その関係の居心地の良さに慣れすぎて。


今までずっと。


気付かないふりをしていただけだった。






ひび割れたTriangle  −1−
            

十飛 様



今年も残り数日となり人々も街も忙しくなり始めた冬真っ只中の12月。


もう少し夢の中にいたいのに不覚にも目覚めてしまったゾロは枕元の時計を寝ぼけ眼で見た。


ぼんやりと目に飛び込んできたその時刻は既に午後2時を過ぎていた。
しかし未だじわじわと襲いくる眠気には勝てるはずもなく、布団をかけ直してゾロは二度寝を決め込んだ。

だがそれも束の間、玄関の扉を勢いよく開けられた。

面倒だという理由で初めの頃は施錠はしなかったのだが。
ある人物が時には勝手に部屋でくつろいでいたり、突然何の断りもなく玄関を開けてずかずかとまるで自分の家かのように振る舞うので、それはもう勘弁という事で施錠をし始めたのだ。


しまったと悔やんでも時既に遅し。
「ゾローーー!起きろーーー!」
自分の名を叫びながらいつもの如く全力でダイブしてくる幼なじみの一人にこれまたいつもの如く青筋を浮かべて怒鳴り起きようとしたのだが、もう一人の声に気付いて眠っているふりをした。


「何でこんな寒い日に海なんかに行かなきゃならないのよ」
そう呆れた声で呟いたのはもう一人の幼なじみだった。


「バカだなお前!寒い日に行くからいいんだ!」
「意味わかんないってのよあんたの理論は!」

ぎゃあぎゃあと本人そっちのけで言い合いを始めてしまった二人の幼なじみに、完全に起きるタイミングを外されたゾロはもう少し眠ったふりをしなきゃならないのかと小さく溜息を吐いた。





ゾロには二人の幼なじみがいる。
一人は楽天的で無駄に前向き、自由過ぎて周りを巻き込んで結局は自分のペースに周りを引き込んでしまうルフィ。

よく言えばカリスマ性があり、悪く言えばはた迷惑である。
そんなルフィに手を焼きながらも実は自分もそのペースに、そしてその魅力に引き込まれてる一人である事にゾロ自身気付いている。
だからこそ幼なじみであり、そして親友という間柄なのだ。


もう一人は容姿端麗なのだが、気が強くてさらには口も悪いので口喧嘩は日常茶飯事。
周りからは似た者同士と呼ばれてはいるが断固としてゾロは認めていないし、そう呼ばれて絶対に認めようとしないのがもう一人の幼なじみのナミである。

ナミの家を挟んで右にルフィの家。
左にゾロの家。


しかし今は三人共一人暮らしで、三人で住もうというルフィの提案は声を揃えたナミとゾロによってもれなく却下された。

ナミはやっと一人気ままに自由に過ごせるわと一人暮らしに喜びを隠し切れず、ゾロはようやく親から解放されると安堵した。


だがナミとゾロのそんなささやかな想いはやっぱりルフィによって破られた。
一人はつまらないという理由でナミの部屋に転がり込んだりゾロの部屋に居座ったりする。
これじゃ一人暮らしじゃねェとゾロはボヤき、たまったもんじゃないわよと溜め息混じりのナミ。


ナミは自分の部屋をルフィに荒らされそうだと危惧し、ゾロの部屋なら何も無いんだしルフィが荒らせばちょうどいい感じになるだろうと一緒にゾロの部屋に行こうと言ったのが最後、ゾロの部屋が三人の溜まり場と化したのだ。
そんなナミの思惑など露程も知らずにいるゾロはというと。
もう半ば諦めているのだった。



そんな三人組は同じ幼稚園。小中高と同じ学校に通い、大学までも一緒なのだ。
幼い頃から家族ぐるみの付き合いであり、周りからは仲良し三人組と微笑ましく可愛がられていた。


だがそれもいつしかそれぞれが気付かない程、しかし確実にその関係には切なくて淡いひびが少しずつ密やかに入り始めていた。



時の流れは残酷で、後ろを振り返る事すら許してはくれない。
ただゆっくりとその流れに漂う事しか出来ず、それに逆らって行こうものならきっと二度と元には戻っては来れないだろう。
それほど時の流れは激しくて無情なのかもしれない。

だから、あまりにも近くに居すぎた三人はそれに逆らう事もせず、流れに身を任せる事もせず。
ただそこで静かに留まり続けていただけだった。

今となっては、ただの幼なじみと呼ぶにはそれはとても脆くて壊れやすいものなのだと知るのに随分と時間がかかってしまった。






そしてその不安定で危うい関係に最初に気付いてしまったのは。





ゾロだった。




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(2009.01.18)



 

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