもはっきり言っといたほうがいいだろう。

「変わってねぇよ。ってかお前手出してねぇだろうな?」

「頑張るね〜」

「質問に答えろよ。お前まさか...」

「俺のが先じゃね?」顔つきが変わった。

「何で好きって思うんだ?いまナミさんがどうなってるかとかわかんねぇだろ?」

「...顔はわかんねぇけど手紙のほうが分かることがある。逆にそっちに方が...まぁわかんないことばっかかもしんねぇけど、なんつーか...わかることもある。」

こんなこと誰かに話すのは初めてだ。言葉にするって難しいな。



「それによ...忘れられるような奴じゃねぇだろ?」






「...そうだな」 笑ってやがるし。

「で?」さっきとは逆に聞き返す。

「安心しろよ。何もしてねぇ。まぁ好きになりそうなときもあったけどな、そんなときは頭のすみっこでまりもが繁殖すんだよ。」

「おい」

「自覚してんのかよ。怖いねー感謝されてもいいぐらいなのによー」大げさに嘆く。

「はいはい。―――あ」思いついた。

「サンジ、頼みがあんだけど」

不安は解消された。










「お前、歳の割りにふけてんな。顔もだけどよ」話し終わるとサンジがつぶやく。

「そんな俺と話が合うお前はどうなんだよ。ってか顔かよ」

「ハハッ。お、そろそろ行くわ。最後にいい話してやるよ」

「おう?」

「今までナミさんからお前以外の男の話、聞いたことがねぇからよ、とりあえず安心しとけ」









中学生になった。

制服姿見てぇなぁ。...親父じゃねぇか。

元々剣道の世界じゃ俺はちと有名なこともあって。大会のときは周りからコソコソと話し声が聞こえる。俺が何かするたびに何か騒いでいる...これか。

自分で言うのもなんだか...物好きだな...。

「すげぇなぁゾロ、モテモテじゃねぇか!」応援に来てたルフィが笑いながら言う。

「興味ねぇよ」

俺はあいつしかいねぇしな。







また春休みが来た。

相変わらずまだなみちゃんと呼んでいる。

今年は合宿の終わる日にサンジのジジイの家で会う約束もして、買ったばっかのケータイとサンジのパソコンのアドレスも交換した。

「ナミさんになんで教えねぇの?」

「あんま返せねぇしな。メールって表情ねぇだろ。それに―――」

「何だよ」

「アドレス」サンジに背を向ける。







「馬鹿まりも?」サンジがあきれたように言う。

「うっせぇ!」つい振り返ってしまった。

「...顔真っ赤だな...」涙目でサンジが笑いをこらえているのが分かる。張っ倒すぞ、コラ。

確かに自分でも馬鹿だと思う。でもなんか入れずにはいられなかった。あいつを連想させる色を。

女々しいとは思う。

けれど長年告げられない想いや進まないこの状態、そして安心できる関係。

正直しんどかった。

だからこれは自己主張。



ナミに教えないのはこのままでいいという気持ち。

オレンジという言葉を入れたのは気づけという気持ち。





サンジの家で昼飯をもらい、サンジとジジイと話していると、

「写真でも撮るか...」

「「あ?」」

「とうとうぼけたか」

「仕方ねぇだろ」

俺らの腹にきれいに蹴りが決まった。



カシャ

「なぁ、どうしたんだ?急によ」サンジが聞くとジジイは俺らを見ながら微笑みながら言った。

「これからおめぇらはあっという間にでかくなるからな。撮れるうちにとっとかねぇと」

「ジジィ...」

「...冷やかしように、な」

「「おいっ!!」」にやっと笑うジジイに同時に突っ込む。





「現像したらナミさんに見せとくか?」

「......いや、いい。自分から言い出すまで待つわ」

「...そうか」

「あ、でももしその写真みるようなことがあったら言っといてくれ」

「ん?」

「お前の写真送れってよ」







明日から学校だが今日はルフィがうちに来る。久しぶりの休みなのに休みの気がしねぇのはなんでだ?そうこう思ってるうちに、

「ゾォーーーロォーーー!!!」......インターホンを知らんのかあいつは。





「へぇ、ゾロの家でけぇんだな」ルフィがあちこち見て回る。

「そうか?ってか早く部屋行かねぇ?寝みぃんだけど」

「友達来てんのに寝んのかよ!シシシッ!おもしれぇなぁ〜」 

ルフィはゲームを持ってきたみたいでそれをやり始めた。暖かい陽の光でウトウトし始めたとき、

「ゾロ!!これ対戦しようぜ!!」でかい声で耳元で聞いてきやがった......。

「断る!ねみぃっつたろ!!声でけぇんだよ!!」

「お!?わりぃな!!」...悪いと思ってんのか?





やっと落ち着いたと思ったら

コンコン

ドアがノックされて母さんが入ってきた。

「何?」寝てぇ......。

「なみちゃんから手紙よ。今日お休みだから返事かけるでしょ?早く渡しておこうと思って。」

「おぉ、そーだな。」そろそろ来ると思ってたが丁度よかった。

完全に目が覚めた状態で起き上がって取りに行く。

封を開けて手紙を読む。

いつものようにふざけた内容。

おいおい宿題で金とってんのかよ。どんな女だ。

サンジとお花見行っただと? しかもあいつ会う前じゃねぇか。

へぇ、また今年もまた図書委員になる気でいんのかよ。






ふと気がつくとルフィがこっちを見て笑っていた。

「何だよ!やっぱ好きな奴いたのかよ!」

「やっぱ?」

「なんとなく思ってただけだけどな!この手紙の奴のこと好きなんだろ?」

こんな鋭かったのか?いや、思い当たる節はいくつかあるな。

「...まぁな」

「だろ!さっきお前すんげー穏やかな顔したしな。ちょっと辛そうだったけど!」






ルフィが帰って静かになっても寝れなかった。

しんどいとは思ったことはあるけれど、

辛い?俺が?



あいつとはうまくやっている。



いや、この状況の場合うまいも何もねぇけど。





この関係にも不満はない。



満足もしてねぇけど。





多分あいつのなかで俺を“ぞーちゃん”と呼ぶのが普通なんだ。



だけど俺はあいつのことを“なみちゃん”と呼ぶほど苦しかった。







だって俺は、

“ナミ”って、

そう呼びてぇんだから。







あいつの中で次第に変わっていけばいいと思っていた。



でも、もう待てないと思っていたのも事実。

あぁ確かに辛いかもな。



「やってみっか」












その日初めて

ナミへ、と手紙を書いた。







いつもはすぐ来るナミからの返事は来なかった。



当然の結果かもしれない。



でももしかしたらなんて期待していた。



今度の休みに会いに行こう。



そんで顔見て

好きだと一言言ってみよう。






断られても諦めなきゃ終わりじゃあないだろう。













『近いうち、あなたに幸せなことが怒るでしょう』

前向きに考え始めれた頃、サンジがメールを送ってきた。

なんだ?と返信したが返ってこない。

でも...

(ナミのことだよなぁ)

自然と頬が緩む。



1日がたった。

ナミが手紙を出したなら明日くるだろう。

そう思っても落ちつかねぇ。昨日緩んでいた頬はあとかともない。

もしかしたらサンジの冗談かもしれねぇ。あぁ、くそ、明日になれ。

部活を終えて急ぎ足で帰っても、明日はすぐ来ることもなく、

時計の針を進めてみても親に心配されるだけで―――

......イタイ人を見るような目で見んなよ...。







そしてもう1日。







手紙が来た。



なるほどね、こりゃ幸せだわな。



オレンジの髪の女の子が入学式と書いてあるたて看板の前で笑っている写真。



こりゃ腰抜かすほどかわいいな。普通は自分で言わねぇことを書いて、しかもそれが書いてある通りでなんだか悔しいんだか可笑しいんだか。





変わらないオレンジ色。目は少し小さくなった気はするがそれでもパッチリしていて、唇は薄い。

こんな顔だったなぁなんて昔を思い出す。



「なみちゃんは似あわねぇなぁ」



やはりお互い成長してる。





これでお互いゾロとナミになっただろう。

とりあえず、一歩前進。

こっからどうするか。

惚れさす方法を考えなきゃな。

ということでこれからもよろしく。

な、ナミ。





FIN


(2006.02.03)

Copyright(C)テモ,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
手紙」の続編、今度はゾロサイドのお話。前作読んだ時から、ゾロはどんな気持ちだったんだろう、ナミの写真見てどう思っただろう、って気になって仕方がなかったのですよ。
ああゾロは、こんな気持ちで離れ離れの日々を過ごしていたんだな(ほろり)。ずっとナミのこと想っていてくれたんだね。
名前を呼び合うようになり、今後二人はどんな関係を築いていくんでしょう。あ、いけません、また続きが気になってきました(笑)。

テモさんの2作目の投稿作品でした。どうもありがとうございましたvvv

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